日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の255件中201~250を表示しています
  • 身近な地域の学習:消費購買行動と農業地域を例として
    内田 均
    p. 201
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    対象とする教育分野 本研究は、高校「地理B」において、GISを授業に導入することによって得られた成果および今後の課題を明らかにすることを目的としている。今回は、以下の授業実践を中心とした発表を予定している。MANDARA・WebGISを利用した「消費行動・身近な地域の調査」(2004年12月に2学年を対象に実施) MANDARAは主題図作成のため、WebGISは授業時の生徒が考察を行ううえで必要となる地理情報を得るために利用。コンピュータの利用形態は情報検索方式(内田2000)。実践の流れは以下の通り。(1)準備段階で教師は、高崎市内のコンビニエンスストア(以下CVS)を拾い、MANDARAおよびWebGISの両方に、商圏情報等も含めた分布図を作成。250mメッシュ人口等の主題図もMANDARAを用いて作成。(2)様々な統計情報を利用した複数の主題図を用いて、高崎市各地域の地理的条件を考察。(3)CVS各店舗の商圏分析結果(図1)と主題図を用いて、CVSの立地を考察。(4)Web GISを用いて、主題図では読み取ることのできない地域の詳細な地理情報を取得し、コンビニエンスストアの立地を考察。(5)様々な地理情報をもとに高崎市内のCVSの立地を類型化して分析。(6)各生徒が考察を進める中で生じた疑問を新たな課題として設定し、仮説を立て、調査方法を検討し、現地調査を冬休み期間中に実施。WebGISを利用した「身近な地域の調査・日本の農業」(2005年11月に2学年に実施) WebGISは、教師と生徒の資料作成時と生徒の発表時に利用。コンピュータの利用形態は資料作成・発表形式(内田2000)。実践の流れは以下の通り。(1)準備段階で教師は、高崎高校周辺に分布している果樹園をGISで拾い、果樹園の分布図(現在・昭和50年代)を作成。(2)教師が、果樹園の分布図をもとに調査地域を区分。(3)授業時に、WebGISにアップした2つの果樹園の分布図(現在と昭和50年代のもの)を生徒が閲覧し、班ごとに興味を持った調査地域を選定。(4)各班は、放課後等を利用して、栽培果樹の名称や栽培の様子等の調査を実施。(5)果樹園の写真ファイルを添付した調査結果のメールを教師が受理。(6)教師は、WebGISに写真付の果樹園情報をアップ(写真2)。(7)生徒は調査結果について、WebGISを利用して発表。その際、教師は、地理的見方・考え方を意識した補足説明を実施。(8)教師が、高崎市の果樹生産統計や日本の年齢別農業就業割合を示す図等を示しながら、日本の農業の特徴や課題等について解説。<文献> 内田均(2000) 地理教育におけるコンピュータ利用授業の類型化、新地理、48-3、1-11。
  • 高齢化社会をとらえる:WebGISによる統計地図の作成
    生澤 英之
    p. 202
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    はじめに 総合的な学習の時間や地理歴史科で、生徒の学習活動として地域を題材として「調査」「発表」が積極的に取り入れられるようになって久しい。さまざまな統計資料を地図化してその地域の特徴を把握したり、得られた情報を地図上に表現したりと、地域調査では「地図」が重要な役割を果たしている。 今回、地図作成で利用したのは「みんなで調べて発表して交流する教育用WebGIS(以下『WebGIS』と表記)」で、インターネットに接続した端末で簡単に利用できるGIS(地理情報システム)の一つである。端末ごとにソフトをインストールすることなく、複数の端末から同時にアイコンを配置させたり、統計地図を作成できる。また、必要に応じて拡大印刷も可能である。統計地図の作成 統計地図の作成そのものには「MANDARA(※1)」も利用できる。「MANDARA」はデータの量や更新の頻度も高く、細かな設定も可能であるため、より高度な解析を必要とする場合には利用しやすい。 『WebGIS』でも、市町村単位までの統計地図であれば、CSVファイルに記されているタグについての知識を身に付けておく必要があるが、表計算ソフトを利用してデータを加工することで比較的簡単に作成できる。取り組みの様子 授業以外でPCを利用する生徒が少なく、使いこなせる生徒は少ない状況であった。したがって、今回の実践では、どの程度生徒が『WebGIS』の主題図作成機能を使いこなせるかを把握するという観点を踏まえて計画を立案した。実際には、手順を追いながら、混乱することなく作業にあたることができた。 生徒は事前にExcelについて簡単に学習しており、『WebGIS』の操作方法を簡単に確認をして取り組ませた。まず、事前に授業者の方で準備した群馬県内各市町村別の人口密度、高齢者人口割合などのデータを利用し、(1)レイヤ図形属性(※2)のExport、(2)データの加工、(3)レイヤ図形属性のImportの各作業を行わせた。その後、各グループに他のグループが作成したものと比較して、県内における高齢化の実態を分析させた。 当初は各自のPCを利用して作業にあたる計画であったが、作業中に『WebGIS』がフリーズを起こしてしまう生徒が多発したため、途中からグループごと(5班)で作業を行った。サーバーの処理能力の問題があるだろう。 (1)Export、(3)Importについては比較的簡単に作業をすることができた。時間を要したのはデータの加工で、各グループの作業状況を確認しながら、説明を行った。そのため、統計地図の色の使い方までは指示することができず、分析に使いにくい図もできてしまった。しかしながら、全てのグループで主題図作成の目標は達成することができた(図1・図2)。まとめと反省 今回の実践では、時間の関係もあり高齢化社会の分析が中途半端に終わってしまった感が強く、計画全体の目標は達成できなかった。しかし、PCそのものの操作になれていなくても、『WebGIS』を利用して統計地図を作成可能というポイントは抑えることができた。 ただ、生徒自身は「指示通りに作業をしたからできた」という感じで、操作についての定着は図れなかったが、何度か作業をさせることでこの点は解決できると思う。 サーバーの処理能力の向上、地図データの充実が図れれば、『WebGIS』はより使いやすいGISツールとなるだろう。※1:「MANDARA」は埼玉大学教育学部の谷謙二助教授制作のソフトウェア。http://www5c.biglobe.ne.jp/~mandara/ からシェアウェア版、無料版がダウンロードできる。※2:作成する地図を1枚の透明なシートとしてとらえ、シート内の位置情報を示すデータのまとまりを「属性」とする。
  • 山口 正秋, 須貝 俊彦, 藤原 治, 大上 隆史, 大森 博雄
    p. 203
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    濃尾平野は自然堤防や後背湿地,旧流路等の微地形の発達が顕著である.しかし,こうした微地形がデルタの前進後にいかに形成されてきたのかに関しては不明な点が多い.この点を解明するためには,デルタ堆積物を覆う沖積最上部層(沖積陸成層)の層相や分布様式と微地形との関係を詳細に検討する必要がある.本研究では,平野微地形に応じたサンプリング間隔で,25本の浅層群列コアを採取し,それらの解析によって沖積最上部層の分布構造を明らかにし,その堆積過程を解明することを目的としている.本発表では沖積最上部層の層相と粒度組成(1354試料)について報告する.これまでに以下の点が明らかになった.1) 現在の平野微地形は地表付近の堆積物と明瞭な対応関係を示す.ただし現在の地形と対応する堆積物の基底深度は場所により異なり,地表下数10cmから数m(デルタの頂置面)まで様々である.2) この関係を用いて,堆積物の粒度組成とそのサクセッションにもとづく沖積層最上部層の堆積ユニット区分を行い(図1,図2),各コアの対比を行った.3) その結果チャネルが古い地層を切り込みつつもその位置を変え,側方に自然堤防をつくり,周辺の地表面を埋没させながら上方に累重してきたことが示された.
  • 愛知県日進市を事例として
    大西 宏治, 廣内 大助
    p. 204
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    水防法の改正に伴い、現在、数多くの自治体で洪水ハザードマップが作成されている。ハザードマップ作成に関するガイドラインは示されているものの、実際に作成されたハザードマップをみると、そこに掲載されている情報などに違いが見られる。市民は災害・防災に対して現在、強い関心を抱くようになっている。その中で、ハザードマップに対してどの程度の関心を持っているのだろうか。また、ハザードマップにどのような情報の掲載を望んでいるのだろうか。そこで、2005年度に天白川の洪水ハザードマップの作成に取り組む日進市を事例地域として、市民のハザードマップに対する意識とハザードマップに掲載を望む情報に関するアンケート調査を実施した。
     居住者属性は30年以上居住する回答者が最も多く、次に5年未満の居住年数が短い者も数多く回答している。洪水に対する不安は天白川上流域に当たるため、約6割は不安がないと回答した。また、天白川浸水想定図が平成15年度に公開されているが、1割のみが「知っている」と回答しており、市民に広く認知されていないことがわかった。次に洪水ハザードマップに掲載を希望する情報として、「浸水のおそれのある場所」、「避難所の位置」、「土砂災害危険箇所」などへの回答が多かった。また、居住地選択の際の水害危険性の考慮について、52%が考慮し、45%が考慮しなかった。また、3%は危険だとわかっていながら居住地として選択した。減災の方法としては、河川改修(28%)と排水路(31%)の整備という工学的技法に対するニーズが高く、森林の開発抑制(19%)がそれに次ぐ。また、日進市の開発が下流部の水害危険度に影響することに関して、市民はどのような態度を取るべきかという質問に対しては、意見が多様となった。
  • 山田 誠一
    p. 205
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    対象とする教育分野(教科情報におけるGISの位置づけ) 学習指導要領の改訂に際し、普通教科「情報」が新設され、平成15年より実施されている。高等学校の情報教育に関しては、情報社会の一員として必要な能力と態度を、生徒に確実に身につけさせることを旨としており、「情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる」と示されている。 普通教科「情報」は、必履修教科であり、「情報A」、「情報B」、「情報C」より組織され、何れかの1教科を選択し、履修することとなっている。本校においては、「情報C」を選択しており、その目標として、情報の表現方法やコミュニケーションについての学習、情報社会の理解を通して、情報活用の実践力を高めるとともに、情報社会に参画する態度の育成を重視することを主眼としている。 情報活用の実践力については、総授業数の3分の1以上を実習に配当することと示されており、その時間数においては、高等学校の年間授業数を鑑みる上でも、少なすぎるとは思えない。実習の内容においては、情報リテラシー(操作能力)として、アプリケーションソフトの利用に頼っている。その利用に関しては、「Word」、「Excel」、「Power point」(以上 Microsoft)が主であり、教科書の記載もこれらが多く見られ、操作手順に終始している故、スキルの向上に結びついていると思われない。また、他のアプリケーションソフトを入手、導入に関しては、種々の制約があり、教育現場として容易ではない。 GISの教育利用が注目されている今日、教科「情報」も例外ではなく、教科書に記載されており、空間情報としての教材としている。統計データを地図上に表現し、生徒が情報を目的に応じて表現する教材の一つとして発展性が感じられる。また、統計データの分析、加工の考察も授業者の裁量で、同時間内での学習を展開できる利点も持ち合わせている。今後、GISによる学習についての方策及び課題の検討を行うために、授業の実践を行ってみた。授業の構成とGISの活用 使用するソフトは、GISフリーソフトとして秀逸なMANDARAを使用することとした。MANDARAについては、埼玉大学助教授 谷 謙二氏の手になるものであり、生徒の利用に際しても、サイトより容易にダウンロードすることができる。(http://www5c.biglobe.ne.jp/~mandara/) また、操作方法もマウスからの入力で稼動することができ、簡便なものとなっている。統計データにおいても、「Excel」で作成されており、生徒自身によるデータの加工、分析も取り扱うことが可能となっている。 実践の内容については、学校行事である研修旅行をテーマ(沖縄県)としたWebページの作成時に、統計地図の作成を行い、各自のテーマに則した画像処理となるよう心がけた。実践の方法、評価及び改善についての詳細を報告とし、教科「情報」の教材としての優位性を検討したい。<文献>高等学校学習指導要領解説 情報編 文部省(文部科学省)平成12年3月 26_-_30、61_-_75。
  • 松村 聡子, 目代 邦康
    p. 206
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    長野県上高地には,幅広い谷底が存在し,そこを流れる梓川本流と支流との合流地点には,多くの場所で沖積錐が発達している.この沖積錐は,山地斜面で生産された砂礫が,土石流となって流下・堆積し,生長を続けてきた.そのため,沖積錐の地形的特徴を理解することは,山地斜面から河川への土砂移動過程を解明する上で重要である.そこで,我々は,上高地に分布する沖積錐の一つである奥又白谷の沖積錐について,地形の形態的特徴や植生分布を元に,過去約100年間の地形の変化過程の解明を試みた.本研究では,沖積錐の地形と,植生について面的な現地調査を行い,土石流の流下・堆積の過程とそれに起因する植生のモザイク構造を明らかにした.さらに,流路に建設されている治山ダムが地形,植生環境に及ぼす影響についても言及する.
  • 松井 孝雄, 山元 貴継, 内藤 健一, 太刀掛 俊之
    p. 207
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    目的 人間が内的に保持している空間の表象,すなわち認知地図を外在化する方法として地図描画や方向推定,距離推定などがあるが,地理学や心理学でしばしば用いられてきたのは地図描画による方法である.この方法は手軽である上に,得られた手描き地図から読み取れる情報が豊富であるという利点を持っている.しかしながら,地図描画の対象とする地域の違いや手描き地図の分析指標の違いによって,地図描画を用いた研究間の知見の統合がなされにくいという問題点がある.また,地図描画を用いた研究の多くは,比較的小規模のサンプルを元にしており,手描き地図に用いる分析指標間の関係などの検討が十分に行われているとはいい難い.
    そこで本研究では,大学生による3,000枚以上の「手描き地図」を対象とし,先行研究で用いられた分析指標を検討した上で新たな指標も加えて特性を分析し,手描き地図データ分析の方法論について総合的な考察を行なう.また,それに基づいて手描き地図ごとの特性を数値化し,手描き地図画像とともに収録したデータベースを作成し,資料として提供することを計画している.

    「手描き地図」の描画 分析に用いた手描き地図は,中部大学で教養科目として実施されてきた講義「生活環境と人間」において,初回の講義時間の一部をさいてアンケート形式で描画させたものである.被験者数は同講義の2000年度から2005年度までの6年間の受講生,約3,000名以上となる。描画を行わせた場所は中部大学の講義室であるが,その場所は学期ごとに異なっており,とくに窓からの景色等への考慮も行っていない.なお中部大学は,名古屋大都市圏郊外に位置する春日井市東部に立地し(図),南約1kmにあるJR中央線神領駅などを最寄り駅としている.大学近辺に居住する学生(2割前後)のほか,多くの学生は愛知県外も含めた広範囲から,鉄道・バスや自家用車などを用いて通学している.
    描画に用いた用紙(B6横)は,表面に学生の属性を,裏面に手描き地図を記入してもらうものである.表面では学生の学籍番号や名前のほか,性別,現在の居住形態(自宅・一人暮らし・寮・その他),出身地,そして通学方法(徒歩・バス・自家用車・鉄道・その他)などについて回答を求めている.裏面では,「現在住んでいる所から大学までの手描き地図」を,あらかじめ印刷された枠(約9cm×15cm)内に簡単に描くように求めた.学生には,地図の正確さは求めていないことが指示されている.

