アフラトキシン(AF)は自然界で最も発がん性が高いカビ毒であり,輸入農産物への汚染が問題となっている.夾雑物の多いナツメグは前処理が煩雑であり,検査に時間と技術と費用がかかる.また試薬を大量に使用する従来の分析法は環境や実験従事者に負荷もかかる.蛍光指紋による簡易・迅速なアフラトキシン(AF)検出手法の開発のため,自然条件で汚染されたナツメグ中の蛍光指紋を計測した.各AF(AFB
1, B
2, G
1)およびTotal AF(AFB
1 + B
2 + G
1)の濃度の推定にはPLS回帰分析を用い,蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフによる化学分析値を目的変数,簡易粉砕したナツメグの蛍光指紋計測値を説明変数として回帰式を求めた.化学分析よりAFB
1,B
2,G
1が検出され,Total AFは0.0~20.9 ppbであった.PLS回帰分析による各AF濃度推定モデルでは,キャリブレーション群の決定係数および標準誤差はAFB
1(0.87, 2.5 ppb),AFB
2(0.87, 0.2 ppb),AFG
1(0.80, 0.3 ppb)であり,バリデーション群ではAFB
1(0.81, 2.9 ppb),AFB
2(0.75, 0.3 ppb),AFG
1(0.79, 0.3 ppb)となり,作成された推定式が堅牢であることが示された.また日本の規制基準であるTotal AFでもキャリブレーション群(R
2 = 0.87, SEC = 2.9 ppb),バリデーション群(R
2 = 0.81, SEP = 3.4 ppb)ともに良好な結果を得た.これにより,複数成分混在系において抽出などの処理を要さず簡易に汚染ナツメグ中の各AFの濃度推定が可能であることが示唆された.
抄録全体を表示