日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の160件中151~160を表示しています
発表要旨
  • 井口 梓
    セッションID: 325
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    2009年の総務省「地域おこし協力隊」の制度開始から、約10年が経過した。制度をめぐる状況も変化しつつあり、隊員募集内容の差別化やロールモデルを活用したプロモーションなど、隊員確保に労する自治体もみられる。一方で、多様な移住制度が充足する中で、定住を目指す隊員の志向、価値観も変化しつつある。本研究の目的は、今治市の地域おこし協力隊を事例に、隊員のショートライフヒストリーを収集し、約10年にわたる制度の変化を踏まえつつ、彼らの移住、隊員活動、定住実態を明らかにする。2007年度から2016年度にかけて、今治市の移住相談者数は411件、移住者は71世帯133であり、愛媛県内でも移住者の受け入れ実績が多い地域である。移住支援も充実しており、住宅改修支援事業など子育て世代の住宅支援、またNPO法人しまなみアイランドスピリットによる移住情報の発信、空き家体験ツアー、移住相談・現地案内、「ラントゥレーベン大三島」など移住体験施設が挙げられる。とくに島嶼部の中で移住希望先として人気が集まっているのが大三島である。2004年以降に建築家・伊藤豊雄氏による様々なプロジェクトが始まり、「大三島みんなの家」など外部者と地域住民を結ぶまちづくりの拠点施設が整備されると、大学生やデザイナーなどまちづくりに関心の高い若い世代が集まるようになった。伊藤豊雄建築ミュージアムの2018年の企画展「聖地・大三島を護る=創る」では、8人の移住者(隊員を含む)を紹介する展示が行われた。若い移住者が試行錯誤する様子、活動の軌跡、親しい人々、移住して得た多様な価値観など、等身大で描かれたセンセーショナルな展示は、大三島移住・定住のロールモデルを印象付けるものとなった。愛媛県では、2010年に西予市、内子町が地域おこし協力隊制度を最初に導入し、今治市は次いで2011年に開始した。今治市では、大島、伯方島、大三島、岡村島の4島で隊員を受け入れ、2011年から3年間は地域再生マネージャーを置き、隊員の活動支援をおこなった。今治市の制度はフリーミッション型であり、隊員の受け入れ面接にて、配属を希望する島と自身が取り組みたい島での活動や定住に向けた将来的な方向性をプレゼンテーションする。各島の支所を活動拠点とし、各島の自治会、祭事、地域づくり活動に参加しながら、農漁業への従事や起業、定住に向けた活動を行う。2016年から配属地に市街地が加わり商店街活性化が行われるようになった。2017年にクラウドファンディング事業導入後には、ファンドを利用して鳥獣対策の獅子肉を活用した飲食店が大三島で開業され、愛媛県内で話題となった。現在は12人が現役隊員として活動している。2012年から2018年までに配属となった地域おこし協力隊21人に対して、現在に至るショートライフヒストリーや、3年間の隊員活動、生活実態について聞き取り調査を実施した。隊員は、大学卒業後すぐに隊に就いた20代前半から子育てを終えた50代まで年齢は幅広いが、30代から40代の単身者が多い。大阪府や東京都からの移住割合が高く、2011年の東日本大震災を移住志向の転機とする者が多い。移住に至る経緯の中で、社会貢献への意欲、居住環境の安全性、島での自然なライフスタイル、子育て環境の良さ、歴史性・伝統性(信仰・祭事、地場産業など)への強い憧れ等の語りは共通してみられる。「中途半端にはしたくない」等の語りにみられるように、農漁業の従事など「自給自足」への志向や「島らしい生活」を強く志向すると隔絶性の高い岡村島を選択する傾向が見られ、一方で飲食店やサイクリスト用の宿泊施設の経営の経営など「しまなみ海道」「サイクリスト」を意識した起業を目指す者は残りの3島を選択しており、都市との一定の距離感、大山祗神社等の観光資源との近接性、移住者コミュニティの重要性を指摘する。2012年の受け入れ開始当初の隊員は、コミュニティでの活動や集落再生、第1次産業の担い手を目指す者が多く、フリーミッションゆえに郷土資料の収集やまち歩き、地域住民の会合に参加して関係性をもち試行錯誤する過程がみられたが、次第に起業を志す隊員が増え、地方移住を自活して実現するための「準備期間」や移住のための「一つの選択肢」として隊員制度を位置付ける者がみられるようになった。とくに、起業に成功したロールモデルがPRで取り上げられるようになると、その傾向は強まった。一方で、近年では大三島を中心に、隊員制度を経ない若い世代の移住成功事例が増え、若者移住の「選択肢」が増えつつあり、現役隊員にもコミュニティ活動を志向する揺り戻しや「のんびりとした島暮らし」など個人的なライフスタイルの追求、隊員の確保が難しい島がみられるようになるなど、隊員をめぐる状況は変化しつつある。

