東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
24 巻, 4 号
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  • 許 文九, 李 相昊
    2013 年 24 巻 4 号 p. 1-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/12/03
    研究報告書・技術報告書 フリー
     近年の急速な技術変化とグローカリゼーション(glocalization)の進行(注1)に伴って,国家間の競争から地域間の競争へと新たなパラダイムに変化しているが,これによって地域経済を導く産業クラスターおよび産業団地のような産業集積地が重視されつつある。特に,一国または地域の産業構造が知識経済を中心に変わりつつある中,多くの国では知識創出の源であるイノベーション活動による生産性向上を目指すために,産業クラスター戦略を主な経済政策として推し進めている。  韓国を代表する産業集積地である産業団地は,2012年時点で全国に993ヵ所設けられ,約188万人の雇用と約6万8,000社の企業が集積している(注2)。特に,企業の側面からみると,製造業の全事業所のうち90%以上が産業団地に立地しており,韓国最大の製造業集積地となっている。産業団地は,1960 年代から韓国経済の中核拠点として,製造業および国民経済の発展に大きく貢献してきたことは周知の事実である(注3)。  しかし,韓国の代表的な産業団地で「研究開発(R&D)のメッカ」とも呼ばれる大徳(デドック)研究団地と大手企業が多く立地している亀尾(クミ)産業団地を主要国のクラスターと比べてみると,非常に低いレベルの競争力にとどまっていることが確認できる(図1)。即ち,世界の10 のクラスターを比較した結果,大徳研究団地は8位,亀尾団地は最下位にランクされている。このように,韓国の産業団地は国民経済に大きく寄与しているものの,主要国のクラスターとは大きな競争力の差が存在する。  このような,韓国の産業集積地の活力低下について,許他(2011),許,林(2012)などは産業集積地の老朽化の進行が活力低下の主な要因であると指摘している。いわば,産業集積地の約半数はすでに造成後30 年以上をも経過しており,これらの大多数の集積地は企業のための支援施設およびインフラの不足,老朽集積地再整備に対する法的・制度的な不備などの問題点を抱えており,このようなことが産業集積地の活力低下に大きな影響を与えている。  人間が生老病死のようなサイクルを経験するように,産業集積地においても成長と停滞,そして衰退の過程を繰り返す。人間は年をとると自然と身体機能の低下が起こり,これは生活活力の低下を引き起こすことになる。多くの人々はこのような現象を未然に防ごうと身体別の精密検診と治療を並行することによって,活力低下を最小限にするために気を配る。これと同様に,一国の経済成長への寄与度の高い産業集積地においても,経過年数とともに至る老朽化に対する再整備が行われなければ活力度の低下は避けられないものであろう。  本稿は,韓国の産業団地を産業集積地とみなし,産業集積地の経過年数に伴って活力度はどのように変化していくかについて明らかにするものである。このために,産業集積地の成長から衰退への変曲点を推定し,産業集積地の活力度と経年変化の間の相関関係に関する分析を行う。以下,第2 節で実証分析のためのデータとモデルを設定し,第3 節で産業集積地活力度の算出結果とその特性について検討する。第4 章では産業集積地活力度と経年変化との相関関係を実証分析し,第5 節では政策インプリケーションについて提言する。
  • 彭 雪
    2013 年 24 巻 4 号 p. 13-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/12/03
    研究報告書・技術報告書 フリー