    分析の指標と結果のあらまし 地図描画を用いた先行研究や,今回得られた手描き地図を通覧して,次の11の分析指標を設け,一枚一枚の手描き地図の特性を分類・数値化した. (1)描画範囲:手描き地図に表現された空間的範囲の広がりを,学内のみから複数以上の市町村を含むまで,5つに分類した.(2)ランドマークの数:手描き地図で明確に示された建物や店といったランドマークの数を集計した.(3)エッジの数:手描き地図に名称入りで描かれた「河川」「県の輪郭」といったエッジの数を集計した.(4)パスの数:手描き地図に描かれた鉄道路線の数を集計した.(5)距離の表現:「なし」か「あり」かを集計した.(6)方向の表現:「なし」か「あり」か,そして「あり」の場合には「誤り」であるどうかを集計した.(7)手描き地図の向き:手描き地図の上方向がどの方角にあたるのかを8方位で集計した.(8)手描き地図上の自宅から見た大学の方向:手描き地図上で自宅から大学がどの方向に描かれているのかを8方位で集計した.(9)手描き地図上での自宅からの出発方向:手描き地図上で,自宅からの経路を描き始めている方向を,(8)と同様に8方位で集計した.(10)途中省略記号(例えば「?」):「なし」か「あり」かを集計した.(11)図の分割:紙面がL 字型の線などで区切られ,それぞれで別の領域の手描き地図が描かれているものを図の分割「あり」,そうでないものを「なし」と集計した.
    こうした一連の分析指標に基づいて分類・数値化した手描き地図のデータ蓄積を進めている.その中で現時点では,例えば「手描き地図」に描いている空間的範囲が広範囲になればなるほど,ランドマークどうしの位置関係などにみる方向表現には誤りが増大するものの,一方で「上を北」として描く傾向は強まることなどが確認されている.
  • 佐々木 明彦, 長谷川 裕彦, 増沢 武弘
    p. 208
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    ■はじめに  南アルプスの南部地域は日本列島における新期氷河地形の分布南限にあたる.しかしながら,同地域の氷河地形発達史は詳細には解明されておらず,氷河が消失した後の地形作用の記載例もほとんどみられない.また,南アルプスの南部地域は,日本列島における周北極要素植物の分布南限地域でもあるが,氷期のレリックとも考えられるそのような植物の立地が氷期以降どのように変化してきたか,ということもよく解っていない.そうした点を背景に,本研究では典型的なカール地形である荒川前岳の南東側カールを対象として,地形の分布および斜面物質の特徴を明らかにし,氷河が消失した後のカール内の地形プロセスを考察した.
    ■荒川前岳南東カールの地形概観  調査対象としたカールは,荒川三山のひとつ前岳(標高3068m)の南東側に広がり,中岳(標高3083m)を流域最高点にもつ.ここでは,このカールを荒川前岳南東カールとよぶ.カール内には晩氷期までに形成されたモレーンや化石岩石氷河,化石周氷河性平滑斜面が分布し,それらの一部を開析するか覆って崖錐や沖積錐が形成されている. 崖錐は上部崖錐と下部崖錐におおきく分けられ,下部崖錐を上部崖錐が覆う地形層序となる.上部崖錐は,さらに一次堆積・二次侵食域,二次堆積域,両者の混在領域に細分される.下部崖錐は最大70cm,平均30cmの角礫からなり,表面1mはマトリクスフリーの構造となる.斜面の大部分で植生が成立し,腐植質土層が生成している.土層の最下部には鬼界アカホヤテフラ(K-Ah;約7300年前)が含まれている.一方,上部崖錐の表層は最大30cm,平均10cmの角礫を主体とする岩屑層となる.その構造は岩屑支持でマトリクスに充填されている.上部崖錐の斜面の約50%は植被され,とりわけハイマツに植被される部分では,K-Ahを含む腐植質土層が上部崖錐をつくる岩屑層を覆う.また,上部崖錐の中部から下部にかけて崩壊地と土石流堆が多数分布することも特徴にあげられる.崩壊地がみられる範囲は,上部崖錐の一次堆積・二次侵食域に相当し,土石流堆がみられる範囲は,上部崖錐の二次堆積域に相当する. 沖積錐は上部崖錐および下部崖錐の下方に分布し,末端はカール底に達する.地表には上部崖錐から続く新鮮な土石流堆が複数認められるほか,ウオッシュによる水みちが網状に形成されている.沖積錐の表層構成物の上位には腐植質土層がみられるが,層厚は3cm前後と薄く,長径5cm以下の礫を含むことが多い.腐植質土層の下位には5cm以下の亜角・角礫を主体とする沖積錐の表層構成物がみられる.マトリクスは砂を主体としており,部分的に腐植を含む.K-Ahは沖積錐の表層構成物や土層中には認められない.カール底の表層にはモレーン原をつくる礫であると考えられる長径30cmから50cm以上の巨礫が散在し,5cm程度以下のサイズの礫がその間を埋めている.地表にはソリフラクションローブがみられるほか,ウオッシュによる微地形もみられる.
    ■荒川前岳南東カールにおける完新世の地形プロセス  カールから氷河が消失後,最終氷期中の永久凍土環境で形成されたカール壁の節理に沿って粗大な角礫が生産された.礫は落石や乾燥岩屑流によって斜面下方に運搬され,下部崖錐が形成された.下部崖錐の形成当初は,粗大な礫が斜面を覆って岩海を形成していたため,植生の進入は困難だったと考えられる.礫の表面にマット状植生が定着し,無機物をとらえることが可能となってから,あるいは,斜面上方からウオッシュなどで供給される細粒物質が岩海の隙間を埋めるようになってから,植生の下部崖錐への進入が徐々に可能となり,土層が生成し始めたと考えられる.岩塊層を覆う腐植質土層の下部にK-Ahが含まれていることから,下部崖錐の形成は7300年前以前におおむね終了し,下部崖錐ではこれ以降,降雨や融雪水によるウオッシュが生じるのみで,斜面は基本的に安定したと考えられる.下部崖錐を形成するような粗大礫の生産が終わった後に,上部崖錐の形成が始まった.上部崖錐の一次堆積域・二次侵食域で現在ハイマツが分布する斜面では崖錐を構成する岩屑層を覆ってK-Ahを含む腐植質土層が生成しているので,そうした場所は7300年前以前までに斜面が形成され,それ以後は安定した状況を保ってきたと考えられる.ただし,上部崖錐の一次堆積域・二次侵食域の大部分ではカール壁からの岩屑供給が現在も継続しているほか,崩壊と土石流の発生により,上部崖錐の二次堆積域に細粒物質をもたらしている.そうした場所では,上部崖錐の形成が始まってから現在に至るまで,乾燥岩屑流のほか,土石流やウオッシュによって斜面が更新されてきたと考えられる.また,一部の裸地では,ソリフラクションが生じてきたと考えられる. 
  • 赤坂 郁美, 森島 済, 三上 岳彦
    p. 209
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1.はじめに
    フィリピンにおける降水量の季節変化や年々変動はアジア-太平洋モンスーン地域の季節変化と共に生じていると考えられるが,フィリピンの地形的な効果も考慮して降水量の季節進行について報告したものは少ない.そこで,赤坂ほか(2005)では1961-2000年の半旬降水量データについて主成分分析を行い,雨季入り,雨季明けの年々変動の様子を明らかにした.また,フィリピン全体の降水量の増減を表していると考えられる第1主成分スコアには,1995年以降にプラスのスコアが持続するという特徴がみられた.しかし,その原因や主成分スコアの長期的な変動の特徴については考察がなされていない.フィリピンにおける降水量の季節進行は850hPa面における風系の影響を受けることがわかっているため,第1主成分スコアの変化について調べるには,まず850hPa面風系との対応をみる必要がある.そこで赤坂ほか(2005)で行われた主成分分析の結果から,フィリピンにおける降水量の年々変動とそれに関係する風の変化について明らかにすることを目的とする.

    2.使用データ及び解析方法
    赤坂ほか(2005)でおこなわれた上位2成分の主成分分析の結果を使用する.また,フィリピン周辺における風系の変化と降水量変動との関係を考察するために,NCEP/NCAR (National Centers for Environmental Prediction / National Center for Atmospheric Research)の2.5ºグリッドの再解析データ(Kalnay et al. 1996)から850hPa面の風系データ(U,V成分)を半旬平均値にして使用した.解析対象期間は,1961-2000年である.
    まず,年周期を除いた卓越周期を調べるために主成分スコアを73半旬移動平均した.次に降水量の年々変動と関係する風の変化を調べるために,上位2成分の主成分スコアとフィリピン周辺における850hPa面のU,V成分との相関をとったところ,12.5-17.5ºN,120-125ºEの領域において高い相関がみられた.そこで,この領域内のU,V成分の値を平均し,標準化して使用した.主成分スコアと同様に73半旬移動平均した.

    3.解析結果
    主成分スコアの73半旬移動平均時系列を図1に示す.これをみると1995年以降,第1主成分スコアの変動が激しくなっている.また,上位2成分ともに約5年程度の周期があるようにみえる.これを確かめるために,スペクトル解析をおこなったところ両成分に約356半旬の周期が卓越していることが明らかになった.
    次に,フィリピンにおける降水量の季節進行を特徴付ける要素の1つである850hPa面の風について調べた.標準化したU,V成分の73半旬移動平均時系列を図2に示す.これをみると,1990年後半にV成分において南風偏差が急激に強くなり,振幅も大きくなっている.このことから,1990年後半に第1主成分スコアにみられた変化は,V成分の変化と関係している可能性が示唆された.今後,V成分の変化が降水量の増減と関係しているのか確認すると共に,その原因について明らかにすることが必要である.

    参考文献
    赤坂 郁美・森島 済・三上 岳彦(2005) フィリピンにおける雨季入り・雨季明けの経年的特徴. 2005年地理学会春季学術大会予稿集.
    Kalnay,E. ,M. Kanamitsu, R. Kistler, W. Collins, D. Deaven, L Gandin, M. Iredell, S. Saha, G.White, J.Woolen, Y. Zhu, M. Chelliah, W. Ebisuzaki, W. Higgins, J. Janowiak, K.C. Mo, C. Ropelowski, J. Wang, A. Leetmaa, R. Reynolds, R. Jenne, and D. Joseph. 1996. The NCEP/NCAR 40-year reanalysis project. Bull. Amer. Meteor. Soc.77: 437-471.

    図1 主成分スコアの73半旬半旬移動平均時系列
    実線が第1主成分,点線が第2主成分を表す.

    図2 850hPa面における風系の73半旬移動平均時系列
    実線がU成分,点線がV成分を表す.
  • 池田 敦, 福井 幸太郎, 松岡 憲知
    p. 210
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    山岳永久凍土帯下限付近において永久凍土の分布と構造を推定するために、簡便な弾性波探査(屈折法)と電気探査(比抵抗法垂直探査)を多数の地点で実施してきた。とくに2つの手法を併用した32ヵ所の結果をもとに、それぞれの手法の山岳永久凍土の探査における有効性を検証する。

    調査地
    調査地域は中国青海省チベット高原北東部、スイス南東部ベルニナアルプス、日本アルプスのそれぞれ永久凍土帯下限付近である。チベット高原では7地点で探査を行った。探査地点はいずれも探査測線長よりはるかに幅のある氾濫原または段丘面上である。表層は草本類に覆われたレスからなる。アルプスの19地点、日本の6地点の探査は、2地点を除きいずれも幅70_から_400 mの岩石氷河上で行った。粒度組成の違いが探査結果に及ぼす影響を評価するために、アルプスで探査した岩石氷河を、表層が礫層からなり植被を欠く無植被型と、草本類に覆われ土壌が形成されている植被型に分類した。さらに無植被型を、表層が巨礫からなりマトリックスを欠く巨礫型と、表層に巨礫を欠きマトッリクスのある小礫型に分類した。探査は巨礫型6地点、小礫型8地点、植被型5地点で行った。アルプスでは経験的に無植被型が永久凍土を含み、植被型が永久凍土を含まないことが知られている。

    方法
    弾性波探査の震源は重さ4 kgのハンマーによる地表面の打撃である。測線長は1地点を除き40_から_64 mである。同期加算処理を行い波形のシグナル・ノイズ比を十分に向上させてから初動走時を読み取った。得られた走時曲線より成層構造を仮定して各層のP波速度と厚さを求めた。
    電気探査の電極配置はシュランベルジャー配置を採用した。測線長は地形の広がりに応じて80 mから400 mとした。岩石氷河上での探査では、測線中央を岩石氷河の中心線上に置き、そこより凹凸の少ない線に沿って測線を配置した。測線末端は岩石氷河の縁に達しているが、少なくとも測線長30 m(有効探査深度7_から_10 mに相当)までは周囲に傾斜・構成物質の違いがない地形面内で探査している。解析は得られた見かけ比抵抗曲線の顕著な屈曲点の数から層数(3_から_5)を決定し、市販の解析ソフトを用いてその層数での最適な水平成層構造を求めた。

    結果
    地表付近の粒度組成によらず表層のP波速度は約0.4 km/s前後であり、その下に2_から_5 km/sの高速度層が存在する場合と0.7_から_1 km/sの低速度層が続く場合があった。多くの場合、顕著なP波速度の増加が、永久凍土の存在を示すと考えられた。チベット高原では標高の高低に、アルプスでは植被の有無に対応して、高速度層の有無が分かれていたほか、4地点ではボーリングによって確認された永久凍土の有無に高速度層の有無が整合していた。
    一方、電気比抵抗値は、粒度組成の違いを最も顕著に反映していた。2 km/s以上のP波速度により永久凍土の存在が示唆された位置での比抵抗値には少なくとも3桁の幅があり、沖積砂礫層では0.5_から_1 kΩm、小礫型で0.5_から_10 kΩm、巨礫型で50_から_500 kΩmであった。未凍結層の比抵抗値も粒径の増加に比例的で0.01 kΩmから100 kΩmと幅が大きい。沖積地では見かけ比抵抗曲線の上昇で特徴づけられる相対的な高比抵抗層とP波高速度層の出現位置が一致するほか、約1.5 km/sのP波速度より示される地下水面の深さで比抵抗値が急減した。しかし、岩石氷河内の比抵抗値の増減はP波速度の変化に対応していない場合も多く、比抵抗値が顕著に上昇する場合は、粒度組成や含氷率が垂直方向に大きく変化しているようだった。
    地温が融点近傍にある山岳永久凍土帯下限付近での永久凍土有無の判定にあたっては、電気探査よりも弾性波探査が一義的に解釈できる結果をもたらした。電気比抵抗値はP波速度などの他の指標と組み合わせると、粒度組成や含氷率の大小を推定するのに有効であると考えられた。
  • 旧市街地の景観整備を中心に
    江尻 直子, 加賀美 雅弘
    p. 211
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    ドイツ統一以来、旧東ドイツの都市は、とくに旧市街地における住宅の改修や歴史的建造物の修復保存などの都市再生事業によって大きく変化しつつある。本研究は、中小規模都市の事例として旧東ドイツ南部の都市デベルンDoebelnを取り上げ、都市再生事業による景観の変化を明らかにし、旧東ドイツ地域における都市の変化について考察する。なおその際、統一直後のDoebeln旧市街地の状況を調査したWirth(1993)の成果を利用する。Doebelnは、人口約2万人の郡庁所在都市Bezirksstadtである。第二次世界大戦による戦災を免れたDoebelnの旧市街地は、1991年の市による都市再生事業地区指定や、州による文化財保護地区指定などをもとに都市再生事業が進められてきた。これらの再生事業には連邦や州による助成もなされ、著しく老朽化した住宅など建造物の改善・近代化が行われてきた。その結果生じた景観の変化として、以下3点があげられる。1)外壁の補修など建造物の改善が建物ごとに行われ、商店など商業施設が増加した。2)旧市街地には19世紀末から20世紀初頭にかけて建造された住宅をはじめとする歴史的建造物が多く残るが、文化財として保護指定を受けることにより、外壁などの修復がなされた。また、市庁舎や教会などのランドマークの整備も実施された。3)道路の補修や街灯の設置が進み、街路樹が新たに設置された。景観上の変化に伴って、旧市街地では土地利用にも以下のような変化が生じた。1)旧市街地の中央に位置する二つの広場とそれを結ぶ通りに沿って商店が立ち並び、通りは歩行者専用となって商店街が形成された。2)自家用車での来訪者を想定した大規模駐車場が建設され、空き地や広場に駐車スペースが新たに確保された。3)かつて旧市街地を運行した馬車鉄道を一部復元する事業が進行中である。これは町の歴史を重視した観光化を意図したものである。Doebeln旧市街地の都市再生事業は主に行政主導で進められている。これにより旧市街地に都市の中心的な機能が確保され、住民や観光客にとっての新たな生活・余暇空間の実現が求められている。その一方で、旧市街地に新たに形成された商店街は、予想を下回る集客状況にある。また、改修済みの住宅であっても未入居の物件もみられる。さらには、依然として未改修のまま放置され利用されていない建物も少なくない。こうした状況をもたらした要因として、自家用車の急速な普及とともに、都市郊外において新築住宅の建設が進んだこと、大型小売店舗や工場などの郊外への新たな立地により、旧市街地が住民の生活にとって必ずしも重要ではなくなってきたことなどが考えられる。以上のようにDoebelnでは、都市の再生を実現するために旧市街地に経済的、文化的機能の集積をはかろうとする行政の動きがある一方で、それらの機能の郊外化の動きがみられる。このことから、旧東ドイツの中小都市においては、行政による旧市街地の景観整備に重点を置いた都市再生事業が、現時点において住民の生活の変化に必ずしも対応していない点を指摘することができる。
  • 白 迎玖
    p. 212
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    近年、先進国のみならず、途上国においても、都市ヒートアイランド現象(以下 UHIと略記)が顕著になり、都市の熱環境が悪化している。特に、中国・上海をはじめとする途上国の大都市では、産業や人口等の一極集中化に伴い、人口密度が過度に高くなっているため、UHI現象が頻繁に発生し、さらに夏期の日中の最高気温が40℃を超える日も出現している。先進諸国が経験した経済成長と環境悪化の関係に照らせば、今後も急速な経済成長が見込まれている東アジア地域において、UHI現象による環境・社会問題は一層顕在化することが予想される。最近、上海においては改革開放経済のもとでの急激な開発に伴う高温域が都市中心部から黄浦江の東側に拡大していることが指摘された。しかし、自動気象ステーションの設置点数と観測範囲が限られているために、都市全体における高温域の分布を詳細に把握したとは言い難い。また、衛星データを用いた上海におけるUHIに関する研究も行われているが、地表面温度と気温との関連が明確にされておらず、UHIの分布とその変化を必ずしも十分に解明できなかった。そこで、発展の著しい上海におけるUHI実態を把握するために、UHIの時間的・空間的の変動を正確に捉えることが重要であり、特に測器の設置場所、設置点数および観測時刻を十分検討した上で、都市全体を高密度で覆う精度の高い観測網を設置する必要がある。本研究は、日本で蓄積された研究成果を有効利用し、途上国の実情に鑑み、観測およびシステム保守のコストを抑えながら、中国・上海において高密度自動観測システムを初めて構築し、長期間にわたって気象観測を実施して得られたデータに基づいて、上海におけるUHIの実態を解明することを目的としている。また、本研究で構築された観測システムおよび研究手法は、中国におけるUHIの研究だけなく、途上国における都市気候研究の発展にも貢献することが期待される。
    2.観測概要
    本研究では、2005年4月から上海市をカバーする39箇所で気温と湿度の自動観測が実施されている。図1に示すように、公園緑地・公用緑地で百葉箱(箱内の小型自動記録式温度・湿度ロガー)が設置され、直射日光を受けずに自然通風状態で測定を行うことができた。観測点の選定にあたっては、なるべく地点の配置に偏りがないように努力し、さらに、設置場所の環境が等しくなるように配慮した。また、UHIの中心部に相当する都市中心部には高密度に配置した。百葉箱はすべて公園緑地と住宅地内の公用緑地に設置されており、センサーの高さは地上約1.6mとした。10分間隔で記録したデータを約50日ごとに回収すると同時に、得られた観測記録のデータベース化を進めてきた。
    3.観測結果
    2005年の観測によると、月平均気温が上昇していることが確認された。2005年6月1日から8月31日までの真夏日日数(日最高気温>30℃)は、都市の中心部は73日、郊外は68日となった。また、熱帯夜日数(日最低気温>25℃)は、都市の中心部は45日、郊外は37日となった。また、2005年7月の最高気温は39.8℃(南園公園)となり、都市中心部には日最高気温35℃を超える日数は17日であった。日最低気温の最大値は31.0℃(南園公園)であり、熱帯夜日数は、都市中心部は26日、郊外は19日であった。風の弱い晴天夜間にUHIがはっきり存在し、春季の場合、UHIも発生している。2005年7月のUHI強度の最大値(月平均値)は4.3℃で(図2)、8月のUHI強度の最大値(月平均値)は3.4℃であった。また、図2に示すように、UHI強度は日没後急速に増加し、その後は同じような状態が日の出頃まで続くことが明らかになった。UHIのピーク値は、22時_から_午前1時までに現れた。特に、観測点の環境によって、UHIのピーク値とピーク値の出現時間が異なったことから、公園緑地の暑熱緩和効果が明確にされた。図2に見えるように、7月の場合、住宅地内の公用緑地より公園緑地のUHI強度の最大値が約1.3℃低かった。
  • 桶谷 政一郎, 春山 成子
    p. 213
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    背景
     メコンデルタ(広義に用いた名称としてここでは扱う)はベトナム領内からカンボジア領内にまたがり広域にわたっている。ベトナム領内の沿岸地域のメコンデルタではすでにオールコアボーリングを用いた研究が進められており、地形形成過程が明らかにされつつある。しかしながら、カンボジア領内の内陸部メコンデルタの地形については、ボーリングデータも少なく、地形形成過程、河川の堆積地形についての情報が少ない。そこで、今回、広域にわたるメコンデルタのなかでも、内陸部の河成作用が卓越した地域を研究対象地域として選定し、メコン川本川の堆積、トンレサップ川、バサック川の営力がどのように地形形成に影響を与えたのかを評価することにした。また、内陸部の地形分類図を作成し、地形特性についての考察を行った。カンボジア領内を対象とした既往の研究として、トンレサップ湖の堆積過程(Okawara, Tsukawaki(2002)、Penny et al.(2005))や、プノンペン周辺の地形分類(久保2003)があり、また、近年ではプノンペン周辺がかつて潮汐作用の影響下にあった事が明らかにされ(田村et al.,2005)ているが、トンレサップ湖とプノンペンを結ぶ氾濫原、プノンペンからタケオまでの氾濫原の知見は少ない。

