日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
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発表要旨
  • ーツーリズムジェントリフィケーションー
    池田 千恵子
    セッションID: 331
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    本研究では,京都市におけるゲストハウスなどの簡易宿所の急激な増加に伴う影響について,ツーリズムジェントリフィケーションの観点で検証を行う.ツーリズムジェントリフィケーションは,地域住民が利用していた日常的な店舗が減少する一方で,娯楽や観光に関わる施設や高級店が増加し,富裕層の来住が増えることにより賃料が上昇し,低所得者層の立ち退きを生じさせる現象である(Gotham 2005).簡易宿所が急増した背景や簡易宿所の増加が地域に及ぼした影響について示す.
     京都市内の簡易宿所の数は,2011年の249軒から2018年9月末時点では2,711軒と7年間で約11倍(988.8%増)になった.東山区でもっとも簡易宿所が多い六原は91軒で,2018年9月30日時点において京都市内で一番簡易宿所が多い地区でもある.下京区で簡易宿所が一番多い菊浜は,2016年の14軒から2018年の47軒(図1)と1年10ヶ月で33軒増加した.南区では山王が44軒である.
     簡易宿泊が増加している地区には特徴がある.一つめは,交通の利便性である.六原と菊浜は清水五条駅,山王は京都駅の南側と主要な駅に隣接している.二つめは,既存産業の衰退である.六原は京焼・清水焼などの窯業の衰退とともに人口流出や高齢化が進み,空き家が増加した.大正から昭和中期頃まで京都市内最大の娼妓がいた菊浜は,2010年に全ての貸座敷が廃業になった(井上 2014).三つめは地域の負のイメージによる.菊浜は性風俗などのイメージがあり(内貴ほか2015),山王は京都市内最大の在日朝鮮人が集住し,貧困化・不良住宅化が進んだ地域(山本 2012)が含まれている.このように,地域の負のイメージにより地価も低く,空き家などが活用されていなかった地域で,簡易宿所の開業が進行したと想定される.簡易宿所の急激な増加による不動産価格の高騰や住民の立ち退きなどについて報告を行う.
  • 美谷 薫
    セッションID: 805
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1 はじめに

     全国的な「平成の大合併」が一定の終結をみてから,およそ10~15年が経過し,合併後の特例的な行政体制も解消されつつある.合併市町村における行政の展開も新たなステージに入ってきているものといえよう.

     合併後の行政の取り組みや地域の変化については,多くの学問分野で研究が蓄積されてきている.そのなかでは,市町村合併という行政区域の再編は,「地域政治・行政」のしくみを変更するだけでなく,「地域社会」や「地域経済」の変化をもたらしうるが,それらは合併により,政策・事務・事業/権限/財源/人員/施設といった「行政資源」の配分形態が変化することが大きな要因であるととらえることができよう.したがって,合併による「行政資源」の配分の変化の事例を蓄積し,そのメカニズムをより詳細に検討する必要があるものと考えられる.

     本報告では,上記の作業の一例として,福岡県飯塚市における,合併後の主要施策や事業費の執行状況などから「行政資源」の配分の一端を整理するとともに,それらに対する住民の評価を明らかにすることを目的とする.



    2 研究対象地域の概要

     福岡県飯塚市は福岡市から30㎞強の位置にあり,筑豊地方最大の都市となっている.明治期以後,基幹産業である炭鉱を中心に成長してきたが,1950年代後半からの相次ぐ炭鉱閉山により人口の急減を経験した.このため, 1963年には旧飯塚市を中心とした4市町村での合併を実現した.

     「平成の大合併」の期間では,合併協議の破綻を経験しつつも,旧飯塚市と筑穂町,穂波町,庄内町,頴田町の1市4町での合併により,2006年3月に現在の市域での飯塚市が発足している.



    3 合併後の主要施策と投資的経費の配分

     合併後の「行政資源」の配分の事例として,ここでは,飯塚市における主要施策と投資的経費の配分を取り上げる.前者については,市の企画部門の担当者へのヒアリングを行い,後者については,一般会計における『歳入歳出決算書』の記載から,投資的経費の地区別配分を積み上げにより算定した.

     合併後の飯塚市の主要施策には,①「健幸都市いいづか」の推進,②学校再編整備(小中一貫校の新設・整備),③協働のまちづくり(地区ごとのコミュニティ組織の設立),④中心市街地活性化が挙げられた.このうち,③はソフト事業が中心であり,①における「健幸プラザ」の整備や②・④がハード事業に該当する.このほかに,⑤中心市街地などでの浸水対策,⑥市役所新庁舎建設,⑦市立病院建替などがこの時期の大規模なハード事業となっている.

     合併直後の飯塚市は,財政収支の不均衡により,投資的経費の抑制が実施され,合併から5年程度は最低限度のレベルで事業が進められたと考えられる.その後,上記の主要施策に掲げられる大規模事業が次々と開始されたが,その結果,市中心部の飯塚地区に投資の配分が集中する傾向が確認された.一方で,学校再編整備による新校舎の建設が行われた事例を除くと,投資が低調なままとなっている地区もみられた.

     このほかにも,旧町地区を中心とした小規模施設の再編,旧町役場から移行した支所の職員数削減,旧町地区選出の市議会議員数の減少なども進み,上記の投資的経費の配分などとあわせて,「行政資源」は飯塚地区に集中する傾向がある.この点は,ある種の合併の効果と位置づけられるが,一方で,新市における中心部と周辺部の格差の拡大という合併のデメリットを発現させている現象とも考えられる.



    4 合併後の行政や合併への住民の評価

     住民の評価については,2016年12月に飯塚市在住の有権者2,000名を対象とした質問紙調査を実施しており,有効回答は486通,回収率は24.3%であった.合併後の行政をめぐっては,上記の行政の再編や施策の内容を反映し,中心部から距離のある筑穂地区や頴田地区で特に厳しい評価となっている.一方で,「行政資源」集中のメリットを一番享受しているはずの飯塚地区では,合併の効果について「わからない」という回答が卓越するなど,住民の評価にも大きな地域差が生じている.



    付記

    本報告のうち,調査の一部は,2016年度に福岡県立大学人間社会学部において開講された「社会調査実習」において実施したものであり,当該箇所は担当教員である報告者と受講生15名の共同での研究成果である.
  • 矢野 桂司, 井田 仁康, 秋本 弘章, 浅川 俊夫, 久保 純子
    セッションID: S209
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.開催趣旨
     これまで日本学術会議は、地理教育に関して、対外報告「現代的課題を切り拓く地理教育」(2007年)、提言「新しい高校地理・歴史教育の創造-グローバル化に対応した時空間認識の育成-」(2011年)、提言「地理教育におけるオープンデータの利活用と地図力/GIS技能の育成-地域の課題を分析し地域づくりに参画する人材育成-」(2014年)、提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」(2017)などを公表してきた。
     そして、多くの地理学・地理教育関係者の努力により2022年度から次期学習指導要領の高校地理歴史科では、「歴史総合」と「地理総合」が必履修科目になった。それを成功させるためには、高校のみならず、教員養成を担う大学教育や、学術機関及び関係省庁が取り組むべき様々な課題がある。
     本公開シンポジウムでは、「地理総合」が導入されることによって、日本の地理教育はどのように変わるのかを議論する。そして、現場となる初等・中等教育だけでなく、教員養成を担う大学教育や関係省庁が取り組むべき様々な課題を整理し、新しい地理教育を今どのように推進すべきかを提案したい。

    2.第一部09:00-10:00(地理教育専門委員会)
     テーマ:「地理総合」とは何か?
    (主担当:地理教育専門委員会)【井田仁康・秋本弘章・浅川俊夫】
     第一部では、「地理総合」が設置された背景を、現行の「地理A」とのかかわりから説明する。「地理総合」は、中学校社会科地理的分野の学習に基づいて、主題学習的に授業が展開される。現行の「地理A」のグローバルな観点とローカルな観点からという枠組みを踏襲するが、アクティブ・ラーニングを取入れ、生徒が主体的に活動できる学習内容となる。知識の習得より、中学校までの知識を駆使して、地理的な見方・考え方を働かせて、課題の解決を図ろうとする。そのためには、中学校などと連携が重要になる。学習内容としては、地理的な事象を分析するためのツールである地図やGISの活用方法を学習し、そのツールを使いながら、既存の知識を活用し地理的な見方・考え方を働かせ、国際理解や国際協力についての理解を深め、活動へとつなげていく。さらには、学習の柱として「防災」がとりあげられ、地理が「防災」を考えるうえで中核となる科目であることが示された。「地理総合」では、地理学で研究が積み重ねられた「防災」が教育に反映されるべき重要な学習内容となり、今回のシンポジウムが地理教育専門委員会と災害対応委員会が協働する理由もここにある。なお、第一部では「地理総合」における地理の基盤のツールとして位置付く地図力/GISに関して、「地理総合」でどのように学習されるべきかを考える。

    3.第二部10:05-12:00(災害対応委員会)
    テーマ:「地理総合」と防災:何をどう教えるか?
    (主担当:災害対応委員会)【久保純子】
     第二部では、次期学習指導要領「地理総合」における「自然環境と防災」の項目を中心に取り上げる。日本地理学会災害対応委員会では、これまで地理学の立場から防災に貢献するため活動してきた。2022年より、「地理総合」ですべての高校生が「自然環境と防災」を学ぶこととなる。これを受け、「自然環境と防災」で「何を」「どう」教えるべきかについて、自然環境や災害の研究者が何を提示し、高校教員がどのような視点で生徒に伝えるか、議論をすすめたい。

    4.第三部13:00-15:00
    テーマ:「緊急提言―『地理総合』で何が変わるか」
    (主担当:地理教育分科会)【矢野桂司・井田仁康】
     第三部では、第一部・第二部の議論を踏まえつつ、2022年度から必履修科目として新設される「地理総合」によって、地理教育はどのように変わるのか、変わるべきなのか、そして、それに向けて今、地理教育に関わる中学校、高校、大学、学協会などが何をすべきなのかを、地理教育分科会で議論されてきた内容を中心に発表いただく。そして、2022年度から、全国の高校において「地理総合」を着実にスタートさせるための緊急課題を整理したい。
  • - 北海道鹿部町のA級グルメの取り組みを事例として -
    遊佐 順和
    セッションID: 333
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    Ⅰ はじめに
     鹿部町は、北海道の南端渡島半島の東部に位置し、北海道駒ヶ岳を背にその山麓の一角に広がり、洋々とした太平洋内浦湾を望む風光明媚な環境にあり、町内には2018年に北海道遺産に登録された全国でも稀少な間歇泉をはじめ、30箇所以上の泉源にも恵まれている。産業では、3つの良港に恵まれ、帆立、スケソウダラ、昆布などを中心に豊富な魚種が水揚げされる漁業と、それら新鮮な魚介類をもとにした水産加工業を基幹産業とし、「日本一魅力ある漁師町、日本一行ってみたい、住んでみたい漁師町」を目指している。町章には、4つの「カ」を外周に配し“4力”で鹿部の「鹿」を表し、中心には昆布と温泉をシンボライズさせ、町民の和と漁業や温泉を活かした町の発展の願いが込められている。鹿部町へのアクセスは、2016年開通の北海道新幹線新函館北斗駅より車で約30分、北海道の表玄関である函館空港からも車で約1時間の距離に位置し、観光客がアクセスしやすい立地にある。1999年、間歇泉周辺に公園を開設し町の名所として観光客を受入れてきたが、2016年3月の北海道新幹線開通にあわせ、同公園を「道の駅しかべ間歇泉公園」として再整備し、鹿部の食文化を学び、味わえる体験型施設として生まれ変わり、「学べる・食べる・遊べる」観光スポットとして内容を拡充した。施設内では、鹿部漁業協同組合女性部による運営の「浜の母さん食堂」が、前浜であがる海の幸を家庭料理的な提供で好評を得て、鹿部の食文化を守りつつその魅力を発信している。この他、駒ヶ岳の軽石の粒で包んだ魚を干した「軽石干し」や温泉の蒸気を利用した蒸し釜料理など、地域資源を活用した様々な「食」が提供されている。本発表では、鹿部町が地域資源を活用し推進する食と観光による町の活性化に関し、今後の可能性と課題を考察する。

    Ⅱ 問題の所在
     町の人口は、1985年国勢調査の5,107人をピークにそれ以降は減少が続いており、2019年1月1日現在で3,960人となっている。町内リゾート地区の移住者が寄与し、人口減少は比較的緩やかだが人口は確実に減っており、今後は消費者の減少とともに事業によっては後継者不足や事業継承が困難となることも危惧される。町では、こうした人口減対策に対処するため、豊富な水産資源や温泉などを活用した食と観光による町の活性化策の一つとして、「A級グルメ」による取り組みを開始した。「A級グルメ」とは、地域の人が誇りを持ってつくる「食」を指し、2011年より「A級グルメ構想」に取り組み、雇用創出や移住者誘致に成功している島根県邑南町とノウハウを共有し、まちの人材育成や魅力発信に取り組むことを計画している。邑南町では、「本当に美味しいものは地域にあって、その美味しさを本当に知っているのは地域の人々で、彼らが誇りを持って作る食はA級であり、永久に残さなければならない」という理念のもと、地域ならではの食を守りそれを通して地域に人を呼び込み、賑わいをもたらすことにより、地域に対する矜持をもたらし、雇用や産業を創出することで町を活性化させることを狙いとした施策が推進されている。2018年11月、食を通じた人材育成やA級グルメの理念を広げるための情報発信、起業、就業につながる活動を推進するため、鹿部町、福井県小浜市、島根県邑南町、西ノ島町、宮崎県都農町により、「にっぽんA級(永久)グルメのまち連合」が設立され、東京で調印式が行われた。

