農業情報研究
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30 巻, 2 号
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原著論文
  • 伊藤 次郎, 岡安 崇史, 野村 浩一, 安武 大輔, 岩尾 忠重, 尾崎 行生, 井上 英二, 平井 康丸, 光岡 宗司
    2021 年 30 巻 2 号 p. 13-23
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    植物の育種や栽培管理技術の高度化には,植物の成長や環境応答性を定量的に計測し,評価するための技術が求められる.最近では,ICTの目覚ましい発展を背景に,植物の生育特性の計測を高速に行えるフェノタイピング技術の開発研究が盛んに行われている.本研究では,廉価なIoTデバイスに加えて,オープンソースとして提供されている画像処理・解析ライブラリなどを用いることにより,植物の生育情報を自動計測可能な植物フェノタイピングロボットを開発した.本ロボットは,水耕栽培ベッド両側に配置したレール上を走行する構造で,ARマーカを用いてロボットの走行制御と位置認識を行うことにより,植物の生育画像をスケジュールに合わせて自動計測する機能を有している.ホウレンソウを対象に,幼苗定植直後から収穫までの生育画像を毎日4時間毎にロボットに搭載されたRGB-Dカメラで撮影する試験を行い,植物フェノタイピングロボットとしての性能を評価した.その結果,開発したロボットの位置制御性能は3 mm程度であることがわかった.本ロボットを用いて,栽培ベッド全体の画像および深度情報の自動計測を行い,成長予測や生育不良検知などへの応用に対する可能性を示した.

  • 渡邉 大樹, 齋藤 陽子, 齋藤 久光, 玄浩 一郎, 正岡 哲治, 大澤 良
    2021 年 30 巻 2 号 p. 24-34
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    クロマグロの天然資源管理が進む中,天然資源に依存しない完全養殖やゲノム編集技術の開発による家魚化が進む.本稿では,ゲノム編集技術を使って作出された完全養殖に適したマグロを事例に消費者受容を分析した.選択実験の結果,ゲノム編集技術の利用に否定的な消費者が多く,技術の応用により完全養殖マグロの価格をどの程度下げられるかが普及のカギとなる.ただし技術になじみのない回答者も多く,技術への理解を深めてもらうことや技術が資源管理に有用であることを周知すること,倫理的消費に関心をもってもらうことなどが評価を改善する上で有効である.

  • 塩見 岳博, 斎藤 岳士, 石原 光則, 和田 光博, 林 茂彦, 府中 総一郎, 神成 淳司
    2021 年 30 巻 2 号 p. 35-44
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,筆ポリゴン,農地ピンおよび土壌図のデータを組み合わせた全国版統合農地データAPIを提案する.農業に関連する各種データや連携基盤の現状と課題を整理した上で,農業生産において基盤となる農地データの利便性向上を図るため,全国の農地データの統合を行った.対象は筆ポリゴン,農地ピンおよび土壌図の3つのデータで,筆ポリゴンをベースとし,他の2つのデータの統合を試みた.結果として,ベースとした筆ポリゴン31,591,036件のうち5,999,291件について,3つのデータが統合でき,成功率は19.0%であった.残りのデータが統合ができなかった原因は,統合対象となるデータの欠落や,統合対象が複数存在するなどのフォーマットの違いによるものであり,その解決には対象とした農地データを整備するルールの統一が求められる.

    統合した農地データは,農業データ連携基盤WAGRIを通じて,全国版統合農地データAPIとして提供した.その出力形式には,地理情報システム(GIS)における標準フォーマットであるGeoJSONとWebMapTileService(WMTS)を採用し,一度の要求で3つのデータが同時にに取得できたことから,利便性の向上が確認された.

    今後,統合した農地データが幅広く利用されるための課題としては,データ統合の速度向上や多くのデータを一括でダウンロードする仕組みへの対応などが考えられる.

  • 光成 有香, 吉野 章
    2021 年 30 巻 2 号 p. 45-72
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    国産,北海道産,ニュージーランド(以下NZ)産,フランス産の4ブランドのバターについて,消費者を被験者とした選択実験を行い,それぞれの商品価値評価を推定し,比較することで,国産バターの商品価値競争力を評価した.推定結果が現状を再現しているとすれば,国産バターの商品価値評価は高く,73%の消費者に実売価格(約400円/200 gを想定)と同程度かそれ以上に評価されている.一方で,輸入品に対する抵抗感は強く,52%の消費者に国産バターよりも100円/200 g以上低く評価されている.ただし,24%の消費者が輸入品に抵抗感を持ちながらも,50円/200 g以上安ければ輸入品を選択する.こうした消費者には,食費月額が少ない人,50歳未満の若い女性が比較的多い.さらに5%の消費者は,輸入品に抵抗感がなく,その半数がすでに輸入バターの購入を経験している.NZ産の大半がグラスフェッド・バターであることが消費者に認知されれば,94%の消費者でNZ産バターの評価が高まる.とりわけ,価格差には厳しいが好ましいものには高い評価額を示す食への関心が高い消費者と先述の輸入品に抵抗のない消費者(合計で9%の消費者)は,国産より100円/200 g以上高く評価する.