     医療観光は新成長産業として,受け入れ国における膨大な経済効果が期待されており,特に近年は成長が著しいため,脚光を浴びている。しかしながら,現在のグローバル医療観光の市場の規模については,計算方法や定義が統一されておらず,各国の統計が整備段階であるため,正確な情報の把握が困難である。例えば世界全体の推定年間医療観光客数の規模は,数万人から数百万人までの幅広い数字がある(注2)。規模については研究者や実務者の間で見解が分かれているが,これから伸びていくというコンセンサスは形成されている。情報通信・交通技術の発達に助長されグローバル化が進む中,海外の医療サービスの質と価格に関する情報が容易に入手可能となり,また海外旅行もより便利になったため,国際医療観光への需要が増えていくと見込まれている。さらに,近年の「医療滞在ビザ」発行等の規制緩和策により,国際医療観光市場はますます拡大していくものと考えられる。  この十数年間の医療観光は医療費の高い欧米諸国の人々が,割安な医療サービスを求めてアジアや南米等を訪れるのが主流であった。アジアでは,シンガポールを先駆けにタイ・マレーシア・インド・韓国等がこの分野に力を入れている。また日本はこれらの国々と比較して,インバウンド医療観光への本格的な取り組みが遅れていたが,2010 年6 月,日本の「新成長戦略」として,検診・治療等の医療およびその関連サービスと観光の連携・促進という方針が決定され,「医療滞在ビザ」の創設が閣議決定されたことをきっかけに,「医療観光」は国家戦略にあげられた。これを受けて2011 年11より「医療滞在ビザ」の運用が開始され,日本の医療機関の指示による全ての行為,入院・治療・人間ドック・健康診断・歯科治療・温泉治療を含む療養・高度医療等の各種医療サービスを受けることを目的として訪日する外国人患者およびその同伴者を対象に,滞在期間が最大6 ヵ月となる医療滞在ビザの発給が可能となった。  近年では欧米市場のほか,新興国の人々が海外で医療診療を受ける需要も伸びる傾向がみられる。このような背景の中,日本のインバウンド医療観光のマーケットはアジア新興市場を狙っている。その中でも特に中国市場が重視され,中国富裕層がインバウンド医療観光のターゲットだと観光庁が発表したとの報道がある( 注3)。各民間コンサルティング会社も同様に中国を最大の有望市場と想定している( 注4)。医療ビザ発給開始の 2011 年 1 月から 2 年が経過した今,主なターゲット市場として想定している中国市場における日本の進出現状はどうなっているのだろうか。また,各国・地域と競争している中,日本はどのような医療業務を進めているのだろうか。さらに,他国と比べて日本の医療はどのような位置に立っているのだろうか。言い換えれば,中国市場における日本の医療観光のイメージはどのようなものだろうか。これらの問題の解答を明らかするのはこれが初めてである。そこで本稿では,ネット上の情報発信データを利用し,各国との比較を通じて,日本の中国市場における医療観光の情報発信の実態を解明し,日本医療観光イメージの特徴と課題を明らかにしたい。
  • 藤原 利久
    2013 年 24 巻 4 号 p. 22-34
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/12/03
    研究報告書・技術報告書 フリー
    筆者は従来から,東アジアに近い地の利を活かした物流による九州・山口の成長戦略を調査研究してきた。九州は東アジアに最も近く,東京や大阪経済圏と中国最大の上海経済圏の中間の好立地にある。もっと地の利を活かして,東アジアとWin-Winの成長がなされて然るべきと考えてきた。  一方,東北は地勢的には東アジアに遠いが東京圏に近く,製造業や農林水産業が中心という産業構造は九州と似ている。また,経済や先進的製造業において優位性を発揮していること,その高い競争力に関心があった。そこで,九州と東北を貿易や産業などの面から比較することで,物流だけでなく原点から地方の成長戦略を考えてみた。  九州は発展する東アジアに近いという地の利があり,東アジアの成長を取り込める可能性が高いといわれる。なるほど,東アジアとの貿易額や釜山港とのフェリー・Ro-Ro船(高速船)は九州の地の利を活かしている。しかし,東アジアとのコンテナ船の寄港回数や海運日数は,釜山港以外の全ての港湾に対して,両者ともに京浜・阪神港より劣位である。また,企業の海外進出率も全国シェアで5%と低く,必ずしも地の利を活かしているとはいえない。  東北の貿易額や産業別の出荷額などを九州と比較すると,九州は貿易額や鉄鋼等出荷額では東北より優位であるが,半導体・情報通信や農林水産業出荷額では東北が優位である。実は1人当たり県民所得は,九州が235万8,000円,東北が239万8,000千円と東北の方が多いのである(H22年)。九州の人口は東北の1.43倍であり,各産業の出荷額を人口1人当たりに換算すると,半数以上の産業の出荷額について,東北のほうが九州より優位となっている。  