    目的
    本研究では、洪水特性と関わりあう氾濫原微地形を明らかにすることであり、カンボジア領内に形成されている内陸部メコンデルタを研究対象として、室内作業としてリモートセンシングデータを用いた地形計測を行い、現地調査においては、GPSなどを用いた簡易測量・堆積物調査などから、内陸部メコンデルタの広域にわたる地形分類図を作成することも目的とした。わけても、河川地形としては特異な形態を示している「カトルブラ」を焦点に当てて、合流・分流する4河川の河川形状の成因についても言及したい。

    研究対象地域の概要 プノンペン上流のメコン川狭窄部からベトナム国境付近までのメコン川本流と、トンレサップ川、並びにバサック川の流域を含む範囲として、経緯にして北緯10°40’_から_12°40’、東経104°20’_から_105°40’の地域のうち、標高20m以下の地域を計測範囲としとした。標高20m以下の領域ではメコンデルタ氾濫原地域を網羅している。

    研究手法
    メコンデルタの流域特性を把握するために使用したのは広域にわたる情報の解析に有用なSRTM-3、SPOT画像である。SRTM-3画像からはメコン川及び支流の流域界・流路を把握した。SRTM-3を利用する際には、画像ノイズの除去、陸域の抽出等の下処理を施した上で、メコン川の流域界・流路の抽出を行ったほか、メコン川本川河道及び支川河道の河川縦断面の抽出・図化を行った。また、研究対象地域では、河岸高度縦断面図を1/100,000地形図をもとに作成した。SRTM-3には、北西_-_南東方向にレーダー走査線に基づくエラーがみられる(Andy et al.(2004))ため、レーダーの走査線方向と一致する方向の連続した地形断面図を作成することで、対象地域の地形特性の面的把握を試みた。次いで、広域にわたる対象地域の沖積低地微地形を分類するために航空写真を用いて地形判読を行うこととした。地形分類図作成に当たり、地形判読に用いたのはFINNMAP社が撮影した空中写真(縮尺1/20,000)のパンクロマティック画像である。この画像は乾季の1992年12月に撮影されているが、一部は1993年2月の撮影もある。地形分類図作成にあたりメコンデルタの特異な河成海岸平野を表現しうる地形要素として、自然堤防、後背湿地、旧河道などに着目したが、沖積段丘、湿地、沼地、蛇行州、クレバススプレイ状の微高地に合わせて、人工的な地形としてコルマタージュも分類した。これらの地形要素の分布及び地形比高などから高位面、低位面に区分できることがわかった。さらに、地形分類図の微地形をカバーできるように、高精度の基図として、SPOT(1,2,3)のパンクロマティック画像(解像度10mmesh)を用いた。現地調査は2004年及び2005年の雨季・乾季に地形・表層地質状況を確認した。また、路頭での層相の観察・記載・並びに、ハンドボーリング機材を用いた表層土壌試料を採取し、採取サンプルは研究室に持ち帰り、粒度分析、EC値、CN比などの分析を行った。
    結果
     カンボジア領内の内陸部メコンデルタは4つの大きな河成平野で構成されており、以下に示す、1)アナストーモージング河道を示す地域、2)蛇行州で特色付けられる地域、3)自然堤防卓越地域、4)海成デルタとの遷移地域に区分することができた。
  • 西村 雄一郎
    p. 214
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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     この発表では,ラオス村落における人々の日常生活,特に現在,近代化・グローバル化の影響が著しくみられるようになったラオスの首都ヴィエンチャン近郊農村の居住世帯における,生活活動の時空間的配置を明らかにするための調査手法の開発について報告を行う. 近年ラオスでは,近代化・グローバル化によって,都市や農村の物的な環境が大きく変化するとともに,家族・地域社会・企業などの社会的組織のあり方をも変化している.このような変化は,自然採取活動を含む複合的生業から賃金労働への生業変化・従来とは異なるジェンダー役割に基づく生活活動をもたらしていると想定される.このことを時間地理学的に分析するために,自然環境下を含む多種多様な生活活動が,「いつどこで」行われているのかについての具体的なデータを収集・分析するための方法を開発することが必要である. 従来,個人の時空間収支を明らかにするためには,活動日誌法(activity diary)を中心とするアンケート調査によって,活動の種類,時刻,場所などを記録する方法が多くとられてきた.しかし,調査対象者に日誌をつけてもらう活動日誌法によって活動場所・時間の記録を行うためには,対象者自身が文字を書くことができること,活動場所を詳細に特定できる地名が細かくつけられていること,時計を持っていることなどの前提条件があり,途上国の農村地域でこの方法をそのまま用いることは困難である.また途上国での生活時間調査では,個々の対象者の後をついていきながら記録を行う追跡法が多く用いられているが,複数の対象者の日常生活を同時間に把握するためには多数の調査者を必要とするため,大人数のデータを一度に収集することは困難となる. そこで,今回の調査ではハンディGPSによる時空間収支データの収集と,記録されたGPSデータからGISソフトを用いて時空間地図・活動日誌フォームを迅速に生成するツールを作成し,この時空間地図・活動日誌に基づき,活動場所や活動内容について補足インタビュー調査を行う手法を考案した(図1). ハンディGPSは最近小型化が進行し,腕時計型のモデルが利用可能である.これを調査対象者が携帯することによって,特定の名称を持たない自然環境においても空間的な位置と,移動,活動時間の正確なデータを取得することができる.また,世帯構成員全員が同時にGPSを携行することによって,同時刻の家族全体の活動を調査できるため,世帯内の分業が時空間的に行われている状況を明らかにできる. またGPSデータから時空間地図・活動日誌フォームを迅速に作成し,これらを用いた補足インタビュー調査を行うことで,詳細な活動内容を把握することができる.既に,GPSデータを用いた生活活動調査が行われているが(Kwan 2004,森本他2004),GPSデータのみの場合では移動に関しては移動経路・時間など詳細なデータが収集できるが,移動先の詳細な活動内容については明らかにできないため,インタビュー調査を組み合わせることが有効となる. 当日は,ラオスにおいて行ったパイロット調査データから,取得データの精度や実際の調査上の問題点などを示すとともに,得られたデータの分析結果を明らかにする.文献Kwan, M.P. 2004. GIS Methods in Time-Geographic Research: Geocomputation and Geovisualization of Human Activity Patterns. Geographisca Annaler 86 B 4: 267〓280.森本健弘・村山祐司・近藤浩幸・駒木伸比古 2004.行動地理学におけるGPS・GISの有用性〓野外実習を通じて〓.筑波大学人文地理学研究XXVIII:27-47.
  • -仙台南方,高舘丘陵の森林斜面での観測結果-
    松林 武, 田村 俊和
    p. 215
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1.はじめに
     ソイルクリープは,斜面表層物質の移動の一種で,それ自体が地表面形態を変形させることに加え,崩壊予備物質を準備するなど,地形学的にも重要な現象のひとつとして注目される.その移動様式・機構は,地形的位置や土壌層位等に応じて多様であることが予想され,その移動様式・強度によっては,斜面における土壌生成にも寄与することが考えられる.しかし,微細な現象でもあり,その基本的な発現様式・強度分布がとらえられているとは言い難い.とくに,上部谷壁斜面や頂部斜面では,傾斜が相対的に緩やかであり,急速な表層物質移動は下部谷壁斜面に比べ不活発で,ソイルクリープの相対的重要性が高いと考えられるにもかかわらず,その発生状況が十分には把握されていない.本研究では,上部谷壁斜面から頂部斜面にかけてのソイルクリープの様式・強度分布を明らかにするために,1999年8月から一連の斜面においてソイルクリープの実測を行った.本発表では,2001年4月および2005年8月から9月にかけて2回行った再測結果を報告する.

    2.観測地点および方法
     ソイルクリープの観測は,仙台市の南方に位置する高舘丘陵を流れる増田川の上流域の雑木林に覆われた谷壁斜面で行った.観測斜面は斜面長66m,高度差37mで,下部谷壁斜面,上部谷壁斜面,頂部斜面に区分される.上部谷壁斜面から頂部斜面にかけて,斜距離約6m間隔で8地点の観測点を設け,ストレインプローブ法,白砂をマーカーとする方法を併用した.また,観測が難しい表層部のソイルクリープについては,測量時の杭の変位状況の観察(1997年5月下旬に谷底から尾根にかけて斜距離約2m間隔で設置した長さ約20cmの木製杭が,99年7月上旬に倒れているかどうかを記載)も併用した.
     ストレインプローブ法は,厚さ0.3mm,幅10mm,長さは土層厚に応じたステンレス製の板バネに100mm間隔でゲージ長30mmのストレインゲージを裏表に貼ったものを用いた.観測期間は,1999年8月から2001年4月上旬までであり,この間約2週間間隔で計測を行った.
     白砂をマーカーとする方法は,検土杖を用いて地表面に垂直に開けた孔に白砂を充填し,観測終了時に掘り起こし,変位を再測した.1999年8月に各観測点に2本の白砂マーカーを設置し,それぞれ2001年4月と2005年8月から9月にかけて再測した.

    3.実測から明らかになったソイルクリープの特徴
     ソイルクリープの深さに応じた移動量を見ると,移動量が変化する深度は土層境界であり,土層によりソイルクリープの強度・様式が異なる.A層では,浅くなるほど移動量が累積され,フロー性ソイルクリープが発生している.B層以深では,B層もしくはBC層基底付近にすべり面を持つスライド性ソイルクリープが発生する.
     ソイルクリープ強度は,斜面の位置により大きな違いがある.地表面での年間移動量は大きい地点で数cmにもおよぶことがある.スライド性ソイルクリープ強度の大きい地点は,地表の形態よりもむしろ基盤地形と関係があり,基盤の凹部と一致する.表層部のフロー性ソイルクリープの発生地点は,スライド性ソイルクリープの発生地点およびそこより斜面上方の遷急線まで広がる.
     ソイルクリープは,一年を通じて発生するが,より活発なのは5月から9月にかけてである.ソイルクリープが発生するときには,複数の地点が連動することがある.これらの連動するグループは,いずれも基盤地形の凹部に位置している.各グループはそれぞれすべり面を共有しているために,グループごとに同時にスライド性ソイルクリープが発生したと考えられる.一つのスライドブロックの広がりは,地表面形態とは必ずしも一致しないが,基盤地形と一致する.
     2001年改測と2005年改測結果を比較すると,ソイルクリープ強度が大きい地点は,2改測時とも基盤地形の凹部で変化していない.また,B層以深の土壌の移動量に大きな変化はなかった.このことよりB層以深のソイルクリープの発生は間欠的であることがわかる.対して,A層の白砂は2005年改測時にはほとんど流亡していて,2改測間においてもA層ではソイルクリープが発生していた.
     いずれにしても,A層とB層以深とでは異なる2様式のソイルクリープが発生し,これらの発生する時期および場所はそれぞれ異なる.
  • 中野 崇
    p. 216
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに 2003年度_から_2005年度の3ヵ年にわたり、国土交通省のGIS利用定着化事業が実施され、GISの利用の一般ユーザへの定着をはかることを目的に、いくつかのテーマを設定しそれぞれ生活に密着した場面におけるGISの利活用についての効果と課題を検討してきた。 テーマの1つとして学校教育分野でのGISの利用定着化の検討がなされ、群馬県ではGIS利用定着化事業と連携して、群馬県内の小・中・高等学校でのGISを利用した授業が実践された(「群馬プロジェクト」)。その成果については本大会の公開シンポジウム「小中高の授業でGISをどう使うか」で別途報告されるところである。 この「群馬プロジェクト」の実践では、利用するGISソフトの1つとしてインターネット環境で使用できる教育用GIS(教育用WebGIS)を開発し、実際の授業で使用した。教育用WebGISの概要 実践授業で使用した教育用WebGISは、事務局に設置したサーバに各学校が公衆回線を通じてインターネットに接続し、各学校のインターネットにアクセスできる教室のコンピュータなどからWebブラウザを通してGISの機能を教員や児童生徒が利用できるようにしたものである。  サーバには1/25,000地形図や市町村が作成した1/2,500都市計画基本図、空中写真画像(デジタルオルソフォト)などを群馬県教育委員会があらかじめ収集し、所管する機関の承認を得た上で格納した。授業実践時にはこれらを背景地図(画像)レイヤとし、テーマに沿って必要な空間データを教師や児童生徒が個別レイヤとして追加作成しそれぞれを重ね合わせて利用した。教育用WebGISの機能 教育用WebGISの機能的な特徴として、以下のようなものが挙げられる。(1)複数の学校で利用するために、利用ユーザを識別できるようにユーザ権限管理機能を設けた。(2)教員が授業のために必要なデータをレイヤセットとして準備し、児童生徒はそれを利用して授業をすすめられるようにした。(3)作成した授業成果のうち公開できるものは「公開まっぷ」としてインターネット上に公開し、保護者や他の学校などから参照できるようにした。教育用WebGISの効果と課題 教育用WebGISでは、以下のような効果と課題が明らかとなった。(1)効果:・GISソフトや共用できる背景地図がサーバ上で準備できるため、個々の教員がそれぞれ独自にGISソフトの用意や地図を収集する必要がなくなった。・複数校や他年度にまたがってデータを蓄積・共有できるため、複数校の共同による学習成果をまとめる授業や、過去からの変化を追跡するような授業ができるようになった。・保護者や地域社会へ児童生徒の学習成果を必要に応じて公開できるようになった。(2)課題: 学校によっては校内からインターネットへ接続する回線が細く、同時に多人数がアクセスした場合、システムの応答が悪化する場合があった。
  • 川田 力
    p. 217
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1. 問題の所在 平成17年2月に日本地理学会地理教育委員会が実施し公表した大学生・高等学校生の世界認識の調査報告は新聞、テレビ等のマスコミにも取り上げられ反響をよんだ。折しもイラクへの自衛隊派遣の問題が注目されていたこともあり、イラクの位置を4割以上の大学生が誤答したことなどが特に注目され「地理離れ」の議論が起こった。もちろん、日本地理学会による文部科学省記者クラブでのこの発表は、小・中・高等学校を通じて地図の活用を推進すること、高等学校での地理学習を拡充すること、基礎的な学習を充実させることといった地理教育への提言を含んだものであり、次期学習指導要領における地理の重要性を反映させるための活動の一環(小宮、2005)としても一定の成果があったといえる。 しかし、一方で、白地図で地名を覚えるだけの学習、単に地図帳をみるだけの学習という、地理教育に積極的に取り組む教師たちができれば払拭していきたいと考えている地理学習に対するイメージをかえって増幅させる結果となったようにもみえる。報告者は、この調査を教員養成系の大学で再試したが、各国ごとの正答率は日本地理学会が公表したものと概ね近似していた。しかしながら、日本地理学会地理教育委員会が主張するような高等学校での地理履修の有無と正答率との統計的な有意差は確認できなかった。これには、国名の学習が高等学校以前になされており、そこでの定着状況が正答率に反映されるものと考えている。 また、誤答のパターンについても検討したが、隣接する国を選択し誤答となっている例が多いことが確認され、大局的にはかなり正確な地名知識を有しているともいえる。2.地理教育に関する学会における議論の動向平成14(2002)年度から小・中学校で開始された新学習指導要領に基づく教育により、地理的分野では、小・中学校においても地理的スキルがより重視されるようになり、配当時間数の削減とあいまって教科書の内容構成の大幅な変化がみられた。この時期と呼応するように、地理教育に関する様々な議論が展開した。日本地理学会においては、2003年度の春季学術大会におけるシンポジウム「日本地理学会のグランドビジョン策定に向けて」で、地理教育の振興策についての報告がなされた。また、2003年度秋季学術大会においては、「地理を教えるということとは?_-_地理教育力のさらなる向上をめざして_-_」と題するシンポジウムが、2004年度春季学術大会においては「小・中・高一貫カリキュラムの方向性を問う」、2004年度秋季学術大会においては、「地理的資質を有する小・中学校教員養成の課題」というシンポジウムが開催された。他学会では2003年度地理科学学会秋季学術大会において「ジオグラフィカル・スキル_-_地理教育の世界的新潮流を探る_-_」と題したシンポジウムが開催されているし、2005年秋には人文地理学会にも地理教育研究部会が新設された。3.教員養成系大学における地理教育が再生産しているもの教員養成系大学進学者のうち、高等学校の地歴科において地理を選択履修している学生は4割程度である。こうした学生に教員として地理を教えるにふさわしい地理的技能を習得させるのは容易ではない。結果として地理的分野について十分な基礎知識や教材開発能力を持たない教員が輩出され、教育現場で単なる地理的知識の獲得にとどまるような教育を展開することに陥る可能性がすくなからずある。実際、小中学校の教員にとっても地理は他の教科や社会科内の他分野に比して教材研究の幅が広く扱いにくいものというイメージでとらえられることが多い。そもそも、なぜ地理を学習するのかについての共通理解なしには本当の学習意欲の創出や学習の深化は困難となる。なぜ地理を学習するのかについての十分な吟味は、教材や教育方法の検討と不可分な関係にもある。正しい世界認識・空間認識を背景とし、社会に有用な地理を強調すること(秋本、2005))や、相互に依存しながら一つの世界に共生している感覚を獲得すること(荒木・川田・西岡)などは地理を学習する意義の一つとして受容されやすいのではないだろうか。
  • 荒木 一視
    p. 218
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1.問題の所在 本報告は近代の地理教育の役割を検討しようとするものである。近年,地理教育の目指すものはという問いかけの答として,「地理的なものの見方・考え方」ということが広く聞かれるようになった。一方で,学校教育に「地域を愛する心」であるとか「愛国心」という言葉を盛り込むことについての議論も行われるようになった。本報告は直接的にこうした議論に言及しようとするものではないが,これらの議論の背景として,明治以降の地理教育がどのような地域像・国家像を描こうとしてきたのか,その際「近代国家」との関係はどのように理解できるのか。こうした点についての十分な検討が必要ではないかと考える。 具体的な分析においては,神社合祀令や郡議会の廃止,あるいは帝国大学をはじめとした高等教育機関の配置などは興味深い事例を提供しうると考えられる。しかし今回は,関連する研究を渉猟して地理教育分野における問題提起を目指したい。2.関連する研究の観点 すでに中山(1997,2000)は明治以降の近代地理教育を通観して,地理教育が時の国家の中枢となる戦略と密接な関係にあったことを示している。しかし,こうした議論はその後充分な展開を見せているとは言えない。発表者らは,こうした状況に一石を投じたいと考えている(荒木・川田・西岡,2006)。 その際,地理教育を前提としたものではないにしても,斯学においては興味深い提起が幾つかなされている。例えば,福田(1996,1997)が「地域文化の創造」として,あるいは野間(2005)が近代の地図の製作の検討を通じて取り組んだ主題には共通して,地域のイメージ,地域観(国家観・国家像)の生成という論点が含まれていると考える。例えば野間の研究では近代の帝国が自身の国家像・地域像を地図によって明示し固定化していく有り様が,福田の一連の研究では,地域住民の運動や地域博物館の展開が地域像を再構築,再生産していく有り様が描き出されている。確かに近代の帝国による地図作製は自らの地域像を具現化していく上での最も基礎的な作業であったといえよう。しかしそのようにして最前線において作成された国家像・地域像を再生産し続けてきた機関は何であったのかと考える時,近代の学校教育,近代の地理教育を第1に指摘することができる。また,福田の文脈に従えば,明治初期の地理教育は,近代国家という「地域文化の創造」ではなかったか。3.近代地理教育が再生産してきた地域像 以上のような文脈を,近代地理教育に当てはめることができないだろうか。明治以降の地理教育も基本的には明治期に作られた地域像を再生産させ続けた装置と見ることはできないだろうか。発表者は,こうした地域観や国家観の生成とその継承ということに明治以降の近代地理教育は一貫して強い影響力を持ち続けてきたと考える。明治期の地理教育が担った役割として,近代国家としての日本像の形成を挙げることができる。そしてその後の地理教育は一貫してその日本像の再生産を行ってきたといえる。その過程は,近代国家という枠組みを疑う余地のない世界観の前提として教え続けてきた,再生産させ続けてきた過程であったと考える。その過程を否定するつもりはない。しかし,それを充分に認識し,再検討する必要があるのではないか。他の一連のポスター発表と併せた問題提起としたい。
  • 小池 千秋
    p. 219
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに 平成15から17年度末まで、国土交通省のGIS利用定着化事業を受け、GISの教育利用のための支援を推進してきた。昨今、学校における教育の情報化が確実に進んでいるが、GISの特徴を有効に利用した授業実践は県内では皆無に近かった。そこでGISの普及と利用定着を目標に支援を行った。普及と利用定着のために GISの教育分野における普及と利用定着のためには、分かりやすい授業実践事例の作成及び学校への配布、教育利用のための研修会や授業実践報告会の実施、教育利用のための支援などを行うことが有効であると考えた。(1)授業実践事例の作成及び学校への配布 平成16年度は小、中、高等学校の教員あわせて11名、17年度は18名の協力を得て授業実践を行い、GISを利用した授業実践事例の作成を行った。各教員により、児童生徒の実態を踏まえた授業実践が行われ、授業におけるGISの利用場面を明確にすることができた。そこでは知識・理解のみならず分析や考察を促す場面でも利用できること、更に共同学習における利用も有効であることが明らかになった。これら授業実践については冊子とし、県内の小、中、高等学校全校に配布した。(2)教育利用のための研修会や実践報告会の実施 研修会は教育利用を前提に企画した。平成17年度は、当センターの研修講座として実施し、県内教員が誰でも参加できるようにした。そこではGISの仕組みや基本操作について研修するとともに、授業設計や具体的な教材準備等を行うなど、より実践的な内容とした(図1)。このことにより、教員は、個々の授業構想を意識しながらGISの利用方法を習得できたと考える。また、平成16年度2月に当センターにおいてGIS授業実践報告会を行った。参加者は実践報告を受けて、GISの教育利用の具体例を知ることができ、貴重な情報交換の場となった。(3)教育利用のための支援 平成17年度から支援窓口を当センターに設置した。教育利用の方法に関することは当センターで、システムの障害や改善に関わるものについては、システム開発業者で対応し、連携を取りながら支援を行った。また、教育用WebGISをより使いやすい環境にするために小、中、高の学習で必要になる、学校周辺を含む大縮尺の地図を各市町村に提供依頼し、ほぼ全域を整備した。成果と課題 以上、成果として(1)授業実践により教育分野におけるGISの有効な活用場面と方法を明らかにできた。(2)研修会の実施によりGISへの理解が高まり、授業で有効に活用されるようになった。また、報告会の実施により、より多くの人へ広報できた。(3)支援窓口を設置したり利用環境を充実させたりすることで、教員への負担が軽減され利用定着への基盤ができた。課題としては(1)GIS普及のために更に広報を充実させる。(2)より効果的な活用方法の模索をする。(3)教員への積極的な支援及び情報交換のためのネットワークをつくる。(4)GISを授業で有効利用するための情報提供ポータルサイトを構築する。などが挙げられる。
  • 長野県上伊那地域の革新型中小企業の分析を通じて
    藤田 和史
    p. 220
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    _I_. 問題の所在
     経済のグローバル化など,日本の製造業を取り巻く環境は近年大きく変化した.その過程で,日本の製造業は大量生産型の企業システムから脱却し,より技術集約・知識集約型の企業システムへと変貌を遂げてきた.この変化は,大都市圏工業集積に従属してきた地方圏の工業集積地域でも同様であり,地方圏の中小製造業でも,下請量産形態から試作開発という知識集約化・技術集約化が進行してきた.この変化を可能としたのは,中小製造業独自の技術導入・研究である.それらの実践を通じて,自社技術の高度化,新規分野の開拓,そして自社製品の開発など,地方圏の中小製造業は新たな競争力を創造してきた.一方で,中小製造業単独の技術開発基盤の整備には,資本・技術情報探索などの点で制約が伴うが,鋼材商・工具商などサプライヤーが,これらの機能を支援・補完する役を担ってきた.革新型中小企業は,これらの主体とネットワーク化することで,技術的発展を可能としてきた. 本報告は,長野県上伊那地域に立地する革新型中小企業の分析を通じて,中小製造業の技術蓄積における企業間ネットワークの機能を明らかにすることを目的とする.

