気象条件からイネの物質生産の動態を説明・予測するシミュレーションモデルを開発することが研究の最終的な目的である。このために必要なデータを得る目的で, 葉面境界層のガス拡散抵抗と風速との関係, および光強度とガス拡散抵抗, 光合成, 蒸散との関係が単葉レベルでの同化箱法により求められた。
イネの葉面境界層の水蒸気輸送抵抗
raは, 風向方向の葉の長さの1/2乗と風速の-1/2乗に比例し, したがって平面からの質量輸送を特徴づけるシャーウッド数
Shはレイノルズ数
Reとシュミット数
Scの関数としてつぎの式で与えられることがわかった。
Sh=ARe1/2Sc1/3, ここでAは比例係数であって0.86~0.91の値であった。CO
2輸送に対する葉肉抵抗
rMは, 光強度の変化に対してほとんど瞬間的に応答するが, 気孔抵抗
rsは定常値に達するのにある時間を要することがみとめられた。光強度の増加に対する
rsの過渡応答は一次遅れの応答関数で, 光強度の減少に対するそれはロジスティック型の関数でマクロ的に近似できることがわかった。気温30℃の条件下で, 気孔が開くときの時定数はほぼ5分であるが, 閉じるときのそれは約6分であった。
rsの定常値についてみると, 暗黒下では約30~40seccm
-1であるが, 光の増加とともに指数関数的に減少することがみとめられた。
rsは全短波放射強度0.6calcm
-2min
-1(0.26calcm
-2min
-1の光合成有効放射強度) 付近で最少値1.2seccm
-1に達した。一方
rMも光強度の増加とともに減少するが, 最少値に達するのは全短波放射強度約0.8calcm
-2min
-1においてであった。通常の環境条件下では, 光合成速度は
raもしくは
rsよりも
rMによってより強く律速されているようであった。
見かけの光合成速度と外気から葉内の細胞間隙に至るCO
2の輸送係数との間には直線関係が成立つことがみとめられた。これは, 気孔は細胞間隙のCO
2濃度を一定に保つように作用しているという Raschke (1975) の仮説を支持する結果であると考えられる。
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