Ⅰ はじめに 2014年に発生した御嶽山の水蒸気爆発噴火は火山噴出物を放出し、この噴出物が山体周辺河川や山頂域湖沼群の水質に影響を与えることが予想された。噴火前後での水質の比較に加え、噴火後の水質の経過を継続調査した研究は少ないことから、御嶽山を対象にして噴火前の水質や1979年の噴火時の水質と比較し、今回の噴火による水質変化の状況や1979年噴火時との差異を把握するとともに、調査を継続して時間の経過に伴う水質の変動を追うことを試みた。
Ⅱ 研究方法 現地では山体周辺河川の調査に加え、入山規制緩和後には毎年夏期に山頂域湖沼群の調査を実施し、また雨水の採取も行なった。現地調査項目はAT, WT, pH, RpH, EC等である。現地での採水試料は研究室にてろ過処理をしたのち、TOC、主要溶存成分の分析を行なった。このほか火山灰の溶出実験も行なっている。
Ⅲ 結果と考察
1.御嶽山周辺河川の状況 山体南麓を流下する濁川と濁川合流後の王滝川は白濁し、pHが低く電気伝導度(EC)の値が高かった。同様に東麓の一部河川のpHやEC値にも噴火の影響が見られたが、影響範囲は局所的であった。融雪期には融雪水により山体に堆積した火山噴出物から成分が溶出して河川へと流入し、pHが低下しEC値が上昇することが予想されたが、pHとEC値がともに低下したため融雪水による希釈効果が卓越したと考えられる。一方、降雨期になると濁川を中心に降雨後にpHが低下しEC値が上昇したことから、堆積した火山噴出物から成分が溶出してpHやECに寄与したと考えられる。
2.山頂域湖沼群の状況 山頂域湖沼は火口からの距離に応じてpHやEC値に差が見られ、最も火口に近い二ノ池が低pHかつ高ECで噴火の影響を強く受けていた。また火口から少し距離がある三ノ池、五丿池も噴火前よりpHが低下しEC値が上昇していた。一方、火口から最も遠い四ノ池は噴火前とpHやEC値がほぼ変わらなかったが、これは火口からの距離に加えて常に水が流出していることが影響したと思われる。
3.河川及び湖沼の主要成分 山体周辺河川の水質は基本的に低濃度の重炭酸カルシウム(Ca-HCO
3)型であるが、噴出物の影響が見られた河川は硫酸カルシウム(Ca-SO
4)型で若干濃度が高かった。また、濁川はCa
2+とSO
42⁻に加えてNa
+とCl⁻も高濃度であった。山頂域湖沼群の水質は主にCa-SO
4型で二ノ池は特に高濃度であった。
4.火山灰溶出実験の結果 実験の結果、火山灰を溶出させた水はCa-SO
4型であったことから、山体周辺河川や山頂域湖沼のCa-SO
4型の水質には火山灰が寄与したと考えられる。
5.1979年噴火時の水質との比較 噴火から約一月後の山体周辺河川の水質は1979年噴火時と今回とで非常に似ていて、その分布も一致した。しかし噴火直後の濁川に着目すると、1979年時はCa-SO
4型なのに対し今回は塩化ナトリウム(Na-Cl)型で、濃度も異なっていた。また山頂の二ノ池はCa-SO
4型で共通しているが、濃度は今回の方が高いことがわかった。
6.噴火前後での水質の比較とその後の経過 濁川の主要成分は1992年時と比較すると、噴火後にHCO
3⁻とNO
3⁻を除く成分が高濃度になり、その後噴火から時間が経つと徐々に濃度が低下した。Cl⁻/ SO
42⁻の値も低下傾向にあることから、火山活動の減衰とともに濁川の成分濃度が減少したと考えられる。山頂域湖沼群の主要成分は噴火前の2014年8月と比較すると、HCO
3⁻とNO
3⁻を除く成分濃度が増加傾向にあり、その後は時間の経過に伴い濃度が減少しているが、二ノ池は依然として高濃度で特にSO
42⁻の濃度が高い状態が維持されている。これは火山灰からSO
42⁻が引き続き溶出していることを示唆しており、二ノ池の水質に対し火山灰が長期に渡って影響することが予測された。
Ⅳ おわりに 地点ごとの詳細な解析、並びに流量データを交えた成分の負荷量の検討が今後の課題である。
参 考 文 献浅見和希・小寺浩二・猪狩彬寛・堀内雅生(2018):御嶽山噴火(140927)後の周辺水環境に関する研究(7), 日本地理学会2018年秋季学術大会講演要旨集.
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