農業情報研究
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28 巻, 3 号
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原著論文
  • 野中 章久, 山下 善道, 金井 源太
    2019 年 28 巻 3 号 p. 97-107
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    ハウス等の温度を遠隔監視するシステムは,すでに多くの製品が市販されているが,フィールドサーバ研究にはユーザが自作することを想定した系譜がある.本稿はこの自作の系譜をハウス等の温度の遠隔監視システムへ応用するものとして,市販IoTプロトタイピング・キットを活用して水稲育苗施設の温度の遠隔監視システムを開発する.そして,実際の水稲生産法人の実用に供し,そのシステムの実用性を明らかにすることを課題とする.この課題解明のため,岩手県奥州市で近隣の農家に水稲苗を販売し,また作業受託・借地を合わせ約50 haの水稲作業面積を持つ水稲生産法人の芽出機と育苗ハウスにおいて実用試験を実施した.試験に供したシステムは安定的に稼働したため,芽出機の夜中の見まわりを廃止できた.また,ボイラ故障をいち早く発見するなどの効果があった.これら芽出機に関して削減した賃金や故障による損失の金額換算は,このシステムの年間費用を大きく超えることを明らかにした.また,育苗ハウスについても日中の見まわり回数を半減するなどの効果があった.このように稼働の安定性と実用性が明らかとなった.

  • 建本 聡, 原田 陽子, 今井 健司
    2019 年 28 巻 3 号 p. 108-114
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,深層学習による物体検出(SSD)と熟度判定用の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を組み合わせ,画像からウメの果実の熟期を判断する方法を検討した.2018年6〜7月に,ウメ「露茜」の樹上の果実についてデジタルカメラにより静止画及び動画を取得した.果実領域を切り出すためのSSDの学習は,撮影した画像443枚を用いた.学習したネットワークの性能は,しきい値0.47で,F値0.88であった.次に熟度判定用のCNNの学習のため,SSDにより切り出した5,823枚の画像を熟度別に肉眼で5クラスに分類し教師とした.学習したネットワークの識別の精度は94%であった.これらを組み合わせた精度を判定するために,学習に用いていない画像から,SSDによりしきい値0.47で366枚の果実画像を切り出し,続けて画像を熟度判定用のCNNで分類したところ,識別の精度は96%であった.よって,撮影画像から本手法により果実領域を切り出し,熟度判定が良好に行えることが示唆された.

  • 森澤 健作, 山下 良平
    2019 年 28 巻 3 号 p. 115-126
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,水田農業における圃場巡回の効率化支援を目指し,理論上最適な巡回経路を同定するシミュレーションモデルを開発した.また,そのモデルを用いて,農地の団地化を図る計画的な農地集積が巡回経路の効率性を如何に高めうるかについて,総移動距離及び総移動時間を指標として,空間的に無秩序な農地集積を仮定した場合との比較から評価した.

    分析では,現況の管理農地数を基準として,新規の借入農地数を+20%刻みで最大+100%までの段階的な規模拡大を想定した.そのうえで,車移動速度,徒歩移動速度,車の乗降時間を組み合わせた複数の状況にモデル内の変数を調整し,各シミュレーションの結果を比較した.その結果,無秩序に農地が増加した場合は,ほぼ管理農地数に比例して移動距離及び移動時間が単調増加した.対して新規の借入農地が密集していく計画的な農地集積では,次第に徒歩移動区間が増加し,無秩序な農地集積との効率性の差は逓増する傾向が示された.

  • 上西 良廣
    2019 年 28 巻 3 号 p. 127-142
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,近年注目される「生物多様性保全型技術」を対象とし,効果的かつ効率的な普及方法を解明することを目的とした.新潟県佐渡市において普及活動が進められている「朱鷺と暮らす郷認証米」を対象事例とし,技術導入に関する試行段階と確認段階の意思決定,さらに中断,非導入の理由に注目して分析した.

    まず導入者と非導入者の特徴を比較した結果,居住集落や水稲経営面積,経営理念,シンボルとの関係性などに違いが見られることが明らかとなった.次に,導入動機の分析から,先行導入者は主にシンボルである生物への貢献や商品の差別化などの側面に価値を見出して技術を導入していた.また,中断者による中断理由を分析した結果,中断者をなるべく出さないようにするためには,トキ米の生産者を対象とした研修会を開催して栽培要件や栽培方法に関する情報を提供することや,高い精算金の実現などが有効であると考えられる.最後に,非導入理由の分析から,新規導入者を確保するにあたっては,トキ米の説明会を開催し,トキ米やエコファーマーの申請方法,さらには栽培要件に含まれる生き物調査の実施方法に関する情報を提供することが有効であると考えられる.

  • 朱 成敏, 小出 誠二, 武田 英明, 法隆 大輔, 竹崎 あかね, 吉田 智一
    2019 年 28 巻 3 号 p. 143-156
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では農業ICTシステムのデータ連携における標準語彙として農作業基本オントロジーを提案する.農作業基本オントロジーは,様々な農作業に対して記述論理に基づく定義と構造化を⾏うことで,農作業名称が持つ意味の多様性を明確に記述している.また,同義語や関連情報も収録されており,データ間の連携や統合における基準情報として活⽤することができる.これにより,異なる農業ICTシステムからのデータを連携させて分析することが可能となる.さらに,農作業同⼠の意味関係を論理的に定義することにより,農業データの意味把握と分析も容易となる.農作業基本オントロジーはLinked Open Data(LOD)形式でも公開されており,相互運⽤性と機械可読性が確保されている.農作業基本オントロジーは農作物に関する情報や国内外の農業に関連する情報体系とも連携されており,⾼度な知識処理が可能な農業分野における知識基盤としての利活⽤が期待される.最後に農作業基本オントロジーの応⽤事例として統計調査の⾃動化とオントロジーによる農作業の推論を紹介し,その有⽤性と可能性について検討する.

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