組織培養苗の順化過程における活着率の向上と順化期間の短縮を目的に, 順化環境調節装置(順化装置)を開発した(Fig. 1)。この装置の概要は以下の通りである。
(1) 順化装置は地上部の気温, 湿度, 光量, 炭酸ガス濃度および気流速度, 地下部の養液温度等を調節することができる(Fig. 2)。
(2) 順化装置は, 汎用マイクロコンピュータによる計測, 制御, 記録, 解析, 通信ソフトウェアを備えており, 順化過程の好適環境を逐次探索するための研究用装置として利用できる。
(3) 本装置の環境プログラムは, BASIC言語で書かれている。本プログラムでは, 制御式をデータとして与えることで環境制御方式の変更が行える。
(4) 培養苗の順化環境を設定するために, 各環境要因に関する, 順化曲線を考案した(Fig. 3)。
(5) 順化装置の試運転の結果では, 各環境要因ともに, ほぼ設定通りに制御できた(Fig. 4)。
(6) 順化装置を利用することによって, 順化過程における各環境を徐々に経日変化させることができた(Fig. 7)。
更に, この装置を利用した順化(順化装置利用区)と従来の順化(慣行法区)による栽培比較試験を, サトイモおよびイチゴを供試して行った。試験結果の概要は以下のようになる。
(1) 順化装置利用区および慣行区の枯死率は, サトイモの場合が8%および23%, イチゴの場合が4%および20%となり, 順化環境の違いにより枯死率に有意な差が認められた。
(2) 慣行法区に比べ, 順化装置利用区ではサトイモ, イチゴともに生体重, 乾物重, 草丈および葉数について優位であった(Fig. 5, Fig. 8)。
(3) 順化開始後に, 生体重および乾物重が減少し, 生育抑制を呈した(Fig. 5, Fig. 8)。
以上のことから, 順化環境の違いによって, 枯死率および生育にかなりの差がみられることがわかった。今後, 各作物について順化過程の好適環境の探索が必要である。
また, 順化直後の生育抑制を阻止するための研究が重要であると考える。
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