  • 福見 淳二, 松浦 史法, 福田 耕治, 吉田 晋, 飯田 賢一
    2021 年 30 巻 2 号 p. 73-85
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,UAV(無人航空機:Unmanned Aerial Vehicle)が発生させるダウンウォッシュを有効利用することで散布範囲をコントロールし,農作物の特徴や生育状態に合わせたスポット的な薬剤散布を行うシステムの構築を目標としている.スポット散布を実現するためには,気流の特徴や分布および気流による液滴の挙動を解析する必要があるが,実地実験による解析には限界がある.そこで,実際の散布状態を可視化できる実機を用いた実験システムに加えて,散布シミュレーションシステムを新たに構築した.シミュレーションシステムにより,機体の動的挙動も含めた気流および液滴の挙動を解析することが可能となり,圃場環境の変化に対応したスポット散布の設定等の効率的な検証が実現できる.

    そこで,まず基礎実験として噴霧ノズルの位置や姿勢を変化させた時のシミュレーション結果と実機を用いた実験結果を比較することにより,シミュレーションモデルの検証を行った.噴霧ノズルの位置や姿勢,液滴の噴霧角を変化させ比較検証を行った結果,散布範囲の変化や特徴に関して実機を用いた実験結果と同様のシミュレーション結果が得られることを確認した.また,シミュレーションにおける気流や液滴の挙動を詳細に解析することで,大規模な計測装置を用いずに実験結果の解析が可能となることも確認できた.

  • 源野 広和, 小林 一樹
    2021 年 30 巻 2 号 p. 86-95
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて果実画像の生育度分類を行う場合に,果実拡大率の影響を明らかにする.生育度分類に用いた果実画像は,リンゴのふじとあいかの香りであり,果実が膨らみだした時期から収穫直前まで約2週間毎に撮影し,撮影日に基づく生育度を数値としてクラス設定した.果実画像の果実拡大率は,0.462–6.000倍の範囲で13段階に設定して,果実拡大率毎に学習を行った.学習済CNNを用いてテスト用画像を分類した結果,果実拡大率は,ふじで0.545と1.000の時に,あいかの香りで0.500,0.600,1.000の時に,正解率が高くなった.また,両品種とも,果実拡大率が1.000から増加するにともなって正解率が減少した.これらから,CNNが生育度分類を行う際には,果実の輪郭や周辺領域を参照しており,また,果実全体の色彩分布を参照していると推察された.両品種ともに,果実拡大率1.000のときに正解率が高かったことから,本研究では,スマートフォンで果実を撮影した時に,果実拡大率が約1倍になる果実画像が自動で切り出され,推定生育度が自動表示される生育評価アプリケーションを例示した.

  • 本多 誠之, 辰己 賢一, 中川 正樹
    2021 年 30 巻 2 号 p. 96-108
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    光合成速度を高精度で予測可能なモデルを構築することは作物の収量や生産性を予測する上で重要である.また,実用性の観点からは,より簡単に光合成速度を予測することができる技術の開発が望まれる.本研究では野外水田圃場におけるイネ個葉を対象としたガス交換測定により得られたデータを説明変数とし,Long-Short Term Memory Neural Network(LSTM)を応用して,イネ個葉の光合成速度の予測が可能なモデルを構築し,予測精度を定量的に評価した.その結果,1)本研究で使用した全説明変数を用いて構築したLSTMによるモデルは,MAE(平均絶対誤差)指標では20分先までの予測において他のモデルと比較して有意に高い精度を有すること,2)予測時間の前20分間の外部気象や葉内環境の前歴が予測にとって重要な要素であること,3)大気および葉内CO2濃度,水蒸気の気孔・葉面境界層コンダクタンスの時間的変動情報がLSTMによる予測精度に大きく影響すること,4)CO2濃度,光環境,気温のみを説明変数として光合成速度を予測する際,LSTMは回帰モデルと比較して明瞭な優位性は認められないこと,が明らかになった.これらの知見は,作物の収量予測モデルや営農意思決定の自動化技術において有用である可能性が示された.

事例研究
  • 前原 俊介, 朴 壽永
    2021 年 30 巻 2 号 p. 109-120
    発行日: 2021/07/01
    公開日: 2021/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,農産物や食品販売とSNS等を関連させた研究が情報化社会進展下にも関わらず少ない現状を踏まえ,SNSの重要性に着目し,事例として2019年に発生したタピオカドリンクブームの発生要因を明らかにした.具体的には,どのような消費者がブーム発生に最も貢献したか,また,その購買行動とSNS特にInstagramの影響を分析した.アンケート調査を行い,539人分のデータを収集,Brunner-Munzel検定とカイ二乗検定を適用,分析した.ツールとしてBuMocを用いた.サンプルサイズが大きいことなどからP値のみに依拠した有意差検定ではなく効果量(effect size)と併せて有意差を確認した.分析の結果,流行に敏感な女子学生が今回のブーム発生の主役であったこと.SNS特にInstagramにより情報の拡散が行われ,購買意欲向上に繋がったこと.情報の取り入れ等でInstagramは活用されるが,繰り返しタピオカドリンクを購入する要因は味や食感などのタピオカドリンク商品自体がポジティブに評価されたからであることが明らかになった.なお,今回のブームは,今後も流行に敏感な女子学生を中心とし,一定のレベルで消費対象として残存する定着性流行になる可能性が高いと推察された.

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