群落内での顕・潜熱フラックスの形成に大きな役割を果している葉層での熱配分の特徴を明らかにするために, 単葉の熱収支式を基礎として, 葉面ボーエン比および葉面相対湿度と環境条件ならびに葉からの蒸散を特徴づけている気孔拡散速度との関係をしらべた。また, 葉面熱収支式の一応用として, 蒸散抑制処理をしたときの熱配分の特徴の変化を明らかにすることを試みた。えられた結果を要約するとつぎのようになる。
1. 単葉の吸収した純放射の顕・潜熱への配分が, ケース1 (両面顕熱伝達, 片面潜熱伝達) ケース2 (両面顕潜熱伝達) の葉について, しらべられた。(5), (6) 式にみられるように, 葉面ボーエン比は拡散速度の比
Pf/Dsに密接に関係し,
Dsが小で蒸散しにくい葉ほど大きくなることがわかつた。周辺空気中の相対湿度
Raが低下してくると, 弱い放射条件下(
Sf<0.31y/min)ではボーエン比は負となり, 顕熱は葉面へと流れ, 蒸散の熱源として使用されるようになる。その他の条件がひとしい場合には case 1の葉のボーエン比は case 2の葉の約2倍になることがわかつた (第1図参照)。
2. 葉面相対湿度
ef/e(Tf)は(8a)式によつて表わされ, 拡散速度と空中湿度および葉-気温差によつて変化することがわかつた。純放射量の増加につれて葉面相対湿度は次第に減少するが, そのレベルは空中湿度につれて高くなることがわかつた (第4図参照)。これはトウモロコシ群落内の葉面相対湿度と純放射フラックス (
Sz)との関係:
Rd=56.1・S
z-0.17: と大体よく一致している。
周辺空気が比較的に乾いている条件下では, 葉面相対湿度は葉面拡散速度につれて最初急減し, あとはほぼ一定になることがわかつた (第5図参照)。これは村田 (1962)が風洞気流中でえた結果とよく一致している。BROWNら (1966) が提出した leaf wetness parameter (
W) は(9)式のように
Rf, Df, Raなどの複合量であることがわかつた。条件の組合せによつては,
Rfが減少するときでも
Wは増加することがわかつた。
3. 蒸散抑制による葉面熱配分の特徴を明らかにするために, 葉面ボーエン比と葉面相対湿度の蒸散抑制による変化をしらべた。蒸散抑制剤の効果は(24, 25, 26, 27)式で表わされ, 第6図にみられるように抑制率は気孔拡散速度, 葉面拡散速度および膜を通しての水蒸気拡散速度によつて変化する。蒸散を抑制したときの葉-気温差の増加の実測値と (28, 29) 式からの結果との比較が第7図に示されている。点のちらばりはあるが, 両者の一致はかなりよいということができよう。蒸散抑制による葉温の附加上昇値は (20, 21, 22, 23) 式のように, 抑制処理前後の水蒸気拡散についての有効拡散速度の差(
Deff-Deff″)にほぼ比例することがわかつた(第8図参照)。葉面ボーエン比は(
Deff-Deff″)につれて最初はゆるやかに, あとで急激に増大する。一方, 葉面相対湿度は非処理葉の約52%から蒸散がかなり抑えられたときの約41%へと, (
Deff-Deff″)につれてほぼ直線的に減少することがわかつた。
以上の結果は単純な葉面熱収支式からえられたものであるが, 群落内および単葉での熱配分の特徴の解明に利用できるものと思われる。しかしながら, 観測値とモデル計算結果との比較はまだ不十分である。それゆえ, 今後の研究としては群落内や単葉での観測結果との比較や非定常状態時の考慮などが必要である。なお, 本研究は文部省特定研究「生物圏の動態」の一部としてなされ, 研究費の援助をうけたことを記して感謝にかえる。
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