ケニアでは独立以降,ハランベーとよばれる地域住民による中等学校の設立運動が興隆した。ハランベーには富裕度により貢献すべき資源に多寡があり,地域内で学校を介した富の再分配を促していた。本稿の目的は,現代のケニアで,地域住民が果たす教育機会の提供者としての役割を検討し,ハランベー期との比較から,新たな学校が設立される様相を明らかにすることである。ブシア県X市の中等学校5校の事例分析の結果,ハランベー期から現代にかけて,教育機会の提供者とその需要者としての地域の範囲は,学校選択肢の増加とともに重複部分が減少していた。新設校は,設立に関与する多様なアクターのなかで必要性が認められ,その過程に,かつてのハランベー学校が具えた共同性に基づく富の再分配の機能が,公立校としての登録前後に分化しながら変質して受け継がれていた。それは,特定の立場にある地域住民による限定的な再分配への変質と,地域の共同性には必ずしも基づかない学校選択者によるコスト負担への変質であった。学校へ関与する地域の変容と複層化は,人びとの学校への関与の在り方の多様化と影響し合い,今後よりミクロに生じうる地域間格差の構造が複雑化することが示唆された。
エチオピア連邦民主共和国では,新たな食料安全保障政策の一環として,2005年から「生産的セーフティネット・プログラム」(PSNP)が実施されている。同プログラムは,深刻な飢饉に何度も直面してきたエチオピアが採用した大規模な社会的保護政策として,一定の評価を受けている。ただし先行研究の多くは,PSNPと他の政策との関係やその政治的作用に十分な注意を払っていない。本論ではまず,同国西南部の農牧社会において,政府が推進する大規模な開発事業の実施により,地域の食料確保のあり方が,自給から外部依存へと劇的に変化したことを示す。つぎにPSNPがそれらの事業といかなる関係をもちながら進められているのかを検討する。とくに,地方行政のレベルで,各行政区にPSNPの登録者数を割り当てる際にいかなる要因が作用しているのかを分析し,PSNPがつよい政治的な意図をともないながら運用されていることを明らかにする。そして,PSNPと大規模な開発事業は,相互に作用しあいながら住民の政府への従属をつよめ,また住民間に「開発事業を受容しPSNPの配分を受ける者/開発事業に異を唱えPSNPの配分を受けられない者」という分断をもたらしていることを指摘する。
フォーラムの趣旨と概要 山内太郎,中尾世治/報告1)社会科学から見たブルキナファソSATREPS総括 鍋島孝子/報告2)技術開発と価値連鎖サニテーション 伊藤竜生/報告3)ブルキナファソにおけるサニテーション改善の歴史と現状 中尾世治/報告4)サハラ以南アフリカのし尿回収業者の社会経済的役割の解明に向けた予備的考察:ブルキナファソの事例より 清水貴夫,中尾世治/報告5)サニテーションと健康に関する子どもたちによる調査:ザンビア,ルサカ郊外におけるフォトボイス実践報告 ニャンベ・シコポ,山内太郎