アフリカ教育研究
Online ISSN : 2436-1666
Print ISSN : 2185-8268
最新号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
特集 澤村信英先生とアフリカの教育
原著論文
  • ―ウムントゥの価値観に着目して―
    吉野 華恵
    2024 年 15 巻 p. 57-68
    発行日: 2024/12/25
    公開日: 2025/01/21
    ジャーナル フリー

     サハラ以南アフリカには、「ウムントゥ(Umunthu)」/「ウブントゥ(Ubuntu)」とよばれるアフリカ的ヒューマニズムが存在する。アフリカの伝統社会において、個人は社会の中に位置づく存在とみなされてきた。しかし、西洋の価値体系に基づいたカリキュラムは土着の知識や価値観を考慮していないとして、その弊害が指摘されている。本研究はマラウイの中等教育社会(social studies)の第1学年の教科書4冊を対象とし、家族、コミュニティ、国家、他者とどのように関わる市民が良い市民として描かれているかを、ウムントゥの価値観に着目して捉えることを目的とする。分析の結果、1) 家族の性質が変化し個人主義の広まりが懸念されていること、2) 積極的に奉仕する市民、政府に頼らないコミュニティが期待されていること、3) 権利と義務はセットで、他者との関係性において責任ある市民が期待されていること、4) 脆弱層へのまなざしと違いを超えた共生が重視されていることが明らかになった。教育行政官3名への聴き取り調査からは、育成したい市民性の背景に、1994年の複数政党制の導入以降の人々の権利主張マインドに対する危機感とウムントゥの価値観の復権への思いがあることが捉えられた。

  • ―自己効力感の形成をめぐる学校教育と徒弟制に着目して―
    小松 勇輝
    2024 年 15 巻 p. 69-80
    発行日: 2024/12/25
    公開日: 2025/01/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、コートジボワールにおける子どもの自己効力感の形成要因を、学校教育と徒弟制に焦点化して明らかにすることである。約6週間にわたる現地調査から、学校教育の文脈では、初等教育における児童-教師間インタラクションが自己効力感の形成に寄与していることが示唆された。また、長期休暇中のインフォーマルセクターにおける徒弟制では、学校教育から周縁化された一人の少年の親方との関わりや日々の作業の様子を描き出し、複数の事例から自己効力感が形成される要因を示した。そして、コートジボワールにおける教育の質を非認知能力の視点から検討し、教室に内在する重層的な教育の質の格差と学習面で困難を抱えた子どもが学校教育の制度的枠組みの中で排除されていることを指摘した。しかし一方で、そのような子どもたちは、学校外の空間においても排除され続けるわけではなく、認知的・非認知的な能力の形成という視点から見た教育の質が、学校教育と徒弟制の間で相互に補完された社会に包摂されている。

  • Andriamanasina Rojoniaina Rasolonaivo
    2024 年 15 巻 p. 81-92
    発行日: 2024/12/25
    公開日: 2025/01/21
    ジャーナル フリー

    The education system established by colonizers has significantly impacted Citizenship Education (CE) in former colonies. Many African and Asian countries continue to struggle with creating effective CE approaches that are relevant to their contexts, even decades after gaining independence. This study explores the perceptions of local school stakeholders regarding CE in Madagascar. How do curriculum developers and teachers in the rural area perceive CE in their context? How do rural primary and lower secondary school children define and practice citizenship? Fieldwork was conducted in the Itasy region in September 2019. Interviews were conducted with five teachers and several representatives of CE curriculum developers, while a questionnaire was completed by a total number of 50 primary and lower secondary school students. This qualitative research uses the thematic analysis method to analyze the data. Teachers mainly describe the content of Malagasy CE at the primary school level as focusing on ‘knowing to live’ at home and in society. However, at the lower secondary level, the content shifts dramatically to more abstract concepts modeled after French CE and becomes increasingly disconnected from the students’ everyday lives as they progress to higher grades. According to the students, regardless of their academic level, the general comprehension and enactment of good citizenship are associated with demonstrating decent behavior, a notion deeply ingrained in Malagasy culture. Recognizing the disparities between the content taught across various educational levels and the differences between local and foreign values within CE, curriculum developers aim to prioritize the instruction of Malagasy socio-cultural values, which are currently diminishing among young people. Conversely, policymakers and curriculum developers also need to illustrate the implementation of global policies such as global citizenship education, underscoring the challenges associated with implementing a relevant citizenship education in the context of Madagascar.

研究ノート
  • ―学校経験の意味づけと夫婦間の役割意識に着目して―
    山口 菜々果
    2024 年 15 巻 p. 93-104
    発行日: 2024/12/25
    公開日: 2025/01/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、ケニアにおいて保護者が持つ子どもの就学や学校教育に対する熱意や高い関心(教育熱)が生じるプロセスを、個々のライフヒストリーから明らかにすることである。現地調査の結果、就学経験や家庭背景の異なる4名の保護者は個々の多様な人生経験における学校内外の他者との関わり合いの中で学校経験を「意味づける」プロセスを経ることにより、教育熱を高めていることが示された。ところが、母親の場合は家庭内における夫との役割の違いを明確に認識することにより、自ら教育熱に歯止めをかけていることがわかった。ケニアにおけるこれまでの教育研究では、保護者の教育熱は厳格な学歴至上主義によって生成されるものとして自明視されていたために、保護者の多様なバックグラウンドは捨象され、保護者の教育熱は同質的に描かれてきた。しかしながら本研究により、保護者の教育熱は個々の多様な人生経験を通じて育まれるものであること、そして教育熱は一様ではなく、他者との関わり合いによって内実に差異がもたらされるものであるということが示唆された。

  • 米田 勇太
    2024 年 15 巻 p. 105-116
    発行日: 2024/12/25
    公開日: 2025/01/21
    ジャーナル フリー

     本稿では、モザンビークの2つの公立小学校の数学科授業のビデオ観察を通し、同国が初等教育で育成するべき能力のひとつとする自律的な学びがどの程度促されているかを分析した。その際、自律的な学びの具体的なプロセスとして「自己調整学習」理論を参照し、授業観察の枠組みを構築した。分析は、授業の教師と児童とのやりとりの書き起こしから、児童に対する外部からの介入(教師の足場かけ)と内面の発達(児童の自己調整学習の度合い)という視点から行った。その結果、観察した2授業では、教師の指導(足場かけ)により、授業の目的は、科学的知識(認知能力)の習得という点において一部達成されていたと思われる一方で、その指導は学級全体(集団)を対象にしたものが多く、個々の児童が教師の指導を活用し、自己調整学習を十分に深めることができていない状況が把捉できた。児童が自律的に学ぶ基盤を築くため、教師は学級全体に対する問いかけだけではなく、個々の児童の思考の賦活(解答までプロセスの言語化やその促進)を行うなど、個々の児童が学習内容を内面化するプロセスを意識した足場かけを行うことが重要である。

feedback
Top