本稿は,米国シリコンバレーにおけるベンチャー企業や新ビジネスを次々と生み出す土壌を「エコシステム」としてとらえ,その全体像を分かりやすく提示することを課題とする。この後編では,先ず,「資金提供者」について分析する。従来,当地の半導体・エレクトロニクス産業の発展とシンクロする形でベンチャーキャピタル(VC)業界が発展してきた。近年は,新世代Web起業家登場に合わせるように,VC業界の再編(従来型VCの停滞と「スーパー・エンジェル」の発展)がみられた。同時にクラウドファンディングが生み出され,資金調達ルートが一層多様化した。次に,大企業についてみると,かつては起業家・経営人材の供給源としての役割が重要であったが,近年は,M&Aによりベンチャー企業を取り込むことに重点がシフトしてきている。大企業によるベンチャー企業への投資(コーポレート・ベンチャーキャピタル)がVC投資額全体に占める比率も,近年高水準に達している。域外・海外リンケージについては,海外からの移民流入による新陳代謝と移民起業家の存在感増大がみられる。生産ネットワークでは,かつて主に域内における部品供給者および受託製造業者との密接なパートナーシップが競争力の源泉の一つであったのが,1990年代以降,海外,特にアジアの業者へシフトしてきている。政府の支援は,ルール作りを通しての支援,連邦政府の政府購買を通しての支援,研究開発への関与と資金提供を通しての支援,の3側面から(特にエコシステム発展の初期段階で)重要な刺激となった。最後に,本稿全体のまとめとして,エコシステムの中での各アクター間の交流・連携および各種リソースの循環が,2000年代以降如何に変化したかが示される。
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