目的: わが国におけるHIVと肝炎ウイルスの混合感染率やHIV感染者の肝炎ウイルス抗体保有率を導き出し, 現状を把握する。次に, HIV感染者でHA抗体陰性者およびHBs抗体陰性者におけるA型およびB型肝炎ウイルスワクチンの有効性を検討する。
対象および方法: 対象者は16歳以上の性行為感染と考えられるHIV感染者で, 263人 (男性254人, 女性9人) であった。A型・B型肝炎に関して, 抗体を保有していない患者には, A型においては乾燥組織培養不活化へ型肝炎ワクチン (エイムゲン
®) を, B型においては組換え沈降B型肝炎ワクチン (ビームゲン
®) を計3回接種した。3回目の接種から約1カ月後に抗体価をELISA法にて測定した。
結果: HA抗体陽性者は50人 (20%), HBs抗原陽性者は17人 (6.5%), HBs抗体陽性者は154人 (59%), HCV抗体陽性者は4人 (1.5%) であった。ワクチン接種によりA型肝炎抗体獲得者は117名中で114名 (97%), B型肝炎抗体獲得者は35名中で15名 (43%) であった。肝炎ワクチン接種による抗体獲得者と非獲得者の平均CD4リンパ球数は, A型肝炎ワクチンにおいては統計学的有意差を認めた (各々, 平均値451/mm
3,183/mm
3) ものの, B型肝炎ワクチンでは有意な差を認めなかった (各々, 平均値567/mm
3,463/mm
3)。
結論: 抗体価が持続するかを観察するには, さらなる観察期間が必要である。また, 免疫能の違いによる肝炎ワクチン接種後の抗体獲得率の差に言及するにはさらなる対象者数の拡大が必要かもしれないが, 今回の対象ではB型肝炎ワクチンの効果の有無においてCD4値に有意の差を認めなかった。よって, HIVと肝炎ウイルスの感染経路の共通性や昨今の混合感染者におけるその後の治療の難渋さを考えると, 積極的に試みる価値があると考えられた。
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