    _II_. 上伊那地域工業の史的展開
     上伊那地域における工業発展の遠因は,製糸業に求められる.上伊那地域には龍水社や上伊那社など著名な製糸業者をはじめとして多数の製糸業が立地していたが,1920年代末の世界恐慌期に衰退した.衰退した製糸工場は遊休地化したが,それらの遊休工場を利用して第二次世界大戦中に,軍需産業を中心とした疎開工場が進出・立地した.上伊那地域に進出した疎開企業は,通信機器関係の電気機械工業と,隣接する諏訪地域の流れをくむ精密機械工業が中心であった.疎開企業の多くは,第二次世界大戦後に同地域からひきあげたが,残留した企業や疎開企業の就業者を中心として,工業化の素地が形成されていく.とくに,駒ヶ根市に立地する帝国通信,伊那市に立地するKOAやルビコンは上伊那地域における電気機械工業発展の基盤となっている.
    1962年,那谷全体が国の低開発地域工業開発促進法の指定を受け,産業インフラの整備と工場誘致が進行した.時期を同じくして,上伊那地域の市町村でも工場条例が制定されるなど,企業の誘致が活発化した.その結果,廉価な労働力と広大な敷地を求めて,モーター類など電気機器部品生産を中心とする進出企業と,その下請工場群が数多く出現するという農村工業化が進展した(図1).

    _III_. 革新型中小企業とネットワーク
     1975年,中央自動車道の開通によって,上伊那地域には多数の企業が立地した.しかし,1985年のプラザ合意以降,メーカーの生産拠点の海外移転および海外企業との競争が激化するにつれ,労働集約的な生産形態で業務を行ってきた中小製造業は危機に立たされるようになった.そのような状況下,企業の中には従来の電機機器部品生産に加えて新規に技術導入をはかり,自社製品開発など新たな業種へと参入する企業が現れた.また,技術的な研鑽を積み,自社技術を深化させることによって製品開発業務へと参入する企業も出現した.このような形で,自社製品革新型企業の基盤が形成されてきた.これらの企業は,技術の蓄積に関して,地域内外の様々な主体とネットワークを形成することで,積極的な技術学習を実施している. ネットワークは,市町村や商工会議所が介在するネットワークと,企業が独自に結びついたネットワークが存在する.革新型中小企業は,これら2種類のネットワークを援用しつつ,高度化を図ってきている.
  • -地理教育公開講座連携シンポジウム-
    伊藤 悟
    p. 221
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    シンポジウムの目的 小学校から高等学校までの学校教育におけるGIS利用をテーマとしたシンポジウムは、日本地理学会学術大会の場で過去2度開催されている。1度目は、2003年3月の大会におけるものであり、そのタイトル「学校教育におけるGIS利用の可能性を探る」に象徴されるように、GISの実際の教育利用へ向けて、その可能性がもっぱら議論された。2度目は、2004年9月の「教育現場におけるGIS活用の課題と方策」と題したシンポジウムであり、そこでは、GISを教育現場に導入する際に、どのような問題があり、それをいかに克服するかが中心的な話題となった。第3回目となる本シンポジウムでは、次に述べるような近年の動向を背景として、GISを授業で実際どのように活用するかを、実践事例に基づき議論したい。シンポジウム開催の背景 1995年、高校地理の教科書にGISという言葉が登場したことは、GISに対してわが国学校教育界から関心が寄せられる1つの契機になった。ただし、それによってGISが授業で広く利用されるようになったかというと、決してそうではなく、しばらくは誠に低調なままであった。理由は、GISソフトやデータの入手・操作が、必ずしも容易ではなかったことなどである。しかし、ここ数年、そのような問題も各種の支援によって大きく緩和されている。 例えば、フリーの教育用GISソフトが提供されるようになり、埼玉大・谷 謙二氏の開発によるMandaraは、その代表的なものの1つとして既に広く普及している。市販のGISソフトも大幅に値下がりし、かつ教育利用に関しては一定期間、無償提供されるものもある。GISの知識や操作能力(リテラシー)の育成を目的とした講習会も各地で頻繁に開かれるようになり、2002年12月に結成された教育GISフォーラムは、中高校教員向けのGIS講習会を日本各地で開催している。GISの一般啓蒙をはかるイベントの「GISディ」は、わが国の場合、関連学会と立命館大学との共催により1992年、京都で開催されたものが最初であったが、その後も毎年開催され、2005年の場合、東京や北海道でも開かれるようになり、全国的な広がりをみせつつある。 以上のように、教育現場における GISの導入・利用環境が大幅に改善した結果、現在、次のような声が聞かれるようになった。すなわち、「個々の授業でGISを実際にどのように用いるか」についての知識・情報を得たい、あるいは、それを提供・発信したいとの声である。このようななか、群馬県では国土交通省のGIS利用定着化事業と連携し、2004_から_2005年度にGISを利用した授業が数多く実施されたことが注目される。そこでの実践の蓄積は貴重かつ膨大なものであり、本シンポジウムはこの群馬プロジェクトの成果に基づいて議論を展開したい。シンポジウムの構成 本シンポジウムは、プログラムに記しているように6部から構成される。第1部の後半で、群馬プロジェクトの詳細を説明した後、第2_から_5部では、群馬県の小中高からあわせて14名の教員の参加を頂き、実践報告を頂く。おのおのでは実践内容の詳細とともに、成果や課題にも言及されよう。最後の第6部では、彼らを取り巻く大学や行政関係者から、それぞれの立場で今後に向けたコメントを頂戴する予定である。ちなみに、群馬プロジェクトで用いたWebGISシステムは、ポスターセッションで詳しく紹介する。 なお、本シンポジウムは伊藤 悟(金沢大)・今井 修(東京大)・井田仁康(筑波大)の3人が代表としてコディネータに名を連ねたが、その実体は前述の群馬プロジェクト、「学校教育・社会教育における地理情報システムの利用に関する研究」グループ、および日本地理学会地理教育公開講座委員会との共催・連携によるものである。
  • 気候・気象と音楽の総合学習の開発へ向けて
    加藤 内藏進, 加藤 晴子
    p. 222
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 今日,学校教育では「総合的な学習の時間」が注目され,教科の枠組をこえた教育実践が数多く試みられでいる。理科や社会科において学習する自然環境は,当該地域の文化の理解とも深く関わる。一方,音楽教育において生徒が音楽の生成や表現を総合的に理解するためには,作品の背景にある気候や風土,生活習慣を理解することが必要である。そこで本研究では,気候の特徴と音楽にみる気候の影響に関する総合的学習のベースについて考えたい。(イントロの途中略)2. 日本の童謡・唱歌と芸術歌曲にみられる春の表現2-1 童謡・唱歌について 童謡・唱歌をみると季節を素材としたものが多く,その中でも春を歌ったものが多い。例えば『日本の唱歌』明治篇,大正・昭和篇,『日本童謡百曲集』(その一?その三)をみると,四季を素材とした曲が101曲あり,その中で春を歌った曲が49曲と最も多い(二十四節気と対応させた曲の音楽的特徴などは略す)。 童謡・唱歌にみる春の歌では,花の開花や鳥のさえずり等が取り上げられ,素朴な旋律で歌われている。歌詞をみると,大半の曲が花や鳥を取り上げている。中でも梅や桜などの花の開花が歌われているものが最も多い。鳥は,梅と鴬のように花の開花とあわせて歌われている場合が多い(予稿では例示を省略)。このことから,花の開花やその季節に対する人々の受けとめ方が歌の生成に大きく関係していると考えられる。2-2 芸術歌曲について 芸術歌曲においても春は様々に表現されている。そこで注目されるのは,音楽表現を担う中心が旋律よりもピアノ伴奏にある点である。伴奏では,リズム,音量,和声,調性などに様々な工夫がみられる。一方,詩を語るように歌うことによって心情表現をしている曲もある。春の表現は,大きく以下の2種に整理できる。(1)動物の鳴き声や動き,自然環境の描写や模倣(2)春に対する内面的心情表現,イメージ3.ドイツの古典派,ロマン派の歌曲にみる春,5月 古典派,ロマン派の歌曲にみられる春,5月に関する表現も,日本の芸術歌曲におけるそれと同様に整理できる。やはり,それらを表現しているのは旋律よりもむしろピアノ伴奏であり,リズム,音量,和声,調性等に様々な工夫が凝らされている(例示は省略)。4.日本の春の季節遷移過程の解析(ドイツと比較して) 気象庁編集のCD-ROMのSDPファイルから抽出した1971-2001年における気象官署の日別値や,気象庁全球客観解析データ(1992年や1993年),及び,1993年3,4月の毎日の地上天気図(日本気象協会発行の「天気図集成」)に基づき解析した。3月から4月にかけての日本付近での季節の進行の特徴は,次のようになる。 (a) 南西諸島域を除く日本付近では,南北で気温の絶対値は大きく異なるものの,4月の初め頃を中心に比較的急な昇温のピークがある。これに対応して,西日本では比較的強い雨の寄与の相対的増加や,豪雪地域での積雪の変化なども見られた。一方ドイツ中南部では,冬が終わってからの昇温の最終ステージ(年最高気温に遷移する直前)が5月に対応し,しかも,昇温量が最大になる季節も5月であるなど,春といってもかなり違いが見られた。 (b) (a)の季節遷移は,平均場のシベリア高気圧やアリューシャン低気圧の弱まりだけでなく,北日本の西方にあたるモンゴル?中国北東部付近に発達した低気圧が出現しやすくなる,等の変化に対応していた。このことは,寒気の南下の阻害あるいは暖気北上の促進にとって,平均場だけでなく日々の気象システムとしても4月の方が好都合な場になることを意味する。5.おわりに日本の唱歌では開花が歌われているものが多く,鳥も梅や桜などの開花とあわせて歌われているものが多かったが,この時期は,上述の全国的な昇温のピークに対応することが興味深い。また,桜などの植物の開花時期が,農作業,とりわけ「田仕事のとりかかりの時期」としての意味をも持ちうる点と,4月初め頃の季節遷移が「日本周辺域での冬のシステムのほぼ完全な消失」に集約される点との対応も,大変意味い深い。一方,ドイツ文化圏において,春,5月を歌った詩が多いのは,春が単に冬からの解放というだけでなく,気温が年最高値のステージに遷移する直前の時期として,1年中で最も生気に満ちた良い時期であることに関係しているのかも知れない。なお,講演では以上を踏まえて,気候・気象と音楽に関する総合的な学習プランの例も提示する予定である。
  • 吾妻 崇, 廣内 大助, 渡辺 満久
    p. 223
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1,はじめに
     高田平野は日本海東縁地域の新潟県南西部に位置し,北へ向かってV字状に開いた南北約30km,東西約10kmの沿岸平野である.この平野東縁の一部地域には,段丘面を変位させる活断層が指摘されていたが(活断層研究会,1991),さらに平野の東西両縁の大部分に明瞭な変位地形が認められ,活断層が連続的に分布することが,詳細な空中写真判読の結果明らかにされている(渡辺ほか,2002;池田ほか,2002).また渡辺ほか(2003)では,平野東縁の青野地区において,断層活動時期と変位量を報告している.しかしながら,高田平野の活構造や過去の活動履歴の詳細を解明するために必要な地質学的資料は十分ではない.また高田平野に分布する活断層の変位様式や活動性を明らかにすることは,日本海東縁地域全体の地殻変動の詳細を知るためにも極めて重要である.
     一方で,高田平野周辺では,江戸時代以降だけでも3回(1666年,1751年,1847年)の大地震により被害を受けたことが記録されている(宇佐美,2001).これらの歴史被害地震と高田平野断層帯の活動との関係を明らかにすることも,今後の地震活動を予測する上で重要である.
     そこで発表者らは,高田平野断層帯の活動履歴,平均変位速度および地下構造を明らかにすることを目的として,地形地質踏査,トレンチ掘削調査,試錐調査,反射法地震探査を実施した.本発表では,断層帯南部の小出雲地区で実施した調査データに基づく断層構造や,同断層帯による地形面の変形量などについて報告する.
     本発表の内容は,文部科学省からの委託を受けて,(独)産業技術総合研究所と共同研究者が平成17年度に実施した調査結果の一部である.