    Ⅲ 今後の課題
     鹿部町では、「にっぽんA級(永久)グルメのまち連合」に参画する市町との連携により、食に関する人材育成を行うため、地域おこし協力隊の共同募集の実施や、「A級グルメ構想」を取り入れつつ、道の駅しかべ間歇泉公園を人材育成の拠点として、2019年より本格的な事業推進を計画している。今後の事業推進を進める中で、①住民参加による「じぶんごと」としての事業推進、②既存施設の有効活用による交流人口の誘引、③A級グルメ構想など新たな取り組みによる定住人口の確保、④外部人材導入によるまちの資源価値の再認識、⑤近隣自治体との連携によるエリアとしての高付加価値化など、地域資源を最大限に活用することにより、まちの魅力を効果的に情報発信し、成果に結びつけていくことが必要である。
  • 前田 洋介
    セッションID: S501
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    Iはじめに
    コミュニティは,社会や環境の変化に対して順応しながら存続する場合もあれば,変化に対応できずに衰退していくこともある.本報告の目的は,このような社会や環境が変化する中でのコミュニティの動態を,コミュニティ・ガバナンスの観点から分析するための枠組みを提示することである.具体的には,沿岸漁業への依存が比較的大きい沿岸漁業地域(山内2004)における,水産政策や水産資源が変化する中でのコミュニティを想定しながら議論を進めていく.
    IIコミュニティの布置
    はじめに今日のコミュニティが置かれている状況を確認する.第2次世界大戦後,日本のコミュニティは町内会をはじめとする地縁組織を中心に担われてきた.こうした地縁組織は,たぶんに家父長制的な家族や性別役割分業をベースとしており,地域の課題に主体的に取り組む一方で,行政の末端組織としても機能していた(cf.武川2007).しかし,近年では高齢化や個人化などの進展により地縁組織の形骸化が地域を問わず指摘されるようになっている.
    そうした中,コミュニティの置かれている状況もまた変化している.ここでは今日のコミュニティの布置を,特にコミュニティを担う主体の多様化とコミュニティに期待される役割の拡大に着目しながら確認する.まず前者であるが,従来,コミュニティの主たる担い手は地縁組織であったが,近年は,ボランティアやボランタリー組織を筆頭に,多様な個人や組織の関与がみられる.こうした動きは1990年代頃から都市部を中心に目立つようになったが,最近では田園回帰の動きも相まって,農山漁村においても多様な個人や組織の関与がみられるようになっている.
    他方で,近年,コミュニティの役割に対しては政治的・社会的に様々な期待が寄せられている.中でも注目したいのが,コミュニティに公的な役割を付与する,「コミュニティの制度化」(名和田2009)の動きである.こうした動きには様々なものがあり,たとえば弱体化した地縁組織を機能させるためにより広い範囲に新たな地域組織を設立するケースや,交付金をもとに地域課題の解決に向けた協議や取り組みを行う組織体を設立するケースなどがある.このようにコミュニティに公的な役割を付与する動きもまた都市・農村問わずにみられるようになっている.
    IIIガバナンス
    続いて,公的課題をめぐるガバナンス論(公的ガバナンス論)の展開と研究課題について確認する.「ガバメントからガバナンスへ」という言葉に象徴されるように,従来政府が中心となって担っていた公的課題を,多様な主体からなる水平的なネットワークによって担うという認識が普及するようになって久しい.従前より公的課題に多様な主体が関わっていることは指摘されているが,1990年代頃から主体間の水平的なネットワークの役割が示唆されるようになった(Sorensen and Torfing2007:3).こうした水平的なネットワークはガバナンスと呼ばれるようになり,1990年代から2000年代にかけ,地理学を含め,様々な観点から同概念を用いながら公的課題の担い方の変化やその背景を探る試みがなされた(cf.ハバードほか2018).
    このような変化が認識されるようになると,次第に「第2世代のガバナンス研究」が模索されるようになるが,Sorensen and Torfing(2007:14-16)は研究課題として次の4点を指摘する.すなわち,①ガバナンス・ネットワークの構成や発展,②ガバナンス・ネットワークの成功及び失敗の背景,③ガバナンス・ネットワーク自体がどのように維持・調整されているのか,④正統性をめぐる問題など民主主義という点からみたガバナンス・ネットワークの課題と可能性である.
    IV沿岸漁業地域のコミュニティ・ガバナンスの分析に向けて
    公的ガバナンス論は,主として政府による公共政策を主眼に置いて展開されきたものであるが,都市・農村を問わず,コミュニティにおいても担い手の多様化と公的役割の付与が進む中,同様の枠組みで議論ができると考える.特に沿岸漁業地域のコミュニティの動態を捉える際には,上述の①から④の課題はいずれも重要と思われるが,こうした地域では水産資源をはじめとする環境の変化が地域の経済活動やコミュニティにも影響するといった特徴を有しており,分析にあたってはこのような点を加味する必要がある.たとえば③に目を向けると,公的ガバナンス論においては,政府が,ガバナンス・ネットワークの維持・調整をはかる主な主体と捉えられがちであるが,沿岸漁業地域においては,環境もまたネットワークの維持・調整に大きな影響を与える要素といえる.
    発表では公的ガバナンス論を下敷きに,事例も交えながら環境を考慮したコミュニティ・ガバナンスの分析枠組みの提示を試みる.
  • ~水俣病問題への支援者の関わりを題材として~
    川瀬 久美子
    セッションID: 305
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに
     国際地理連合・地理教育委員会が2005年に発表したルツェルン宣言では、持続可能な開発を実行する地理的能力として、自然システムや社会-経済システムに関する地理的知識や地理的理解、地理的技能、態度と価値観 を挙げている。本研究では、ルツェルン宣言のいう「『世界人権宣言』に基づくローカル、地域、国家的および国際的な課題と問題の解決を模索することに対する献身的努力」を地理的な“態度と価値観”の一つとした上で、課題解決への意欲の喚起や向上に関する従来の地理学習の課題を整理する。そして、学習上の課題を克服することを目的として、水俣病問題と支援者を題材とした単元開発を行い、高校での授業実践の成果と課題について報告する。

    2.「課題解決への意欲」育成のための課題
     地理教育では様々な社会的課題について学習するが、学習者は身近な地域の課題については当事者意識を持ちやすいものの、海外など遠隔地で発生している事象(貧困、民族問題、環境問題)については、しばしば当事者意識が希薄であったり欠如したりする。また、ある課題について学習して興味・関心を抱いたとしても、直接の当事者ではない自分にできることはない、と無力感から思考停止に陥る学習者も少なくない。
     ある課題の直接の当事者ではない人間にできることはあるのか、その課題に関わろうとすることにどのような意味・意義があるのか、地理教育において学習者に考える機会を設ける必要があろう。

    3.水俣病問題と支援者を題材とした単元開発
     「課題解決への意欲」を育成するための単元開発を、水俣病事件の被害者とその支援者を題材として行った。水俣病問題を題材とすることには、以下の3点の意義がある。
    ① 地域的課題の動的理解
     水俣病は四大公害病の一つとして学習されるが、当事者達が長期にわたって問題解決にどのように奮闘してきたのか、現在でもどれほど多くの被害者が救済を求めているのか、などについて触れられることは少ない。時間軸を入れて水俣病問題について整理しなおすことで、多くの人々の努力によって課題解決が試みられていることが理解できる。
    ② 地域的課題の当事者の状況把握と第3者の役割
     水俣病問題では、被害者、加害企業、加害企業の労働者が多数であった市民、加害企業を地域経済の根幹と位置付けていた行政、など当事者それぞれの立場で利害が対立した。水俣病問題では各当事者の状況を統計資料などで具体的に示すことが可能であり、利害から離れた第3者が関わることの意義を考えさせることができる。
    ③ 支援者に関する資料の豊富さ
     水俣病問題の解決には、全国からの義援金、熊本や東京の「水俣病を告発する会」など日本各地で結成された支援団体、新潟の水俣病被害者との連携、水俣に移住したり遠方から支援を続ける個人 など、多くの人々の支援があった。当時の支援の様子は新聞記事や書籍(個人の回想録)、動画(映画など)などで知ることができる。課題解決に関わる人々の空間的広がりを地理的に把握し、直接の当事者ではない人間が関わることの意義を具体的に考えさせることが可能である。

    4.単元の内容
     高校地理の授業単元として(1)地形図の読図による水俣の地域性の理解と当事者の状況把握 (2)支援者の空間的広がりの理解と支援の意義 を中心に考案した。資料を活用しながら主体的に考えさせる授業を実施することで、直接の当事者以外が課題に関わる意義について理解し課題解決への意欲を引き出すことができる。

    付記:本研究は公益財団法人 国土地理協会の2018年度学術研究助成による成果である。
  • 関村 オリエ
    セッションID: 808
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    近代核家族の概念に下支えされてきた性別役割分業が終焉を迎えつつある中で、都市郊外空間の地域社会は新たな変容を続けている。それは、働き盛りの父親たちによる地域への参加である。もっぱら生産領域において賃金労働に勤しんできた男性たちによる再生産領域での動向は、どのような展開を見せているのであろうか。本研究の目的は、子どもを育てる父親たちに着目することで、子育てを足掛かりとした彼らの地域参加やそこでの実践を明らかにしようとするものである。本研究では、インタビュー調査により収集した語りなどを中心とした質的データを使用した。調査対象地域は、京阪神大都市圏において大規模な郊外住宅地域が広がる大阪府豊中市であり、対象者は子どもを育てる30代~50代の父親たちである。彼らは、会社員や自営業者として現役で働きながら、地元のサークル活動や任意団体、PTAなどに参加し、さまざまな地域の活動に従事する人々である。インタビュー調査では、世帯構成、生活実態、地域・家庭との関わり方などを把握するための質問票を用いて、対面式で尋ねた。本研究で焦点を当てた父親たちは、任意団体や自治会、そして子どものPTA活動への参与、これらを通じた地元住民や地域の人々との交流により、都市郊外空間の地域社会における新たな関係の構築を試みていた。彼らは、自らの子どもたちが学び、生活を送る場である地域をより良くしたいという強い動機から、地域活動への参加を果たし、精力的に活動を行っていた。教育や環境などに取り組む彼らの事例は、男性たちが、職場を軸とした生産労働に従事する行為主体のみならず、地域を中心とした生活者としての行為主体でもあるという新たな側面を伺わせるものであった。ただし、生活の基盤となる家庭内における家事やケア労働については、分担をめぐって限定的であり、その参与に必ずしも積極的ではない人も存在した。本研究では、男性たちの地域参加やその実践・認識が、実は生産領域に由来するものであることが見えてきた。
  • 青山 雅史
    セッションID: P006
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

    2018年北海道胆振東部地震により,札幌市清田区の丘陵地に盛土造成された宅地地盤において,液状化や盛土の変形などが多くの地点で発生し,多数の家屋に被害が生じた.本発表では,多くの調査や報道がなされた清田区里塚地区以外の地区で発生した地盤被害について,その分布,被害形態,および地盤被害域の土地条件や土地の履歴などに関する調査結果について報告する.

    2.調査方法

    現地踏査および国土地理院撮影空中写真の判読から,噴砂(液状化)の発生域の分布を明らかにした.また,家屋,電柱やブロック塀等構造物の沈下・傾斜,マンホールの浮き上がり(抜け上がり),アスファルト路面の損傷などの構造物被害や,地盤の亀裂,変形などの分布について,現地踏査から明らかにした.GISを用いて,それら地盤被害の分布と国土地理院発行・作成の時系列の地理空間情報(旧版地形図,空中写真,地形分類図)とを重ね合わせ,地盤被害発生域の土地条件,盛土造成との関係などについて検討した.

