アフリカ研究
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2015 巻, 87 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
論文
  • ─畜産・家畜衛生行政の検討から─
    楠 和樹
    原稿種別: 論文
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 1-12
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    Although recent historical studies about pastoral societies in East Africa have emphasized the issues of the diversities and transformations of these people, they rarely investigated the various aspects of livestock and veterinary administrations in colonial times. This article explores in detail the colonial rule in northern Kenya in the first half of the 20th century by examining these administrations.
    In the colonial era, northern Kenya was at first put on the periphery of the development. Their livestock was neither given veterinary services, nor permitted to export to the highland area. But after the introduction of poll taxes and the Second World War, the colonial administration had begun to realize the possibility that livestock can be utilized not only to contribute to the colonial economy, but to nurture modern mentalities among the pastoral people. And this possibility was attempted to be realized by the livestock and veterinary administrations.
研究ノート
  • 桐越 仁美
    原稿種別: 研究ノート
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 13-20
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    西アフリカのサヘル地域では,人口増加や耕作地の拡大に起因した土地荒廃の問題が深刻化している。乾燥や不安定な降雨,貧栄養土壌などの厳しい状況のもとで,農耕民ハウサは耕作地内に生育する樹木の形状を認識し,その樹形を管理することによって,食料生産に活用している。
    人びとは耕作地に生育する樹木の形状を,(1)樹齢1年以下で剪定されていないラブ,(2)樹齢2年以上で剪定されていないバラウ,(3)樹高がトウジンビエより低く,下方の枝が剪定されたマタシ,(4)樹高がトウジンビエより高く,太い幹を有したマヤンチの4種類に分類している。
    人びとは,ラブとバラウを表土の流亡の防止と土地荒廃への対策に利用し,マタシを風や太陽熱から作物を保護する目的で利用していた。マヤンチは,木陰が休憩場所や牧畜民のキャンプに利用される一方で,樹木の葉や実が食料や家畜の飼料として利用され,貴重な救荒食料の供給源となる。耕作地の保有者は,みずからの食料状況や耕作地の状態と,耕作地に生育する樹木をむすびつけて,樹木の形状を管理し,食料生産に樹木の利用を積極的に取り入れていることが明らかとなった。
  • 関谷 雄一, 倉岡 哲
    原稿種別: 研究ノート
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 21-28
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    協同労働は広くアジア・アフリカの農村で実践されてきた。その典型とされる家族制共同体内部の協同労働,宗教的・伝統的な相互扶助や権力者からの命令による「奉仕」もしくは,そこから派生した植民地支配下や独立期以後の「国民総動員的強制労働」といった伝統的制度という見方のみから理解しようとする姿勢は,今日のアフリカ農村社会において,現実的ではない。利他的な動機も含みながらも,個人が持つ「一か八か。苦労に見合う,それ以上の報酬を見通せる労働を見出そう」という投機的なモデルも想定してみたほうが,広がりのある理解ができる可能性がある。
    ニジェールのソンガイザルマ社会で語られる「ユービ = yuubi」は「共同体に資する奉仕行動への対価」という意を持つ。転じて口語ではそうした奉仕行動を指す。字義通りであれば,利他的な精神に基づく尊い奉仕であるはずだが,現代のニジェール農村の若者が道路工事や建築作業などで実践している「普請ユービ」は,決して利他的な奉仕の精神を前面に打ち出したものではない。むしろ,投機的な動機に裏打ちされている実態を,筆者は実際に体験を共有して感じ取った。本稿は,そのような現代的協同労働への動機の一つを,現状に即して定義づける試論である。
特集:アフリカ漁民の世界を探る
  • 中村 亮, 北窓 時男
    原稿種別: 特集
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 29-36
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
  • ─生産地と消費地を結ぶ諸アクターの経済活動の分析をもとに─
    藤本 麻里子
    原稿種別: 特集
