キルギス北部天山に分布する高圧-超高圧変成作用を受けたマクバル・コンプレックス上部ユニットより採取されたざくろ石角閃岩と泥質片岩の岩石学的研究を行った.マクバル・コンプレックス中の角閃岩およびざくろ石角閃岩は泥質片岩中にレンズ型または層状の岩体として産出する.ざくろ石角閃岩(KG1252A)の主要造岩鉱物は角閃石,ざくろ石,緑れん石,斜長石,緑泥石および石英である.ピーク変成条件としてT=575±29℃,P=1.4±0.3GPaが見積もられた.ざくろ石角閃岩と同地点(KG1252)より採取された泥質片岩(KG1252B)の主要構成鉱物は白色雲母(核部はフェンジャイト,縁部は白雲母),緑泥石と石英である.泥質片岩のピーク変成条件は,T=500-600℃,P=1.4-1.6GPa.であり,これはざくろ石角閃岩の変成条件とほぼ一致している.ピーク変成作用後,ざくろ石角閃岩と泥質片岩はともに低 P/T変成作用を受けた.この変成作用はオルドビス紀の花崗岩の貫入による接触変成作用によるものと考えられた.ざくろ石角閃岩にはエクロジャイト相の変成作用に特徴的なオンファス輝石やその仮像は認められない.これらのことは,マクバル・コンプレックス上部ユニットのざくろ石角閃岩は,後退変成を受けたエクロジャイトや泥質片岩基質中のテクトニック・ブロックではなく,その原岩は周囲の泥質片岩と一連であり,同時に同じ高圧型変成作用を受けた事を示している.
北部フォッサマグナの上部新生界は,本州中央部における基盤岩類の湾曲構造(諏訪対曲)を層序-構造的不整合で覆っている.この事実は,対曲構造が上部新生界の堆積開始期(約17Ma)以前に形成され,全般にわたって侵食・削剥されていたことを示す.諏訪対曲は104km2規模の大規模な延性的変形構造であり,高封圧-高地温勾配-低歪速度場における長時間変形によって形成されたと推論される.その時期は,東アジア大陸縁に発生した巨大規模の造構-火成活動,すなわち燕山-広島変動(ジュラ紀~古第三紀)のある長い期間であったとみられる.