  • 新井 教之
    セッションID: P039
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    サモアの地理教育の特色について,サモアの社会科,地理のシラバスや教科書をもとに分析を行った。サモアの地理教育はニュージーランドやオーストラリアの影響を受けていること,地球温暖化の対応など理科的な要素も強い特徴があった。

  • 吉田 裕幸, 田中 岳人, 山本 隆太
    セッションID: P038
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    1.背景

    現代世界においてフューチャーアースに代表される持続可能性に関する取り組みは喫緊の課題である。また,自然地理学では統合自然地理学(岩田2018)のように、統合的・総合的なアプローチに対する志向性が高まっている。こうした社会や学術の動向に合わせ,地理教育は自然地理学習を改善していく必要があるが,用語の改善や防災に関する議論は見られるものの,肝心の統合・総合性を扱うものは多くはない。そこで本発表では、総合・統合性の地理授業の展開に向けて,生態系を取り上げその自然地理学習の実践とそこから見えた課題を報告する。

    2.地理学習における植生の位置付け

    地理教育における自然地理学習は、戦後、様々な変遷を見せた。自然地理的な内容全般については概して、指導要領の変遷に伴って自然の成因的な内容の扱いに変化があった。戦前の自然地理的内容では,現在の地学や生物で取り扱われる内容が取り扱われており,特に戦後直後は気候区分図などの分布図以外は,地学と生物に内容が移行した。その後、自然地理は徐々に成因的内容の回帰をみせてきた。本発表で取り上げる植生については、過去の教科書においては記載の分量は多くなく,また,戦前と戦後で取り扱われ方が異なっている。

     戦前期は「陸界」、「水界」、「気界」と並んで「生物」という独立した項目があり、そこで植生や動物の地理的分布が取り扱われた。戦後,ケッペンの気候区分が扱われるようになると植生の記載が加わったが、動物に関しては取り扱われなくなった。植生を基調としたケッペンの気候区分の定着の前後で,生物的内容の位置づけが変化したといえる。戦前では独立した項目として植生や動物の地理的分布が取り扱われ、戦後では植生のみがケッペンの気候区分の枠組みで取り扱われるようになった。

     こうして植生は気候と組み合わせて扱われるようになったが,2018年改訂の高校学習指導要領の地理探究では,植生が生態系に置き換えられた。これについては、平成 21 年版で「植生」としていたものを,「地球規模の気候変動や環境変動などを捉えるためには,陸域の植物だけでなく,サンゴなどの海洋生物に加えて動物なども含めた生態系の空間的広がりや変化を捉え,その要因を多面的・多角的に考察する必要性が増していることから,環境学的アプローチとして新たに示したもの」(文科省2018)とされた。なお同解説では,国際地理教育憲章から「地域のもつ統合的システムは,一つの地球的生態系の概念へと導かれる」という箇所を引用している。新指導要領では、地球的な環境変動を取り扱うために生態系の概念を導入し,より統合的・総合的アプローチの重要性が増大したことが伺える。

    3.生態系を取り入れた自然地理学習

     そこで、生態系を取り入れた学習を構想した。生物基礎の内容からバイオームを取り上げ,「日本の植生・バイオームから考える」という高校地理Bの授業を行った。

     授業では、「生物の全体」を意味するバイオームの意味から説明を始め、バイオームの分布とケッペンの気候区分の共通性に触れた上で、食物連鎖の概念と組み合わせることで植生の概念をバイオームまで拡張した。また,両者において植生の変化を降水量と気温に着目することで変化が予測できうることを説明した。その上で、ケッペンの気候区分を振り返りつつ、そこから地理として人間生活にも話題を広げ、「地球温暖化が進むと、日本の植生はどのように変わり人間生活はどのように変わるか?」という課題に取り組んだ。その際、熱帯雨林の破壊の事例を参考とさせた。授業後のアンケートでは、「多角的な視点を養うことで他の問題にも応用できるし、逆に片方の視点だけから学ぶと考えが偏ると感じたため」などのように,横断的に学ぶことによる両方の科目へのポジティブな影響があるといった意見が多く得られた。

