1.はじめに
フィリピンにおける降水量の季節変化や年々変動はアジア-太平洋モンスーン地域の季節変化と共に生じていると考えられるが,フィリピンの地形的な効果も考慮して降水量の季節進行について報告したものは少ない.そこで,赤坂ほか(2005)では1961-2000年の半旬降水量データについて主成分分析を行い,雨季入り,雨季明けの年々変動の様子を明らかにした.また,フィリピン全体の降水量の増減を表していると考えられる第1主成分スコアには,1995年以降にプラスのスコアが持続するという特徴がみられた.しかし,その原因や主成分スコアの長期的な変動の特徴については考察がなされていない.フィリピンにおける降水量の季節進行は850hPa面における風系の影響を受けることがわかっているため,第1主成分スコアの変化について調べるには,まず850hPa面風系との対応をみる必要がある.そこで赤坂ほか(2005)で行われた主成分分析の結果から,フィリピンにおける降水量の年々変動とそれに関係する風の変化について明らかにすることを目的とする.
2.使用データ及び解析方法
赤坂ほか(2005)でおこなわれた上位2成分の主成分分析の結果を使用する.また,フィリピン周辺における風系の変化と降水量変動との関係を考察するために,NCEP/NCAR (National Centers for Environmental Prediction / National Center for Atmospheric Research)の2.5
ºグリッドの再解析データ(Kalnay et al. 1996)から850hPa面の風系データ(U,V成分)を半旬平均値にして使用した.解析対象期間は,1961-2000年である.
まず,年周期を除いた卓越周期を調べるために主成分スコアを73半旬移動平均した.次に降水量の年々変動と関係する風の変化を調べるために,上位2成分の主成分スコアとフィリピン周辺における850hPa面のU,V成分との相関をとったところ,12.5-17.5
ºN,120-125
ºEの領域において高い相関がみられた.そこで,この領域内のU,V成分の値を平均し,標準化して使用した.主成分スコアと同様に73半旬移動平均した.
3.解析結果
主成分スコアの73半旬移動平均時系列を図1に示す.これをみると1995年以降,第1主成分スコアの変動が激しくなっている.また,上位2成分ともに約5年程度の周期があるようにみえる.これを確かめるために,スペクトル解析をおこなったところ両成分に約356半旬の周期が卓越していることが明らかになった.
次に,フィリピンにおける降水量の季節進行を特徴付ける要素の1つである850hPa面の風について調べた.標準化したU,V成分の73半旬移動平均時系列を図2に示す.これをみると,1990年後半にV成分において南風偏差が急激に強くなり,振幅も大きくなっている.このことから,1990年後半に第1主成分スコアにみられた変化は,V成分の変化と関係している可能性が示唆された.今後,V成分の変化が降水量の増減と関係しているのか確認すると共に,その原因について明らかにすることが必要である.
参考文献
赤坂 郁美・森島 済・三上 岳彦(2005) フィリピンにおける雨季入り・雨季明けの経年的特徴. 2005年地理学会春季学術大会予稿集.
Kalnay,E. ,M. Kanamitsu, R. Kistler, W. Collins, D. Deaven, L Gandin, M. Iredell, S. Saha, G.White, J.Woolen, Y. Zhu, M. Chelliah, W. Ebisuzaki, W. Higgins, J. Janowiak, K.C. Mo, C. Ropelowski, J. Wang, A. Leetmaa, R. Reynolds, R. Jenne, and D. Joseph. 1996. The NCEP/NCAR 40-year reanalysis project. Bull. Amer. Meteor. Soc.77: 437-471.
図1 主成分スコアの73半旬半旬移動平均時系列
実線が第1主成分,点線が第2主成分を表す.
図2 850hPa面における風系の73半旬移動平均時系列
実線がU成分,点線がV成分を表す.
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