    2.調査地周辺における変位地形と活断層
     高田平野南部地域は,平野西縁を南北に走る西側上がりの高田平野西縁断層と,平野東縁を北東南西方向に走る東側上がりの高田平野東縁断層が接近し,U字型に連続する特異な形状を示す地域である.本地域には主に妙高火山を起源とした形成時期を異にする複数の火砕流や岩屑流の堆積面が分布しており,これら堆積面を南側上がりに変位させる撓曲崖が認められる.早津(1985)によれば,これら火砕流や岩屑流は,高位の面は渋江川火砕流堆積物(約10万年前)によって,また,その周縁に分布する下位の面は二本木岩屑流堆積物によって構成されている.

    3.トレンチ壁面に見られる断層構造
     火砕流堆積面を開析して流れる渋江川の平野出口付近において,撓曲崖基部の延長上にあり,河川と直交する方向の低崖を横切って,長さ約15 m,深さ約3 mのトレンチを掘削した.またトレンチの長軸方向の測線上に4本の試錐を行った.
     トレンチ壁面では,北へ約40°傾斜した渋江川火砕流堆積物と,それを傾斜不整合で覆う未固結の土石流性堆積物(層厚約2 m),およびその上位の無層理の細砂?シルト層が観察された.またトレンチ北端部では,渋江川火砕流堆積物と土石流堆積物の間に二本木岩屑流堆積物が確認された.
     壁面では,平野側を沈降させる北側低下の断層面を確認することができなかった.一方で,北へ傾いた渋江川火砕流堆積物の層理面と平行な滑り面を持つ平野側上がりの逆断層が認められ,上位の土石流堆積物や細砂?シルト層を変位させることが確認された.地表面付近には人為的な撹乱を受けた表土が分布するため,平野側が上昇する低断層崖は認められないが,少なくとも本断層の活動による変位は地表に達していた可能性がある.断層活動時期に関しては,年代測定結果が出次第改めて報告する.

    4.高田平野断層帯南部の変位量
     トレンチ壁面に見られる渋江川火砕流堆積物が平野側に大きく傾くこと,平野側が低下する断層が認められなかったことから,トレンチは撓曲変形帯の途中にあたると判断される.トレンチ溝より平野側に掘削した3本の試錐では,いずれも渋江川火砕流堆積物と岩屑流堆積物が確認され,両堆積物とも北側ほど深くなる.しかしながらコア中に確認される両堆積物の境界は,南側の2本では傾斜した構造であるのに対し,一番北側のコアではほぼ水平となる.このことから,最北の試錐地点では撓曲変形帯を抜けていると判断できる.
     この撓曲変形帯を挟んで隆起側にある渋江川火砕流堆積面,二本木岩屑流堆積面の高度と,低下側で掘削したボーリングコアに見られる両層の上面高度を比較し,その差を両層堆積以降の変形量と考えると,渋江川火砕流で約60-70 m,二本木岩屑流で約30-35 mとなる.ただし隆起側にある両堆積面は山側へ逆傾斜するなど変形が大きく,堆積時の勾配を考慮していないため,現段階ではおおよその値である.今後,断層活動時期や変位速度の詳細について明らかにしていく.
  • 遠藤 匡俊
    p. 224
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    集団の空間的流動性とは、集団の構成員が短期間のうちに頻繁に入れ替わることである。世界の狩猟採集民で集団の空間的流動性が確認されてきている。この空間的流動性には紛争解決(conflict resolving)機能が備わっていると考えられている。集団構成員のなかで生じた不和や社会的緊張を、集団が分裂することによって早めに解消し、人間関係がより悪化することを未然に防ぐための知恵であるとされる。本研究の目的は、1856-1869年の三石場所のアイヌを対象として、集団の空間的流動性を血縁関係の維持という側面から検討することである。分析の結果、次のことが判った。まだ少数の復元事例にすぎないが、集落を構成する家と家は親子、兄弟姉妹という血縁関係をきずなに結び付いていた。集団の空間的流動性が生じることによって集落は血縁関係を維持し続けることが可能となる。親が、同じ集落に共住した長男の家族と別れて三女の家族が住む集落へ移動するのは、必ずしも長男の家族と対立したからではなく、長男の家族の次には三女の家族と共に生活するために移動したものと理解される。対立と分裂に着目する紛争解決理論によるものばかりではなく、融合と合体に着目する血縁理論による集団の流動性も生じていた可能性がある。
  • 大学等開放推進事業「ジュニアサイエンス講座」を利用して
    山崎 利夫
    p. 225
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    放送大学では、社会のニーズに沿った講座や子どもたち向けの体験活動講座の提供など大学等の開放の推進を図るため、「大学等開放推進事業」を文部科学省から委託を受けて実施している。平成17年度は、小中高校生を対象とした体験型プログラム「大学Jr.サイエンス講座」を実施すべく、高等教育機関に対し参加を募集した。鹿屋体育大学が「パソコンで情報マップを作ろう_から_誰でも使えるIT技術を用いて_から_」のテーマでこの事業に応募したところ、採択された。
    近年、発展が著しいGIS・GPSは優れた空間情報の取得・分析・表現力で多くの分野で盛んに活用されている。昨年、鹿児島市で起きた洞窟内での中学生死亡事故等を受けての安全・安心・危険個所マップ作成をはじめ、教育現場でGIS・GPS技術はさまざまに活用できる。そこで、身の回りの題材を取りあげ、GIS・GPS、ひいては最新のIT技術への興味を持ってもらうことを目的として本事業を実施した。
    2.講習内容
    本事業で実施した講習は、鹿児島県串良町立串良中学1年生全員(62名)を対象に、平成17年9月28日(水)に鹿屋体育大学において実施した。講習会は、講義、実習および演習を組み合わせた1日コースとした。午前中に、GISとGPSに関する基礎知識を講義し、実習で使用する携帯GPSとフリーソフト「カシミール3D」の操作方法について、これらを使用して学習した。午後は、参加者を10班に分け、大学周辺で屋外調査を行った。この調査では、割り当てられたルートとルート沿いの指定されたポイントが載った紙地図、携帯GPS、GPS機能付きデジタルカメラ、情報調査メモ用紙、それに筆記用具を持って、班単位でルートを歩いた。調査で得られた情報は、各ポイントの写真、ポイントごとの情報を記入したメモ、それにGPSで取得した軌跡の経緯度である。調査後、大学の情報処理室で、得た情報をもとに「カシミール3D」を用いてパソコン上で情報マップを作成した(図1参照)。こうした一連の手順を踏んで、情報マップの作成方法について実践的に学ばせた。最後に、応用編として、軌跡の解析、標高データとの重ね合せを行った。
    講習は以下のスケジュールで進めた。
    9:00 オリエンテーション(今日の流れ、班編成)
       GPS・GISに関する講義、携帯GPSの操作
       携帯GPSの操作実習
       カシミール3D操作の実習
    12:00 昼食
    13:00 屋外調査実習の説明と調査
        ベースマップ・携帯GPS・デジカメ・情報調査メモを持参し、情報取得
    14:30 カシミール3Dで情報マップの作成演習
        GPSで得た情報とデジカメ写真の転送・加工・編集
        情報マップの表示・印刷、アンケート回答
    16:30 終了
    講習で使用したフリーソフト「カシミール3D」は始め、可視マップ作成で主に利用されていたが、今では山岳展望の解析、リアルな3D風景・景観CGの作成、フライトシミュレーション、GPSデータの解析、ハイパーマップの作成等が可能である。同ソフトは現在、ネット上に無料で公開されている。
    3.受講生へのアンケート結果
     講習終了時に参加者全員に対しアンケート調査を行った。ここでは、「講義は楽しかったか」「講義内容が理解できたか」「講習に関連しての今後の学習意欲」それに「講習全体の感想(自由記述)」を尋ねた。全体の84%が「講義が楽しかった」と答えており、満足度が高かった。内容の理解度は「だいたい理解できた」(54.8%)が最も多く、「半分ほど理解できた」(40.3%)と合わせほぼ全員が、まあ理解していた。講義を午前中に詰め込む形になったので、十分の理解には至らなかった。「講習で学んだことを学校や自宅で試したい」と答えた者は57%で、講習を今後の学習意欲にある程度つなげていた。最後に、講習会全体の感想については「楽しかった」「ためになった」と肯定的な感想がほとんどだった。講習は授業の一環とした全員参加だったので、生徒の意欲・関心や知的レベルにバラツキがあったが、その割に理解度が高く、肯定的な回答が多かった。
    4.まとめ
    講習では、参加者を飽きさせないよう、実習や演習を中心にし、自分たちで情報を収集し、編集・加工させた。その結果、満足度の高い、今後に期待の持てる結果が得られた。カシミール3Dの持つ可能性とその潜在ニーズの大きいことがわかった。
  • 田中 友也
    p. 226
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    研究の視座・調査対象地域 今般の「平成の大合併」によって,小規模自治体を中心に急速に市町村合併が進んでいる。合併の際,市町村ごとに展開されていた施策やサービスを提供する施設などが異なるとそれらが統合・調整されることがあるが,これは場合によっては住民の生活に影響が及ぶ。このことは高齢者福祉においてもいえるが,とりわけ小規模自治体の多くは高齢化の進んだ過疎地域であるため,高齢者福祉に対する影響は大きいと思われる。本発表では,合併前の旧自治体ごとの施策やサービス提供者数の違い,および合併時にそれらがいかに調整されたか(あるいは調整されなかったか)という経緯について注目しつつ,合併によってどのような問題が顕在化するのか検討したい。 事例地域として取り上げる新潟県魚沼市は,同県中越地方に位置する人口45,386人,面積946.9km2の自治体である。同市は堀之内町,小出町,広神村,守門村,入広瀬村,湯之谷村の6町村(以降,「旧町村」とする)が合併して,2004年11月に誕生した。高齢化率は市全体で25%と高く,特に旧入広瀬村では35%を越える。合併前後の高齢者福祉とその変化 合併前に旧町村が実施していた高齢者福祉事業は,提供サービスの種類や基準などに差があったが,合併時にサービスの調整・統一を行った。その際は「質は高く,負担は少なく」(魚沼市福祉課)という方針で行ったものの,サービスの種類や地域によっては質の低下,負担増がみられたたものも若干ある。また,この調整方式は財政的な裏づけがなく,今後再検討されることになっている。 一方で,サービスの提供者についてみる必要がある。市が直営する提供者は存在しないものの,特別養護老人ホーム(特養)の整備においては,合併前から行政が社会福祉法人を支援していた。市内にある5つの特養は,合併前に旧6町村と隣接の川口町の7町村が補助金を出し合って建設したものである。これらは旧町村に分散して整備されているため,合併後の特養の統廃合を必要としなかった。つまり特養に関していうと,合併以前に小規模自治体同士がリソース不足を解消するために旧町村が行なった自治体を越えた施設整備によって,自治体内格差が生じなかったといえる。 また,社会福祉協議会(社協)の存在は非常に大きい。社協はこれまでも在宅型の福祉サービスを中心に,旧町村の支援を受けながらサービス提供をしていたため,旧町村ごとに社協の提供するサービスが異なっていた。市町村合併に伴って,社協も「1自治体1社協」の原則により合併を行った。しかしながら,旧町村の社協を支所としてそのまま存続させており,現業部門の職員数の変更や旧社協が実施していたサービスの変更もない。 これは,地域によっては社協が唯一のサービス提供者であるためであり,旧町村ごとの地域状況に合わせた措置といえる。民間の介護保険事業者は比較的人口の集中している旧小出町に偏在している。これは在宅型サービスで顕著である。山間部を抱え集落の散在している小規模自治体同士が合併した魚沼市では,1つの在宅サービス事業者が市全域をサービス提供範囲にできない。そのため社協によるサービス供給が不可欠な地域が自治体内で存在しており,在宅サービスにおいては,公的な提供者の自治体内格差をあえて生じさせているといえよう。 とはいえ,介護保険サービスの利用額の多寡を示す介護保険料をみると,旧町村間には最大1.4倍の格差があり,このことからも事業者全体の偏在は依然残存しているといえる。加えて,旧小出町は合併前,住民の介護保険サービス利用を促進するために各集落の公民館を回って説明会を開いたため,利用額が他の旧町村より顕著になっているという。こうした旧町村の利用額=保険給付の格差は合併後に自治体内格差となる。しかし合併後の保険料は市内一律にせねばならず,現状だと給付の少ない地域からの不満の声が出されることが懸念される。 このように小規模自治体同士であっても旧町村ごとに民間事業者の参入度などは異なり,それらは合併後に自治体内格差となるが,施設整備などでこれまで旧町村を越えた枠組みが行われていた場合は自治体内格差が存在しないことがわかった。 発表当日は,他の自治体の事例も合わせて報告する予定である。また本発表・研究にあたっては,財団法人医療経済研究・社会保健福祉協会 医療経済研究機構の助成を受けた。
  • 阿子島 功, 長谷川 慧
    p. 227
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    東根市大富付近を流れる小見川は、幅数m、延長4kmほどの小河川であるが、イバラトミオが生息していることから、その一部区間(小見付近、羽入下橋まで)が山形県指定天然記念物保護地区とされている(S61年指定)。水源の湧水は環境庁(S60)の名水100選にも選ばれた。小見川は、最上川本流から約1.5km程西側にある。小見川流路は、最上川の旧河道である。最上川氾濫原の東の縁、乱川扇状地の西端を限っている。その平面形は東に凸の2つの弧形をなしており、最上川の蛇行の名残を示している。 乱川扇状地が滑らかに終わらないで、高さ10m弱の崖となっているのは、最上川が扇状地の裾を削ったためである。   扇状地の裾(扇端部)は、もともと地下水位が浅いので、崖のすその湧き水が小見川の水源となっていたと考えられる。 しかしながら、最近では湧水が減少気味であり、水源の調査を行ったところ、その水源の約4割が養鱒業の深井戸の水によってまかなわれているという特殊な河川であることがわかった。 [調査方法と結果] 2004年10_から_11月に天然記念物保護区間に指定されている約400m区間で、井戸の水量調査と河川水量調査を行った。68ヶ所の水源によって、59ヶ所の流入水の地点があり、その内訳は湧水から12ヶ所、井戸水から 51本、排水から5ヶ所、ほか不明である。 水量測定は各地点を1_から_2回、流入水は吐き出し口から3秒間の水量を測った(3回の平均)。下流端の河川流量は2860l/mim。その約5割が側方から付け加わった水であり、その8割、すなわち全量の4割が井戸から流入していると推定された。すなわち、小見川の流水の4割は井戸からの汲み上げならびに深井戸の自噴によって支えられている河川である。 [深井戸について] 大富地区の深井戸の深さは、聞き取りによれば、井戸31本のうち約80mが18本、約 5mが7本、約10mが1本、約20mが2本、約30mは3本である。 時期は、湧水:昭和時代以前1ヶ所、 約5m井戸:昭和時代後半5本、昭和30年中頃1本(ポンプアップ)、昭和40年代中頃1本、約10m井戸:平成時代中頃1本(ポンプアップ)、約20m井戸:昭和30年代後半2本(ポンプアップ)、約30m井戸:昭和50年代後半3本、約80m井戸:昭和40年代前半15本、昭和50年代後半3本とのことである。 [湧水と養鱒業] 大富の養鱒業は、昭和16年建立の養鱒碑の記述によれば、昭和4年に荷口川水源地で県が試験的に養殖を始め(水深1尺)、昭和8年に民間19業者が生産を行った。地下水湧出量が減少し深井戸掘削の始まった時期については、戦前から始まっており、戦後上流の神町の進駐軍キャンプの地下水汲み上げによって湧き水が減少したため生産調整が必要となったとして国に補償を求め、昭和36年に一部を受け取っている。補償請求内容は各戸の揚水設備費・動力費・減産額となっていることから、深井戸が掘られたのはこの時期であろう。 [天延記念物保護と養鱒業]  地元住民の保護活動が活発であり水質保全の意識も高い。 湧水量が減少しているために、養鱒の残餌や死骸処理が水質保全に悪影響をもたらしていることが懸念されるが、水源の約4割が養鱒業の深井戸に支えられていること、養殖業によって農薬使用に注意が払われる、また養鱒にとっては名水フ゛ラント゛など複雑な共生関係もある。
  • 遠藤 幸子
    p. 228
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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  • 沼尻 治樹, 野上 道男
    p. 229
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1.研究の目的流域水収支に関するこれまでの研究(沼尻・野上,2004)では,旧版気候値メッシュデータと1990_から_1999年の実測河川流量の月平均値を用いていた.気候値と河川流量の期間がずれていることが,問題点として残っていた.そこで本研究では,気候値メッシュデータ2000の観測期間に合致させた実測流量値を用いた.まず,タンク分散型流域水収支モデルを構築し,その実行結果の流域流出量と実測流量値の差が最小になるように,モデルの最適パラメータ値を逐次法で探索した.タンク分散型流域水収支モデルとは,気候値メッシュデータに合わせた1km×1kmのグリッドに1つのタンクモデルを置き,それを流域で束ねて流域水収支モデルとする方式である.2.使用データ気象庁発行の最新版気候値メッシュデータである気候値メッシュデータ2000(以下新版気候値メッシュデータ)を使用した.このデータ(1971_から_2000年の観測値使用)にはアメダスデータが使われているため,旧版(1953_から_1976年)よりも空間精度が高いと予想される.最適パラメータ探索用に1971_から_2000年までの流量年表(国土交通省)を使用した.新版気候値メッシュデータと同じ期間の河川流量を用いることで,年々変動の大きい降水量と河川流量の統計値(気候値)に起因する誤差を小さくできると考えられる.3.流域水収支モデル流域水収支モデルは,グリッドタンクモデルと積雪・融雪モデルを組み合わせて流域で集計している.積雪・融雪モデルのパラメータは,降雨・降雪判別気温と融雪係数である.グリッドタンクモデルは,飽和流出口,中間流出口,基底流出口の3つの流出口を備えている.パラメータは,中間流出率,基底流出率,第1容量,第2容量である.可能蒸発散量推定法には,ソーンスウェイト法による可能蒸発散量に近似させる手法を用いて算出し,タンクの第1容量に対する当月貯留量の比を乗じたものを実蒸発散量とした.この手法による可能蒸発散量とソーンスウェイト法による可能蒸発散量の相関係数は,各月0.98以上となっている.4.結果と考察北海道の19流域について流域水収支の推定を行った.その結果,良好なモデル出力値を得ることができた.全対象流域のほとんどに,モデル出力値よりも実測流量値の方が多くなる現象がみられた.9月以降にモデル出力値が急に少なくなる傾向がある.実測流量値とモデル出力値の差は,ほぼ全ての対象流域で実測流量値の方が多いという結果になった(Fig.1).流域平均高度と実測流量値とモデル出力値の差の関係は,特にみられなかった.よって,新版気候値メッシュデータは,降水量の補足精度は過小と考えられるが,高度補正精度は向上したと考えられる.Fig.1 (実測流量値_-_モデル出力値)の値の度数分布文献沼尻治樹・野上道男(2004):気象庁気候値メッシュデータの降雪降水量の精度.地理情報システム学会講演論文集,13,395-398.
  • 季節的な乾燥と固有植物の生育との関係
    吉田 圭一郎, 飯島 慈裕, 岡 秀一, 見塩 昌子
    p. 230
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    I.はじめに
    種多様性の低い大洋島では,固有植物が形態的な変化をともない幅広いハビタットに分布することがある.小笠原諸島の固有樹種であるシマイスノキもその一つで,吉田(2002)はシマイスノキの樹高変化が季節的な乾燥により生じる水文気候条件の乾湿傾度とよく対応することを示した.しかし,これまでの研究は対応関係を示したにすぎず,季節的な乾燥が固有植物に与える水分ストレスの程度や植物の生育に対するその影響についてはほとんど明らかになっていない.
    本研究では,小笠原諸島父島に成立する亜熱帯性低木林に対する水文気候条件の影響を明らかにするために,1)季節的な乾燥による土壌水分量の低下がシマイスノキに与える水分ストレスを把握し,また,2)土壌水分量の季節変化とシマイスノキの肥大成長の季節進行との関連性について考察した.

