1.はじめに
「クラインガルテン(Kleingarten)」は元来,ドイツを中心にみられる都市内の小規模な賃貸農園であり,都市に暮らす庭を持てない人々がレクリエーションとして園芸を楽しめるよう,都市の中に造られた緑地空間である。一方,わが国では,近年「市民農園」のことをクラインガルテンの名で呼ぶ例が多くみられるようになってきている。とりわけ,グリーンツーリズムを推進する上で農村地域と都市住民との交流拠点とするため,滞在施設を附属するこうした農園を建設する事業が増えている。そこで今回の報告では,笠間市における宿泊施設付き市民農園を事例として,その運営システムと利用の実態について紹介しながら,農村地域の活性化に果たすクラインガルテンの役割について考える。
2.笠間クラインガルテンの概要
笠間クラインガルテンは旧笠間の市街地から約5km南の本戸地区にある。全体の規模は約4haで,敷地の中には1区画300m
2の宿泊施設付き市民農園が50区画あるほか,1区画30m
2の日帰り農園50区画やクラブハウス,農産物直売所,そば処などが併設されている。この施設は,農村資源活用農業構造改善事業ほかの補助を受け,総事業費8億3千万円をかけて平成14年に完成している。当初,事業主体の市が行っていた管理運営は,現在,指定管理者制度によりJA茨城中央に委託している。
宿泊施設付き市民農園の使用料は,1区画年間40万円であり,光熱費や居住地との往復交通費などは別途必要なため利用にかかる費用負担は大きい。また,年4回ある共同作業への参加が求められ,菜園では有機栽培,無農薬栽培を実践しなければならないなどの制約もある。しかしながら開設初年度から50区画が全て利用者で埋まっており,契約を更新して継続利用する人も多いため,毎年,新たに借りられる人が限られほどの人気である。
3.宿泊施設付き市民農園利用者の実態
2007年度における施設利用者(代表者)50名の居住地は,東京都が22,千葉県10,神奈川県9,埼玉県7,茨城県2であり,利用者すべてが都市の住民である。
利用者に対して実施したアンケート調査(2007年5月実施,有効回答50)によれば,60代が7割ほどを占め,年配者が多い。また,全回答者の6割近くはすでに退職した人々で,第二の人生を楽しむための手段としてこの施設を利用している人の多いことがわかる。回答者には,ここを利用する以前から農業・園芸について何らかの経験をしている人が6割程度おり,もとから農業に強い興味をもっていたことがうかがえる。
大半の回答者は週1回程度ここを訪れており,主として週末を利用し1~2泊程度滞在することが多い。なお,ここに訪れる際はほとんどの人が自動車を利用している。利用年数では2年~7年と更新を繰り返している人も多く,40名中39名までが次年度以降も施設の継続利用を希望している。菜園での作業については,半数以上が「非常に楽しい」と回答しており,また,宿泊を楽しみにしているとした回答者も多い。
4.笠間クラインガルテンの役割
この施設は農業に関心のある都市住民によって,非常に愛着を持って利用されている施設である。大都市圏からのアクセスが良く,緑豊かな環境にも恵まれるという立地の好条件から,利用頻度は高く,継続利用する人も多い。また,宿泊することで家族や知人との団らんを楽しめる上,ここを拠点にすれば周辺地域への観光の可能性も広がるなどの利点もあり,利用者の満足度は高い。かつての施設利用者の中には,笠間市に移り住むなどして農業をしながら新たな生活を始めた人もおり,この施設は都市住民に地元の良さや農業の魅力を伝える役割を果たしているともいえる。
一方,施設の立地する笠間市本戸地区への影響も大きい。地元住民は施設で開催されるイベントに参加することも多く,そこから施設利用者との交流の輪が広がり,今では自らの農地を農業体験の出来る場として提供したり,施設利用者との契約栽培を行う農家もある。また,施設に付属する直売所では地元産品の販売が出来るため,そこに出荷する目的で作物を栽培する農家は多い。さらにはそれらに刺激を受け,有機農業や農業経営の転換をはかる農家も出てきている。
このように笠間クラインガルテンは,都市住民と地元農家との交流を促して地域農業の活性化をはかるために貢献しており,その意味ではグリーンツーリズの実践という設立の主旨にかなっているといえよう。
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