    4.まとめと考察

     本発表では,統合的な自然地理学習に向けて取組みの一例として、バイオームを取り上げた学習を紹介した。本実践事例のように統合的な観点を含む自然地理学習により、環境問題や地球的諸課題の解決に向けた学びとなりうることが示唆された。今後は,統合自然地理学の研究成果の中から学習指導要領と合致するような事例を検討する必要があるといえる。学習指導要領の解説において生態系が導入される意図については,サンゴ礁が事例として挙げられたことの意味やその適切さについて議論の余地があるように思われる。

  • 山内 洋美
    セッションID: 224
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    1.はじめに

    東日本大震災(以降,震災と記述)発災から8年半が過ぎ,現在の高校生は,発災時小学校低学年であったこともあり,すでに震災の記憶があいまいとなっている。その一方で震災を教材にすることは,未だに非常に配慮が必要で難しい。とはいえ,沿岸部に位置しながら内陸部からも生徒を受け入れる現勤務校にとっては,生徒の命を守るためにも地震と津波,それを引き起こす背景としての地殻変動と地形の特色の理解は必須である。また,新課程必修「地理総合」においては,そのような地域に暮らすことについても,根拠をもって何らかの意見を述べられるように育てたい。そこで,その2単位という限られた時数の中で,地域を包括的に捉えられるような教材として,イギリス発祥の“ミステリー”と呼ばれる手法を用いて『黒い津波とリアス海岸』を開発し,実践を試みた。

    2.ミステリー教材『黒い津波とリアス海岸』の開発

    “ミステリー”とは,地域の課題についての複数の,一見内容のかみ合わないストーリーをばらばらにカード化したものを再構築する中で,ストーリーに描かれる地域の事象間の複雑な関係を複雑なままとらえるとともに,その中に含まれる課題を見いだし,解決策や地域の将来像を考えるというものである。

    対象地域は主に気仙沼市を想定した。教材には大きな問い1つ、ストーリーを3つと対応する小さな問い1つずつの3つを設定した。

    ストーリーは次の① リアス海岸のような入り組んだ湾状の地形に押し寄せた津波は「黒い津波」となり,海底地形を変化させて津波を加速させ,被害を増幅させること,② 震災によって地域の生活・文化や産業が被災し,その復興にさまざまな課題が山積していること,③ 地域の自然環境と社会環境の成り立ちと震災前からの課題という3つを設定し,カードを作成した。さらに,ストーリーに対応した小さな問い① リアス海岸における津波の被害を軽減するにはどうしたらよいか,② 震災の被害から復興するにはどうしたらよいか,③ 気仙沼の地域性を生かしてどのようにまちづくりを進めたらよいかの3つを設定した。そして最終的に大きな問い『黒い津波とリアス海岸』の関係性を理解した上で,持続可能な気仙沼という地域を考えてみよう」について考えるということにした。

    また,空間的認識を強化するために,カードの中に現れる地域の位置や地域特有の事象,地形等を地図化するためのワークシートも作成した。

    3.実践にあたって

    対象となるクラスは,勤務校の3年選択地理A(2単位)2クラスと3年選択地理B(増単4単位)2クラスである。

    教材を作成するにあたって,生徒の実態を把握するために,中学社会既習事項である「リアス海岸」について,地理Aの初期の授業で生徒に説明させた。そうすると,形状が「ギザギザしている」とだけ述べたり,その形状の成因を「波によって削られた」などの誤解をしている生徒がかなり多かった。また「津波」についても同様に既習事項であるが,例えば「地震の揺れによって(海が揺れて)津波が起こる」や「地震が強くなるほど津波も高くなる」といった誤解をしている生徒が多かった。