    3.結果

    清田区の美しが丘地区では,多くの地点において噴砂の発生が認められた.それらの地点の周辺では,家屋の不同沈下,ブロック塀や電柱の沈下・傾斜,路面の変形(波打ち)などが生じていた.住民への聞き取り調査によると,多量の噴砂の堆積が認められた地点では,地震発生翌日まで泥水の発生が持続していたという情報が得られた.これらのことから,この地区で発生した上述の被害の多くは,液状化に起因すると判断される.それらの地盤(液状化)被害発生地点は,盛土造成前には谷地形が存在していた領域とよく重なる傾向がみられた(図1).盛土造成地の表層地盤構成物質を精査する必要があるが,谷部を埋めて造成した盛土(谷埋め盛土)が液状化したことが考えられる.
    清田区清田六条から七条においては,宅地地盤や路面における亀裂・圧縮変形(損傷),盛土の変形などが発生し,それに伴う家屋の傾斜も生じていた。この地区においては、噴砂の分布は非常に少なかった。この地区における地盤被害発生地点も宅地造成以前に谷地形が存在していた領域と良く一致するとともに、谷底平野に沿って分布する低位段丘上において盛土造成した領域において、路面における亀裂や圧縮変形(損傷)などが生じていた(図2)。
  • 東京都調布市周辺の事例
    小林 直弘
    セッションID: 837
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    近年、若者の動向に注目する上で、地元への残留、あるいは地元志向であることが注目されている。若者の動向に関する既往研究では、主に地方で暮らす若者が対象とされ、社会階層や人間関係が残留要因として指摘されてきた。一方、大都市圏における研究では、高卒就職者が対象とされ、企業との実績関係や高校時代のアルバイト経験を背景とする地元での就職を理由に生活圏が狭域であるとされた。しかし、大都市圏では、1990年以降に若者の高学歴化が進行したことに伴い、高卒就職者の割合は低下している。そのため、高卒就職者以外の学歴をも包括した検討は大都市圏の若者の動向を把握する上で重要な課題である。これらを踏まえ、本発表では、専門学校卒業生を対象として、彼らの生活圏(通学圏・通勤圏)を明らかにする。専門学校は高校卒業後の進路として、就職よりも選択されており、既往研究においてもほとんど触れられていない。対象地域は東京都調布市周辺である。
    まず、専門卒者の高校時代の生活圏を把握するために、専門進学者を多く輩出している高校を特定し、その学校の通学圏を確認した。その結果、都立普通科高校では、偏差値の低い高校で専門学校への進学者が多く、これらの学校の通学圏は偏差値の高い高校に比べ通学圏が狭域であることがわかった。高校時代の通学圏は生活圏と対応すると考えられるため、彼らは狭域な生活圏で生活してきたと推測される。加えて、彼らが進学した専門学校の所在地は、高校付近や通学時に使われていた鉄道路線のターミナルに集中しており、彼らの生活圏は専門学校進学後も高校時代とあまり変わらないことが伺える。次に、就職後の生活圏を把握するために、専門学校卒業者の就業地を確認した。その結果、初職の就業地にばらつきがみられ、中には都心部に通勤する者もいたが、転職後の就業地は地元(調布市周辺)であることが多かった。初職の就業地にばらつきがみられた理由には、就職活動・企業選択が学校主導であることが挙げられる。離職の理由には、通勤が不便であったこと、職場での人間関係がうまくいっていなかったことが挙げられた。人間関係に注目すれば、地元で働く専門卒者の多くは、専門学校や職場における人間関係が希薄である一方、中学・高校時代の友人関係を現在に至るまで継続する傾向がみられ、その友人たちも学歴や就労環境、生活圏などが同じ境遇であった。
    以上より、地元に留まる専門卒者は高校・専門学校時代には狭域な生活圏で暮らしており就職後も、転職を契機に再び狭域な生活圏に戻ること、そして彼らの人間関係は、生活圏と同様に高校時代以前からあまり変化していないことが伺えた。これらの結果より、専門卒者も高卒者と同様に狭域な生活圏を形成する可能性があること、そして、生活圏と人間関係とは、密接であることがわかった。
  • 佐藤 浩, 坂口 雄太
    セッションID: P035
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

     2016年熊本地震の主要な震源断層からかなり離れ,余震もほとんど発生しない阿蘇カルデラ北西部,的石牧場Ⅰ断層の周辺で,地震前後の観測データから生成されたSAR干渉画像から明瞭なリニアメントが判読された(Fujiwara et al., 2016)。

     既に宇根ほか(2018)によって,本断層がなす撓曲崖で掘削されたトレンチの記載が報告されている。このトレンチでは火山灰層の明瞭な純層は見当たらなかったが,断層運動の履歴を把握する資料とするため,黒ボクの上に載る表層の火山灰再堆積物のガラスの屈折率を分析した。

    2.方法

     ほぼ東西に走る本断層に直交するように掘られた長さ6mのトレンチの壁面において,地表から深さが概ね50 c mの表層で,再堆積した暗褐色の火山灰層が見られた。この再堆積層の山側は礫がちであった。

     トレンチ壁面の観察から判断して,変位が想定される場所を跨ぐように,グリッド上端からW2/3の列(山側)では深度30~40 cmと40~50 cmの場所で,W4/5の列(谷側)では深度40~50 cmと50~60 cmの場所で,それぞれ試料を採取した。水洗後,篩で粒径をそろえた。実体顕微鏡の鏡下で事前に取り分けた50個程度のガラスの粒を,浸液SD51とともにスライドグラスの窪みに封入し, RIMS2000(温度変化屈折率測定装置)で屈折率を測定した。

    3.結果と考察
     図に示すように,トレンチ壁面のW4/5の列(谷側)では,屈折率1.508~1.511に相当するバブルウォール型平板状のアカホヤ火山灰のガラスは4~6粒であり,屈折率1.497~1.501に相当するAT火山灰のガラスの8~14粒より少なかった。W2/3の列(山側)では,アカホヤ火山灰のガラスは2~3粒であり,AT火山灰のガラスの9~11粒よりはるかに少なかった。この火山灰再堆積物の供給場は山側の斜面と想定しているが,アカホヤ火山灰が降下した時期には,谷側より山側のほうがその火山灰の流亡が著しく,本断層による撓曲崖が既に成立していた可能性がある。
  • 孫 玉潔, 渡辺 悌二, レグミ ダナンジャイ
    セッションID: 703
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    観光開発は地域社会や地域の人口流動性に影響を与えるが,サガルマータ(エベレスト山)国立公園およびバッファーゾーンもその例外ではない。本研究では,国立公園内に位置するルクラ,パクディン,ナムチェバザール,クムジュン,ポルツェ等の集落で,住民らに対して,2017年3月・12月,2018年5月・11月にアンケート調査(431人)ならびにインタビュー調査(33人)を実施した。これらの調査では,基本属性の他に出身村,移住の有無,職業,収入源などに関して質問を行った。

     回答者の中で最も多い民族はライ族(26%)で,次いでシェルパ族(23%),タマン族(16%)であった。移住者の多くは,低所のソル・クンブ出身(63%)およびネパール東部(26%)で,彼らの90%が職業を求めてサガルマータ(エベレスト山)国立公園およびバッファーゾーンに移住してきたことがわかった。このうち40%が季節的移住者であり,永久的移住者の24%が移住してから1〜5年以内に移住した人たちであった。移住者の91%が移住に際して職業を変えていたが,その主な理由は高収入を得るため(86%)であった。季節的移住者の多くは,トレッキング・ガイドやポーターをしているのに対して,永久的移住者は主ロッジや商店で雇用されていた。永久的移住者のうち,ルクラではほとんどの商店のマネージャーはタマン族で,ルクラのすぐ下方のコタン出身の人が多かった。パクディンでは多くの商店のマネージャーは女性であった。クムジュンでは多くの世帯が子どもの教育のために移住していた。また,職業と民族の関係をみると,ライ族の27%はポーターで,18%は商店のマネージャーであった。シェルパ族の22%はトレッキング・ガイドで20%はポーターであった。タマン族の22%はポーターで15%はロッジで雇用されていた。このように職業は多様であり,全体では92%が観光に関連した職業に就いていることがわかった。観光への依存度の高さは,移住者の主な収入源からも理解できる。すなわち,移住者の93%の世帯が観光関連の職業を主な収入源であると回答した。

     このように,サガルマータ(エベレスト山)国立公園およびバッファーゾーンには低所出身の多くの移住者が認められるが,彼らの多くは職業・収入の点でトレッキング観光と大きく関わっていて,民族によって就業できる職種に違いが認められることが明らかになった。
  • 目代 邦康
    セッションID: S102
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. はじめに

    ジオパークは,地質遺産の保護と活用を基礎とする持続可能な地域の開発を目指すプログラムである.そこでは,地質遺産の保護活動は重要な課題となるが,日本の多くのジオパークでは,実効的な活動は十分に行われているとはいえない.これは,その基本的な考え方が浸透しておらず,その方法論などが確立していないためと理解することもできるが,そもそもジオパークに取り組んでいる地域が,地質遺産保護という活動について,その重要さを本質的に理解しておらず,それが取り組むべき価値のあるものとして考えていないためとも考えられる.

    2. 地質遺産の管理の実態

    日本国内のジオパークの審査においては,現在,ユネスコ世界ジオパークの審査基準に準ずるように審査が行われており,認定に際しては価値のある地質遺産の存在は必須である.しかし,認定の際にその価値についての学術的な厳正性を持つ審査は行われておらず,申請側も特別にそれを重視していない.Gray(2008)は,Conservation Need=Value + Threatとあらわしている.それぞれの地域における地質遺産の価値とその破壊の脅威が明らかにされないなかで地質遺産保護を行うことはできない.

    3. 阿蘇の柱状節理の破壊

    2016年4月に発生した熊本地震では,地震動に伴う斜面崩壊が各地で発生し,その対策として様々な土木工事が行われた.阿蘇ユネスコ世界ジオパークのジオサイトの一つである立野峡谷においては,2017年8月に阿蘇大橋の付替え工事がすすめられ阿蘇火山の溶岩の柱状節理の露頭が大規模に改変された.この工事は,国が行ったものであるが,その事業について,事前に県に伝えられておらず,工事の状況は大きく報道されることとなった.2017年9月14日の毎日新聞の記事の見出しは「ジオパーク復興工事で破壊」であった.この問題がニュースに取り上げられ,普段ジオパークの活動に関わりを持たない人の目にも触れるようになったが,一方でジオパークの運営に携わる人の間では大きな問題とならなかった.これは,一般社会においてジオパークが貴重な地質遺産の保護と活用を行う場として認識されているが,実際の運営に携わる人の中では普遍的な地質遺産の保護が強い関心事でないことを示しているといえよう.

    4. ジオパーク運営母体の問題

    日本のジオパークの運営母体の多くは,行政が担っている.ここで述べた阿蘇の柱状節理の工事において,行政上の手続きにおいては,瑕疵はないため,問題発生後においても,それを問題視していなかった.また,日本国内のジオパークの審査を行う日本ジオパーク委員会においてもこのことは問題とされなかった.地質遺産の保護に限らず,日本において環境破壊問題の多くは,法律に則って行われる行為によって生じている.リオ宣言第10宣言では,「環境問題は,それぞれのレベルで,関心のある全ての市民が参加することによって,最も適切に扱われる.」とある.ジオパークというプラットフォームにおいて,ボトムアップという考え方が重視されるのは,地質遺産の保護という環境問題において,関心のある全ての市民の参加を可能にするためである.しかし,現在の日本のジオパークにおいては,問題の認識が不十分であり,問題解決のための枠組みも不十分である.現在のような運営体制ならびに評価体制では,地質遺産の保護をすすめていくことは困難であろう.ジオパークにおける地域観の再構築と,保全・活用に関する倫理的考察が今後必要となる.
  • 原 知弘
    セッションID: P055
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1 はじめに
    新潟県西部に位置する高田平野には,数段の河成・海成段丘群が分布しているが,その形成年代に関しては,統一的な見解が得られていない.また,平野内部の堆積物の分布については,沖積層基底礫層の高度が明らかになっているものの,沖積層より下位および縄文海進時の分布域などの詳細については,明らかになっていない.本研究では,段丘面の層序や形成年代を再検討し,平野内の堆積物の分布とも比較検討することで,氷期―間氷期サイクルの海面変動や地殻変動に関連し形成された後期更新世以降の本地域の地形発達を明らかにすることを目的とする.
    2 研究方法
     空中写真判読と既存文献資料を用いて,段丘面を区分・対比し,現地調査において,段丘構成層・被覆層の観察を行い,テフラ試料を採取した.平野部においては,ボーリングデータを用い,縄文海進時(MIS1),MIS2,MIS5e,MIS6の堆積物を把握し,その分布高度を明らかにした.
    3 段丘面の対比・編年
     本地域に分布する段丘面を,分布高度や段丘構成層から6面に区分した.HⅡ面は,岩木において,段丘構成層最上部から下位に約10cmの箇所より,Iz-KTc(125-150ka)が産出し,風化の進んだくさり礫も多数産出することから,MIS6に対比される.M面は,吉川において段丘構成層より上位の風成層中に明瞭な火山ガラス・β石英からなるK-Tz(95ka)層準が認められる.その下位には軽石を多数ふくむことから,Mk-HB(120-130ka)と考えられる層が確認されるため,MIS5eに対比される.
    4 堆積物の分布範囲と上限高度
     平野部に分布する堆積物を上下関係や層相から区分・追跡し,分布範囲と上限高度を明らかにした.MIS6堆積物は,主に礫径30mm以下の亜円礫からなり,下部に従い礫径が大きくなる傾向があり,上限高度はおよそ-100mである.MIS5e堆積物は,シルト層や細砂層,およびその互層からなり,N値はおおむね20以下である.北陸新幹線上越妙高駅付近まで分布が認められ,上限高度はおよそ-90mである.また,M面構成層からも確認されることから,高田平野西縁断層帯による変位をうけていると考えられる.MIS2堆積物は,最大礫径が50mmを超えるような亜鉛礫からなる.最深部が新堀川左岸付近にあり,上限高度はおよそ-60mである.MIS1極層期の堆積物は,シルト,砂,粘土層およびその互層からなり,N値はおおむね10以下である.妙高市新井駅付近まで分布が認められ,上限高度はおよそ-10mである.
  • 森島 済
    セッションID: 520
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    はじめに

     熱帯の山岳域では氷河の縮小が進行し,これを水資源として利用する周辺地域の人々への影響が指摘されている.ケニア山とその周辺地域もそうした例の1つに挙げられ,ケニア山の氷河縮小は急速に進行し,周辺河川の流量も減少傾向にある.一方,こうした流量の減少は,近年における東アフリカの広域的な降水量減少と共に生じている現象とも考えられる.東アフリカの降水量は様々な物理過程によって支配され,時空間的に高い変動性を示すが,1980年代以降の降水量は,3月から5月の季節で減少傾向にあることも指摘されている(Williams and Funk 2011; Lyon and DeWitt 2012など).この降水量減少の要因として,インド洋における急速な海面水温の昇温化が熱帯インド洋における対流活動の活発化や降水量の増加をもたらすことにより,東アフリカでの下降気流を強めるためといわれる(Funk et al. 2008).本研究では,このような指摘も踏まえ,近年のケニア山周辺地域の降水量変動の特徴を明らかにし,その要因を考察する.

