筆者は従来から,東アジアに近い地の利を活かした物流による九州・山口の成長戦略を調査研究してきた。九州は東アジアに最も近く,東京や大阪経済圏と中国最大の上海経済圏の中間の好立地にある。もっと地の利を活かして,東アジアとWin-Winの成長がなされて然るべきと考えてきた。
一方,東北は地勢的には東アジアに遠いが東京圏に近く,製造業や農林水産業が中心という産業構造は九州と似ている。また,経済や先進的製造業において優位性を発揮していること,その高い競争力に関心があった。そこで,九州と東北を貿易や産業などの面から比較することで,物流だけでなく原点から地方の成長戦略を考えてみた。
九州は発展する東アジアに近いという地の利があり,東アジアの成長を取り込める可能性が高いといわれる。なるほど,東アジアとの貿易額や釜山港とのフェリー・Ro-Ro船(高速船)は九州の地の利を活かしている。しかし,東アジアとのコンテナ船の寄港回数や海運日数は,釜山港以外の全ての港湾に対して,両者ともに京浜・阪神港より劣位である。また,企業の海外進出率も全国シェアで5%と低く,必ずしも地の利を活かしているとはいえない。
東北の貿易額や産業別の出荷額などを九州と比較すると,九州は貿易額や鉄鋼等出荷額では東北より優位であるが,半導体・情報通信や農林水産業出荷額では東北が優位である。実は1人当たり県民所得は,九州が235万8,000円,東北が239万8,000千円と東北の方が多いのである(H22年)。九州の人口は東北の1.43倍であり,各産業の出荷額を人口1人当たりに換算すると,半数以上の産業の出荷額について,東北のほうが九州より優位となっている。
これは東北が東京経済圏に近いこともあるが,九州が東アジアとの「地の利」を十分に活かしていないことによる。この状況を改善するには「地」に加え「智」と産品だけでなく人材も含めた「地産」の3つの「‘ ちʼ の利」を活かし,東アジア貿易に関する優位性を徹底的に活用しながら,高付加価値産業を育成するという,協調と競争による独自の活性化策が必要と思われる。後述するような「‘ ちʼ の利」を活かした各方面の事例や高速船による革新的シームレス物流(Seamless Logistics)(注1)による上海~九州西~九州東~関西への九州横断シームレス物流構想の可能性も検討する必要がある。なお,SLは今後スマート・ロジスティクス(注(2)Smart Logistics)に発展すると思われる。これらは産業と物流を融合し,革新的なサービスと産業を興す(Yamamoto and Fujiwara,2013,藤原・谷村,2012)。
九州には,自動車等の高付加価値産業や下関港等に代表される革新的物流,観光,姉妹都市およびブランドなど新たな「‘ ち‘ の利」の優位基盤が多いがまだ十分に活かされていない。「‘ ち‘ の利」により,差別化を行い,官民・労使が地域一体になって「協調と競争」により合理的な独自ブランドやサービス・製品を自ら創りあげることが求められている。そこには,民活,リーダーシップおよび思い切った規制緩和などの新しい「‘ ち‘ の利」によるサービスの革新が求められる。
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