    II.調査地と方法
    本研究では,乾性低木林が分布する父島東部の初寝山と東平に観測点を設置した.初寝山(215m a.s.l)には群落高が約1mの乾性低木林が分布しており,1999年8月末から自動気象観測装置による総合観測を実施している.一方,東平(226m a.s.l)には種組成はほぼ同じであるが,群落高が6_から_8mと初寝山よりも高い乾性低木林が分布する.
    両観測点にてTDR式土壌水分計により10cm深の土壌水分量(体積含水率%)を測定した.また,両地点でシマイスノキの主幹にデンドロメータを設置し,幹の肥大成長の連続観測を行った.さらに,季節的に乾燥する時期のシマイスノキが受ける水分ストレスを把握するため,各地点で夜明け前に葉を採取し,水ポテンシャルを計測した(2005年8月24日,26日).

    III.結果と考察
    図1Aには,2003年1月_から_2005年8月の初寝山で観測された日積算降水量と初寝山および東平における土壌水分量を示す.梅雨明け直後の夏季乾燥期には,初寝山で土壌水分量が低下し,東平と比べて最大20%以上の差が生じた.
    土壌水分量に差違がみられた夏季の乾燥期に両地点でシマイスノキの葉の水ポテンシャルを計測したところ,土壌水分量が低下した初寝山で水ポテンシャルの低下がみられた.このことは,季節的な乾燥にともなう土壌水分量の低下はシマイスノキに水分ストレスを与えていることを示す.
    図1Bは,両地点におけるシマイスノキの相対的な幹の肥大成長量を表している(2004年1月1日を0 mmとした).土壌水分量の低下がみられない東平では夏季の乾燥期に急激な幹の肥大成長がみられ,生長量は0.5_から_1.0 mmであった.一方,夏季の乾燥期には土壌水分量が極端に低下する初寝山では5月から6月上旬までにゆっくりとした幹の肥大成長がみられ,生長量は0.0_から_0.3 mmであった.また,初寝山では夏季乾燥期には水分ストレスに起因する幹の収縮が観測された.
    以上から,夏季の季節的な乾燥はシマイスノキに水分ストレスを与えていた.また,受ける水分ストレスの差違により,シマイスノキの肥大成長量や肥大成長の季節進行が地域的に異なり,結果として水文気候条件と対応した形態的な変化がみられると推察された.

    本研究は平成17_から_18年度科学研究費補助金「小笠原諸島において水文気候条件が植生構造に与える影響に関する観測研究」(若手研究(B),No. 17700640,代表:吉田圭一郎)の補助を受けた.
  • 池田 誠, 野上 道男
    p. 231
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    _I_研究の目的
     流域流出モデルを構築するにあたって,モデルの入力にあたる降水データの空間精度にこれまで問題点があった.AMeDASなどの粗に分布する地点雨量データから流域降水量を推定する手段としてティーセン法や算術平均法などがあったがこれらの空間精度は高いとは言えなかった.しかし,近年ではレーダーアメダス解析雨量データなどの空間を埋め尽くすラスター型データの登場により(野上 2005),流域降水を高い空間精度(2.5×2.5km)で,また時間解像度1時間で把握することが可能となった.
     流域全体に一つのタンクモデルを置く集中型流出モデルでは,流域流出を精度良くシミュレートすることができたが,この集中型流出モデルでは流量の変化をタンクのパラメータで調節していた.そこで本研究では,流域の各グリッドごとにタンクモデルを置く分散型流出モデルを構築することにした.また,地形の勾配などの地形特性を各グリッドごとに考慮した上で各グリッドのタンクパラメータを個々に設定し,流出モデルの高精度化を狙っている.
    _II_研究対象流域
     研究対象としている流域は,多摩川上流域に位置する小河内ダム集水域である.流域面積は,262.9km2であり,その内奥多摩湖の面積は,245haである.
    _III_研究対象期間
     小河内ダムデータ(期間:2002/4/1_から_2003/3/31)から流入量を計算し,流入量の多い時期をEventとして研究対象期間とした.なお,各Eventとも10日間としている.
    2002年7月8日_から_7月17日 (Event1)
    2002年8月16日_から_8月25日 (Event2)
    2002年9月29日_から_10月8日 (Event3)
    _IV_使用データ
    _丸1_レーダーアメダス解析雨量データ
    2002年版CD-ROM
    _丸2_小河内ダムデータ(東京都水道局)
    ・小河内放流量トータル(㎥/hr)
    ・ダム水位(mm)
    ・ダム蒸発量(mm)
    _丸3_1km-DEM(国土地理院)
    _丸4_50m-DEM(国土地理院)
    _V_解析方法
     まず,レーダーアメダス解析雨量データは,2.5kmの解像度であるのでこれを1kmの解像度に展開し,研究対象流域の範囲を切り出した.小河内ダムデータ(放流量・水位)から流入量を計算し,流入量の多い時期をEventとして研究対象期間とした.1km-DEMから落水線方向マトリックス(1km-DDM)を作成し,そこから小河内ダムから上流域を抽出した流域マスク図を作成した(流域:249pixcl,奥多摩湖:4pixcl).地形特性である勾配を求めるために50m-DEMから勾配を計算(標高の微分)し,1kmグリッドでの平均値を求めた.本研究で構築した分散型流出モデルは,各グリッドにタンクモデルを設置している.なお,奥多摩湖への降雨は直接入力として扱っている.タンクモデルは単層式であり,タンクの側面からは2つの流出孔(中間流出口・基底流出口)を設けている.なお,タンクからの流出は,貯留量に比例して発生するとした.タンクには,深さ,流出率の各パラメータがある.これらのパラメータの決定には,地形特性(勾配)の影響が大きく寄与していると考えられるので50m-DEMから計算した勾配からそれぞれのグリッドごとにパラメータを推定している.モデルの計算は,施行期間として各Eventの5日前から実行し,タンクの各流出口からの出力値と奥多摩湖への直接降雨の総和をモデル値とした.ダムデータから計算したダムへの流入量(実測値)とモデル値との精度検証を行った.
  • 地下水および地表水の酸素・水素安定同位体比
    宮岡 邦任
    p. 232
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    既にニェコランディア地域の地下水流動については,過去の河川流路に規制された形で地下水流動系が複数存在することや,雨季と乾季で地下水流動形態や混合の状態が大きく異なることが示されている.一方,地下水の起源や,本地域特有の水体である高塩分の湖沼(サリナ)の形成要因や高塩分の起源についてはいくつかの研究が行われているが,どれも異なった見解を示しており,はっきりとは解明されていない.本発表では,地下水やサリナをはじめとした地表水の起源を推定するとともに,水質を構成する起源となっている水の混合割合について,酸素及び水素安定同位体のデータを用いて検討した結果を示す. 研究対象地域は,ニェコランディア地域のファゼンダ・バイアボニータ農場および周辺地域の1辺約40kmで囲んだ地域である.  乾季と雨季のδ18Oの分布をみたとき,δ18O等値線の形状は,現在河川流路が存在していない地域において乾季と雨季で大きく異なることが認められた.このような傾向は,宮岡(2003)において示した地下水面標高分布にも現れており,このことは,地域によっては浅層部の地質構造に規制された形で雨季と乾季で地下水の水質を規制する起源となる水が異なることを示している.また,上流部でδ18O値が高く,下流で低いという傾向は,電気伝導度が上流で高く,下流で低いという傾向と一致しており,サリナのような高塩分の水が塩分の低い水と起源が異なることを示している. 次に乾季におけるδ18O とδDの関係をみてみると,深度80m以深の深層地下水を除くすべての地下水と地表水は天水線から外れており,蒸発の影響を受けているようにみえる.しかしながら,乾季に水を溜めた蒸発皿を屋外に放置し,その水を毎日採水することにより,δ18O とδDの値の変化を見たところ,蒸発皿の水の傾きは地下水や地表水などの傾きよりもさらに緩く,雨季の傾きにほぼ等しいことが判明した.このことから,乾季には蒸発の影響はあるものの,蒸発の影響をあまり受けていない水の涵養を受けており,蒸発の影響を受けた水と混合していることが考えられる.また,雨季は地表を広く覆う蒸発の影響を強く受けた地表水の影響が,地下水にまで達していることが考えられる.
  • 田中 美帆
    p. 233
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    報告者が福岡市内の銭湯(ここでは一般公衆浴場のみを扱う)で行なった聞き取調査や参与観察によると、銭湯の利用者の大半は(建設業従事者をのぞくと)65歳以上の単身もしくは夫婦のみ世帯の高齢者であった。プライベートな空間が仕切られ、人間関係が希薄化しつつある都市部において、近隣の高齢者が日常生活の中で何気なく集う場として、銭湯は自然発生的なコミュニティ形成の可能性を秘めた結節点の一つと考えられる。昭和48年には福岡市内に168軒営業していた銭湯が、家庭用持ち風呂の普及により年々減少し、平成12年には、わずか34軒となっている。福岡市内で現在も銭湯が残存する地域が、実際に高齢化が進んでいる地域であるかどうか、どのような世帯や居住環境であるかをGISを用いて分析する。
  • 野口 泰生
    p. 234
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
     日本では日最高気温は一般に午後1時頃出現し、年間を通じてこの時間帯に変化は無い。一方日最低気温は日の出前に出現するので、日の出の時間の季節変化に応じて、日最低気温の出現時間には季節変化がある。 ところが、日本各地に展開する約840のアメダス気温観測地点では、日最低気温の出現時間が真夜中の12時である場合がかなりの頻度で出現する。また、都市のヒートアイランド現象の強さを示す都心と郊外との気温差(ヒートアイランド強度)もその日の最大値が真夜中に現れる場合が多い。 そこで、ここではこの真夜中の日最低気温やヒートアイランド強度の出現についてその特徴、地域性、季節性を全国のアメダスデータ時別値を用いて考察した。 日最低気温の最多出現時間は夏には日の出の時間帯に見られるが、冬には真夜中の時間帯、それも24時に集中して、最多頻度が出現する。多くの観測地点の時別値を精査した結果、この真夜中のピークの原因は日界を24時に取ることによって発生しているものと思われる。しかし、ヒートアイランド強度にも明瞭な真夜中のピークがあることや、日界に関係なく真夜中に翌朝までの間の最低気温が現れる場合がある。そこで、真夜中の日最低気温の出現率を地域ごとに検討した。 その結果、冬には全国的に24時に出現する傾向が強まる。特に北海道、北陸、九州、沖縄で24時に最高となる。夏には全国的に日の出の時間帯に出現する傾向が強まる。ただし、北海道ではやはり24時に最多出現率が出る。一般に季節的には冬に、場所的には日本海側で24時に出現する傾向がある。今後、放射収支データと付き合わせて、そのメカニズムを解明する必要がある。  
  • 熱帯湿原周辺における低木林からサバンナ林への植生遷移
    吉田 圭一郎
    p. 235
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    I.はじめに
    パンタナールは,南米大陸のほぼ中央に広がる面積約23万km2の熱帯湿原である.パンタナールでは主として微地形と河川水位の年変動によって規定される多様な植生景観がみられ(e.g.,Prance & Schaller 1982;Zeilhofer & Schessl 1999),大きく浸水域と非浸水域に区分される.非浸水域では,草原(カンポアルト)から低木林(セラード)を経てサバンナ林(セラドン)へと遷移すると考えられるが,植生遷移に関してこれまでほとんど研究されていない.また,パンタナールでは湿地環境の賢明な利用による伝統的な牧畜業が営まれており,現在の植生分布の形成過程を考えるためには,人為的な影響を考慮した植生遷移を明らかにする必要がある.
    そこで本研究では,パンタナールの非浸水域に成立する森林植生を対象に,遷移パターンを明らかにすることを目的とする.本発表では,特に人為的な影響を受けやすい低木林(セラード)とサバンナ林(セラドン)との境界域における植生遷移について報告する.

    II.調査地と手法
    調査地は南パンタナール・ニェコランディア地区(Nhecolândia)のファゼンダ・バイアボニータ(1760ha)である.ここでは多様なビオトープタイプがみられ,その空間パターンは非生物的な要因と人為的な要因が複合的に作用して形成されたと考えられる.
    季節的な浸水域である草原に挟まれた回廊状の低木林と連続して成立するサバンナ林(写真1)に幅10 m長さ120 mのベルトトランセクトを設置した.現在の植生構造や種組成を明らかにするため,ベルトトランセクト内に含まれる樹高1.5 m以上の樹木を対象に毎木調査を行った.また,植生の動的な側面を把握するために,優占する3樹種(カンジケイラ,リシェイラ,カンバラ)を対象に幹の肥大生長量を測定した.2005年3月に胸高直径を計測した場所に赤ペンキでマークをつけて,2005年8月に同じ場所を再測することにより,幹の肥大生長量を測定した.

    III.結果と考察
    図1には,ベルトトランセクトにおける10m毎の胸高断面積合計,最大樹高,および全天写真により算出した林冠の空隙率を示した.サブコドラートのP.5からP.8は胸高断面積合計が小さく,また最大樹高が低いことから低木林に位置づけられる.両側に行くにしたがい徐々に胸高断面積合計が大きくなり,また最大樹高も高くなることから,ベルトトランセクトに沿ってサバンナ林から低木林を経て,再びサバンナ林へ漸移的に植生が変化していることが分かった.低木林とサバンナ林との間では主要3樹種の肥大生長量(2005年3月_から_8月)には明確な違いは認められず,ほぼ同等の生長量を示した.
    以上のことから,現在みられる低木林(セラード)はサバンナ林への遷移の途中段階にあると考えられた.今後,攪乱を受けずに長時間経過した場合には,低木林はサバンナ林に置き換わっていくことが推察された.

    本研究は平成16_から_18年度科学研究費補助金「ブラジル・パンタナールにおける熱帯湿原の包括的環境保全戦略」(基盤研究B(2),No. 16401023,代表:丸山浩明)の補助を受けた.