    今回の解析では,GPCCによる0.5°グリッドデータ(v2018)を使用した.降水帯の季節推移を確認するためにケニア山に近接する経度(E37.25°)に沿って降水量の緯度―時間断面図を作成すると共に,この結果から得られる季節性を踏まえ,ケニア山に近接するグリッド(N0.25°)において経年的な変化の特徴を確認した.

    降水量の季節変化

    平均的な月降水量から季節推移を確認すると,赤道に位置するケニア山近傍ではダブルピーク型の季節変化を持ち,3〜5月,10〜11月を中心として降水量が増加する(図1).これらの極大期はそれぞれ熱帯収束帯の北上,南下の時期に対応する.一方,スーダンやエチオピアなどの高緯度側で本格的な雨季となり,降水帯の北上がみられる7,8月においても,赤道域では降水が継続する特徴がみられるが,ケニア山近傍では月降水量が50mmを超えることはない.

    季節別経年変化の特徴
    雨季となる時期に基づき,一年を3〜8月,9〜2月の2季節に分け,ケニア山近接グリッドにおける季節降水量の経年変化を確認した(図2). 年降水量はおよそ500〜800mmの振幅をもって変動しているが,図示した期間において顕著なトレンドは認められない.9〜2月の降水量には増加傾向,3〜8月には減少傾向が認められるが,何れも緩やかである.一方,1980年代以降をみるとこれらの傾向は顕著であり,特に近年における3〜8月の降水量は平均に比較しても100mmに及ぶ減少を示す.
  • 石丸 哲史
    セッションID: S405
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.日本における新規開業の実態

    欧米諸国と比較して,日本の起業の実態にはいくつかの特徴がある。2017年版中小企業白書によると,日本の開業率は2001年から2015年にかけて5%前後と欧米諸国に比べて一貫して非常に低い水準で推移している。また,起業無関心者の割合は,欧米諸国に比べて高い水準であるとされている。「脱サラ」という言葉自体に必ずしも良いイメージがあるとはいえない日本にあっては,起業家=サラリーマン不適格者とみなされ,起業が歓迎されにくい。

    2.日本におけるソーシャルビジネスの成長

    2015年国連総会にて持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)が設定された。企業はこれに同調し持続可能性を追求することにも目を向け,経団連がSDGsに向けた事業を推進するなど,環境,社会,ガバナンスを志向するESG投資に傾注する企業も多くなってきた。このような持続可能性の追求姿勢はソーシャルビジネスの成長にも影響を与えた。

    ソーシャルビジネスとは,社会的課題の解決を目的としてビジネスを展開するものである。SDGs達成への機運もあり,近年脚光を浴びるようになり,様々な主体が参入した。このような社会的課題は全国的にみられることから,そこにビジネスチャンスを見いだし,地方においても社会起業家が登場している。

    3.地方におけるソーシャルビジネスの実態

    前述のように,高齢化社会への対応や子育て環境の整備などは,全国あまねく対応が求められている社会的課題であり地方においても例外ではない。こういった社会的課題の解決に向かう目的で設立される法人は特定非営利活動法人(以下NPO法人とよぶ)や公益法人が多い。NPO法人は,福祉,環境,まちづくりなどの社会貢献をめざしているため税制上の優遇措置等が付与されているが,非営利活動にかなり限定されている。

    営利目的では社会的課題には対処できない,あるいはこういった社会的課題の解決をめざすためには,収益性が見込まれないマーケットに参入すべきとする起業家の意識があるのも事実であるが,現実として規模や範囲においてマーケットが限定的であり収益化(マネタイズ)に限界があるため,地方においてはNPO法人の割合がかなり大きいといえる。

    高齢者の介護・支援,子育て支援などのサービス充実への要請が地方ではとりわけ際立っていることから,これらの課題に立ち向かう起業家は,介護ビジネス,保育ビジネス市場に参入する場合が多く,一般的に社会福祉法人の形態をとる場合が多い。社会福祉法人は公益性の高い非営利法人であるため,税制面で優遇され,施設整備や運営費などの補助があることに加え,当該地域における需要が明確に見込めるため起業しやすい。

    さらに,指定管理者制度などもあることから,保育園経営や特別養護老人ホームなどの施設を運営することによって行政から発生する需要に応え,「行政の下請け」的役割を担う起業家が少なくない。安定的な経営が維持できるからである。たとえ,社会的課題解決への強い意志があったとしても,マーケットの地域的特性から収益化に向かうことは困難であると考えるからであろう。

    4.地方における社会起業家の活動

    NPO法人など非営利性や公益性の高い法人形態での活動・活躍にほとんど限られている地方であるとはいえ,事業によっては利益が上げられる社団法人としてあるいは株式会社化して積極的に収益化をめざす社会起業家が存在しないわけではない。一例を挙げる。宮崎県出身の起業家は,福岡県の大学を卒業後,生誕地ではない県内の都市において株式会社を設立し起業した。就労継続支援(非雇用型)や就労移行支援・生活訓練の事業所を開設し,福祉サービスを核に関連業種を含め多方面に事業展開している。このIターン起業家は,延岡市商工会議所など創業支援サービスを受けたが,県外での経験が起業の大きな契機としており,常に域外からビジネスに関する情報を収集している。このように,地域労働市場や地域のマーケットニッチなど,エリアマーケティングに傾注し社会的サービスの空間的需給の洞察力に長けている起業家も存在している。地方だから収益化が困難であると単純には結論づけられない。

    ソーシャルビジネスに関しては,生誕地から就業・修学目的で域外に移動し地方に帰還するパターン,大都市圏に生まれ卒業後あるいは一定期間の就労の後地方に移住するパターン,いずれのパターンをとる起業家も存在している。サプライチェーンやサービス需給は域内完結性が高いが,彼らはビジネスに関する情報や知見の獲得を少なからず域外に依存しており,同じビジネスモデルをもつ起業家のネットワークが形成されている。
  • 西倉 瀬里, 川東 正幸
    セッションID: P063
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに
     第2次世界大戦後、日本では食糧増産のために水田利用を目的とした大規模干拓が実施された。しかし、その後のコメの生産量調整政策により消費量と生産量ともに減少傾向にあるため、現在では水田だけでなく畑地としての農地利用や工業用地として利用されるなど、様々な土地利用が行われている。農地利用において、干拓地土壌ゆえのヘドロ地盤、塩害、土壌の酸性化が問題視されており、これらに対する土壌改良の研究が行われてきた。しかし干拓地土壌における土壌改良の農業生産性向上への効果や農地利用に伴う土壌特性変化に関する知見は得られているものの、干陸後自然条件下における土壌生成に関する研究は少ない。一方、諫早湾干拓では自然干陸地において異なる植生による土壌構造の違いが確認された(Kawahigashi, et al. 2018)。研究対象地の諫早湾自然干陸地は干拓農地の前面に位置し、1997年の干拓以降、土地利用されていない。各異なる植生に応じた土壌構造の形態と発達が確認されたことからそれぞれの植生分布に応じた土壌生成過程を経ていると考えられる。そこで本研究では海や湖沼の底質が、干拓とその後の土地利用等の人為影響をうける中での土壌生成を明らかにすることを目的とし、異なる植生下での土壌断面調査および土壌理化学性の分析を行い、各土壌の特性を調べた。
    2.手法
     諫早湾自然干陸地を対象とし、セイタカアワダチソウ群落、セイタカアワダチソウ-ヨシ群落、ヨシ(高草丈)群落、ヨシ(低草丈)群落の異なる植生下で土壌断面調査を行った。各土壌を層位ごとに土壌の攪乱試料および100mlの不攪乱試料を採取した。不攪乱試料からは遠心分離により土壌間隙水を採取した。この土壌間隙水、土壌の不撹乱試料および撹乱試料を用いて理化学性の分析を行った。
    3.結果および考察
     セイタカアワダチソウ群落では角塊状構造、ヨシ(低草丈)群落では壁状構造、セイタカアワダチソウ-ヨシ群落およびヨシ(高草丈)群落では亜角塊状構造として土壌構造がみられた。それに伴い水分含量にも違いがみられ、土壌の乾燥化に伴いヨシ(低草丈)群落、ヨシ(高草丈)群落、セイタカアワダチソウ-ヨシ群落、セイタカアワダチソウ群落の順に植生遷移していると考えられた。さらに植生遷移と並行して土壌の特性も変化していると考えられた。土壌間隙水中のNaとClのモル比が1:1であったこと、ECにおいて土壌間隙水、土壌ともに下層ほど高い傾向を示したことから、干陸地への海水の侵入がみられ、その濃度は上層ほど低く、溶脱によって構造が発達しているほど低くなったと考えられた。土壌間隙水の硫酸イオン濃度が高く、各層位内でもバラツキがあったことから、海底に存在していたパイライトが酸化し、硫酸イオンが生成したと考えられた。一方、次表層以下で集積した貝殻の分解・中和により土壌はアルカリ性に保たれていた。土壌の炭素率、土壌間隙水の全有機体炭素と全窒素比(TOC/ TN)はそれぞれ一様であったが、セイタカアワダチソウ群落の上層のみで土壌間隙水におけるTOC/TNが低く、硝酸態窒素濃度が高かったことから背後農地の肥料に由来する無機態窒素の流入があったと考えられた。
    引用文献
    Kawahigashi, M., Shinagawa, S. and Ishii, K. 2018. Soils in reclaimed land after drainage in Isahaya Bay. In Ed., Makiko Watanabe, Masayuki Kawahigashi ed. Anthropogenic Soils in Japan 135-146.
  • -課題と展望-
    須貝 俊彦
    セッションID: S206
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. はじめにー地理総合における自然地理的基礎の役割

    地理総合で学ぶ自然地理的基礎は、1)アジアと日本の自然環境の特質を知り、2)人間環境システムの仕組み・地域性・変容過程を理解し、3)防災や環境問題に関わる自然的、基層的な課題を認識するためのミニマムエッセンスである、と考えたい。地球システム論や環境史を取り入れ、地学や歴史総合と連携しつつ、「地理総合」の防災教育と環境教育に関わる部分の体系化を推し進める必要がある。



    2.地理を学ぶ動機

    地理では、地形、気候、生態系、土地利用、産業、生活文化などが、元来地域的に多様であることを学ぶ。地理的多様性が、自然災害、乱開発、環境破壊、紛争などによって失われつつある危機を、現場の状況から学び取りたい。多様性が失われていく背景には、様々な利害対立や矛盾、異なる価値観の衝突がある。危機は、社会的弱者を直撃する。だれもが安心して暮らせる社会を実現するための出発点は、多様な価値に支えられて、地理的な多様性がそこに根付いてきたことの再発見であろう。このことを認識し、地理を学ぶ動機を高めたい。



    3.モンスーンアジアの島弧としての国土の理解

    中学校で学ぶ世界地誌に、後述する人間環境システムの視点を加え、世界・モンスーンアジア・日本列島という空間階層のなかに国土を位置づけたい。地域の環境要素を機能的なまとまり(系)として捉える視点を大切にしたい。世界の半数の人々が暮らすモンスーンアジアは、生物多様性に富み、地形変化が激しく、山が崩れ、河川は洪水のたびに多量の土砂を運ぶ。河川の下流には、堆積平野が発達し、稲作が営まれてきた。このような自然の恵みと猛威が地理的に重なり合う土地での暮らしは、冷温帯の安定陸域とは全く異なる文化や自然観を育んできた。日本列島はその最たる場所ということもでき、島弧ゆえに地震・火山活動がとりわけ活発である。アジアで最初に西洋文明を本格的に輸入し、経済成長を遂げ、都市人口率が急増した国土を、その基層をなす自然環境まで掘り下げてみることで、日本やモンスーンアジア地域の災害軽減や環境問題の解決に貢献する手がかりを見つけたい。



