アフリカレポート
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55 巻
選択された号の論文の31件中1~31を表示しています
論考
  • 佐藤 章
    2017 年 55 巻 p. 1-13
    発行日: 2017/01/25
    公開日: 2020/03/12
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    この十数年あまり西アフリカでは、イスラーム・マグレブのアル=カーイダ(Al-Qaida in the Islamic Maghreb: AQIM)をはじめとするイスラーム主義武装勢力の活発な活動が見られる。これらの組織の活動は、サハラ・サヘル地帯における治安・安全保障上の問題を提起するにとどまらない。そこでは、イスラーム主義武装勢力が、現代西アフリカの政治的・社会的変動に照らしていかなる意味を持つのかという問題も提起されているのである。そこで本稿は、こういった歴史的評価に関わる問題を掘り下げるための基礎的作業として、AQIMとその系列組織に焦点を合わせ、西アフリカへの進出の経緯、マリ北部への定着の様子、マリ北部紛争への関与、その後の動向を検討したい。その際、「グローバルなテロ組織」といった観点からの研究が陥りがちな視点の偏りを避けるため、これらのイスラーム主義武装勢力が社会とどのような関係を取り結んでいたかにとくに注目し、検討を行う。

  • 石井 洋子
    2017 年 55 巻 p. 23-35
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2020/03/12
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    アメリカ合衆国に暮らすアフリカ人移民の数は増えているが、とくに1990年代以降に渡米したケニア共和国出身のギクユ人は急増している。現在、在米ギクユ人の多くは、看護師などとして長時間働いてアメリカに家を購入し、家族を養い、母国にも送金している。これまで、低開発地域からの出稼ぎ民に関する研究・記録は苦労話に終始する事が多かったが、本研究で示したのは、苦労のなかにも仕事にやりがいを感じ、学歴を高めてステップアップする向上心あふれる姿であった。アメリカ新政権は移民に厳しい姿勢を打ち出している今、勤勉に仕事をこなし、努力する在米アフリカ人の日常を明らかにする事は重要である。

  • 川口 博子
    2017 年 55 巻 p. 36-46
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2020/03/12
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    国際刑事裁判所(ICC)は、現地の社会的な特性を省みない応報的な処罰を指向しており、裁判のプロセスへの被害者の参加が限定的であるという批判を受けてきた。ウガンダ北部の紛争に介入した当初にも、現地社会の論理や価値観を無視しているという批判が強かった。一方、2015年に容疑者のひとりが逮捕されたことで、ICCは現地住民から目撃談や被害申告を集める活動を開始し、地域住民は好意的に応答している。ただしICCがその対象者として想定していた人びとは、多くの地域住民が認識していた紛争被害者とは異なっており、その乖離がおおやけに議論されることがないままに、対象者の範囲が拡大された。地域住民は多様な紛争経験をもち、彼らの社会関係はその経験と密接に関連している。本稿ではICCの活動プロセスを、地域社会の現状と住民の紛争経験に関する認識との関連のうえで明らかにし、その活動が地域社会に対してどのような意義をもっているのかを検討する。

  • 高橋 基樹
    2017 年 55 巻 p. 47-61
    発行日: 2017/03/10
    公開日: 2020/03/12
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    TICAD VIをめぐっては、ビジネスや中国との競争など国益に関心が集まったが、本旨のアフリカ開発についてはどのような議論が重ねられ、今後どう対応していくべきだろうか。日本の対アフリカ支援とTICADの議論は、両者の状況や世界の情勢に応じて変化してきた。1993年の第1回から10年後の第3回までの前半期には、アフリカ経済の低迷を受けて、アジアの経験の強調、貧困削減の重視などが掲げられた。また、日本の援助理念の到達点である人間の安全保障の観点からアフリカが抱える深刻な課題が取り上げられ、それを果たせない国家のあり方が問題にされた。他方、2008年の第4回以降はアフリカの高度成長とそれにより強まったアフリカ諸国の立場を反映し、これらの問題への注目度は低下し、経済成長や民間投資の促進が関心の的となった。しかし、依然として人間の安全保障とそのための国家の改革は開発の基盤である。中国との競争に走るよりも、戦略的棲み分けを模索すべきであり、工業化など、長期の視点から、アフリカの開発に資する支援に注力すべきである。

  • 網中 昭世
    2017 年 55 巻 p. 62-73
    発行日: 2017/05/10
    公開日: 2020/03/12
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    本稿の目的は、近年モザンビークで発生している野党第一党モザンビーク民族抵抗(RENAMO)の武装勢力と国軍・警察の衝突のメカニズムを明らかにすることである。考察の際の着目点は、当事者であるRENAMOの除隊兵士の処遇の変化と、RENAMOの弱体化の関係である。モザンビークでは1992年に内戦を国際社会の仲介によって終結させ、紛争当事者を政党として複数政党制を導入して以来、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)が政権与党を担っている。しかし、FRELIMOは選挙において必ずしも圧倒的な勝利を収めてきたわけではない。だからこそFRELIMOは一方で支持基盤を固めるために自らの陣営の退役軍人・除隊兵士を厚遇し、他方でRENAMOの弱体化を図り、結果的にRENAMO側の除隊兵士は排除されてきた。近年のRENAMOの再武装化は、紛争当事者の処遇に格差をつけた当然の結果であり、それを国軍・警察が鎮圧する構図となっている。

