昨春 (地理要旨集 63 (2003), p.216) に続き,アフリカ大陸における環境変動の全体像を把握する作業の一環として,人類進化との関わりをも視野に入れ,後期第四紀を中心としつつも,過去約500万年間の変動史を素描し,課題を整理しておきたい.
最近10年間,IGBP/PAGES/PEP_III_(Europe-Africa Transect)を中心とする国際共同研究の進展などにより,過去15万年間の古環境復元に有用なデータセットが急増した.しかし,高精度編年・高解像度データセットが得られるサイトはなお限られ,地理的にも偏っている.こうした限られたデータによっても,古環境(景観)像(最終氷期最寒冷期対応乾燥期森林refugia,完新世Hypsithermal期緑のサハラなど)は素描できるが,それは広域レベル変動の一断面を示す単純な仮説的スケッチに過ぎない.また,花粉化石や湖沼・河川・砂丘・洞窟等陸上堆積物と海底堆積物など,環境解像度と空間代表性を異にするポイントデータに依拠した古気候のモデリングにも問題がある.
特に,その地理的位置と複雑な地形配置を反映して,現在でも気候システムが複雑な南部アフリカでは,データセットの飛躍的増加にもかかわらず,この地域に特徴的な気候・環境変動のメカニズムを明らかするまでには至っていない (Thomas & Shaw, 2002).
チャド北部Djurab砂漠の上部中新統 (c.7 Ma) からの Sahelanthropus tcadensis 頭骨化石発見の報告 (Brunet et al., 2002) は,東部アフリカにおける人類の誕生・進化と環境変動についての,大地溝帯の形成を軸に組み立てられた単純な見方, East Side Story やSavanna Theory を再検討すべき機会を与えた (諏訪, 2002) 画期的なものである.また,湖沼と湖岸林,周辺の草原と砂漠などモザイク状のハビタットを見事に復元した地質・古生物学的成果 (Vignaud, 2002) も魅力的で示唆に富む.今回は,こうした最近の情報を背景に,次の3点を中心に報告したい.
(1)100万年オーダーの環境変動史素描と東部アフリカ
を対象とした環境変動復元のための枠組み提示.
(2)少数の不確実データに基づく斉一的イメージの提示を避け,局所的な気候・地形・水環境条件のモザイク配置を考慮したハビタットレベルないしランドスケープレベルの,よりリアルな環境(景観)像を構築することの重要性.
(3)地球温暖化と気候イベントに対する最近のレスポンス.
文 献
Brunet, M. et al., 2002. A new hominid from the Upper Miocene of Chad, Central Africa. Nature, 418, 145-151.
Thomas, D.S.G., Shaw, P.A., 2002. Late Quaternary environmental Changes in central Southern Africa: prospects. Quat. Sci. Rev., 21, 783-797.
Vignaud, P. et al., 2002. Geology and paleontology of the Upper Miocene Toros-Menalla hominid locality, Chad. Nature, 418, 152-155.
諏訪 元. 2002. 中新世から鮮新世の化石人類_-_最近の動向. 地学雑誌, 111, 816-831.
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