    4.人間環境システム論の導入ー地球的課題への視座

    地理総合では、人と自然(地球)の関係を具体的に学びたい。地球システムにおける地圏・気圏・水圏・生物圏の相互作用や、第四紀における気候・海水準の周期様変動の概略を知るだけで、地球規模での環境理解は格段に深まり、地球環境問題が人類の生存と直結する課題であることを実感できる。例えば、産業革命以降の地下資源に依拠した生産活動が戦後急成長した結果、①地球システムにおける物質循環が変わり、大気中のCO2濃度が上がり、温暖化して気候が変わり、洪水リスクが高まっている可能性と、②都市への人口集中を招き、スプロール(とくに日本では1960-80年代の災害の静穏期と重なった)に災害対応が追い付かず、洪水リスクが高まっている可能性を学習できる。

    人は自然の一部でありながら、自然を外に置くことで、自然から多くを得てきた。その結果、自然は改変され、人は存続の危機を迎えている。それを地球システムにおける人間圏の分化、あるいは、第四紀における人新世の誕生と呼ぶことがある。地球システムにおいて人間活動を相対化するには、物質・エネルギー・資本・人のグローバルな流れの定量化・可視化が必要である。統計資料やGISを駆使した人間活動の相対化学習を通じて、地球的課題に対する新たな視座を得たい。



    5.地形分類図の活用―安心安全な社会づくりの基盤

     ハザードマップと地形図の橋渡しとして、地形分類図を教材化したい。「地理院地図」を活用すると良い。IoTで水位や揺れ、崩れの監視や避難支援が実現しても、災害から助かる基本は、土地の素性を知り、用心することである。地形は、形・でき方・できた時期・構成物に基づき、類型的に階層分類される。その空間分布を示す主題図が地形分類図であり、近い将来変化する地形(氾濫原、活断層周辺、急斜面など)、安定的な地形(段丘面の中央など)、人工改変地形(切盛土地など)の分布を俯瞰できる。これに、地域の開発史や災害史を重ねることで、その土地の素性や、土地と人との関係を概観できる。特に、微地形と集落の分布関係が重要であるが、地形改変の著しい地域では、改変前の旧地形に遡ってみると良い。地形分類図を理解すると、ハザードマップの読図力は格段に高まる。地形分類図は、地盤・地下水・土壌などの土地資源の空間分布の把握にも役立ち、自然景観に空間構造の枠組みを与え、ジオパーク活動にも資する社会的共通インフラである。地形分類図を安心安全で活力のある地域社会づくりに活用したい。
  • 上杉 昌也
    セッションID: 835
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    I 研究の目的
     近年,資本主義諸国において,経済格差の拡大とともに社会経済的な居住者特性による居住分化への関心も高まっている.社会経済的な居住分化の形成要因として,経済格差の拡大(Reardon and Firebaugh, 2002),グローバル化による産業構造の変化(サッセン, 2008),住宅・福祉政策(Musterd and Ostendorf, 1998),などの影響が指摘されている.しかし,その経年的変化の要因については統一的な知見は得られておらず,時代や地域(国)によっても異なる.そこで本研究では,2000年以降の日本の大都市を対象として,居住分化の変化を明らかにし,その要因について考察することを目的とする.

    II データと方法
     本研究では国勢調査小地域集計の職業別就業者数データ(2000年と2015年)を用いて,ホワイトカラー就業者〔管理的職業,専門的・技術的職業,事務従事者〕(W)とブルーカラー就業者〔生産工程,輸送・機械運転,建設・採掘,運搬・清掃・包装等従事者〕(B)の居住分化の変化を相違指数(DI: Dissimilarity Index)により定量化した.またグレーカラー就業者(G)も含めたMultigroup DI (MDI)も用いた.なお(M)DIは0~1の値をとるが,値が大きいほど集団間の住み分けが進んでいることを示す.
     対象都市は,表1に示す,2015年時点で人口の多い10都市である.また変化の要因として,Ⅰを踏まえ,次の変数(都市指標)を用意した:経済格差の指標として世帯収入ジニ係数(住宅・土地統計調査),グローバル化や産業構造の指標として第2次産業就業者割合や外国人割合,住宅政策の指標として公営住宅世帯割合(以上,国勢調査).なお,(M)DIの算出には国勢調査小地域集計に基づき,オープンソースソフトウェアのGeo-Segregation Analyzerを用いた.

    III 分析結果
     2000~2015年における居住分化の程度を表す(M)DIと,関連すると考えられる都市指標の変化を表1に整理した.まずDIの変化を確認すると,第2次産業就業者割合など都市指標には都市間の差があるにもかかわらず,W-B間のDIはいずれの都市も0.20~0.25程度であり,それほど大きな差があるわけではない.そして15年間での変化をみると,ほぼ変化のなかった神戸市を除くすべての都市においてホワイトカラー層とブルーカラー層の空間的分離が進んでいるといえる.しかしMDIに示されるように,グレーカラー層を含めると,居住分化の程度はほとんど変化が見られないか減少している.すなわち,全体としては混在化が進みつつある一方で,職業階層の両端では空間的な分離が進みつつあることが想定される.
     また都市指標との関係を見ると,ジニ係数が高い都市や第2次産業就業者割合が低い都市でホワイトカラー層とブルーカラー層の間の居住分化が大きい傾向がみられる.しかし,その変化との関係については,必ずしも居住分化の変化と連動しているわけではないため,それぞれの都市の状況によって,これらの要因が複雑に作用している可能性がある.なお本研究では,(M)DIではとらえきれない居住分化の空間パターンおよびその変化についても考察する.
  • 茨城県つくば市茎崎地区の福祉有償運送を事例に
    長﨑 宏輝
    セッションID: P090
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    はじめに
     高齢化が先進国の多くで社会問題となっているが,その中でも我が国では急速に進行している.それに伴い生じる問題について解決が急がれる.これらの問題の中でも近年社会問題として取り上げられるものが交通問題である.通院や買い物など生活行動に不便を強いられており,特にニュータウンに多い高齢者のみの世帯では深刻である.しかしながら既存の公共交通や行政の支援では対応しきれていない現状がある.そこで解決への一つの手段であるボランティアによる福祉有償運送を取り上げて,その利用実績から高齢者の利用形態を明らかにすることを目的とする.そこから地域における交通サービス供給の課題について論じる.
    交通サービスの供給とその現状
     茎崎地区に供給されている公共交通サービスは,①民間乗合バス,②行政運営主体バス,③行政運営主体デマンドタクシーである.

     これ以外に地区内ではボランティアによる移送サービスである福祉有償運送が2団体により運行されている.
    福祉有償運送の利用形態と輸送の特徴
     2017年12月~2018年11月の総トリップ数371件,総パターン数77件を分析できるデータとして使用した.利用者の目的地は最多が地区内(187件)次いで牛久市(131件)であった.移動目的別にみると,通院では地区内が132件,牛久市が107件,つくば市(茎崎地区以外)が38件であった.買い物では地区内が35件,牛久市6件,つくば市2件であった.またこれらの移動距離は1~3kmが全体の6割を占める.複数箇所を経由する事例として4つパターンに分けた.①通院後買い物型,②病院薬局型,③病院周回型,④買い物周回型である.
    交通サービス供給の課題
     福祉有償運送の利用形態と住民への聞き取り調査より,以下のように考えた.利用目的として通院が多いことから最も求められているものは通院の手段である.現在の交通網では通院の利便性は低く単独行動に不安を訴える高齢者にとって負担が大きい.地域的な特徴を踏まえるとニュータウンの住民は地域住民との関係が稀薄である傾向があり,旧集落の非利用者と比べて移動や生活に対する不安が大きい.そのため福祉有償輸送を移動のためだけではなくボランティアとの交流の場としても利用している事例がある.一方,旧集落では福祉有償運送の必要性を感じない意見が多くみられた.そこからは同居家族の存在や近隣住民が彼らの生活を支えている現状がみえた.

     以上より,高齢者の交通問題はニュータウンでより深刻であり,旧集落では強い地域コミュニティがこれまでの交通問題を解決してきた.今後,より急速に高齢化が進むと考えられるニュータウンでは地域コミュニティをより強くし信頼関係を構築することが問題解決のカギになると考える.
  • 中村 祐輔, 渡来 靖, 中川 清隆
    セッションID: 516
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    近年,リモートセンシング機器を用いた都市境界層の観測が盛んになってきたが,既存の研究は都市内1箇所の定点観測がほとんどである.その中で,森本ほか(2013)のシーロメーターやPal et al.(2012)のライダーによる移動観測が注目されるが,彼らの観測は風の鉛直構造を把握できなかった.我々はドップラーライダー(以降,DL)による都市境界層高度だけではなく風の鉛直分布を含む移動観測を立案し,埼玉県熊谷市街地内外において実践してきた.DLによる移動観測の障害となる振動は高性能防振マットにより軽減できるが,機器の方位や傾斜の変動の防止は不可能であるため何らかの補正手法の開発が急務であった.この度,走査型DL測定値に対する傾斜補正手法を提案し,その精度についての検証観測を実施したので,その結果の概要を報告する.
  • 水谷 光太郎
    セッションID: P048
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    神城断層は糸魚川-静岡構造線断層帯北部区間を構成する,主に東側隆起の活断層である.2014年11月に神城断層北部を震源とするMw6.2の地震が発生し,地表地震断層を出現させ,多くの被害をもたらした.地表地震断層が現れた北部を中心に変位量調査やトレンチ調査が行われ,断層の性状が解明されてきており(石村,2015;廣内,2015;2017;2018;Katsube et al,2017など),池田(2016)では過去に異なる規模のイベントが繰り返し発生していることを指摘している.一方2014年には活動していない神城断層南部(三日市場-借馬)については,活動履歴や変動地形の変位量に関する調査がいくつか行われているが(松多ほか,2006;澤ほか,2006;丸山ほか,2010;Katsube et al,2015,原口ほか,2016),断層の性状評価において地形面のデータは不十分である.

     そこで本研究では,神城断層南部において変動地形から変位量を求め,変位量分布に基づいて神城断層南部の活動特性を明らかにする. 

     本研究では次のことが明らかとなった.

    1,神城断層南部地域において過去5000年間に3-4回の活動履歴があり,そのうち最新の活動である2750年前以降のイベントにより最大でL3面の約3mの変動崖が形成された可能性がある.

    2,神城断層南部地域においてL2面形成期(4-7ka)以降よりもL1面形成期(10-20ka)以後- L2面形成期(4-7ka)以前において一回ごとの活動規模が大きいか,6回以上のイベントが想定される.

