1.課題設定
本報告は,住宅の空き家を対象とし,その対策の地域差に関する考察を,次に挙げる2つの視点から考察する。
1つ目は,自治体の空き家対策にかかる条例(以下,条例という。)制定および空家等対策の推進に関する特別措置法(以下,空家特措法という。)で規定された空家等対策計画(以下。計画という。)が,どの地域で策定されたかを検討することである。西山(2016)は,条例が制定された自治体は豪雪地帯に多いと指摘したが,本報告は,空家特措法施行という状況変化を踏まえて,条例や関連法令を含む法規の制定や計画策定状況を評価する必要があると考えた。
2つ目は,空き家の解体ニーズに対応する融資の取扱状況に地域差があるかを検討することである。由井ほか(2016)は,空き家の地域分布や各地の取組み状況を議論したが,空き家対策にかかる融資の地域差は捉えていない。空家特措法は,空家等の所有者に対する空家等の適切な管理義務を規定しており,空き家解体の資金需要が生じると考えられる。一部の金融機関は,この時勢を捉えた融資を取り扱い始めたが,本報告は,融資内容や条件の地域差が何であるかを明らかにする必要があると考えた。
2.空き家にかかる自治体法規の制定・計画策定状況
空家特措法が施行される2015年3月以前に空家対策にかかる条例を制定した自治体(西山 2016),および,国土交通省が公表する計画が策定済みの市区町村(2017年10月1日時点)を重ね合わせると,条例が先行する自治体よりも条例の空白地域で同計画の策定が進んでいることがわかる。また,空き家率(2013年の住宅総数に占めるその他住宅に区分される空き家の割合)が高い地域ほど,法規の制定や計画の策定が確認された。
これらの地域差が生じた原因は2つ考えられる。1つ目は,法規制定・計画策定の自由は自治体にあるためである(北村 2015)。空家特措法よりも独自法規が先行した自治体の場合,先行法規の改正に時間を要している,または先行法規を継続し,計画を策定しないと判断したためである。
2つ目は,法規の未制定であった自治体の場合,空き家率低減に向けて早期に計画を策定したためである。
すなわち,空き家にかかる自治体法規の地域差は,豪雪地域であることに加え,自治体の法規制定・計画策定に対する判断も考慮する必要がある。
3.地方銀行での空き家解体融資の取扱状況
本報告では,各都道府県で個人向け預金・貸出シェアが概ね一番高い銀行(一般社団法人全国地方銀行協会に所属する64行。以下,地銀という。)を対象に,空き家解体が使途に明示されている融資(以下,空き家解体融資という。)の有無や特徴を分析した。
なお,当該融資の情報は,各地銀のWebサイトを2018年1月上旬に閲覧して取得した。また,Webサイト「空き家解体サポート」に掲載のある2017年9月時点の空き家解体融資は183金融機関(46地銀,35その他銀行,73信用金庫,11信用組合,26JA,2労金)で,地銀が金融機関の種類別で取扱シェアが最も高い(73.4%)。
結果,空き家解体融資の取扱が開始された地銀は51行であり,本店所在地別に地域区分すると,中部,近畿,四国では全ての地銀で当該融資が確認された。
また,空き家解体融資の特徴は,(1)地方創生を受けて2015年度中に新規融資商品として取扱開始した地銀が多いこと,(2)自治体の空き家解体補助を受けた貸出金利の引き下げが東北や九州を中心に確認されること,(3)貸出金利は,使途を制限しない多目的融資等に比べ低いこと,(4)返済完了時の年齢が,東北や九州で高めに設定されていること,(5)2014年以前に取扱開始した地銀は秋田県に本店が立地する2行のみであること,が挙げられる。
4.今後の課題
空き家対策の地域差に対する理解を深めるため,空き家対策にかかる自治体の施策と実績,および空き家解体融資の融資実態を分析することが,今後の課題である。
文 献
北村喜宣 2015.空家対策特措法の成立と条例進化の方向性.日本都市センター編『都市自治体と空き家-課題・対策・展望-』11-48.日本都市センター.
由井義通・久保倫子・西山弘泰編 2016.『都市の空き家問題 なぜ?どうする?』古今書院.
西山弘泰 2016.全国の自治体による空き家対策.由井義通・久保倫子・西山弘泰編『都市の空き家問題 なぜ?どうする?』187-203.古今書院.
抄録全体を表示