低温な海風気塊が内陸部を吹送する過程で受ける温度変化についての数値実験をおこなつた。気象条件としては純放射量
S=147~303ly/day, ボーエン比
R=0.33~3.3の変化範囲を考え, さらに3種の風速分布を想定してモデルに組入れた。これら6種のモデルによる数値実験の結果はつぎのように要約される:
(1) 水平方向の平均的温度上昇率は純放射量に比例し, ボーエン比の変化にともなつて大きく変化する。特に地表面が乾燥している条件下では極端に大きい平均温度上昇率を示すことがあきらかになつた。通常の湿潤条件下 (
R=0.55) で期待される高さ50mでの平均温度上昇率は
S=0.6ly/minのとき0~5km平均で0.25℃/km, 0~15km平均で0.1℃/kmである。
(2) 海岸から5km以上隔たつた区域では地表付近の風速が弱く, 多照条件下にあるならば冷海風の影響はほとんどなく, 吹送距離に比例して日中の気温が上昇する。しかし, 地表付近の風速が強く, 少照条件下の場合には海岸から少なくとも15kmまでの区域は海岸部とほとんど同様な気温分布を示し, 冷海風の侵入による直接的影響を受けることが明らかにされた。これは実測の結果ともよく一致している。
(3) 地表に接する気層の熱交換強度に依存している貯熱比 (
B/S) は温度日較差Δ
Taと比例的関係にあり, 地表においてΔ
Ta=8℃のとき
B/S=4%, Δ
Ta=3.2℃のとき
B/S=13%であつた。
(4) 温度差Δ
T=1.0℃を示す高さとして定義した気温変質層の厚さ
zHは, 風速が強い場合には内陸部15km地点で200~300m程度であるが, 風速が弱い場合には600~700m程度まで達し, 風速によつてその高さは大きく変化することがわかつた。
(5) 気温変質層の厚さ
zHと吹送距離の関係は風速, 拡散係数, 大気の安定度を考慮した複合パラメーターの導入によつて普遍的な関係として示すことができる。
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