    <引用文献>
    Prance, G. T. & G. B. Schaller (1982) Brittonia 34(2): 228-251.
    Zeilhofer, P. & M. Schessl (1999) Journal of Biogeography 27: 159-168.
  • 神奈川県大和市を事例に
    松本 久美
    p. 236
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1992年の都市計画法改正によって,「都市計画マスタープラン」の策定とその過程における市民参加が定められた.これにより多くの自治体で「都市計画マスタープラン」が策定され,それを実現化するルールとしてまちづくり条例が制定された.「都市計画マスタープラン」はまちづくりにおける市民参加が活発化する契機となったと言える.さらに近年では市民参加のまちづくりから,協働や自治のまちづくりへと移りつつあるとも言われている.しかし,いまだ市民参加が本当に機能しているかについては議論が十分ではなく,また,市民がどのような関心や問題意識を持って参加しているかについてはこれまでの研究ではあまり触れられてこなかった.本研究は,市民参加の先進自治体である神奈川県大和市を対象に,「大和市都市計画マスタープラン」の実現を目指した「大和市みんなのまちづくり条例」にもとづいたまちづくり組織に所属する市民とそれに関わる行政職員・専門家などの聞き取り調査によって,まちづくりにおける市民参加が機能しているかということを明らかにすることを目的としている.また,市民参加には,参加する対象別に「行政への市民参加」「議会への市民参加」「コミュニティへの市民参加」「NPO等への市民参加」があるが,そのうち「大和市みんなのまちづく条例」が定めているのは,「行政への市民参加」と「コミュニティへの市民参加」である.本研究では,「大和市みんなの街づくり条例」に定められたまちづくり組織のうち,「行政への市民参加」機会である全市レベルの審議機関である「街づくり推進会議」と,「コミュニティへの市民参加」機会である地区レベルでルールづくりを担う「地区街づくり推進団体」を取り上げ,それぞれに参加する市民の関心や問題意識の違いについても触れる.
  • -千葉県北西部における研究事例-
    田林 雄, 大森 博雄
    p. 237
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    研究背景 河川水質は流域の属性をあらわしているといえる。属性として地質、土地利用、気候等が考えられる。都市域の河川水質を検討する場合、これらの属性ともに時間変動が比較的重要な属性として水質形成に寄与する可能性がある。つまり、変動がどの程度であるかを捉えておく必要がある。研究対象地・方法 研究対象地域は千葉県北西部に位置する坂川流域である。下総台地の西縁に位置する(図1)。この30年で大きく都市化が進行したが、現在も緩やかに都市化は進んでいる。地質はほぼ均質といってよいので、本研究においては水質形成を土地利用及び時間との関係から検討した。水質は現地で水温、EC、pH、アルカリ度を、実験室でNa+,K+,Ca2+,Mg2+,Cl-,NO3-,SO42-の主要無機イオン濃度を測定した。支流域の土地利用構成を国土地理院発行の細密数値情報(1994)をもとに算出し、これを変数に主成分分析にかけ各支流域に主成分得点を与えた。得点は水質との関係性検討に用いた。 採水は2003年12月(日変動)、2004年6-12月、2005年3月(季節変動)に行った。河川水質の日変動(図2)従来、都市河川においては朝と夕に水質濃度の高まりがあるとの報告が多かったが、ここでは夜間にも小さなピークがみられる。これは、人間の生活時間帯の変化に起因するものである可能性がある。変動係数で見ると、ECの日変動は2.4と小さく、イオン毎にみても10以内に収まる。よって、1日の中で水質変動はあるが、その幅はあまり大きくないといってよいだろう。河川水質の季節変動(図3) 都市化度が高まると、基本的には電気伝導度の変動係数が小さくなる傾向にある。要因として、都市化が顕著に進むと農地等の季節変化の大きい土地利用が減少する点、社会基盤が整い、年間を通じて比較的等水質の河川水が支流域から排出される、等の可能性が考えられる。
  • 森田 圭, 野上 道男
    p. 238
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1.はじめに
     山岳地の積雪分布とその季節変化を地図化することは難しい.なぜなら,現地で広域の観察を行うことが難しい上に,吹き溜まりや吹き払いといった積雪の再配分が分布を複雑にしているからである.しかしながらこれまでも,さまざまな方法で積雪情報を得ようという努力がなされている.その手法として,現地で観測する方法(松山1998)もあるが,広域にわたるときは人工衛星データから積雪分布を推定する方法(たとえば,土屋1984)がある.後者は,使用する衛星の時間・空間解像度によって精度が異なる.NOAAなどの低解像度衛星の時間解像度は1日であるが,空間解像度が1kmであるため,狭い範囲の積雪情報を得ることは不向きである.また,ランドサットなどの中解像度衛星は空間解像度が15_から_30mであるが,時間解像度が16日であるため,融雪の経日変化の情報を得ることは難しい.
     そういった中で,現在,ブロードバンドの普及,地上モニタカメラの技術向上などによって,世界中に地上モニタカメラが数多く設置されてきている.地上モニタカメラは撮影範囲が狭いが,地上から撮影しているため多少の曇天でも対象との間に霧や雲がなければデータが得ることができ,また,時間解像度が高いというメリットがある.これらの設置目的は主に遠隔監視・確認であるが,この他に何に使えばその有効性を最大に引き出せるのか検討の余地はある.たとえば,地上モニタカメラ画像は斜め写真画像であるので,それをオルソ化できれば地理的テータとしての価値が高まる.
     本研究では,乗鞍岳を対象地域として解像度の高い地上モニタカメラ画像から積雪分布を示すオルソ地図を作成するアルゴリズムおよび積雪分布状況を推定するためのアルゴリズムを開発した.また,作成した分布図と日平均気温分布から積雪水当量の推定を行った.

    2.使用データ・ソフトウェアと処理方法
     使用したデータは北海道地図KK作成の10m-DEM,環境省インターネット自然研究所で公開されている2002年の地上モニタカメラ画像,国立天文台乗鞍コロナ観測所の気象観測データである.また,画像処理には「PhotoShop6.0」(Adobe社),地上モニタカメラ画像のオルソ化には「Kmap ver4.3」(自作ソフトウェア)を使用した.
     処理方法として,まず,地上モニタカメラ画像の対象日の選定および画像処理を行った.融雪期(3月_から_9月)で地上定点カメラ画像から乗鞍岳を観測できた日は91日/213日間であった.それらの画像から近くの樹木や空など不要な部分にマスクをかけ,2値化処理によって積雪域とそれ以外とに判別し,積雪域を抽出した.
     次に,積雪域を抽出した画像をKmapを用いてオルソ化を行った.これらのうち対象期間の半分以上の日が霧などのため観測できず,オルソ化地図を作成することができなかった.しかし,日単位で解析するためには撮影日と撮影日の間の積雪分布状況を推定しなければならない.そのため,本研究ではモーフィング技術を導入した積雪分布モデルを提案する.既存のソフトウェアでモーフィングを行うためには,前後の画像における対応点を決めなければいけない.しかし,融雪過程においては積雪の縁に対応する点は存在しないので,領域拡大・縮小法(自作ソフトウェア)によって推定することとした.この場合の領域拡大・縮小法とは,撮影日の2枚の画像から,時期の早い1枚目の画像に対しては積雪範囲の縁から1ピクセルずつ領域縮小,時期の遅い2枚目は積雪範囲の縁から1ピクセルずつ領域拡大し,両者の縁が一致した場所を中間地点(補間画像)として,データの無い日の積雪範囲を推定する.なお,融雪の進行速度は日平均気温を用いて調節を行った.
     最後に,各ピクセルの最大積雪水当量を見積もる試みを行った.融雪は,気温,風速,日射量,湿度など多くの因子が関わっているとされ,また,地域(緯度の違い)によって係数は変化する.しかし,ここでは単純化するために,長期間の総量は積算気温と比例関係にあるとする(degree day法).本研究では,融雪係数を5mm/(℃・day)と仮定し,計算してみた.
     2002年における乗鞍岳の最大積雪水当量の分布図については,紙面の都合につき当日報告を行う.

