農業情報研究
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30 巻, 3 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • 星 岳彦
    2021 年 30 巻 3 号 p. 121-130
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    イチゴ栽培における収穫・管理作業軽減のために実用化した養液栽培による高設栽培は,従来の土壌栽培と比較し,架台で空中に栽培ベッドが隔離され,栽培ベッドとの物質収支を正確に把握できる利点がある.本研究では,オープンソースハードウェアCPU基板を用いた低コストユビキタス環境制御システムプラットフォームを使った低コスト高設栽培ベッド用培養液管理システムを開発した.本システムは,1セット約6万円で製作できた.自作化・低コスト化が進む高設栽培ベッドに見合ったコストで,供給・排出する培養液量・導電率をオンライン計測できた.さらに,精密な培養液管理による高度生産が実現可能な養水分吸収の見える化を達成した.約2年間の栽培試験を実施し,より精密・高度な培養液管理の達成に向けた知見が得られた.さらに,本システムをオープンソース化し,自作も可能にした.日本のイチゴ生産を支えてきた各地の中小規模施設に導入可能なICTによるDIYスマート化の提案ができたと考える.

  • 加藤 雅宣, 竹安 栄子, 春日 雅司, 川向 肇, 池上 勝
    2021 年 30 巻 3 号 p. 131-145
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,「兵庫山田錦生産者調査(2016年)」の結果を用いて,農協や農業改良普及センターによる生育診断(穂肥診断と刈り取り適期診断)に対する生産者の意向とその要因を明らかにした.第一に,生育診断に対する生産者の認知状況を把握した.「穂肥診断」は回答者の70.5%,「刈り取り適期診断」は61.3%に認知されており,いずれも全体の3分の2程度の回答者に認知されていることが明らかになった.第二に,診断作業を「自分でしたい」という意向を持つ回答者の特性を把握した.「穂肥診断」は回答者の20.7%,「刈り取り適期診断」も20.7%の回答者が自主的判断の意向を表した.彼らは,これまで自分自身で生育診断を実施してきており,将来,経営の拡大を検討している能動的な生産者であることが明らかになった.第三に,診断作業を「農協や普及センターに任せる」という意向を持つ回答者の特性を把握した.「穂肥診断」は回答者の55.6%,「刈り取り適期診断」では59.2%の回答者がその意向を示した.彼らの主な特性は,経営を拡大する意向はなく,経営の現状維持にも否定的な生産者であることが明らかになった.診断作業を「自分でしたい」という意向を持つ生産者が回答者の2割ほど存在することが明らかになったことで,今後,生育診断を実施する側としては,このような意向の生産者からは的確で効率的に実施できる手法の提供が求められることを想定する必要がある.一方,従来どおりに診断作業を「農協や普及センターに任せる」とする生産者が回答者の6割も占めていることも見逃せない.いずれにしても,生育診断を実施する農協や普及センターの限られた人的資源を考慮すると,多数の圃場を効率的に診断し,その情報を迅速に共有できるICTの活用が必須となるものと思われる.

  • 山﨑 達也, 青木 俊介
    2021 年 30 巻 3 号 p. 146-154
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    洋ナシの生育過程の一つに花粉をめしべに付ける授粉作業があるが,人手で大量の花に対して行う高負担な作業となっている.本研究では,ロボットによる洋ナシ花授粉作業の自動化を目指し,画像から高精度で花粉付けの対象となる花を検出する手法の開発を行う.ロボット視点画像として,一定距離から洋ナシの花群を撮影した遠景視点の画像と,より接近して授粉対象の花を捉える近景視点の画像の二種類があり,効率的に対象物を検出するために,同一構造のFaster R-CNN(Regions with Convolutional Neural Networks)を用いる.また,遠景画像内で対象の花群選定の精度を向上させるために,マルチスケールフィルタを用いて抽出した枝領域情報を用いることを提案し,遠景画像の対象検出に枝領域情報を用いた方が,主要な評価指標に対して高精度であることを示す.実際に花粉付けの対象となる洋ナシ花の画像データでFaster R-CNNを学習し,対象物の検出精度を評価し,Average Precision(IoU値を0.5に設定)で遠景画像は0.747,近景画像は0.939という結果が得られた.

  • 田中 慶, 井原 啓貴, 橋本 知義
    2021 年 30 巻 3 号 p. 155-166
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー

    太陽熱土壌消毒は,圃場表面をポリエチレンフィルム被覆し,夏期に40°C以上の地温を一定期間維持することで,土壌中の多様な病原菌,害虫,雑草種子等を死滅させる防除技術である.処理期間の天候が不順で必要な有効積算地温に達しないまま終了予定時を迎えた場合,あるいは台風などによる処理中断からの再開時に,生産者は消毒処理を延長するか,処理を中止して防除資材を投入するかなど,それ以降の作業工程を合理的に選択する必要がある.このとき,消毒効果の有効性を判定する有効積算地温予測法があれば,消毒期間の延長を判断できる.そこで,過去14日間の日毎の有効積算地温と,メッシュ農業気象データの様々な気象要素の組合せで生成した重回帰式で9日後の有効積算地温を予測し,最も予測精度の良かった組合せを選んだ.予測精度は回帰式を算出する地温調査期間の7月と,その回帰式に基づく予測期間の8月の気温傾向が同様であれば,9日後の予測誤差は2日以内であった.生産者らが圃場で利用できるように,この有効積算地温予測法を組み込んだスマートフォンアプリ「陽熱プラス」を開発した.このアプリは,必要なデータを用いて重回帰式を生成し,太陽熱土壌消毒を行う期間,目標積算地温に基づき,目標積算地温達成日または予測期間最終日の達成度を表示する.

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