    この教材開発のきっかけは,そのような実態を持つ生徒たちが,地震と津波およびリアス海岸との関係性を理解し対応するために必要最低限の自然環境に対する知識を獲得する,あるいはその意欲をもてるようにと考えたことであった。もう一つのきっかけは,たくさんの事象に対する知識を「習得」しているように見える生徒が,その習得した事象の「つながり」や「関係性」を見いだすことが困難である様子を日常的に目にすることであった。

    このミステリー教材を通して,潜在的にあるいは顕在的に辛い体験である震災についても,楽しんで,いつの間にか事象間のつながりを見つけ,複雑な地域の状況を複雑なままとらえて空間的に構築し,それぞれの生徒なりの地域像を形成できるようになれば,持続可能な地域社会について考える力をつけられるのではないかと考えている。

    実践の成果と新たにみえた課題については,当日述べることとする。

    4.参考文献

    Leat,D. and Nichols,A.2001.Mysteries Make You Think.Theory into Practice:The Geographical Association.

    高橋敬子 2019.『気候変動教育能力開発プログラムガイドブック』本編 立教大学ESD研究所

  • 元木 理寿, 正木 聡, 砂金 祐年, 塩 雅之
    セッションID: 126
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    1.はじめに

    常磐大学総合政策学部総合政策学科(茨城県水戸市)において,これまでゼミナールにおけるフィールドワーク,地域連携活動は行ってきたものの,学科において地域の実態を共有する,意見を交換する科目や機会がなかった。そこで2019年度より新たな取り組みとして,本学科開設科目である「観光ビジネス実務総論」,「公共政策」,「まちづくり論」の3科目の授業において合同でまちづくりの現場を視察・調査し,受講生の政策に関する総合的な見聞を深めることを目的としたフィールドワークを展開することとなった。本発表では,本学科で行った試行的なフィールドワークの実態を報告するとともに,フィールドワークにおいてZOOMを使用することの可能性について検討する。

    2.授業の連携による合同フィールドワークの試み

    1)3科目の担当教員は,それぞれの担当の時間では通常講義を展開しており,3回の授業において合同でフィールドワークを行う事とした。今回は各授業の担当者がそれぞれ大子町(旧上岡小学校と大子町商店街),小美玉市(茨城空港と空のえき そ・ら・ら),水戸市(水戸市役所と茨城県庁)を担当し,リレー方式で基礎的な実習を行った。各授業において受講生の数は異なるものの各回約100人が参加することとなったため,フィールドワークの際はバス2台によって移動することとなった。それぞれ回において拠点を設け,観察,聴講,聞き取り調査といったフィールドワークの基礎を学ぶ機会とした。また,大学,教員間の情報交換が密になるようZOOMを用いることとした。

    2)ZOOMとは,ZOOM アカデミージャパンによれば,パソコンやスマートフォンを使い,セミナーやミーティングをオンラインで開催するために開発されたアプリとされる。使用する器材は①ウェブカメラ,②マイク,③スピーカーであるが,バスなどの車内で利用する場合には,スマートフォンと携帯用スピーカーがあれば簡便に利用することが可能となっている。

    本学科においては,学芸員取得の授業において,これまでZOOMを用いた展開を試みてきた。一方,教員間の都合により会議の調整が困難な状況がみられたことから,学科会議等での導入を試みるために,これまで数回の講習会を行ってきた。

    3.ZOOMの利用とその課題

    1)2台のバスにおいて,各1名,拠点である大学において1名が約5時間,ZOOMを起動したまま調査実習を行った。今回の実習では,ZOOM使用時において電波状況,音声と画像の送信などの課題は残るものの,概ね順調であった。

    2)説明者は,スマートフォン-スピーカーを通して,説明者が同乗していないバスや拠点である大学にも説明が届くため,車外の景観や土地利用,対象の建造物などに意識を向けやすくなった。また,スピーカーを通して教員同士が車外の景観や土地利用に対して意見を交換できること,そのやり取りが学生たちに届くためバスの同乗者次第であった移動時の車内の時間においても多角的な視野を持って観察,意見交換ががしやすくなったと考える。特に,専門が異なる教員が同行する場合,車外の景観に対する捉え方が異なる場合も多々みられ,その際のやり取りは学生には興味深く映ったようである。一方,拠点にいた教員からは,説明者が,スマートフォンのカメラを車外に向けることによって音声だけでなく,どのような場所において,どのような対象に視点をおき,どのように捉えているかが理解できたとの意見を聞くことができた。

