農業情報研究
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31 巻, 3 号
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原著論文
  • 石原 光則, 林 志炫, 杉浦 綾, 常松 浩史
    2022 年 31 巻 3 号 p. 65-77
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    ドローン空撮で安定的な生育状況を把握するための空撮条件を提案するために,マルチスペクトルカメラの違いや撮影環境による観測結果の変動を定量的に把握し,その変動を補正するための手法について検討した.植物群落内放射伝達モデルPROSAILを用いて,3種類のドローン搭載可能マルチスペクトルカメラによる水稲群落の反射率と植生指数をシミュレーションし,カメラの特性を評価した.また,PROSAILモデルによるシミュレーションにおいて,葉面積指数,散乱光比,太陽天頂角を変化させて,生育ステージと観測時の光環境の違いについて評価した.その結果,マルチスペクトルカメラにより,使用している波長領域が異なるため,反射率や植生指数に違いがあることが分かった.特に,レッドエッジバンドの反射率や,レッドエッジバンドを利用した植生指数ではその差が大きかった.しかし,これらのマルチスペクトルカメラ間の植生指数の違いは,線形回帰で補間することが可能であった.また,葉面積指数が同じでも,天候により変動する散乱光比や,季節と時刻により変動する太陽天頂角の組み合わせが変わると,反射率や植生指数が変化するため,ドローンによる空撮の際は観測条件を適切に設定する必要があることが分かった.このような中,レッドエッジバンドを利用した植生指数はこれら観測条件の影響が小さく,また,葉面積指数が高い時に飽和しにくかった.これらのことから,異なるマルチスペクトルカメラを用いて水稲を観測する場合に,カメラの観測波長領域や観測時の光条件により,観測される反射率や植生指数が変化するが,その影響を考慮した観測方法や補正方法を実施することにより,生育期間を通じて安定した生育状況の把握が可能であることが明らかとなった.

  • 岡 碧幸, 石毛 奈央, 内田 義崇
    2022 年 31 巻 3 号 p. 78-86
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    酪農産業の大規模化と分業化に伴い,バイオガスプラントで生じる家畜糞尿由来消化液肥料の集約的な利用が進められてきた.分業化され委託業者が散布を行う場合,液肥の牧草地における利用に関する散布場所や時期,量の情報管理やその適正化が課題となっている.本論文では,これまで十分に活用されていなかった消化液散布履歴を利用した多牧区の散布管理システムを開発した.このシステムでは,オープンデータの人工衛星画像データを利用し牧草の拡張植生指標(Enhanced Vegetation Index;EVI)を調べ,既存クラウド型システムで収集・管理した消化液散布履歴データと統合し利用可能とした.このシステムで年間の牧区ごとの消化液散布量に対する牧草生育量を評価する.さらに,地区平均との比較から,消化液散布量は多いが牧草生育状況が悪い牧区,即ち必要以上に施肥されていると考えられる牧区を選定して注意牧区とし,ウェブアプリケーションのマップ上にアラート画像を表示することで即座に発見できるようにした.また,このアプリケーションでは牧区を選択することで,牧草生育と施肥の履歴のグラフを閲覧できる.本システムを通して,農業従事者,液肥の管理や散布関係者,地域の行政担当者などの間での情報共有と理解を後押しし,より効率的な地域資源の活用を目指すことが可能となる.

  • 中條 淳, 孫 雯莉, 松下 秀介
    2022 年 31 巻 3 号 p. 87-94
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,開発途上国における農業技術普及の現場を対象として,一年生換金作物を選定する際の経営者の主体的な意思決定過程を階層分析法(Analytical Hierarchy Process:AHP)により検討するにあたり,調査対象となる多くの経営者から首尾一貫した一対比較の結果が得られないという問題点を解決するために,多面的な情報利用の方法を提案することを目的とする.具体的に,通常のAHPの方法では,一対比較の中に比較しづらい要素のペアが存在する,あるいは,分析対象となる要素数により一対比較の総数が膨大になるなど,調査対象となる経営者の回答時の負担が大きくならざるを得なかった.そして,このような状況下で経営者が行った完全一対比較の結果を信頼性指数によって評価した場合,推移性規則が満たされない要素間の評価が含まれるなどのために,分析に利用可能な標本の大きさが相対的に小さくならざるを得ないという問題が存在した.そこで,コートジボワール中部地域のベリエ州に位置するZ村を対象とした技術導入に関する農家の意思決定分析を事例として,通常のAHPの適用によって最終的に小さくならざるを得なかった標本の再拡大を目的とした不完全一対比較の適用によるAHPウェイトの再計算とそれによる信頼性指数の再評価を実施した.また,その結果を用いた技術導入の意思決定要因分析の実用性について,完全一対比較の結果と不完全一対比較の結果を用いた分析内容間の比較検討を行った.

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