1) 検討目的 国指定史跡などで行われる史跡保存管理計画に直接関わる機能をもつような地形分類図の作成意義について、本学会2016秋季大会で述べた(地理予90,p.111)。傾斜地の史跡は、丘陵頂部と斜面を改変した
中世山城、山地・丘陵地の開析谷の斜面や谷底面を利用した
寺院境内地などであり、史跡によって要求される地形分類要素・表現縮尺・地形変化予測・入手できる基図が異なっているが、経験的に基図縮尺が少なくとも1/10,000以上、できれば1/2,000(等高線間隔1m)であれば有効である。表現すべき地形分類要素は、
集水型斜面範囲、崖錐、谷底面、水路、盛土造成地、変状微地形(地すべり割れ目、断層小崖)
などである。その上で、史跡保全において最も頻度の高い災害である風水害の危険箇所を付記するのがよいと思われる。
基図として国土基盤情報の5m格子標高から作成した等高線間隔2~0.5m等高線図は、写真・レーザー測量の1/2,000程度の実測図に比べて谷型斜面の表現が甘いが、一応の目的にはかなう。
山形県大江町(国史跡)左沢楯山城を例に、レーザー測量図に基づいて大縮尺の地形分類図を作成して効用を検討した。2) 中世の山城遺跡 史跡左沢楯山城跡の地形は、丘陵地を切り盛り整形してつくられた約400年前の人工地形である。天然の要害となる深い谷斜面に囲まれた丘陵頂を選んで、陣の配置を構想し、さらに切り盛り造成によって防御機能を強めている。尾根や山腹を削り、削った土を盛り立てて平坦面を広げて兵の溜まりと移動の場とし、段々の平坦面の間の斜面の勾配を増やして防御に役立てている。
史跡左沢楯山城跡の地形のほとんどの部分が人工地形といえる。全山にわたって帯曲輪の平坦面、切岸の急斜面、堀切、あるいは土橋(?)などの施設がある。城が放棄された後、山林や耕地となっていたが、約400年前の造成地がほぼ残っているといえよう。
3) 縄張り検出 レーザー測量によって樹林被覆を透かして測定された約0.5m格子標高点から合成して等高線間隔1mおよび0.5mで描かれた地形図(大江町教委2016年作成)を適宜縮小して、平坦部・急傾斜部の傾斜の違いを強調すると、
そのまま縄張図としてこれら人工地形を良く表現できる。
4) 想定する災害種 史跡範囲に分布している地質は、第三紀鮮新世の海成砂岩層で、半固結で、地表で風化をうけるともろく、特に水分を含むと容易に崩れる。植被を欠くと融雪期に霜の作用で壁面が崩れる。2013年7月の大雨(7/18の日降水量は132mm)では、表土崩壊、大規模地すべり・流土を生じた。表土崩壊は集水型斜面で起きていた。大規模地すべり(幅30m,長さ40mの地すべり。これから生じた土石流の延長80m)の発災箇所は昭和中期の谷埋め盛り土であった。
約400年前の造成地がその姿をとどめている理由は、帯曲輪の平坦面は切り盛り造成ではあるが、原形の丘陵地形に沿って尾根の縦断方向・横断方向とも切り盛り土量の規模が小さく、地下水が集まるような深い谷を埋める造成はされていないこと、平坦面が集水型斜面となっていないためと考えられる。
5) 表流水の経路の把握 この史跡の造成地形を将来にわたって保全するためには、集水型(凹型)斜面と平坦面を横切る水の経路を把握しておく必要がある。
6) 等高線間隔1m基図による地形分類図・等高線間隔0.5m基図による地形分類図・等高線間隔0.2m基図による地形分類図・陰陽図の比較 当史跡全体にわたって空中レーザー測量によって0.5m格子標高点から間隔1mおよび0.5m等高線図が作成された。一部地区のみ地上レーザー測量で0.2m間隔等高線図が作成された。これらを基に集水型(凹型)斜面や変形地形を読図し、縮尺1/750~1/400の地形分類図を手作業で作成した。
間隔1m等高線図から描くことができる谷型斜面は総描的、間隔0.5m等高線図から描く谷型斜面は線的である。
陰陽図(朝日航洋㈱特許方式)に重ね合わせたところ、1/1,000陰陽図は集水型斜面を総描しているが、0.5m間隔等高線図の手作業による地形分類図のほうが流水の想定経路を詳しく表現できる(図1)。
0.2m間隔等高線図による地形読図を、斜面の修復工事に伴う発掘調査によって検証すると、風化土と基岩との境、崩れはじめた土塊のちぎれ微地形を表すことが確かめられた。この精度の地上レーザー測量を急傾斜地の史跡全体に適用することはできないから、上述の史跡保全目的には0.5m格子標高点から発生させた0.5m間隔等高線図を基図とするのがよいことがわかった。
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