大島紬は使用する泥田の状態により,染色の仕上りが異なると言われている.本研究では,現在使用中の泥田,現在は使われていない旧泥田,来期使用のために一年間休閑中の泥田の泥について鉱物学的,微生物学的特徴を検討した.3つの泥田のEh,DOは,ともに休閑中の田で最も還元状態を示した.泥の中には石英,長石類の他に鉄酸化物や鉄に富むクロライト,バーミキュライト,雲母類粘土鉱物,カオリン鉱物などの粘土鉱物が確認された.一年休閑させている泥田の泥と現在使用中の泥田の泥の総Fe量はともに多く,鉄酸化物や粘土鉱物中に含まれている.一方,有機成分は,現在使用中の泥田で最も高く,この結果は光学顕微鏡観察および偏性嫌気性細菌培養により,多種多様の微生物が観察された事と一致する.また,偏性嫌気性細菌培養結果は,特に鉄還元細菌と考えられる球菌,桿菌が多いことを示した.泥により黒く染色された絹糸部分からは,Fe,S,Ca,Al,Si,P,K,Mnが検出され,これらの元素は,泥およびテーチ木起源と考えられる.よって,大島紬を独特の深い黒色に染色する泥田の条件として,泥田の水質が還元状態である事,染色に重要な鉄は二価鉄である事,泥中には鉄還元細菌をはじめとする多種多様の微生物が存在し,鉄を二価に変えている事があげられる.
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