    3)フィールドワークにおいてZOOMがWeb会議のアプリケーションとしての役割を果たしただけでなく,車外の景観,実習の様子の記録が可能になったこと,あるいは実習の振り返り,確認のツールとして有効的であることが明らかになった。

    4.おわりに

     今回,本学科の授業においてZOOMを用いたフィールドワークを試行した。学生たちの現場における調査方法に課題は残るが,ZOOMが有効的なツールである事は確認できた。今回は教員間のみのツールとして活用したが,事前にZOOMを教員だけでなく,学生にもスマートフォンにダウンロードしてもらうことで,調査地における教員の見方・捉え方 を共有できるのではないかと考える。一方,ZOOMは移動を伴うフィールドワークにおいてその可能性を見ることができたため,大学にとどまらず,今後小中高のフィールドワーク,教員研修などにおいても活用できるのではないかと考える。

  • 立入 郁
    セッションID: P016
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    北アフリカから中東、中央アジアを経てモンゴルに至る地域は世界最大の乾燥地帯であり、人々の多くは気象条件への依存性の強い乾燥地農業や牧畜を生業としている。このような地域において、温暖化による気候変化がもたらす気温・降水量などの変化は、耕作・牧畜適性に影響を与え、生活の基盤を脅かす重大な問題である。

    IPCCの第五次評価報告書などによれば、気候モデルの平均値では、今世紀最後の20年間を1986–2005年と比べた場合、シナリオによらず北米大陸南部〜南米大陸北部、アフリカ南部、地中海周辺で乾燥化が進み、北アフリカ〜モンゴルの乾燥地では、カスピ海周辺を除いて、横ばいあるいは若干の湿潤化が予測されている。

     低位安定(RCP2.6)および高位安定シナリオ(RCP8.5)については昨年度報告に続き、今回は中位シナリオ(RCP4.5とRCP6.0)についてみてみる。MIROC-ESM(Watanabe et al., 2011)のRCP4.5およびRCP6.0実験(2006-2100)を解析対象とし、解析の際は、まず月平均から年平均値を計算し、時間(年)に対する線形回帰式の傾きを算出する(3メンバーのアンサンブル平均を使用)。

     まず、気温については、当然であるが、RCP2.6, 8.5の間の昇温量となっており、RCP6.0>RCP4.5となっている。また、対象地域の北東部の昇温が顕著である。降水量についてもRCP2.6, RCP8.5の間の変化ではあるが、RCP4.5とRCP6.0の違いはさほど顕著ではない。LAI(葉面積指数)においても、降水量の傾向によく似た結果となっている。すわなち、RCP4.5、RCP6.0ともRCP2.6, RCP8.5の間の変化ではあるが、RCP4.5とRCP6.0の違いはあまり顕著ではなかった。

    発表では、他のモデル・変数についても言及するとともに、バイアス補正の影響に注目し、補正済みデータについての解析例も示す。

  • 一ノ瀬 俊明, 松村 寛一郎
    セッションID: P029
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    オホーツク海沿岸は、強風や日照などの気象条件により畑作には適さない地域も多いため、酪農地帯として発展してきた。農業の大規模化が進展しているものの、規模拡大には限界があり、効率化に資するべく、畑地の生育状況を把握する仕組みの構築が期待されている。能取湖周辺において演者らは、牧草地、小麦畑、デントコーン畑の生育状況について、スタンフォード大学発の企業であるプラネット社が開発した高頻度中分解能衛星画像を用いた植生指数と雲の情報を、IHI社(帯広)の関係者によるベンチャー企業スペースアグリ社の協力により取得している。衛星画像の解像度は3mであり、雲が存在すると地上100kmにおける衛星画像は取得できないが、UAVの活用により、その解像度を数cmの精度まで向上できる。市販の回転翼機材と固定翼機材の併用に加え、ドイツのUAVメーカー出身技術者に協力を得て自作の機材を開発し、自動飛行操縦機能の積極的な活用による、畑地の生育状況をより広範囲に取得できる仕組みの構築を進めている。また演者らは水産研究者の要請を受け、能取湖周辺において北海エビの生息する藻場をUAVで撮影した連続写真を用い、藻場面積の把握にも取り組んでいる。さらに演者らは100mまで潜航可能な水中ドローンを用い、漁業関係者の依頼により、能取湖における湖底のホタテの成長、北海エビの生息地である藻場の状況のほか、ベルーガ(シロイルカ)の生態をモニタリングしている。漁業関係者へのヒアリングによれば、能取湖周辺における畑地からの栄養分等の流入が減少した結果、環境改善が進み、漁業資源の供給動向にも影響が出ているという。一連の研究で運用が進んでいる衛星画像、空中および水中のUAVにより取得された情報をクラウドシステム上に展開することで、畑地と漁業の資源量の関係を定量的に把握できる可能性が見えてきている。

