近年,稲敷台地南部において新しい露頭が観察可能となり,従来記載されていない堆積相を持つ地層が分布することが判明した.これらは下位から斜交層理粗粒〜中粒砂層,黄灰色砂賀シルト層,灰色粘土層,砂泥細互層,生物擾乱中粒砂層の5つの堆積相に区分される.また,黄灰色砂質シルト層には,"コウジミソ"軽石が挟まれることから,これらは上岩橋層に属する.斜交層理粗粒〜中粒砂層,黄灰色砂質シルト層および灰色シルト層はそれぞれチャネル・ポイントバー,氾濫原の堆積物と解釈され,低海水準期における蛇行河川システムを構成するものと考えられる.また,砂泥細互層は干潟の堆積物と考えられる.生物擾乱中粒砂層には,貝化石や有孔虫化石が豊富に含まれ,貝化石はMactra chinensis, Nitidotellina hokkaidoensisを,また,有孔虫化石はPseudononion japonicum, Elphidium kusiroenseを主構成種とする.したがって,生物擾乱中粒砂層は内湾,上浅海帯(内部浅海帯)の堆積物と解釈され,砂泥細互層および生物擾乱中粒砂層は,海進期における溺れ谷システムを構成するものと考えられる.前報と合わせて検討すると,稲敷台地南部の上岩橋層の堆積相は,低海水準期における蛇行河川システムから海進期における溺れ谷システム,高海水準期における海浜平野システムへと変遷したことが明らかになった.
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