  • 粒良 麻知子
    2017 年 55 巻 p. 79-91
    発行日: 2017/06/02
    公開日: 2020/03/12
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    本稿はアフリカの一党優位体制についての理解を深めるため、タンザニアの優位政党である革命党(Chama Cha Mapinduzi: CCM)を事例に、1992年の複数政党制移行後の党内の派閥政治の変遷と党幹部によるその統制を分析する。具体的には、CCM内の派閥政治と党内の権力分配のあり方について論じたグレイ(Hazel Gray)の論文を参照しつつ、複数政党制移行後初の選挙が行われた1995年、任期満了に伴って大統領が交代した2005年と2015年の計3回の大統領選挙に焦点をあて、CCMの大統領候補選考における派閥間競争の特徴を明らかにする。そして、この分析を通じ、2015年のCCM大統領候補選考がタンザニアに一党優位体制の継続をもたらしただけでなく、党内の派閥を統制し、党を中央集権化しようとする試みであったと論じる。

  • 箭内 彰子
    2017 年 55 巻 p. 92-104
    発行日: 2017/07/19
    公開日: 2020/03/12
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    アフリカでは長年にわたり地域ごとに経済統合が推進されてきたが、各地域経済共同体における域内貿易は活性化せず、様々な非関税障壁も残されたままである。アフリカにおける経済統合の実質的な進展を阻んでいる要因として、経済統合を支えている制度面に着目すると、①法的拘束力のある国際協定に基づいて貿易自由化を進めているが、その実施段階において各国の裁量が広く認められている、②自由化義務の履行を確保するための紛争解決手段が充分に機能していない、③メンバーシップの重複により複数の関税率の存在といった制度的・手続き的な問題が生じている、などが指摘できる。

    現在取り組まれている複数の地域経済共同体をカバーする広域自由貿易地域の形成は、こうした制度的困難に対する具体的な対応策を組み込んでいないため、貿易自由化が期待通りに進まない可能性が高い。アフリカにおける実質的な経済統合を進展させるためには、アフリカの経済統合の特徴から生じる制度的問題点を踏まえた上で、それらを解決する措置を講じる必要がある。

  • 榎本 珠良
    2017 年 55 巻 p. 116-127
    発行日: 2017/10/17
    公開日: 2020/03/12
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    1990年代以降、アフリカなどでの武力紛争や組織犯罪、テロ行為等に関与する非国家主体への武器移転が問題視され、規制方法が検討され、国際的な合意が形成された。こうした国際的な政策論議に関しては、「西欧近代の制度や価値観」を導入して解決を試みる発想が支配的だとの指摘もみられる。しかし、近代主権国家システム形成から現在まで、非国家主体への武器移転規制をめぐる問題認識や規制方法は極めて流動的に変遷しており、現在はこの問題に関する「西欧近代の制度や価値観」が特定困難な状況にある。本稿は、非国家主体への武器移転規制をめぐる問題認識や規制方法の歴史を概説し、それらの変遷がこの間の国家主権認識の変容を反映していることを論じる。そして、この分野において、独立後アフリカ諸国が国際社会における主流の制度や価値観の形成に関与し、さらには現代国際社会における規範の多元化の一要因になっていることを明らかにする。

  • 西 真如
    2017 年 55 巻 p. 128-139
    発行日: 2017/10/26
    公開日: 2020/03/12
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    エチオピアの現政権は、民族語による教育と行政機構の徹底した分権化とを柱とする民族自治制の導入を通して、多様な歴史文化的アイデンティティを持つ民衆の支持を確保しようとしてきた。ところが2015年11月以降、オロミヤ州およびアムハラ州において、政府に不満を表明する民衆の抗議行動や暴動が頻繁に起こるようになった。民族自治のイデオロギーと制度が民衆の支持を調達する機能を喪失しつつある中で、国家が民衆とのつながりを取り戻す方法はあるのだろうか。本稿では、国家が歴史文化的なアイデンティティを迂回して人々の「生そのもの」に働きかける方法としての治療のシチズンシップについて検討する。エチオピアで急速に拡大してきた保健介入は、国家が国民の治療の要求に応え、国民の支持を調達する機会を提供するものである。とりわけ同国の抗HIV治療体制は、グローバルな感染症対策の専門機関や資金調達の仕組み、連邦政府および地方政府の機関、そしてHIV陽性者団体といったアクターを巻き込んで、国家と国民との間に新たな結びつきをつくりだしてきた。

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