これは東北が東京経済圏に近いこともあるが,九州が東アジアとの「地の利」を十分に活かしていないことによる。この状況を改善するには「地」に加え「智」と産品だけでなく人材も含めた「地産」の3つの「‘ ちʼ の利」を活かし,東アジア貿易に関する優位性を徹底的に活用しながら,高付加価値産業を育成するという,協調と競争による独自の活性化策が必要と思われる。後述するような「‘ ちʼ の利」を活かした各方面の事例や高速船による革新的シームレス物流(Seamless Logistics)(注1)による上海~九州西~九州東~関西への九州横断シームレス物流構想の可能性も検討する必要がある。なお,SLは今後スマート・ロジスティクス(注(2)Smart Logistics)に発展すると思われる。これらは産業と物流を融合し,革新的なサービスと産業を興す(Yamamoto and Fujiwara,2013,藤原・谷村,2012)。  九州には,自動車等の高付加価値産業や下関港等に代表される革新的物流,観光,姉妹都市およびブランドなど新たな「‘ ち‘ の利」の優位基盤が多いがまだ十分に活かされていない。「‘ ち‘ の利」により,差別化を行い,官民・労使が地域一体になって「協調と競争」により合理的な独自ブランドやサービス・製品を自ら創りあげることが求められている。そこには,民活,リーダーシップおよび思い切った規制緩和などの新しい「‘ ち‘ の利」によるサービスの革新が求められる。
  • 鳥丸 聡
    2013 年 24 巻 4 号 p. 35-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/12/03
    研究報告書・技術報告書 フリー
     2013年10月1日午後6時に安部総理が記者会見を行い,2014年4月1日の消費税率8%への引上げ決定を発表した。すでに,「社会保障と税の一体改革関連法」は1年以上前の2012年8月10日に成立しており,既定路線に沿った政策なので驚くには値しないが,はたして「経済成長」と「財政健全化」は両立するのだろうか。  マクロレベルで景気水準をざっくりと判断するための指標としては,「日銀短観」「景気ウォッチャー調査」「景気動向指数」そして「四半期GDP」がある。総理が今回の消費税率引上げを最終判断するために拠り所としたのは,「4~6月期の四半期GDP」と「9月日銀短観」である。以下では,その2 つの経済指標をチェックしてみたい。
  • 南 博
    2013 年 24 巻 4 号 p. 44-47
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/12/03
    研究報告書・技術報告書 フリー
  • 坂本 博
    2013 年 24 巻 4 号 p. 48-61
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/12/03
    研究報告書・技術報告書 フリー
     今回は,本連載の第4回で行った福岡県内市町村における県内格差の現状分析をもとに(『東アジアへの視点』2013年6月号,pp.55~66),分析範囲を九州7 県(沖縄県を除く)と山口県の8県に拡張し,前回と同様の方法で所得と生産性および産業構造の分析を行った。  今回使用するデータは,九州7県および山口県の市民経済計算年報で,「市町村民所得」,「市町村内総生産額」,「経済活動別市町村内総生産額」の3指標を使用した。収集期間は2001 年度(H13年度)から2009 年度(H21年度)までの9年間の時系列(名目値)で(注1),市町村数は252である(付表1)。  対象県を複数にした場合,県ごとで必ずしも同質のデータが入手できるわけではない。今回も例外ではなく,今回の分析に必要な「人口1人当たり市町村民所得」,「就業者1人当たり総生産額」のデータがいくつかの県で作成(公表)されていない。このため,今回は,平成12年,17年,22年の国勢調査人口および国勢調査就業人口(注2)から調査年と調査年との間を伸び率で補完する形で人口と就業者データを作成し,これを用いて「人口1人当たり市町村民所得」,「就業者1人当たり市町村内総生産額」を算出している。  また,県によって,データを遡及改定している県や,遡及改定をしていない県(年度公表値)が存在するが,ここでは,現時点で収集可能な数値を採用している(注3)。
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