内部減衰のない重複反射理論で地震応答等の時系列波を計算することは, 比較的簡単であるが, 内部減衰が仮定されていたりすると, 簡単には計算出来ない, しかし本論のように, 一度周波数伝達関数を求め, それから有限離散フーリエ逆変換によって, 時系列波を求めれば, 簡単である。また積分による発散といったやっかいな問題が起きないのも, その取扱いを一層容易にする。しかしこの計算法はそれなりにいろいろな誤差が発生するので, この誤差をあらかじめ見積もっておくことは必要となろう。これらの誤差のうち主要なものは, データのサンプリング周期に関係する量子化誤差, 全体の計算時間に関係する循環誤差である。データのサンプリング周期を細かくすればするほど量子化誤差が減じて精度はよくなる。このことはデータの中の高周波成分に影響する, 逆に言えば, 入力地震動の中に高周波成分があまり存在しないとき, むやみにサンプリング周期を細かくしても精度は上がらない。これらのオーダーは図3, 4, 5から等価減衰のいかんにかかわらず, 10HzでΔt=0.01秒のとき0.28%, Δt=0.005秒のとき0.034%程度である。それよりも周期の長い成分の場合, 急速に誤差が少なくなる。次に循環誤差は, 実際に必要なデータの後に無意味な零というデータを付け加えることにより避けられることを示したが, これもやたらに多くすると計算時間が長くなる。この誤差は図8, 9, 10からピークの等価減衰とその周期により影響される。重複反射理論の場合, 通常の定数では, 入射波に対する各層の応答を計算するとき問題であるが, 地震波の場合, 波の後の方は振幅が比較的小さく15-20秒程度無意味なデータを付け加えておけば十分であろう。以上よりΔtを0.01秒とし, 15-20秒の余分なデータを付け加えると, 相対誤差は0.3%以内であり, Δt=0.005秒とすれば, 相対誤差は0.03%以内になる。しかし実用的には, Δt=0.02秒でも数%の誤差になると思われるから, 計算時間の短縮及び循環誤差の防止のために, このぐらいΔtを大きくとることはのぞましい。このときデータ個数を2048点とすると, 40.96秒の計算時間となる, 循環誤差防止用の零データを15秒とると, 入力地震波は25秒間程度計算出来る。
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