    一方で神城断層南部地域内だけでも局所的な変位量の違いが想定され,変位量分布のデータを高精度かつ高密度に収集し,性状の特性を解明することが求められている.
  • Peter Jeszenszky, Keiji Yano, Yoshinobu Hikosaka
    セッションID: 619
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    Differences in language variety keep being important topics and strengthen the feeling of belonging and group formation in Japan too. We argue that historical contact paths can explain a large portion of variation in linguistic differences across Japan. This study explores the patterns in Japanese lexical variation based on digitised dialectal survey data (using the Linguistic Atlas of Japan) and the explanation power of contact paths obtained from different historical sources, presenting some preliminary results of a dialectometric analysis and quantification of some of the factors assumed to affect the lexical variation in Japanese.
  • 八木 浩司, 下岡 順直, 長友 恒人, 松四 雄騎, 檜垣 大助
    セッションID: 434
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    ネパール中部で大ヒマラヤに横谷を形成するトリスリ川などの河川は,山麓部海抜500-700 m の小ヒマラヤ側で,河谷沿いに現河床から120~210mの位置に,東西幅500-1000m,流路方向に数キロの広がりで明瞭な平坦面を残す高位地形面が発達する.それらに合流する支流でも大ヒマラヤに最上流域をもつものは,高位地形面が上流側に連続するような分布を示し,流域全体が埋積されたかのような分布を示すことがある.それらの高位地形面は,連続地表付近は赤色化を受け,日本的感覚ではMIS5e以前形成の高位段丘のようにおもわれるものである.筆者らは,ネパール中部の小ヒマラヤを流れるトリスリ川,ブディガンダキ川,マルシャンディ川の3河川流域において地形・地質調査を行い,前述の高位地形面構成層上部についてOSL年代測定を実施した.
    ネパール中部小ヒマラヤ帯河谷を埋積するような高位の地形面は,段丘面頂部から谷底に達するような100m以上の厚い砂礫質堆積物から構成される.それら堆積物はいずれも中部厚さ50m以上で巨礫を含む不淘汰の土石流堆積物を挟んでいる. それらの3つの河川に発達する高位地形面の離水層準(合計5層準)を示す砂質シルトに対してOSL年代測定を行った.その結果,それぞれ1.9-2.8万年に離水したことが明らかとなった.従って調査地域の高位地形面構成層の特徴と離水年代から,本地域においては,最終氷期後半に大量の土砂が土石流となって流入し河谷を埋積していたことが明らかとなる.
  • 山形花笠まつりを事例に
    貝沼 良風
    セッションID: 612
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>本研究では,山形花笠まつりを事例に,近代以降に生まれた祭りの存立要因を,祭りの参加者のアイデンティティに着目して検討する.日本においては,近代以降,とりわけ高度経済成長期以降,地域活性化などのために新たに祭りが生み出されていった.そうした祭りの中には,地域を代表する祭りに成長したものもみられる.祭りの参加者に注目すると,このような新たな祭りでは地縁的共同体によらずに参加者を募ることが少なくなく,参加者はそれぞれのきっかけや理由によって祭りに参加している.既往の祭り研究においても,祭りの参加者に着目して検討したものは存在する.そこでは,参加者個人の意識に注目したものもあるが,参加者個人は所属する団体の構成者の一人として捉えられる傾向にある.しかし,現代の祭りの在り方を解明するためには,参加者を特定の所属団体の一人としてだけでなく,参加方法や役割を変えながらも祭りに参加し続ける主体として捉えて分析する必要があるだろう.<研究方法と研究対象の位置づけ>以上を踏まえ本研究では,山形花笠まつりを事例に,祭りの参加者の参加のきっかけや理由と,参加者が形成するアイデンティティを明らかにし,現代の祭りが存立する要因を考察した.分析に用いるデータは,運営組織である山形県花笠協議会と,祭りに踊り手として参加している46人への聞き取り調査から収集した.また,山形花笠まつりに関する書籍や,各団体の資料等も適宜使用した.山形花笠まつりは高度経済成長期に観光誘致のために生み出された,花笠踊りという踊りを中心市街地で踊るパレードが目玉の祭りである.当初は地縁団体やその地域で活動する企業を中心としてパレードが執り行われていた.近年では企業の参加が多い一方で,学校や病院による団体,祭りへの参加のために結成された自主的な団体の参加が増加している.そして花笠踊りは県内外の祭りやイベントで披露されるなど,山形花笠まつりは山形市や山形県といった地域を代表する祭りとなっている.<結果>山形花笠まつりの参加者は,所属組織の一員であることや,知人からの紹介,個人の交流や踊りへの関心といったものを参加のきっかけや祭りに参加し続ける理由としていた.また,子供の頃に踊りを覚えた,あるいは過去に祭りに参加した経験者が,ライフコースの変化に伴い他団体で祭りに参加するケースも目立った.調査対象者の語りからは,団体や祭り,踊り,地域に対するアイデンティティが形成されていることが明らかとなった.まず,多くの参加者が,祭りへの参加は団体のメンバーとの楽しみ,あるいは団体の一員の義務であると語っており,団体に対するアイデンティティを形成している様子が読み取れた.また,沿道の観客との一体感や,踊り・ダンスの経験について語る様子から,祭りや踊りに対するアイデンティティが形成されていることも読み取れた.さらに,参加者は,県外の知人との会話で山形花笠まつりが話題になることなどについて語っており,山形県に対するアイデンティティを形成していることもまた読み取れた.山形花笠まつりを地元の祭りと区別しながら,山形県民としては参加したいと語る様子からは,地元に対するものとともに,山形県に対するアイデンティティも形成されていることが読み取れた.他方で,継続的に参加する参加者は,一参加者という認識から団体のまとめ役や祭りの盛り上げ役という認識へと変化しており,こうした点から,それまで形成されていたアイデンティティが変質する様子が読み取れた.また,様々な団体から祭りに参加することにより,踊りや団体に対するものだけでなく,祭りや地域に対するものといった新たなアイデンティティが形成されていた.様々なアイデンティティは個別で成立しているわけではなく,複数のものが重なり合うものと捉えられる.<考察>山形花笠まつりへの参加を通し,参加者は複層的なアイデンティティをライフコースの変化に沿って形成していた.また,そのようなアイデンティティは,参加者が祭りに参加し続ける動機の一つとなっている.このことから参加者のアイデンティティと祭りへの参加との間には,決して一方向的ではなく,相互に影響しあう関係があると考えられる.参加者のアイデンティティに基づく行動には,団体の一員としての参加の継続や様々な団体への参加,新たな団体の結成などが挙げられる.このような行動によって祭りへの団体の参加が維持されていると考えられる.またそのような参加者の行動は団体を越えた祭りへの参加のネットワークを生みだしている.そのネットワークの中での新たな個人の参加や,経験者の継続した参加が,祭りの存立の要因の一つといえるだろう.そしてそのようなネットワークの軸となるのが,祭りへの参加の志向に繋がる参加者の複層的なアイデンティティであると考えられる.
  • 高梨子 文恵
    セッションID: 207
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    背景と課題
    1990年代後半から始まった、加工・小売業による「スーパーマーケット改革」と呼ばれる青果物流通の大規模な改変は、多くの先進国で①農産物の私的な規格化を促し、②卸売市場を経由したスポット取引から契約取引への移行、③店舗単位での集荷から、集配センターを利用した本部一括仕入れ割合の増加による、集荷地の広域化を促進させてきた(Reardon & Barrett 2000)。これらの変化は、主にアメリカやヨーロッパを中心とする先進国で顕著にみられる一方、中国では、スーパーマーケット等の参入が活発化しているにもかかわらず、未だ卸売市場を介したスポット取引を中心とする小規模な流通経路が主流であることが報告されている(Honglin et al. 2009).。

     ところでベトナムでは、近年政策的に外資の誘致を行っていることもあり、工業団地が急速に発展している。当該地域では政府による土地収用が行われ、多くの農民が土地を失う一方で、工業団地で賃金労働者化している。このような都市近郊農村における賃金労働者の増加は、工業団地に隣接する地域におけるケータリング産業の成長を促している。ベトナムでは残留農薬や産地偽装によって食の安全性に対する社会的懸念が高まっているが、工業団地に企業給食を提供するケータリングは、出食数が多いことから、そうした影響も大きく、食材の調達を管理することが求められると考えられる。

    ベトナムの青果物流通に関する研究は、スーパーマーケットの仕入れ等に関する研究(Cadilhon et al. 2006)、消費者の農産物購入選択に関する研究(Wertheim-Heck et al. 2014)などがあるが、外食やケータリングの原料調達に関する研究は散見する限り見当たらず、ベトナムで展開するケータリング産業がどんな特徴を有しており、それが先進国で見られるような青果物流通を近代化する方向にあるのかは明らかにされていない。よって本研究では、北部ベトナムを対象に、ベトナムで展開しているケータリング企業の特徴とその原料調達行動を明らかにする。
    方法と調査地の概要
    まず、ハノイ市に隣接するハイズオン省で、商工省に登記されている外食・ケータリングを行っている企業を対象に、資本規模や従業員数等に関して概要整理を行う。次に、ハノイ市及びハイズオン省で、工業団地内の企業にケータリングを提供している4社に対して行った聞き取り調査をもとに、食事の提供形態や、原料調達方法等に関して整理を行う。

    ベトナムでは、工業団地は主に南部ホーチミン市周辺と、北部ハノイ市周辺で展開されている。今回対象としたハノイ市は北部で最も工業団地が多く立地し、ハイズオン相は北部でハノイ市、バクニン省に続いて多い地域となっている。
    結果
    本研究により、①ベトナムのケータリング企業は資本、出食数の規模は小さく、一部の企業を除き、家族経営が主体であること、②食事の提供形態は、人材等を派遣して工業団地内の企業で調理する場合と、ケータリング企業内で調理して輸送する場合があること、③原料の調達は、全国展開している企業でも、一括仕入れは行われておらず、店舗ごとに小規模に行われており、契約生産等は一般的ではないことが明らかになった。
  • 川東 正幸, 井堀 雄介
    セッションID: P029
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. 背景

    長野県の西側県境には御嶽山、白山、乗鞍岳などの活火山があるため、県全体が広く火山灰の降灰を受けていることから、火山灰を母材とした黒ボク土が県内の主要な土壌として分布している。その面積は2208㎢におよび県面積の16.6%を占めている。また、起伏に富む地形による火山灰の移動集積が腐植表層の厚さが異なる黒ボク土を生成・分布させている。比較的厚い火山灰が集積しやすい段丘上や火山麓地では腐植の堆積により厚層黒ボク土が生成し、逆に表層浸食を受けやすい傾斜地では腐植層が薄い淡色黒ボク土が生成する。しかしながら、緩傾斜地に分布する黒ボク土は古くから農地利用され、その土地管理により人為的な改変を受けてきたことから黒ボク土と傾斜との関係は複雑である。そこで、本研究では農地利用と黒ボク土の分布との関係について、特に名称の由来となる黒色の腐植質表層の特徴に着目して、長野県における各種黒ボク土の面的分布特性について検討した。

    2. 手法

    長野県内の黒ボク土の分布域および面積と斜面傾斜角との関係について、長野県を含む10m等高線間隔の数値標高モデル(10mDEM)(国土地理院,2018)と20万分の1土地分類基本調査による土壌図「長野」(国土交通省,1974)および縮尺5万分の1農耕地包括土壌図「長野」(農研機構,2017)を用いて、ArcGIS 10.2.2(ESRI Japan,東京)により黒ボク土の分布を計算した。なお、対象とした黒ボク土とその基準は日本土壌分類体系(2017)に基づき、厚層黒ボク土:層厚50cm以上, 普通黒ボク土:層厚25cm以上50cm未満, 淡色黒ボク土:層厚25cm未満とした。

    基盤地図情報等高線データ(国土地理院,2014)、数値地図25000「長野」に収録された南大塩図幅(国土地理院,1988)および2万5千分の1地形図の茅野図幅(国土地理院,1988)を用いて, 農地造成による地形改変面積を算出した。この地形改変域と厚層黒ボク土の分布域の重複する範囲の面積を算出し、腐植質表層が人工的な剥離により異なる黒ボク土に改変された面積として算出した。

    3. 農地利用による黒ボク土分布域の変化
     長野県茅野市を含む土壌図上では調査対象地の上古田地区の台地上に広く厚層黒ボク土が分布しており、その面積は583haであった。同地域は傾斜地であることから狭小な面積に農地開拓されており、腐植質表層も厚く保持されていたことが推測された。しかしながら、農業機械の大型化に対する農地面積の拡大は大規模造成を必要としており、腐植質表層は作土を確保する程度に盛土されていることが現地における広域調査で明らかになった。50cm以上の腐植質表層を有していた厚層黒ボク土が耕作土層の推奨深である15~20cm程度の均一な厚さで盛土造成されていることが確認された。農地の一区画内ではバラツキはあるものの、平均して25cm未満であることから農地造成を受けた土壌は淡色黒ボク土に分類された。調査区域を包含する地形図およびDEMを用いたGISにより算出した切土および盛土による地形改変面積は、それぞれ切土面積が440haであり、盛土面積が379haであった。地形改変された総面積は318haであり、対象地域における厚層黒ボク土分布域の54.6%が造成による表土剥離をうけて淡色または普通黒ボク土に改変されていることが明らかになった。このような切土・盛土による農地造成は県内の他地域でも確認されたことから、造成による黒ボク土の改変は広く全国的に生じているものと考えられた。
  • 崎田 誠志郎, 松井 歩
    セッションID: S503
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

     日本の沿岸漁場秩序にかかわる制度の原型は,近世以来の慣習や集落構造を,漁業権制度をはじめとする漁業法体系に再編することで成立した.その中でも,漁業協同組合(以下,漁協)は,ローカルな集落を基盤とした漁業者の共同体組織として位置付けられる.漁協は各種経済事業や漁業権の管理を担うとともに,集落と対応するローカルな沿岸漁場の管理において中心的な役割を果たしてきた.

    本報告では,従来の漁業制度や漁業研究において地域の漁業コミュニティとして措定されてきた漁協の変化を巨視的に示す.このことを通じて,漁協の基本的機能と見做されてきた沿岸漁場管理を,ガバナンスという視点から捉え直すことの意義について考察する.なお,本報告の分析対象は沿海出資漁協とする.



    2.漁協の変化とガバナンスへの影響

    戦後の漁業制度改革を通じて漁協に与えられた制度的理念は,地域の漁業者の民主的・等質的組織として,漁業者の経済状況の向上と,漁業者間の漁場利用調整や紛争の調停を担うというものであった.漁協の組合員資格は漁業法および漁協定款によって定義され,意思決定は組合員間での合意を原則とする.漁協による自治的・水平的ガバナンスが可能とされてきた背景の一つには,こうした制度的な根拠付けがある.

     他方で,戦後の社会経済の変動を通じて,漁協の機能・構造や地域社会との関係は変化してきた.高度成長期以降にはいわゆる伝統的漁村の解体が生じ,漁協の性格は従来の地縁的組織から職能的組織へと移行していったとされる.漁協内部では,集落別・漁業種別・階層別といった形で漁業コミュニティの個別分化が進み,漁協そのものは行政と漁業者の中間組織としての性格を強めてきた.また,近年では,沿岸域利用の多面化,関係主体の多様化,環境保全意識の高まりなどを受けて,漁業に限らない沿岸域利用の総合的ガバナンスが漁協の新たな機能に期待されている.

