本論文では,アセアン経済共同体(AEC)が2015 年に形成されること(AEC2015)に伴い,北九州・下関の産業にどのような影響がもたらされるのかについて問う。本論文の内容は,以下のようにまとめられる。第1 に,過去50 年間の急速な経済成長により,アセアンは日本製の財やサービス,日本企業にとって重要な市場の1 つとなった。アセアン
は,東南アジアにおける経済・政治的対話を促進することで,その経済成長を支えてきた。AEC2015 は,その重要な役割を強化していくことになろう。第2 に,アセアンは加盟国間の経済統合に向けた取り組みを実施し,AEC2015 もその新たなステップの1 つであるが,アセアン域内取引における実質的な障壁はAEC2015 後も依然として残るであろう。1992年に決定されたアセアン自由貿易地域(AFTA)の創設により,アセアン域内貿易に課せられる関税の多くは2010 年までに撤廃された。しかしならが,アセアンの貿易総額に対する域内貿易の割合はおよそ4 分の1 と比較的低い水準にとどまっており,2005 年以降その割合に大きな変化はみられていない。この点に関してより重要なことは,AFTA の場合と同様に,域外貿易に対する域内貿易の特恵的利益がAEC2015 によって相対的に拡大するという見込みは小さいということである。それは,アセアンとその主要貿易相手との間の域外貿易には強力な比較優位が働いており,また,アセアンでビジネスを行う企業は,アセアン域内だけでなく,東アジア地域,あるいは世界規模での生産ネットワークに深く関与しているためである。第3 に,AEC2015 はアセアン“単一”市場の誕生を宣言しているが,特に非関税障壁やサービス貿易規制などに関する,具体的目標の達成に向けた取り組みは比較的緩やかなスピードで進められている。第4 に,AEC2015 に伴う日本,あるいは北九州・下関への影響は,アセアンでビジネスを行う日本の多国籍企業を通じてもたらされるであろう。影響があるとすれば,商業や物流(卸売・小売業,輸送業,通信業),ビジネス・サービス業などのサービス産業に対して,一般に認められるよりも大きな影響をもたらすと予想される。これは,日本の輸出において高いシェアを占める機械産業の生産ネットワークが発展しているためである。
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