作物栽培上に有利なハウス管理方式を見出すために, キュウリを栽培したハウス内のCO
2環境と群落光合成の日変化に関する数値実験を行なつた。非定常モデルの数値積分は RUNGE-KUTTA 法を用いて電子計算機 (TOSBAC 3400) で行なつた。ハウス管理方式としては4種類 (第1図参照) を考えた。数値実験の結果を要約するとつぎのようになる。
1. 管理方式とCO
2環境 早朝時のハウス内CO
2濃度は, D区において最高に達し, A, C, Bの順になつた。夜間も換気を行なうB, C区では, 換気の増加につれて
iCaの日較差は急減し,
N=100/hrでは日較差はほとんでみられなくなつた。そして, CO
2供給強度の影響もみられなくなつた。夜間密閉するA, D区では, 夜間の
iCaは大幅に上昇し, 日較差は換気によつて余り変化しなかつた。群落の純光合量は,
Rs=0.0では換気とともに増加し,
Rs=10・10
-8gCO
2/cm
2secでは換気につれて急減するが,
Rs=3・10
-8gCO
2/cm
2secでは余り変化しなかつた。換気の弱いときには, 光合成の日量は管理方式でかなり変化し, B区の値はD区の約70%にすぎず, Dの管理方式が最も物質生産上有利なことがわかつた。
N=100/hrでは, 物質生産の管理方式による違いは見られなくなつた。
2. 群落密度とCO
2環境 換気の弱いハウス内の日中のCO
2濃度は群落の茂りにつれて低下するが, 換気が強い場合にはほとんど変化しなかつた。ハウス内へのCO
2供給が強い (10・10
-8gCO
2/cm
2sec) 場合には, 茂りの悪い (
Ft=2.0) ハウス内では, 日没後CO
2濃度の低下がみられた。茂りの良いハウス内では, 日没後もCO
2濃度は増加しつづけた。換気の悪いハウス内では, 群落の純光合成強度の日変化は8~9時の間で最高値に達し, その後は急減することがわかつた。強い換気条件下では, 群落光合成の日変化は正午を中心にして対称になつた。
3. 日射・CO
2供給・換気とCO
2環境 ハウス内のCO
2濃度の日較差は最初日射につれて増加するが,
Im>0.3ly/minでは変化はゆるやかになつた。CO
2供給が大で, 換気の悪いハウスでは, 最低濃度の出現する時刻は
Imの減少につれて次第に遅くなつた。換気が増加すると, 日中濃度は放射強度で変化するが, 夜間濃度はひとしくなつた。群落光合成量と日射, 換気, CO
2供給との関係が第9図に示されている。CO
2供給の効果は弱い換気下で大で,
N=100/hrではほとんど消失することがわかつた。日射が弱いと, 2.5・10
-8gCO
2/cm
2secで純光合成は飽和値に達した。飽和値に達するCO
2供給値は日射につれて増大した (第3表参照)。
4. ハウスの大きさとCO
2環境
N=0.1/hrなる条件では, CO
2濃度の日較差は
H=0.5での約3700ppmから,
H=3.0mでの700ppmへと減少した。また, ハウスの大きさの増大につれて最低濃度出現は若干おそくなつた。小さなハウスでは, 日出から正午までの期間の濃度は低く, 正午から日没までは他より高くなつた。CO
2補給のない場合には, 大きいハウスほど光合成は高くなり, CO
2補給のある場合には逆に小さいハウスほど光合成は高くなつた。ハウスの大きさの光合成への影響は換気で大幅に変化した (第11図参照)。
5. 定常・非定常モデルの比較 定常モデルでは,
iCaの日変化は正午を中心に対称であるが, 非定常モデルはハウス内の炭酸ガス貯留のために非対称な日変化を与える。正午頃には, 両モデルによるCO
2濃度はよく一致し, 換気の増大につれて一致する期間は長くなつた。午前中は定常モデルは
iCaを過少評価し, 午後は過大評価した。このために, 定常モデルは非定常モデルよりもかなり低い純光合成量を与えた。換気の増加につれて, 両者の違いは次第に減少するが, 減少の度合は管理方式で変化した。定常モデルは正午を中心にして対称な光合成日変化を与えるが, 非定常モデルは8~9時に最高値を示す非対称な日変化曲線を与えた。
単純なモデル実験の結果を用いて, 管理方式によるハウス内のCO
2環境と光合成活動の変化をしらべた。上に説明した結果は実際の観測データで検証する必要があるが, ハウス管理を検討する際の一資料としては利用できるだろう。
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