東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
29 巻, 1 号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
  • ヴ ティエン マン, グェン キエン トルング, ラムステッター エリック D
    2018 年 29 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/01
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本稿は,ベトナムにおける企業の所有形態と賃金格差との関連を分析した2本の論文の主な結果をまとめたものである。個人レベル賃金データの分析により,国営企業と非国営企業の間の賃金格差は2002〜14年にかけて縮小したこと,また,国営企業と非国営企業の間にみられる賃金格差の大部分は,労働者の年齢,学歴および性別の違いによって説明されることが示された。また,企業の所有形態が直接的に賃金格差に与える影響(即ち年齢,学歴および性別を考慮した上での格差)は非常に小さいことも明らかになった。一方,2009年の製造業の企業レベル賃金データに基づいた分析では,検証したサンプルのほとんどの場合,外資系の多国籍企業,特に多国籍企業による合弁企業が最も高い賃金を支払っていることが示された。職業,学歴,性別および産業を考慮した上での賃金格差は,多国籍企業の場合ほぼ常に有意であり,また,高賃金の職業でその格差は大きく,低賃金の職業では小さい傾向にあることも示された。但し,賃金格差は,産業によって大いに異なることも明らかになった。他方,産業間の異質性を考慮した場合,国営企業と民間企業の間に有意な賃金格差はみられず,これは個人レベル賃金データの分析結果と整合的である。
  • 戴 二彪
    2018 年 29 巻 1 号 p. 16-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/01
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本稿では,訪日外国人客の空港利用行動に着目し,日本における30空港の最近3年間(2014〜16年)の国際輸送に関するパネルデータと固定効果モデルを用いて,外国人客の空港利用行動の影響要因を分析した。主な分析結果は次のように要約できる。(1)日本における各空港の入国・出国外国人客数は,主に需要要因としての空港所在地域の外国人訪問客数と供給要因としてのアジア行きの直行便数に大きく影響されている。(2)以上の結論は,中国からの訪日客の空港利用行動においても成立する。各空港の入国・出国中国人客数は,主に空港所在地域の中国人訪問客数とアジア行きの直行便数に左右されている。(3)同じ供給要因としての空港所在県内のライバル空港の存在は,外国人利用客全体の数に対して有意な影響を与えていないが,特定の国(例えば中国)からの空港利用客数に対しては,有意なマイナスの影響を与えている。以上の分析結果からは,いくつかの示唆がえられる。まず,空港の外国人利用客の増加を目指すなら,空港所在地域の魅力を高めて外国人訪問客数を増やさなければならない。空港の所在県だけでなく,所在の広域地域ブロックとの連携も空港の発展にとって必要不可欠である。また,空港の外国人利用客を増やすためには,当面,成長性の高いアジア航路の増便を優先すべきである。ただし,日本を中継地としてアジアから北米などへ渡航する需要もあるので,今後一部の空港ではこうした需要を開拓し北米航路を充実させる必要がある。さらに,地域内のライバル空港の存在によるマイナスの「分流」影響を軽減するために,ライバル関係にある空港は,各自の航路特色を明確化し補完性の高い関係を構築しなければ ならない。
  • 「システム」としての包括的理解を目指して(前編)
    岸本 千佳司
    2018 年 29 巻 1 号 p. 32-57
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/10/01
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本稿は,米国シリコンバレーにおけるベンチャー企業や新ビジネスを次々と生み出す土壌を「エコシステム」としてとらえ,そのシステムとしての体系的理解を課題とする。そこで,ベンチャーエコシステムを「起業家とベンチャー企業」と「支援アクター」という大きく二つのセグメントの間の循環で構成されるものと想定する。「支援アクター」は,「大学と研究機関」「経営支援専門家」,「資金提供者」,「大企業」で構成される。彼らは「起業家とベンチャー企業」に対し,各々の立場から各種支援やリソースの提供を行う。逆に,ベンチャー企業が成功した際は,支援アクターに色々な形での見返りがある(キャピタルゲインの獲得,事業・技術の補完,人材獲得等)。この循環が回り続けることでエコシステム全体が存続していくのである。本稿は前編(本号)と後編(次号)にわけて掲載される。この前編では,先ず,「起業家とベンチャー企業」セグメントについて解説する。そこでは,活発な起業文化と濃密な技術コミュニティの存在が,起業家の輩出および起業家・経験者の蓄積を支えてきた。次に「支援アクター」セグメントについて扱う。「大学と研究機関」では,スタンフォード大学等からの豊富な人材と技術シーズの供給,産業界との連携に加え,近年は,起業家育成プログラムの充実がみられ,学生や教授らによる起業が強く奨励されている。「経営支援専門家」については,従来からあるベンチャー経営に精通した経営実務専門家(法律家,会計士等)からのサービスに加え,近年は,コワーキングスペースやアクセラレータのような起業家支援施設・育成プログラムが登場し,事業成長の加速と起業家コミュニティ形成の促進がなされている。
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