本論の目的は,紛争後のルワンダ南西部の農村社会を生きる人びとが,生存のための社会関係をどのように再編成しているのかを検討することである。その際,寡婦や離婚女性,孤児を対象に,彼らが空間の共有や共食をとおした親密な関係性を,だれとともに,いかなる社会的,政治的な環境のなかで構築しているのかに着目する。
村の人口の大半を占めるフトゥの人びとは,紛争後も父系親族集団をもとに生活の基盤となる社会関係を再構成していた。一方で,家族や親族の大半を亡くしたトゥチの人びとのなかには,紛争後に制定された法や政策などの政治的な介入を利用することで,生存のための基本的な資源を得ることができるようになり,女性だけでの居住を可能にしている者がいた。さらに,ほかのトゥチの人びとのなかには,家の貸借や共住,共食といった日々の反復行為をとおして,おもにフトゥの近隣住民とのあいだに親密な関係性を醸成している者もいた。それは,近隣住民がトゥチの人びとの困難に対して,内発的に応答するという実践によって達成されていた。
紛争後の親密な場の形成は,その多くがトゥチとフトゥという集団範疇の内部でおこなわれる傾向にあり,さらに政治的な介入は,現政権によって否定されたはずのエスニシティを再強化してもいた。しかし他方で,紛争後に創出される「歴史」からこぼれ落ちてしまう人びとの,語りえない経験や沈黙こそが,他者の困難への応答を導いてもいたのである。
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