  • 阿部 朋弥, 中島 礼, 納谷 友規, 水野 清秀
    セッションID: 309
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    1.はじめに

     高浜断層は,愛知県西三河平野の南西部に位置する長さ約11 kmの活断層である(愛知県 1996).愛知県(1996)は,西三河平野の地下に分布する更新統碧海層の変位量と堆積年代に基づき,高浜断層の平均変位速度を0.13 m/1,000年と推定し,活動度B級の活断層と評価した(愛知県 1996).

     碧海層の堆積年代は,クリプトテフラの含有や隣接する濃尾平野の熱田層との対比などから,海洋酸素同位体ステージ(MIS)5e〜5a(約120〜70 ka)と推定されている(森山ほか 1997,牧野内ほか 2011).しかし,これまでに絶対年代値が得られておらず,碧海層の堆積年代は不明な点が残る(堀 2018).また,高浜断層の沈降域の地下において,更新統基底面と東海層群(鮮新統)上面との境界が,標高-100 mまで最も深くなり,断層を挟んで,北東側と南西側に向かって,両者の境界の標高は数10 m以上浅くなる(牧野内ほか 2011).これは,高浜断層による変位の累積結果と考えられており(牧野内ほか 2011),高浜断層は第四紀において長期的に活動してきた断層であると推定される.しかし,これまでに,碧海層より下位の更新統の層序や堆積年代については,ほとんど検討されておらず,碧海層堆積以前における高浜断層の活動履歴は明らかになっていない.

     本研究では,以上のような課題を踏まえて,西三河平野南西部の高浜断層沿いの地下地質について,既存のコア試料と新たに採取したオールコア試料を用いて検討した.

    2.碧海層の堆積年代について

     碧海面上から掘削されたコア試料を分析したところ,複数のコア試料中から,碧海層に対比される層準で火山灰層が認められた.これらの火山灰層について,火山ガラスの形態,屈折率,主成分・微量元素組成から,琵琶湖底堆積物中のテフラ(長橋ほか 2004など)と対比を試みた.その結果,碧海層の海成泥層の基底部に挟まる火山灰層は,阿蘇3テフラ(Aso-3,133 ka)に対比された.また,海成泥層の最上部付近に挟まる火山灰層は,BT34〜36(122〜124 ka)に対比された.碧海層の海成泥層は,火山灰層との層位関係から最終間氷期(MIS 5e)に対比されると考えられる.

    3.碧海層より下位の更新統の堆積年代について

     高浜断層の沈降域の沖積低地(油ヶ淵低地)において,長さ80 mの完新統〜更新統のオールコア試料(GS-HKN-1コア)を採取した.本コアでは,層相と珪藻化石群集から,更新統に対比される堆積物中には5回以上の海進・海退にともなう堆積サイクルが記録されていると考えられた.また,碧海層より下位の層準と推定される深度48.6〜66.6 mには,海水〜汽水種の珪藻化石や貝殻片を含む層厚18 mの海成泥層が認められた.この海成泥層の古地磁気を測定したところ,全体的に逆帯磁を示すことから,この海成泥層は下部更新統(0.78 Ma以前)に対比されると考えられた.さらに,この泥層の花粉化石を調べたところ,近畿〜関東の中部日本においてMIS 16〜21の特徴とされるメタセコイヤ属を産せず,コナラ亜属が多産する花粉化石群集(楡井・本郷 2018)が見られた.そのため,この泥層はMIS 19〜21以前に対比されると考えられる.