    参考文献
    土屋 厳(1984)リモートセンシングによる残雪及び雪田植生の分布解析.国立公害研究所研究報告,71,1-102.
    松山 洋(1998)巻機山における積雪密度・積雪水当量の季節変化と高度分布.水文・水資源学会,11-2,117-127.
  • 中国陝西地域調査 その2
    秋山 元秀
    p. 239
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    急速に都市化が進む中国の都市で、最近、都市の内部構造のもつ問題として注目されている現象の一つが、「城中村」と呼ばれる都市化した市街地の中に残されている農村である。中国の前近代から存在する県レベル以上の伝統的都市は、一般に城壁で囲まれていた市街地があり、城壁が撤去された現代の都市化の進行においてもそれが核になっているケースが多い。このような都市で、かつて城壁の外にあった農村が都市化して市街地に取り込まれる場合、耕地の部分は区画整理が行われて新しい市街地になっていくが、従来からの農村集落の部分は、景観的にも、社会的にも農村のまま残されていく。 このような現象は、特に中国に限るものではなく、日本の都市においても周辺市街地の形成過程で農村がとりこまれ、耕地は整然と区画整理されても、集落部分は狭く折れ曲がった街路や家屋の形態で明らかにわかることがある(例えば京都市でいえば、明治までの市街地の西限である千本通以西の右京区などによく見られる)。しかし中国において、この都市内部の農村=城中村が問題になるのは、中国独自の社会制度や土地制度に起因する。すなわち周知のように中国では戸籍がすべて都市戸籍と農村戸籍に分けられている(近年、この戸籍制度の改革が話題になり、一部でこの区分の撤廃が行われつつあるというが、まだ一般的になっているわけではない)。したがって実態としては市街地の中にあっても、かつての農村の住民の戸籍はあくまで農民戸籍なのである。極端な場合、もともと農村が保有していた耕地が、すべて国家機関や企業に買収されて公的施設や住宅地に転換され、農民は耕作する土地をまったくもたない場合も、住民の戸籍は農民であり続けるのである。戸籍が異なれば、就業、医療、教育など、社会生活上の条件がまったく異なるのである。 また中国では土地管理法の定めによって、都市の土地の所有権は全民所有=国家の所有であるが、農村あるいは都市近郊の土地は集体所有、この場合なら農村の所有になる。すなわち耕地がすべてなくなった農村でも、農民が居住する家屋のある集落部分の土地はいまだに農村の所有になっている。したがって行政的には農村集落の部分も都市の一部ではあるが、都市を管理する末端行政組織である街道弁事処の管轄下にはなく、一般の農村と同じように村民委員会が置かれその管轄下にあるのである。その結果、上下水道や道路舗装など、都市全体に共通に敷設されるべき公的施設が、この城中村の部分には敷設されないままになり、城中村の生活環境が周辺の市街地に比べて著しく劣るという事態が生じる。都市計画をたてる場合でも、城中村の部分の土地はあくまで農村の所有であるため、都市区画内にあるからといって単純に統一的な計画を適用することはできないのである。 加えて最近深刻な問題になっているは、城中村の社会問題化である。すなわち現在城中村に居住する「農民」は、実際には農業で生計をたてているわけではなく、多くは都市のサービス産業や都市建設労働に従事している。そのようにして得た現金収入で農民は自宅の改造を行い、そこに複数の低価格の借間を設ける。開発ラッシュと建設ブームに沸く都市に流入してくる遠隔地農村からの人口を吸収しているのは、このような「農村住宅」なのである。彼らも農民戸籍であり、都市内部としては劣悪な条件の住居であろうともそれほど問題にはならない。最近では、農民の自宅に付随した貸間を、賃貸住宅専用の小規模なアパートに建て直し、所有者の農民自身は近隣に建設された豪華なマンションに居住しているものも多いという。結果として従来の低層民家からなっていた農村集落は、高層の(4_から_5階くらい)簡易建築のアパートと、その住民にサービスする商店・飲食店(これも農民の経営になる)などの混在する新興宅地と化し、周辺の「普通の都市住宅地」とは明確に異なる「農村都市」となっている。流入人口の中には不法滞在者も多く、風俗産業や違法業務の温床になり、治安の悪化も大きな問題となっている。 このような現実の都市問題に対応する必要から、中国では地理学を始めてとして、学界レベルでもこの城中村問題が注目されている。特に、大量の流入人口によって都市化が急速に進行した広東などで多くの先行研究がある。今回、共同調査を行った陝西省の省都、西安市では市街地区に124の城中村があるとされ、報告者は今回の調査でその一部を実見することができた。本報告はそのような城中村の実態の一面を紹介するものである。
  • 島田 愛子, 高田 将志
    p. 240
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    平野や台地をつくる堆積物がどこから供給されたかは、およそ明らかな場合もあるが、細粒堆積物などの場合、それを推定するのが難しい場合も少なくない。そこで、石英粒子の電子スピン共鳴(ESR: Electron Spin Resonance)を用いた堆積物粒子の供給起源推定に関する基礎研究を行った。これまでにも、堆積物中に含まれる石英粒子のESR信号から、風成塵の供給起源地推定が試みられてきた(成瀬ほか1996;成瀬・小野ほか、1997)。これまでの研究では、第四紀、古第三紀_から_白亜紀といった大まかな年代別にE1’中心信号強度が異なることが明らかにされている(Toyoda.et.al,2002)。しかし、一つのESR信号のみを用いる方法では、詳細な供給起源の推定が難しい場合も少なくない。これをさらに細分して検討することができれば、堆積物に含まれる石英粒子の供給起源をより詳細に識別することができるであろう。本研究では、まず、琵琶湖周辺の花崗岩体、伊豆諸島神津島の流紋岩および飛騨の火砕流堆積物を用い、産地の異なる火成岩石英粒子のESR信号強度を比較し、酸素空孔量を指標とするE1’中心信号以外に、推定に有効な他のESR信号について検討を加えた。その結果、E1’中心信号以外にも、Al中心、Ti-Li中心信号が供給起源の識別に有効であるとの見通しが得られた。上記で得られた結果を基礎データとして、異なる流域の現河床堆積物に含まれる石英粒子のESR信号の比較を行った。河床堆積物は上流域内のさまざまな起源の土砂が混じりあいながら運ばれて堆積したものである。そのため堆積物中の石英粒子の供給起源地も多岐にわたることが普通であろう。そうした要因はあるが、ESR測定を行った異なる3流域の河床堆積物は、前述した3つの信号を用いて識別できることが確認された。さらに、奈良盆地北縁の奈良阪丘陵・台地を構成する堆積物の石英粒子について、供給起源地の検討を行った。その結果、奈良阪丘陵・台地の堆積物は、現流域の現河床堆積物とはかなり異なるESR信号強度を示すことがわかった。これは、奈良阪丘陵の堆積物が、現水系パターンとはかなり異なる水系パターンの下で堆積した可能性を示している。河成堆積物は多数の供給起源地に由来する物質を含む可能性があるが、石英粒子のESR信号特性は河成堆積物の堆積環境を推定するひとつの手がかりとして利用できる可能性がある。文献成瀬敏郎・柳精司・河野日出夫・池谷元伺(1996):電子スピン共鳴(ESR)による中国・韓国・日本の風成塵起源石英の同定.第四紀研究,35,25-34.成瀬敏郎・小野有五・平川一臣・岡下松生・池谷元伺(1997):電子スピン共鳴(ESR)による東アジア風成塵石英の産地同定!)アイソトープステージ2の卓越風復元への試み!).地理学評論, 70,15-27.Toyoda and Naruse (2002) Eolian Dust from Asia Deserts to Japanese Island since the last Glacial Maximum: the Basis for the ESR Method, Japan Geomorphological union, 23-5, 811-820.
  • 村山 良之
    p. 241
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    地形改変地における地震災害 日本では、都市の郊外住宅地が丘陵地等に地形改変をともなって広く展開し、近年では大きな地震のたびに、これらの地域で特徴的な被害が発生する。すなわち、切土部では住宅等の被害がほとんど発生しないのに対して、盛土部や切盛境界部で、不等沈下や崩壊といった地盤破壊にともなう住宅等の激しい被害が発生する(1978宮城県沖地震、1993釧路沖地震、1995阪神淡路大震災、2004新潟県中越地震等)。またこのような地盤破壊までは至らなくとも、切土部と盛土部・切盛境界部で瓦屋根等の被害発生率に大きな差が生じる場合がある(2001芸予地震、2003三陸沖の地震、2005福岡県西方沖の地震)。 発表者はこれまで、宮城県沖地震、釧路沖地震、阪神淡路大震災、福岡県西方沖の地震について、地形改変前後のDEMを作成し、GISを用いて、地形とその改変に関わる土地条件指標群と建物被害発生との関係について統計学的検討を行ってきた。その結果、これら土地条件群は建物被害発生についてある程度有効な説明力を持つことを明らかにした。「総合的な宅地防災対策」への期待 2005年12月、国交省は、宅地の地震防災対策として、「大地震時に相当数の人家及び公共施設等に甚大は影響を及ぼすおそれのある…大規模谷埋め盛土」の「滑動崩落」対策を主とする「総合的な宅地防災宅策に関する検討報告(案)」を提示するに至った。より具体的には、「宅地安全性に係る技術基準の明確化」、「宅地ハザードマップの作成」、既存の「宅地造成等規制法の改正」等を行い、新規造成宅地だけを対象とするのではなく、既存の宅地についても、地方公共団体が「特に危険な大規模盛土造成地」を「造成宅地防災区域(仮称)」に指定する等して、減災対策実施を関係者(土地所有者等)が連携して実施するものとしている。これまで宅地盛土には(一部を除いて)技術基準すら存在しなかった状況からすると、大きく踏み込んだ内容を有する本政策は、地震防災におおいに寄与することが期待できる。発表者は、この政策の基本方針を強く支持するものであるが、さらに有効なものにするために課題について以下に記す。_丸1_ 対象範囲のスクリーニング方法 本学会災害対応MLで既に名古屋大の鈴木康弘先生指摘のとおり、スクリーニング作業方法について十分に検討すべきである。発表者の経験からも、提案されている地形改変前後のDEMに基づく盛土分布の把握にはかなり丁寧な作業必要である。この作業に加えて、新規造成宅地の場合は施工図面の提出義務化、既存造成宅地についても可能な限り収集作業を行うのが、精度と費用の点で有効と思われる。_丸2_ 本政策の対象範囲 対策実施に対して公的支援を想定しており、対象が限定されるのは、やむを得ないが、近年の地震災害では、この対象外のところでも(盛土全体の滑動がなくとも切盛境界で不等沈下発生、小規模盛土で滑動崩落等)宅地や住宅で大きな被害を受けている事例も数多くあると思われる。_丸3_ 宅地ハザードマップの公表と利用 スクリーニングから漏れた盛土部を含むできるだけ広い範囲について、宅地ハザードマップ(切土盛土分布図)公表を義務化すべきである。このことが対象外(滑動しないと予測されたものや小規模)の盛土部での個人的対策実施を促し、_丸2_の課題に応えると考えられる。さらに、不動産売買時の提示義務化や、建築確認申請時の参照義務化、地震保険の保険料算定基準への採用など、マップの利用方法についても踏み込むことが、さらに自助努力のインセンティブになると考えられる。
  • 古代・中世
    吉川 國男
    p. 242
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    条里と水利との関係,条里の地域的展開の範囲と水害との関わり等を中心に述べる.
  • 中国、陝西地域調査 その1
    石原 潤
    p. 243
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    中国の農産物流通機構は急速な変化の過程にあるが、その実態を把握すべく、西安市の蔬菜の流通についてあるが、調査を行った。1、卸売り段階 西安市街地には、6つの野菜の卸売り市場が、1つが広域集散機能をはたしており、全国の荷が集まり、地域内外の他の卸売り市場にも、転送している。他の5つの市場は、転送荷を受けるか、独自に省内または、近隣諸省からの荷を集める。2、小売段階 野菜の小売は、小売市場または、スーパーマーケットを通じて行われる。小売市場は、かつては露天で開かれていたが、現在は上屋または建物内に収容されている。小売商人が比較的近くの卸売り市場で仕入れて販売する。野菜は新鮮で安いので、消費者の多くはここで購入する。スーパーマーケットは、近年数多く開設されたが、野菜は鮮度が悪く、価格も安くないので、消費者は、他の商品を買いに来たついでに購入する程度である。
  • 天井澤 暁裕, 小山 拓志, 増沢 武弘
    p. 244
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    南アルプス南部の千枚岳,荒川岳をへて赤石岳に至る稜線上には連続性を欠くが,周氷河性平滑斜面が分布している.本地域の周氷河作用については,荒川岳と赤石岳の鞍部にあたる大聖寺平で斜面物質移動量の計測があるにすぎず(岡沢ほか,1975),周氷河性平滑斜面についての記載も少ない.周氷河性平滑斜面の発達が顕著な荒川岳の丸山において,地形形成営力と斜面物質移動量を明らかにするため,南アルプス南部,悪沢岳周辺にみられる周氷河性平滑斜面にて現地調査を実施した.
  • 万葉線存続運動を事例として
    高橋 悠
    p. 245
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1. 問題の所在わが国の交通事業全般に対する規制緩和の一環として,2000年に鉄道事業法が改正され,鉄軌道の需給調整規制が廃止された.この改正では鉄軌道事業からの撤退が許可制から届出制へと移行し,事業者の判断による鉄軌道路線の廃止が可能となり,各地で赤字路線の廃止や事業撤退が相次ぐ事態となった.これに対し,自動車交通と比較して輸送特性や環境面において有利とされる鉄軌道の存在意義を見直す動きも出始めており,鉄軌道の存廃・維持に関する議論が各地で活発化しつつある.本発表では,日本国内の地方鉄道・路面電車の活性化に向けた施策に関する全国的な動向を概観・考察する.また,近年の新たな動向といえる地域主体での鉄軌道路線の維持・活性化という視点から,富山県の路面電車「万葉線」の存続・活性化活動を事例とし,地方自治体と市民の対応,および連携の状況について分析を試みることを目的とする.2. 鉄軌道の現状と活性化の動向日本の公共交通は事業者による独立採算運営が基本である.しかし,いわゆる交通弱者に対する移動手段の維持という観点から,単に赤字という理由だけで公共交通の廃止を容認することは難しい.そのため,自らの経営基盤としての鉄道を活性化させ,地域住民の足としての機能を維持するため,事業者側による様々な経営努力が行われている.民間事業者の赤字鉄道路線は,主に不動産や乗合バスなどの関連事業の収益による内部補填で維持されてきた.また,沿線自治体の協力によるイベント開催や,周辺観光地との連携などにより,沿線地域とともに鉄道路線を活性化させる取り組みもみられる.一方,路面電車は,自動車交通の阻害要因になるとして,1960年代以降は各地で路線の撤去が相次いだ.しかし,1980年代頃から欧州等における新しい路面電車(LRT)を活用した市街地活性化の成功事例が注目されるようになり,1990年代以降は日本各地でも低床車両の導入や路線延伸などが実施されはじめている.こうした動向のほか,先に述べた規制緩和以降,地域の交通に対する地方自治体の役割が重要視されるとともに,利用者の立場である沿線住民側の対応が注目されはじめた.地方自治体と住民らが連携し,地域主体で鉄軌道の維持・活性化を図る動きがみられるようになったといえる.3. 万葉線存続問題と地域社会の対応 富山県の路面電車「万葉線」(高岡駅前・越ノ潟間12.8km)は,高岡市の中心市街地と,高岡市に隣接する射水市の旧・新湊市街地を結ぶ路線である.1966年に路線が縮小されてからは利用客の減少が続いていたが,1993年,国からの欠損補助打ち切り表明を契機に存廃問題が顕在化して以降,存続運動が展開された.当初は,存続に関する意思決定機関としての行政組織「万葉線対策協議会」(1980年発足)を主体とし,イベントを中心とした利用促進策が多く講じられた.1995年に当時の運営事業者が撤退を表明してからは,自治体・事業者間で存廃に関する協議が繰返し行われたが,鉄軌道資産の譲渡額をめぐり,調整は難航した.この間には,万葉線の支援組織「万葉線を愛する会」(1993年発足)や市民団体「RACDA高岡」(1998年発足)による,市民主体の活動が目立つようになる.「愛する会」ではツアー企画などの単発イベントの実施が中心であったが,「RACDA高岡」はまちづくり団体としての性格が強く,地域社会における万葉線の有用性を広く啓蒙する役割を果たした.こうした活動の展開により,存続運動は単なる利用客増加のための施策から,公共交通としての存在意義を重視する方向へと性格が変化したといえる.2000年には,「市民参加型」とする第三セクター会社の設立により,万葉線の存続が決定された.新会社の設立準備資金1億円は市民レベルでの募金によって賄われており,市民活動の積極的な展開が行政の決定に影響を与えたものとみられる.万葉線の事例では,市民側の対応が路線存続に果たした役割は大きく,その一方で自治体側は市民の意見を反映した施策を講じており,地域社会内での連携を見出すことができる.
  • 佐々木 洋一, 野上 道男
    p. 246
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1、 問題の所在 日本において,地形がもたらす降水の最も典型的な例として,冬季における日本海側での降水が挙げられる.冬季降水の及ぶ範囲についての研究例は古く,鈴木(1961)では西高東低の気圧配置下において日本海側にのみ降水域が分布するのではなく,峠を越えた雨(雪)雲が太平洋側にも降水または降雪をもたらすことを示している.また,日本海側においても利尻島や佐渡ヶ島の雨蔭にあたる地域では,降水量が少ないことを明らかにした.しかし,とくに山地に観測所がほとんど無いため,山地においての降水分布の精度には疑問が残る.近年,レーダーアメダス解析雨量データの登場によって降水量データの空間分解能は向上した.2001年4月から解像度が5km×5kmから2.5km×2.5kmになり,約17km四方に一ヶ所というアメダス雨量とは比べものにならない.アメダス雨量計による観測では,精度の高い値が得られる反面,アメダスの存在しないところでは,その雨の分布を知ることができない.それに対して,レーダーによる観測では面的な,すきまのない雨量の分布を得ることができる(新保.2001)という特徴がある. 本研究では,レーダーアメダス解析雨量データから検出される冬季降水の及ぶ範囲について,冬型の気圧配置の場合を対象にして明らかにすることを目的とする.2、 使用データ_丸1_ レーダーアメダス解析雨量2002_から_2004年(気象庁)_丸2_ 地上天気図(気象庁)_丸3_ 1km-DEM(国土地理院)3、 解析方法研究対象期間は,2002_から_2004年の冬季(1_から_3月および12月)である.この対象期間の中から,気圧配置が西高東低である日を選び出した.解析には,自作のC言語プログラムを用いた.まず,レーダーアメダス解析雨量データを1時間ごとに展開し,24時間積算して日降水量分布図を作成した.この日降水量分布図から降水の有無を判別し,降水の及ぶ範囲について考察を行った.図.1 2003年1月5日の日降水量分布図.凡例の単位は0.1mm.レーダーアメダス解析雨量データを24時間分積算して作成.引用文献鈴木秀夫(1961):冬季降水の及ぶ範囲について,地理学評論34,321-326新保明彦(2001):レーダーアメダス解析雨量(_I_),天気48,579-583
  • 峯 孝樹, 小野寺 真一, 田瀬 則夫
    p. 247
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 河川の流下にともなう窒素の自然浄化機能は、従来から指摘されてきている(Burt et al., 1993; 宗宮,1993など)。しかし、河川中での地下水との水の出入りや、大気や植物などとの物質の出入り、河川中での物質輸送量の推定法に含まれる誤差など、不確定要素が多く残されていたため、必ずしも十分に評価されてきたとはいえない。本発表では、窒素汚染河川において、詳細に物質輸送量を見積もり、その間における浄化の可能性を検討することを目的とした。2. 研究地域及び方法本研究では、広島県のほぼ中央部を流れる黒瀬川を対象とした。河川延長50.6km、流域面積238.8km2の二級河川である。本河川は、東広島市の並滝寺池を源とし、西条盆地、黒瀬盆地を南流し、呉市広で瀬戸内海に注いでいる。地質は主に広島花崗岩類などからなる。観測地点は源流より約20km流下した付近である。図1中のBでは、東広島市の下水処理水が流入している。特に、窒素処理は十分ではないため、そのアンモニア濃度は高く、これより下流側で浄化量を定量するには適した場所である。そこで、A_から_Eにおいて、流量及び採水を行った。C地点付近では川岸内の地下水の採水を行い、E地点付近では、河岸の樹木周辺で採水を行った。なお、D地点では、自動計測及び採水を行い、A地点においても計測を開始した。計測には水位計をもちいて自動観測を行い、同時に自動採水機をもちいて河川水を採取した。採水したサンプルは実験室に持ち帰り、イオンクロマトグラフィーをもちいてNO2_-_-N、NO3_-_-Nの濃度を、全有機体炭素計を用いてDN濃度を測定した。またインドフェノール法をもちいてNH4+-N濃度を測定した。3. 結果と考察表1 流下にともなう濃度及びフラックス変化  Runoff DN DOC Q-N Q-DOC  (m3 s-1) (mg l-1) (mg l-1) (g s-1) (g s-1)A 0.398 5.04 3.43 2.02 1.37B 0.201 21.92 7.96 4.41 1.6A+B 0.599 10.78 4.96 6.43 2.97C 0.596 11.16 5.08 6.65 3.03D 0.617 8.31 4.31 5.13 2.66表1は、A地点からD地点までのフラックスの変化である。D地点に至るまでのわずか500mの間で、窒素フラックスは20%も減じている。DOCにおいても10%みられる。この間には、堆積物中との水の交換が行われており、そのことが浄化に寄与しているものと考えられる。このほか、堆積物中の地下水の濃度、樹木の影響、土砂との相互作用などを検討したので、報告する。
  • 小山 拓志
    p. 248
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
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    1,はじめに これまで南アルプス南部での周氷河地形に関する研究はいくつかの報告にとどまるのみで(たとえば、岡沢ほか,1975)気温・地温測定や斜面物質移動量の計測など、定量的なデータを用いて言及した研究は非常に少ない。 南アルプス南部に位置する赤石岳から千枚岳の稜線沿いには、周氷河性平滑斜面が分布しており、そこには明瞭な構造土も見られる。とくに悪沢岳の東側に位置する丸山は、日本の山岳地域では珍しく南北斜面の非対称を見せており、双方に周氷河性平滑斜面が分布する特異な地点である。 2005年8月に丸山北向き斜面において測量、ペンキラインおよびグラスファイバーチューブの埋設などをおこない、その際得られた若干の知見を報告する。
  • 寺田 和貴
    p. 249
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに現代都市の成長・変化を規定する中枢管理機能の発現主体であるオフィス空間は、おもに大都市の都心部に集積し、高次な業務地区の形成に影響を与えてきた。近年では、経済の情報化・グローバル化の進展に伴い、拡大を続けるオフィス空間の変容が大都市内部構造に大きな影響を与えている。日本の都市の代名詞である東京では、都心を中心に現在も大規模なインフラ整備が行われている。オフィス空間は、大型オフィスビルの供給が活発化している一方で、継続的な需要が続いているために、ますます拡大していく様相を呈している。都心における空室率は上向き景気による新規需要に加え、新規供給が落ち着いた水準となったことが影響し、改善傾向を示している。2.研究目的本研究では、東京23区内におけるオフィス空間の形成の違いについて明らかにする。各地域に進出・入居している企業にどのような違いがみられるか、また地域性の違いについて比較して明らかにする。3.2003年問題によるオフィス空間需給 東京都心部の大型ビルの集中供給に伴う都市問題としての2003年問題により、まずは需要の量的抑制があげられる。バブル期まではオフィス空間需要は着実に増加を続けると想定され、また、賃料も契約更新ごとに上昇するということがあった。しかし、バブル崩壊により、経済が低迷する中で企業がリストラの対象としてオフィス面積やオフィスコストを位置づけ、それらを削減するようになった。 オフィス空間需要の変容は、この量的側面だけではなく、企業経営の変化に伴って質的側面にも及んでいる。経済のIT化はオフィスビルに高度なITを促進し、経営の効率化は分散したオフィス集約を進めた。また、経済のグローバル化を背景として、1990年代後半から増加した外資系企業は、オフィスビルにセキュリティ対策や耐震性を強く求められるようになった。 オフィス空間供給の変化については、ビルの大型化が指摘される。ビルの大型化は、分散した事業所の集約や企業グループ再編に必要な「まとまった面積」を提供でき、合理性や効率性を高めた需要側にとって良い点が多い。また、オフィス空間供給のもう1つの特徴として、ビルが大規模開発における複合用途の1つとして計画されているケースが多い。東京では、旧国鉄用地における開発、バブル崩壊後に凍結していた再開発事業の再開など、まとまった規模の開発が多いことが、昨日複合化の要因の1つとなっている。 都市再開発は、多様な機能が開発内に共存することで、相互に付加価値を高める効果が生じているとみられる。近年では、都心部に供給されているタワー型マンションも、このような複合機能の1つとして供給されている。4.オフィス需給の実態分析現代都市の成長・変化を規定する中枢管理機能を伴うオフィス空間は、主に大都市の都心部に集積し、高次な業務地区の形成に影響を与えてきた。現在東京では、鉄道や道路の整備、まとまった規模の都市再開発など、様々な再編が進んでいる。オフィスビルも、2003年問題と呼ばれた大型ビルの集中供給により、拡張や新設といった積極型が増え、需要が継続し、事業所の縮小を目的にした移転は減少した。2005年の空室率は新規需要に加え、新規供給が一段落したことが影響し、改善傾向を示した。また賃料は、供給過剰な状況を反映して、テナント募集賃料と成約賃料との乖離は縮小している。千代田区・港区・中央区と新宿区・渋谷区の5区のオフィス空間需給バランスは、空室率では、2004年が2003年を下回る5.7%であり、ITや外資系需要に沸いた2000年以来4年ぶりに改善した。新規供給が抑制基調で推移していることもあり、築浅の大型既存ビルを中心に空室解消が進み、まとまった面積を確保できる大型ビルは供給不足気味である。このように、東京都心部の再編が発展的に進んでいる背景に、オフィス街としての機能性のほかに、働く環境「アメニティ」の改善が行われた結果であるといえる。つまり、需要におけるニーズがオフィスビルの利便性だけではなく、ビルが立地する街の魅力を付加価値として重視するようになったためである。
  • 東京都浅川における研究事例
    福本 塁
    p. 250
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/05/18
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
     日本の主要都市の多くは扇状地に立地,もしくは扇状地の近くに立地している.そのような立地条件に注目し,流域スケールでの水質把握とともに,扇端湧水により,河川提外地に形成される”わんど“等の本流と異なる水環境を本流と併せて扇状地河川として捉え,水質形成機構を解明することを試みている.さらに,採水日の条件や日時間変動,河川流路横断面における水質分布の不均一性を考慮した高精度な測定を行い,河川水と地下水の相互交流についても検討している.本発表においては,浅川流下過程における水質変化を発表する.
    研究方法
     東京都八王子市・日野市を流れる浅川流域において,採水地点を設定し,溶存無機イオン負荷量を測定する.河川水質は静的な捉え方ではなく,河川流況と併せて,動的に捉えることが重要である.しかし,実際の水質調査においては,採水日条件が定量的に示されていない場合が多く,得られた水質データが河川水質全体の中で,どの時点における水質なのか位置付けられていない.そこで,本研究では国土交通省テレメータ水質データを解析し,季節変動および,降水の影響を考慮した採水日条件を設定し,採水日における日時間変動を抽出した.現地調査において,水温,EC,pH,アルカリ度(HCO3-)を測定し,溶存無機イオン負荷量においては(太田・大森2004)による,高精度測定法を用い採水・流量観測を行った.得られた試料は実験室において,主要無機イオンであるNa+,K+,Ca2+,Mg2+,Cl-,NO3-,SO42-について定量分析を行った.流域の境界線および土地利用状況は国土地理院発行の数値地図25000および数値地図50mメッシュ(標高),国土地理院発行細密数値情報1994(八王子市・日野市発行の都市計画図により修正)を使用し,GISソフト(TNTmips Ver.7.0 Micro Images社)により算出した.
    結果・考察
     本発表においては,2005年11月と12月における調査により得られたデータを用いる.
     18Km-15.6Km区間においては,支流による負荷よりも,その区間における,雑排水の流入,地下水との相互交流が寄与している可能性がある.15.6Km-14.1Km区間においては,支流の流入がないにもかかわらず,1Kmという短い区間で水量が78%増加している.組成変化に注目するとHCO3-が負荷されていることから,大規模な湧水の流入や地下水の流入があることが考えられる.13.7Km-11.8Km区間においては小規模な支流の流入があるが,31%減少している.水質組成にも変化が見られないことから伏流による減少であることが考えられる.9Km-7.7Km区間においては下水処理水が流入しており,水質濃度および負荷量に大きな負荷を与えている.
    今後も,採水日条件や日時間変動を考慮しながら,季節変化を把握するために継続的な調査を行っていく.
    参考文献
    海老瀬潜一,井上隆信(1991),支川の合流を伴う河川流下過程における水質変化量の定量評価,水質汚濁研究,14,243-252
    小倉紀雄(1997),水・物質循環と河川の流域環境,日本水文科学会誌,27,179-184
    斉藤享治(1998),日本の扇状地,古今書院
    太田剛・大森博雄(2004),河川の溶存無機イオン負荷量測定法の改良とその精度検討,日本水文科学会誌,34,173-187
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