     これらに加えて,1960年頃からは,小規模零細漁協の解消と経営の健全化を目的とした漁協合併が政策的に推進されてきた.その結果,全国の漁協数は1961年から2016年までの55年間で約7割減少している.合併は経営難にあえぐ漁協の存続に寄与してきたが,一方で,ミクロな漁業コミュニティと漁協の間には空間的な乖離を生じさせた.漁協の地理的変化は,ローカルスケールを単位とする沿岸漁場のガバナンスに大きく影響するとみられるが,そのマクロな動向については十分に検討されていない.



    3.漁協の立地状況の変化

    本報告では,1961年と2016年の2時点における漁協の立地状況の変化に着目する.2017年7・8月に,沿海漁協が立地する40都道府県から滋賀県を除いた39都道府県の水産部署に依頼し,2016年時点での漁協の立地と合併状況について31道府県からデータの提供を受けた.続いて,『漁業協同組合地域別統計』に記載されている1961年当時の漁協の所在地をデータベース化した.その他,『水産業協同組合年次報告』各年版や各自治体の公表資料を適宜参照した.これらのデータの概要は,地域漁業学会第59回大会(2017年10月)において発表済みである.本報告ではさらに分析を進め,漁協の立地状況と漁港背後集落数などを比較することで,統廃合による漁協の地理的変化とローカルな集落との関係を道府県スケールで検証する.
  • ―大分県を事例に―
    村田 翔
    セッションID: 306
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.研究目的
     2011年の東日本大震災以降,学校における防災教育の必要性が高まっている。2018年も平成30年7月豪雨(西日本豪雨)や北海道胆振東部地震など甚大な災害が発生しており,日本各地で災害が発生しうる状況である。その被害規模もこれまでの想定を上回るものとなっている。そのため,学校現場ではより実践的な防災教育に取り組んだり,教育委員会が主導して防災教育に関するマニュアルを整備したりするなど,様々な取り組みが行われている。しかし,学校は通常の教育活動に加えて多方面からの社会的要請,限られた授業時数,校務分掌など多忙化を極めており,新たに防災教育を設定して取り組んでいくのは限界がある。すなわち,防災教育を通常の教育活動内にうまく組み込みながら学校に関わる利害関係者が協力して取り組めるかが重要となってくる。その協力体制を構築する方策として,学校に分掌あるいは役職の一つに「防災教育を主導するための中核となる教員(以下,中核教員)」を設定している地域がある。例えば,宮城県教育委員会では,東日本大震災の被害を踏まえて,平成24年度より「防災主任」を県内の公立学校に配置した。さらに各地域で防災教育の拠点となる学校に「防災担当主幹教諭(現在は安全担当主幹教諭に変更)」を設定している。具体的な名称(役職名)は各自治体によって異なっているものの,防災教育の中核教員を設置することでより実践的な防災教育や学校の体制づくりを進めている。
     以上のことから本研究では,中核教員を調査対象として,防災教育の主導役としてどのような役割が求められ,その役割を果たす上での課題や中核教員を設置したことによる効果などを分析することを通して,防災教育を担う中核教員育成の在り方や課題を明らかにし,防災教育の充実を図ることを目的とする。
    2.研究方法
     本研究では,中核教員を設置している自治体のうち,大分県教育委員会が導入した「防災教育コーディネーター(以下,コーディネーター)」に対する郵送によるアンケート調査並びに実施主体である大分県教育委員会への聞き取り調査を実施した。主な業務は,より実践的な防災訓練の企画・実施,校内での防災教育に関する連絡・調整(カリキュラムマネジメントなど),防災に関する校内外の連絡調整などである。大分県では平成30年度よりコーディネーターの設置を始めたばかりであり,初年度は先行実施として県内の公立学校と一部の小中学校にそれぞれ1名ずつ導入されている。
    3.研究結果
     アンケートの結果は以下のとおりである。コーディネーターになった経緯について大部分の教員が管理職から直接指名があったとのことであった。そのため,回答者自身が現在の力量等を用いて防災教育実践に取り組む自信があるかどうかについては,およそ7割の教員が「あまり自信がない」または「自信がない」と回答しており,コーディネーター自身も防災教育そのものや役割に対してまだ全体像をつかみきれていないことが推測される。コーディネーター業務に関して特に必要な項目としては,災害・防災に対する知識が必要であると回答した教員が最も多かった。一方で,コーディネーターの位置づけに関して不明瞭であるという意見も多く出され,学校内での役割分担をより明確にする必要がある。アンケートの詳細な結果については,当日の発表において報告する。
  • ―白川郷を事例に―
    王 夢トウ
    セッションID: 337
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.研究の背景と目的

    21 世紀に入ってから,中国の経済発展に伴って中国人の年間収入は倍増し,多くの人が観光活動に親しむようになった.さらに,平和的な国際環境と国々の関係の改善によって,国際観光活動が以前より活発化してきた.その中で、2017年までに中国人のアウトバウンド観光客数が1.3億人を越え,人気のある観光地としてタイ,日本,ベトナムの三つの国がランキングされた.同年には中国人観光客が訪日外国人の約25%を占めることが分かった.

     訪日中国人観光客における研究では,主に特定な観光現象や具体的な観光空間などが固定的に語られてきた.そして,全体的な観光空間についても指摘されてきたが,直近10年間の現状及び訪日中国人の農村観光活動については言及されてない.特に,直近10年間の中国人に向けたビザ政策の変化や訪日中国人の構成変化などの要因を重視し,日本に来た中国人観光客の旅行特性に目を向ける必要がある.

    そこで,本報告では,まず最新データを利用して,直近10年間の訪日中国人の観光意識の変化と観光先の拡大を順次把握する.次に,観光先の拡大の中で,中国人観光客の白川郷人気の上昇プロセスを解明する.最後には,日本国内で農村観光をする訪日中国人観光客の属性と特別性を明らかにする.

    2.結果

    近年の訪日中国人の観光意識および訪問地の変化(空間的な移動)について,「観光空間」と「旅行特性」という2つの概念に依拠しながら考察した.特に直近10年間における,訪日中国人観光客の観光空間の変化として,観光地の選択が大都市から農村へ移行したことが分かった.中国人観光客の観光空間の変化は,最初,東京,大阪など,主に日本の国内有名な国際都市が中心であったが.現在の段階では,国際都市以外の主要都市が中心であり,各地域の中核都市をハブのように用い,観光空間を面的に拡大していることがわかった(点的→線的→面的).

    そして,中国で人気的な農村観光地としての一つである白川村を分析すると,「中国人」観光客の「白川郷」人気の上昇プロセスを解明した.まず,白川村が地理的に特別な場所にあり,日本中部の広域観光の範囲内における中心に位置しており,アクセスの良さが指摘できた.そして,白川村は,日本でも早い時期に文化遺産として登録されている地域の一つであり,日本だけでなく,国際的も高く評価されているという知名度の高さが指摘できた.最後に,インターネット上に作られる仮想的な空間と現実的な場所空間の相互作用が指摘できた.

    更に,一般的な訪日中国人観光客と比較すると,農村地域で観光活動を主に行っている中国人観光客の年齢は,特に20代後半から30代前半に集中しており,若い年齢層であることがわかった.これより農村を訪れる中国人観光客たちは,以前からある「団体型」の観光客に比べて,柔軟性や観光活動における行動力があるといえる.

     以上より,直近10年の中国人観光客の観光空間の進出方向や農村観光する中国人の属性を把握できると考える.

    3.今後の考察
    本報告の結果に基づき,近年の訪日中国人の観光空間の変化と進出方向および観光客の属性を考察すれば,中国国内の特定階層の人たちに狙いを定めた,区別された観光商品を出すことができるようになると考える.それは,訪日中国人の観光活動がさらにMarket Segmentationすることを意味するだろう.
  • 陳 林
    セッションID: 707
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに
     1970年代末の改革・開放政策の実施に伴い,中国の農村地域は急激な社会的・経済的再編をもたらしている.その中で,工業化や都市化の進展によって,農村地域の再編プロセスは大きな地域的な差異がみられている.特に農外就業は農村地域の再編において大きな役割を果たしている.そのため,本発表は経済発展の進行している中国東部地域を研究対象として,農業主導型の農村地域における地域労働市場の特性および農家の農業経営にみられた分化の特性を解明することを目的とする.

    2.対象地域の概観

     本発表は中国の東南部に位置している福建省を対象としている.2000年代以降,福建省における都市化・工業化の進展は農村地域に大きな影響を与えた.沿岸地域は農村人口や耕地面積の減少をもたらす一方,より付加価値の高い漁業や商業的農業に移行した.内陸地域は経済発展が遅れているため,労働力の流出が顕著である.内陸地域の農業構造調整は一部の地域を中心に商業的農業への転換が進行している程度である.

    3.調査農村地域の就業構造

     調査農村地域における就業者の特性を把握するため,農村居住者と就業者の年齢構成を比較した.農村居住者は20歳代から50歳代に集中して,20歳代と40歳代は最大のコーホートである.就業者の場合も20歳から59歳に集中しているが,20歳代の就業者比率は他の年齢階級より低い.これは主にこの年齢階級が大学への進学や女性の主婦層が多いことによる.30歳代から50歳代はほとんど農業か農外就業に従事している.60歳以上は就業率が低い.

     続いて,就業地を村内,鎮内,県内,省内,省外の5つに分けてその特性を検討した.村内に就業する者は圧倒的に多く,主に40歳代と50歳代から構成される.鎮内と県内の就業者数は村内のそれよりかなり少なく,年齢層は若年層から中年層まで広がる.省内の就業者は主に若年層から構成され,都市部での農外就業が中心である.

     就業者の職種は自営業,農業,日雇農外雇用,日雇農業雇用,農外就業に分類できる.村内の就業は男女を問わず農業が中心であるが,一部の男性の自営業と女性の日雇農業雇用もみられる.鎮内と県内の就業者は村内就業者と異なり,その多くは農外就業している.鎮内の就業は製造業や女性の日雇農外雇用であるが,県内の就業者は製造業とサービス業への就業である.省内と省外の就業者はもっぱら農外就業であり,長期的に農村から離れる傾向がある.
    4.農家の農業生産にみられた分化
     上の分析から,省内外の都市部に就業している若年層は長期的に農業を離れていることが分かる.そのため,本発表は彼らを除いて,対象地域の農家を専業農家,第1種兼業農家,第2種兼業農家に分類した.上記の分類に基づいて,農家収入,農業の生産条件,農業生産性に差があるかどうかを検討した.農家収入は野菜収入,農業収入,その他の収入に細分化した.農業収入と野菜収入は当地域の農家にとって最も重要な収入源であり,農家間に顕著な差がみられた.この差は専業農家と第2種兼業農家,第1種兼業農家と第2種兼業農家にみられている.一方,農家収入については三者に有意な差が認められない.

     農業の生産条件は請負農地,農産物の作付面積,野菜の作付面積に基づいて検討した.請負農地は三者に差がないが,農産物の作付面積と野菜作付面積は第1種兼業農家と第2種兼業農家,専業農家と第2種兼業農家間に有意な差がある.最後に,農業生産性をみると,農作物の生産性は専業農家と第2種兼業農家に有意な差が認められるが,野菜の生産性は三者に有意な差がない.
    5.おわりに
     以上から,若年層の長期出稼ぎ就業は依然として農村地域の主要な農外就業方式である.これによって,農村地域の世帯員就業における空間的な分離をもたらしている.本発表は彼らを除いて農家を分類し,農業収入,農家の生産条件,農業生産性の差異を検討した.その結果,対象地域の農家は請負農地の面積に有意な差がないが,農業収入,野菜収入,野菜と農作物の作付面積に差異がみられた.
  • 木口 雅司, 岡見 菜生子, 村田 文絵, 田上 雅浩, 福島 あずさ, 山根 悠介, 寺尾 徹, 林 泰一, 沖 大幹, 井上 知栄
    セッションID: P019
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    本研究では、デジタル化されていないバングラデシュを含む旧英領インドの日降水量のデータレスキューを実施し、1891~2016年のデータを用いた降水特性の変化を明らかにすることを目的とする。
    Endo et al. (2015)と比較すると、弱雨の日数の増加等は本研究でも見られるが、必ずしも一致していない。また強雨は有意なトレンドは見られなかったが、空間分布をみると中央部で増加し、北部と南部で減少傾向が見られることから、モンスーントラフの位置に関連する可能性がある。
    今後は、その要因を20世紀再解析データを用いて明らかにする予定である。
  • 石川 和樹, 中山 大地
    セッションID: P072
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. 背景

    近年,非集計データである電話帳を用いて産業集積地域や地域構造の把握を試みる研究が多くみられる.電話帳は明治期から継続的に発行されてきたことから,当時の産業や地域構造を把握する上で貴重な史料となり得る.しかし,電話帳には電話加入者のみが掲載されるため実際より過少となり,掲載内容の吟味が不可欠である.そこで本研究では,大正期の電話帳に掲載された住所情報の空間的な精度について定量的に評価し,当時の電話帳を空間データとして扱う際の注意点や問題点について明らかにすることを目的とする.