    4.高浜断層沿いの地下地質について

     層相や花粉化石群集,珪藻化石群集にもとづき,GS-HKN-1コアと収集した既存のボーリングコアの地層を対比し,高浜断層沿いの地下地質について検討した.碧海層より下位の層準には,GS-HKN-1コアで観察されたコナラ亜属の花粉化石を多産する層厚10 m以上の海成泥層が連続的に分布していた.

     高浜断層のトレース(今泉ほか編 2018)に直交する方向で,複数の地質断面図を作成し,このコナラ亜属が多産する海成泥層上面の標高について,高浜断層の沈降域と隆起域で比較した.この泥層上面の標高は,断層の隆起域では沈降域よりも,29.2〜46.8 m高かった.この標高差は,高浜断層による変位の累積結果と考えられるため,高浜断層の活動開始時期は,碧海層が堆積した最終間氷期(MIS 5e)以前であると推定される.

    5.おわりに

     今後,碧海層より下位の更新統の堆積年代や層序について,火山灰や微化石などを用いて検討を進め,高浜断層の活動履歴についてより詳細に検討していく予定である.

  • 福留 邦洋
    セッションID: S205
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    1.はじめに

    2004年10月に発生した新潟県中越地震(新潟県中越大震災)では、中山間地域において甚大な被害が発生した。

    「帰ろう山古志へ」のスローガンのように、中山間地域モデル住宅の提案や小規模住宅地区改良事業などによりできるだけ同じ集落で生活再建できるような施策が打ち出された。しかし、過疎・高齢化が進んでいた集落の中には、さまざまな住宅再建の方法により大幅に世帯数が減少し、既存の地域コミュニティや土地利用に変化が生じた事例も散見された。

    2.防災集団移転促進事業などによる住宅再建

    地盤災害が顕著だった集落では、防災集団移転促進事業が用いられた。多くは集落の一部分に適用するものであったが、この場合は集落に残った世帯と移転した世帯に分かれてしまい、集落役員(町内会・自治会役員)選出や道普請等環境整備など集落維持に関する人的、経済的負担が課題となった。また住宅以外農地等の土地利用は災害発生前から大きく変わらないものの、集落に残った世帯と離れた世帯との関係が難しくなった事例もみられた。高齢者を中心として従前集落と移転先の両方のコミュニティを必要としていることもうかがわれた。

    他方、全戸移転となった小千谷市十二平集落では、災害危険区域となった住宅跡の土地利用など集落のあり方に関する話し合いが持たれ、石碑の設置や植樹活動が実施された。養鯉や農地などのために約10km離れた移転先からの通いが日常的にみられることに加え、春の祭りや秋の冬囲い(豪雪への対策)にはほぼ全世帯が参加している。しかし地震から15年が経過する過程において、震災発生当時の世帯主から世代交代する世帯が増えるなど状況には変化がみられ、現在の活動が今後も維持できるか難しい局面になりつつある。

    3.東日本大震災等への継承

     東日本大震災においては高台造成など津波に対する安全な居住環境を確保する手法として防災集団移転促進事業が積極的に適用された。東日本大震災発生前の直近の事業適用事例、また過疎・高齢化が進む集落の復興事例として東日本大震災の被災地から中越には数多くの視察が行われた。中には両災害の被災者間で情報交換がなされ、相互訪問が実現するなど交流へ発展した事例もある。

    一般的に、防災集団移転促進事業というと日常生活には馴染みが薄く、被災者にとっては受け身(行政依存)になりやすいものの、被災者(住民)自身が制度を理解し、主体的に取り組むことにより納得の高まる移転になりえること、コミュニティと連動した土地利用などの知見は中越から東北へある程度伝えられたように考える。逆に東日本大震災の被災地における復興にむけた意欲向上、地域コミュニティ維持などにおける祭事の果たす役割等は中越側が再認識する機会となったようにもうかがえる。

