構面外変形及び局部座屈変形が発生又は成長しにくい断面寸法をもつ角形鋼管片持梁-柱の定軸力下・定振幅両振り繰り返し曲げ実験を行った。この実験結果より導かれる結論及び推論は次のようにまとめられる。(1) 軸力比と振幅を変化させて行った7体の供試体の試験のうち, DC1, DC3, DC4, DC6, DC7試験では, Fig.2の模式図に示すような逆対称たわみモードが載荷サイクル毎に累積し終局的に発散する挙動(発散挙動)が観察され, DC2, DC5試験では逆対称たわみ成分をほとんど含まない定常状態に収束していく挙動(収束挙動)が観察された。これらの結果より, 梁-柱の挙動は発散挙動と収束挙動の2種類に大別できると推測できる。(2) 軸力比80%, 振幅0.3cmで行われたDC2試験では, 約30サイクルで定常化したと見なせる状態に収束し, その時の横力-制御変位曲線は, 載荷初期のループと比較して非常に偏平であり, 直線に近い形状のループを呈した。この結果より, 降伏軸力に近い高軸力比条件下においても振幅が十分に小さい載荷条件下では, 梁-柱が定常状態に収束する挙動を呈することがあると結論できる。また, 高軸力比の軸圧の作用を受ける梁-柱の繰り返し挙動が定常化するまでのサイクル数は, 梁や低軸力比の軸圧下の梁-柱の場合と比べて一般に多数であり, この場合の定常状態は, 横力-制御変位曲線が初期弾性応答に近い勾配をもつ偏平な履歴ループを描く状態であると推測できる。(3) 発散挙動を呈した供試体のうちDC4供試体を除くすべての供試体においては, 最初の数サイクルのうちに発生した逆対称たわみ成分の増加率が一旦は減少し, その後再び増加に転じて加速度的に逆対称たわみ成分が成長した。このことより, 上述の過程は, 逆対称たわみ成分の発散が生じる場合にかなり共通に見られる経過であると考えられる。(4) 発散挙動を呈したすべての供試体について, 逆対称たわみ成分が成長し始める時期と, 横力-制御変位曲線において一方向の最大横力が低下し始める時期と, 最大横力が低下する側の横力最大点付近及び最大点以後の横力-制御変位曲線の表す接線剛性が前回に比べて低下し始める時期の三者はすべて対応していた。この事実は, これらが互いに関連する劣化開始期の特性であることを示している。(5) 逆対称たわみ成分の発散過程を定量的に比較すると, 同一軸力比条件下においては横変位振幅が大きい程, また, 同一横変位振幅条件下においては軸力比が大きい程, 逆対称たわみ成分は早い時期にかつ急激に成長するといえる。(6) 収束挙動を呈したDC2, DC5供試体では, 主として固定端付近のフランジにかなりの局部座屈変形が観察された。この結果から, フランジに局部座屈変形がある程度発生しても, 必ずしも逆対称たわみ成分が成長するとはいえない。(7) 試験結果を収束挙動と発散挙動に区別して, 軸力比及び振幅を座標軸とする載荷条件平面上にプロットしたFig.8は, 逆対称たわみ成分の発散挙動を呈した梁-柱と定常状態への収束挙動を呈した梁-柱を分離する臨界曲線が存在する可能性があることを示唆している。
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