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 37-49
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    ダガーとはスワヒリ語で小魚の総称であり,タンザニアの各地で地域固有のダガーが漁獲され,干物として幅広く流通している。近年,タンザニアの周辺諸国でダガーの需要が急激に高まっており,それに伴ってザンジバル島ではインド洋産ダガーのコンゴ民主共和国への輸出産業が拡大している。本稿では,漁獲から出荷までの各段階においてダガー産業を担うアクターたちの経済活動を分析した。ダガーを買付けて加工し,商人に販売する仲買人には3つのタイプが存在した。ダガー漁師と,3タイプの仲買人たちとの間には,自然条件によって生じる様々なリスクを共有し合うことで築かれる一種の連帯が見られた。また,仲買人と商人との間では信用取引が行われ,継続的な取引を促進させる機能を果たしていた。急激な需要増大で突如沸き起こったダガー産業を支えていたのは,各アクター間の互酬的な取引関係だった。しかし,ダガー産業が成熟するにつれ,新たなアクターも出現してきた。直接取引の場合でも,商人に比べて半分程度の仲買人の利益は,中間商の台頭に脅かされ始めている。自己の利益の最大化を目指す中間商の出現は,ダガー産業を成り立たせてきたアクター間の関係に亀裂を入れかねない。
  • 稲井 啓之
    原稿種別: 特集
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 51-63
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,チャド湖南西部に近年出現した鮮魚取引における漁師-商人関係の実態を,従来の加工魚取引との比較から解明することである。チャド湖は西アフリカ半乾燥帯において重要な魚の供給地であり,古くより加工魚が近隣の国々へと流通した。しかし1970年初期に発生した干ばつによる魚類相の変化や,運搬・保冷技術の向上などを契機に,鮮魚取引が盛んになった。加工魚取引における漁師-商人関係には,互酬的関係や排他的な取引を特徴とするパトロン・クライアント関係が確認されるが,鮮魚取引にはそのような関係はみられない。鮮魚取引の形態は,市場の需要と連動した取引価格のもと,漁獲物と現金との即時交換によるものである。鮮魚を扱う漁師は,移動や漁具に費用をかけず,商品価値は低いながらも安定した漁獲量が望める魚を対象とした出稼ぎ漁を行う。鮮魚を扱う漁師は,不確実性の高い漁業環境において,確実性の高い漁法を採用することでリスクを低減させる生計戦略かつ現金獲得戦略をとっていた。鮮魚取引の活性化は,不安定な気候条件にあるチャド周湖辺地域に生きる漁師の生計を助けるものであるが,同時に,漁獲圧が上昇することで資源の枯渇を招くおそれもある。チャド湖における水産資源の持続的な利用と適切な管理は,今後の重要な課題である。
  • ─チルワ湖南部の事例から─
    今井 一郎
    原稿種別: 特集
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 65-76
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    本稿では,マラウイ国南東部に位置するチルワ湖で行なわれている内陸湿原における漁撈活動の現状と問題点について,筆者が実施した現地調査に基づいて論じる。まず,熱帯アフリカの内陸湿原における漁撈活動について,筆者のザンビア・バングウェウル湿原の調査で得られた知見を記す。バングウェウル湿原の漁民は,民族ごとに漁期,漁法が異なりその結果得られる主な漁獲種が異なる。そのために,漁撈活動をめぐって民族間の対立が起こらず,湿原を相互にすみ分けて利用していることが示される。次に,先行調査研究の成果を紹介しつつ,チルワ湖における漁業の概要が述べられる。さらに,筆者が2004年と2007年に実施した現地調査結果が示される。近年は漁獲の需要が高まり,マラウイ国内の水域に生息する魚類が資源としての重要性をこれまでより高めている。その結果,マラウイ国内で漁業に従事する人口は増加しており,漁撈活動をめぐりいくつかの問題が生じて人びとの間の軋轢が起こっている現状が示される。さらに,マラウイ大学の研究所から最近出版されたチルワ湖漁場管理に関する文献の内容を紹介する。最後に,それらの問題を解決する適切な政策を立案・実施すべきことが課題として提起される。
  • 中村 亮, アーディル ムハンマド サーリフ
    原稿種別: 特集
    2015 年 2015 巻 87 号 p. 77-90
    発行日: 2015/05/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    本稿では,海洋保護区において漁民と保護動物ジュゴンがいかに調和的に共存可能かについて,スーダン紅海北部ドンゴナーブ湾海洋保護区の漁撈活動より考察する。77漁場の水深と底質を分析した結果,水深30m以下の漁場が84%,底質がサンゴ礁の漁場が70%であった。この海域の漁撈活動は,サンゴ礁に生息する魚介類を主な漁獲対象とし,浅海の利用頻度が高い傾向がある。湾外の水深40~50mの深い海は,高級魚スジハタ(Plectropomus maculatus)の漁場である。スジハタは産卵期(5~ 6月)に集中して獲られるが,漁法は不確実性が高く効率の悪い一本手釣りである。魚群探知機の使用もほとんどない。商品価値の高い資源は深い海に潜んでいるが,漁撈技術との兼ねあいからその利用は難しい。加えて,強風や夏場の気温上昇により,漁撈は強い活動制限を受けている。これが天然の休漁となり,過剰な資源利用が抑制されていると推測できる。問題は,ジュゴン混獲を含む浅い海の資源管理である。これまでの調査研究より,ジュゴン混獲の主原因が「夜間に海草藻場周辺に仕掛けられる撚糸刺し網」であることが判明した。この地域では歴史的にジュゴンの利用があったが,現在の漁民はジュゴンが網にかかることを嫌う。今ではジュゴンの商品価値はほとんどなく,かかると高価な刺し網が破損してしまうからである。漁民とジュゴンの調和的共存をめざし,利害関係者との協議のうえ,ジュゴン発見時には漁を中止するや,海草藻場周辺では撚糸刺し網を使用しないという申し合わせは充分に達成可能である。
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