    4.おわりに

     集落再建に関する新潟県中越地震の取り組みは、熊本地震などその後の災害においても紹介され、関心を持たれるものとなった。被災者(住民)が主体性を持つことは重要であるものの、仲介者の存在や地域復興支援員に代表される外部人材の関与がこうした活動には不可欠となっている。また、被災した場所から離れた災害公営住宅における入居者コミュニティ形成の難しさは新潟県中越地震と東日本大震災を比較しても基本的に変わっていないように見受ける。新しいコミュニティの検討、模索については、過疎・高齢化が著しい被災地における共通の課題といえよう。

  • 河本 大地
    セッションID: 125
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/24
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    Ⅰ.目的と背景

    本発表の目的は、学校における「ふるさと学習(ふるさと教育)」と「地理教育」との関係性をカリキュラムマネジメント等の視点から整理することである。

    本セッション「地理教育」の案内には、「小学校・中学校・高等学校および大学教員養成課程において地理教育は大きな課題を抱えている.これらの課題と対応について広く議論をしたい.とりわけ,次期学習指導要領の効果的な実践にかかわる展望と課題についての発表を歓迎したい.」とある。発表者はこれに呼応して本件の発表を申し込んでいるが、「地理教育」と銘打たれた場で議論を主導するのはたいてい大学や高等学校に属する研究者であり、特に小学校に関しては教員の参加が教員数のわりに僅少という状況にある。また、小学校・中学校・高等学校の教員による実践報告が学びの「系統性」を意識して同じ場でおこなわれることもあるが、たいていはそれぞれの教員の置かれた状況や実践の位置づけに個別性が大きく、実践事例に学ぶところに終始し、所期の目的の達成にまで至らない。

    その一因として、日本の小学校における「地理教育」が何を指すのかが不明確であることが挙げられる。中学校の社会科地理的分野、高等学校の地理歴史科の「地理」を冠する科目が「地理教育」の対象であることは自明であるが、小学校においては社会科等に関して「地理」という言葉はほとんど使われない。一方で、地域学習は、義務教育段階においては社会科における「身近な地域の学習」、総合的な学習の時間において地域の社会・文化・防災・生態系等を取り上げた学習、理科における身の回りの生きものを素材にした学習、ほかにも家庭科や国語、音楽などさまざまな科目でおこなわれている。これらには、個々の教員の努力と熱意により工夫されているケースもあれば、教育委員会や学校が体系性をもたせている例もある。ただ、「地域学習」という言葉も小学校教員にとって何を指すのかわからない場合がある。「ふるさと学習」「ふるさと教育」という言葉のほうが多用されるケースも多く、そのほうが理解してもらいやすい。

    とはいえ、「ふるさと学習」「ふるさと教育」といった名称は、社会科の枠を超えた形で用いられることが多い。また、中学校や高等学校でも使用されることがある。さらに、小中一貫教育等が推進される中において、体系的な「ふるさと学習」等の必要性が議論されることも多い。このことは積極的に考えると、学校種や教科の枠を超えたカリキュラムマネジメントの視点から「地理教育」を捉えなおし、「地理」の役割を再確認することにつながる。そこで本発表では、「ふるさと学習(ふるさと教育)」のカリキュラムについて具体的な事例をとりあげ、前掲の目標の達成に向けてアプローチしたい。

    Ⅱ.方法

    体系的な「ふるさと学習」のカリキュラムの策定を志向している京都府南丹市立美山小学校・美山中学校の「美山学」の事例を中心に整理・考察する。本事例を選択したのは、発表者が2018年10月に中学生に講演する機会を得たこと、同月の第67回全国へき地教育研究大会京都大会で中学校が分散会発表校、小学校が分科会会場となり、資料が整っていること、そしてその後に調査の協力を得ることができたためである。

    「美山学」の体系は、学年、教科、特別活動等の枠を超えてESDカレンダー(東京都の小学校教員であった手島利夫氏が開発したもので、総合的な学習の時間を核として教科単元や各学年の学習内容をつなげ、それを視覚化する手法)の形に整理し、扱っている地域資源やテーマ、子どもにつけようとしている資質・能力等の観点から分析した。また、小学校・中学校・高等学校の新学習指導要領と照合し、「地理」との関係の整理を試みた。さらに、「美山学」の実施にあたっての条件整備の工夫についても明らかにした。

    付記

    本研究の一部には、公益財団法人国土地理協会の2018年度学術研究助成、および奈良教育大学の学長裁量経費を用いました。

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