    2. データと手法

    本研究で使用する電話帳は,1926年に発行された『職業別電話名簿』(以降電話帳)である.この電話帳は1925年8月時点の電話加入者に関する電話番号をはじめ,住所や氏名・店名が職業ごとに掲載されている.掲載されている職業のうち,本研究では,「弁護士」と「書籍商」を対象とした.また,これらの職業について別途網羅的に掲載された史料として,1924年発行の『書籍商組合員名簿』(以降書籍商名簿)と1926年発行の『弁護士名簿』を利用した(これら2つの史料を合わせて以降名簿と呼ぶ).これらの名簿には,住所とともに電話加入者の場合には電話番号も掲載されている.

    本研究では,各職業において電話帳と名簿の掲載件数を比較し精度評価を行う.具体的には,電話帳と名簿それぞれから抽出した当時の東京市内の住所データの件数を町丁目ごとに集計し,比較した.その後,1kmメッシュごとに再度集計し,電話帳と名簿の件数から残差を求めた.残差についてはMoran’s I統計量を用いて空間的自己相関の有無を検定した.



    3. 結果

    (1)弁護士

    件数は,電話帳が1,080件,弁護士名簿が1,961件(うち電話番号掲載は1,662件)であった.町丁目ごとの件数を比較すると,相関係数は0.67とやや強い相関を示した.また,空間的自己相関の有無を検定した結果,空間的自己相関は無く,電話帳掲載の住所に系統的な偏りはみられないことを確認した.

    (2)書籍商

    件数は,電話帳が235件,書籍商名簿が1,954件(うち電話番号掲載は402件)であった.町丁目ごとの件数を比較すると,相関係数は0.74と強い相関を示した.また,空間的自己相関の有無を検定した結果,空間的自己相関は無く,電話帳掲載の住所に系統的な偏りはみられないことを確認した.

    4. 考察
    弁護士と書籍商どちらにおいても,電話帳と名簿の件数に相関がみられ,残差の空間的自己相関もみられなかったことから,電話帳のデータから各職業のおおまかな分布傾向は把握することが可能であるといえる.しかし名簿から各職業の電話普及率を求めると,弁護士が約85%,書籍商が約25%と職業によって大きな差があることがわかる.これには各職業の性格が表れているとみられるが,各職業間の分布を電話帳に掲載された件数そのもので比較するには向いていないといえる.このような評価はすべての職業において行うことは史料が存在しないため不可能であるが,職業別電話帳を利用する際にはそれぞれの職業の性格を考慮した上で使用することが必要である.
  • 小岩 直人, 高橋 未央, 佐々木 篤史, 池原 朔哉
    セッションID: P010
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

    弘前大学教育学部自然地理学教室では,日本海に面する青森県西津軽郡鰺ヶ沢町において,2011年から年1回,町の全小学5,6年生(西海小,舞戸小),全中学生(鰺ヶ沢中学校)を対象に防災教室,防災講演会を実施してきた.これは,2011年東北地方太平洋沖地震の際に,青森県の日本海沿岸においても大津波警報が発せられたにもかかわらず,低地の居住者の避難率が約5%であったことに危機感を抱いた鰺ヶ沢町が,町民の防災意識を高めるために小・中学校の防災教育を充実させたことを受けて実施してきたものである.本発表では,自然地理学を専門とする大学教員,院生,学生,教員養成課程の学生が実践してきた防災教室のおもな内容を紹介するとともに,実践の中でみえてきた課題について報告する.

    2.地域概観

    青森県西部の日本海側に位置する鰺ヶ沢町は,東西約20km,南北約40km,総面積が約340km2を有する町である.人口は約1万人である.町内は,中期更新世以降に形成された数段の海成段丘面が分布している.また,岩木山や白神山地を源にもつ中村川・赤石川の流路沿いには,河成段丘が分布している.下流部には氾濫原や離水ベンチが広く発達していて,市街地の多くはこのような地形に立地している.

    3.防災教室の実施

     防災教室は,鰺ヶ沢町町内会連絡協議会主催で西海小学校(平成22年)から始まり,その後,西北教育事務所,鰺ヶ沢町主催で,舞戸小学校(防災教室),鰺ヶ沢中学校において防災講演会を実施した.

    小学校での防災教室は,それぞれの小学校の高学年の児童を対象とし,約3時間を使用して実施している.教室のはじめに,教員による津波,洪水,土砂災害の基本的な知識に関する講義を行った後,5~8人程度のグループ(7~10グループ)にわかれて学区内の調査を行う(グループ毎に1~2名の院生・学生が引率).現地調査では標高調査マップ(町で発行するハザードマップに標高調査地点を記入したもの)をもとに,臨時で現地に設けたピクトグラム(標高表示)をもとに,学区の標高分布図を作成する.その際,現地において避難場所・経路の確認,青森県による想定津波浸水深,洪水による浸水深等の確認を行うとともに,海岸の低地に町がつくられてきた理由等について,歴史的な観点(北回り船等)からの説明も行うようにしている.また,①町内の特徴的な地形である海成段丘は,津波の際の避難場所として重要であること,②その形成には地盤の隆起が伴い地形が変化する際には地震が生じる可能性があること,③町の自然の恵みは長い期間にわたる受けることができるけれど,地形変化が生じるような自然現象は比較的短期間であること,などを留意事項としている.その後,現地調査の整理を行い,グループ毎に成果発表を行っている.

    4.学校教育への応用

     これらの防災教室は,児童・生徒に対して防災に関する知識や意識の向上を(ある程度)もたらしていると思われる.このような防災教室が,学校教育へどのように貢献できるであろうか.防災教室に参加した共同研究者である佐々木は,弘前大学教育学部附属中学校の社会科の教員である.佐々木は,地理学・地理教育の専門ではないが,鰺ヶ沢町での防災教室に参加した際に得た諸資料をもとに,附属中学校の生徒たちの実態や,学習指導要領の改訂や教育改革の動向との整合化などを加味しながら授業開発を進め,その成果を報告している(佐々木ほか,2019).授業では,弘前市,およびその周辺に居住する生徒が,鰺ヶ沢町に一時的に滞在している際に,津波に遭遇した場合,どのように対応するのか考える教材を作成した.また,生徒の防災意識の向上に加え,地図リテラシーを高めることも目的とし,ドローンによる画像や動画,またGISなどを活用して教材開発に取り組んでいる.詳細については当日に報告する予定である.

    本研究の実施には,科学研究費補助金(基盤(B):代表 村山良之)「東日本大震災の経験と地域の条件をふまえた学校防災教育モデルの創造」を使用した.

    引用文献
    佐々木篤史・小岩直人・小瑶史朗(2019)小教科専門・教科教育・教育実践の協働による中学校社会科の授業開発―防災を題材として―.クロスロード(弘前大学教育学部紀要),23巻,印刷中.
  • 小倉 拓郎, 早川 裕弌, 青木 賢人, 林 紀代美, 山内 啓之, 小口 高, 田村 裕彦, 小口 千明
    セッションID: 315
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

     自然地理学の基礎的な内容を学習・理解するためには,板書による座学だけでなく,室内実験やその動画,野外写真などの適切な教材を提示し,自然現象について推定する必要がある.しかし,日本の小中高等学校における地球科学教育は,地理(社会科・地理歴史科)と地学(理科)とに分かれている.そのうち,地理では,学習指導要領で自然現象のメカニズムそのものを学習することが制約されているため,自然地理学的な基礎事項を理解することができる環境が充分に整っているとは言えない.
     近年広く利用されている無人航空機(ドローン)による写真測量や,地上レーザ測量を用いて,直接的なモニタリングで得られる高頻度かつ高精細な地表情報は,短時間で変化する現象を再現することができる.さらに,得られた3次元地表情報は,様々な表現方法(3Dプリントモデル,動画,オルソ画像)に容易に変換・出力することができる.
     本研究では,学習指導要領の枠外において,高頻度・高精細地表情報を利用した小学校における授業実践・地域連携の例について提示し,児童らの地理的思考力の養成について検証した.

    2.実践例①~高頻度・高精細オルソ画像の使用~
     石川県川北町川北小学校・橘小学校・中島小学校第5学年における理科の授業(単元:流水の働き)で,小学校付近を流れる手取川の河床の高解像度オルソ画像(2017年7月・9月撮影)を提示し,そこから読み取れる事象について質疑を行った.児童らは2か月間で動いた石,動かなかった石や枝などに注目して,撮影間に流水があったことに気づいていた.その後,動かなかった石が動くためにはどうすればいいかを推測した児童から,「強い流水がくれば石は動く」という気付きを得た.このように,児童たちは地形変化の様相を,オルソ画像の変化から認識し,営力の規模と地形変化の大小との関係等を考察することができた.その後,過去の災害に関する学習(昭和9年手取川大水害)や,WebGISを用いた災害図上訓練(DIG: Disaster Imagination Game),自治体や河川管理機関と協力した防災訓練を行い,過去の災害規模や未来の災害予測に対する地理的思考を通して,学習を深化させることができた.

    3.実践例②~3Dプリントモデルの使用~
     横浜市千秀小学校第6学年の総合的な学習および図画工作科の授業で,地域の大型地形模型を作成した.その導入として,無人航空機による写真測量の手法についての授業を行った.そこでは,2時期に取得した海食崖の地形データを3Dプリンタで印刷し,2つのモデルを提示した.児童たちは,モデルに手で触れながら2年間の地形変化(侵食・堆積)の位置や量を感じ取った.さらに,海食崖の過去・未来の様子を推測する児童の発言があった.また、作成した大型地形模型を利用して地域住民と意見交換を行い、過去の地域に関して考えてみた.
  • 池田 敦
    セッションID: 435
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    目的
     日本アルプスでは,1970年代までに空中写真判読によって氷河起源と提案された地形が,その後に現地で行われた堆積物の記載を踏まえ,長く確かな氷河地形だとされていた。ところが2000年代半ばから,氷河起源とされていた堆積物の多くが,堆積構造や年代などの精査によって,マスムーブメントに起因していたことが明らかになった。従来の判読は,日本アルプスでは氷河の発達が悪かったことを理由に挙げ,横断面のU字形が判然としない地形も認定していく独自の論理に基づいていた。しかし,その方法論に疑義が生じた以上,従来の判読結果を無批判にデータとして採用することは難しい。そこで本研究では,欧米の教科書に載る氷河および氷河侵食地形の定量的知見に基づき,観察者の主観を極力排して,日本アルプスで認定できる氷河地形を例示する。
    認定手順と結果
     検証可能な事実のみに基づく氷河地形の最大範囲は,次の手順で特定するとよいと考えられた。
     氷河涵養域となりえる範囲が広い(≒標高の高い山域),かつ河川侵食とマスムーブメントの影響が少ない流域を選ぶ。間氷期には一般に下流から上流に向け下刻が進行するが,河床縦断形を比較することで,下刻の影響が最上流部に及んでいない流域を選択可能である。一方,粘土を生みやすい地質帯は,地すべりによって完新世に地形が著しく変形している可能性が高いので対象から除外する。本研究では,花崗岩からなる飛驒山脈の剱沢流域を選んだ。
     氷河が拡大しやすい方位と面積をもつ支流を選択する。北半球の偏西風下では,主稜線の東側で積雪が多く,北を向いた谷で融雪が進みにくい。そのために北~東向きで平衡線が低い。対象流域の標高2000 mを超える範囲でみると,剱沢本流と真砂沢が北~東向きで,なおかつ流域面積が広い。氷河の規模は,降雪量が同等であれば,涵養域の面積におよそ比例するため,異常な条件さえなければ,剱沢本流に最大の,真砂沢に次ぐ規模の氷河があった。
     以後,剱沢流域の上半部について,国土地理院が公開している5 mメッシュの数値標高データ(DEM)から,GISソフトウェアを用いて形状に関する情報を抽出・比較し,そのうえで氷河の最拡大範囲を算出した。
     河床縦断形から,氷河侵食に特徴的な形状の有無を確認する。氷河は平衡線付近で流量が最大になる。そして流速が大きいほど侵食が進むため,氷食谷は中流部において縦断形が下に凸形となる。上流端のカールがその典型だが,真砂沢は中流区間でも下に凸型の縦断形が明瞭であった。剱沢本流では2段のカールが発達しており,その下流側でも不明瞭ながら下に凸型を呈す。同じく流量と侵食力の関係から,流域面積の似た氷河が合流すると,その下流で流量が倍増するため深掘れが生じる。剱沢上流では,カールが合流するたびに本流が深くなっている。一方,流域面積が大きく異なる氷河が合流すると,支流側の侵食力が小さいため懸谷となる。剱沢本流は,平蔵谷,長治郎谷,真砂沢という流域面積に大きな差のある支流を合流させるが,懸谷は生じておらず,それらの合流点の河床縦断形から氷河が合流していた痕跡は見てとれない。
     谷の横断形を二次式で近似する。氷食谷の横断面形は放物線でほぼ近似できる。そこで顕著な支流がなく形状が単純な真砂沢で,上流から距離200 mごとに断面形を二次式で近似した。上流端から1.8 kmの地点まではよく近似でき,2.0 kmの地点ではややずれ,2.2 km以下では近似できなくなる。つまり真砂沢では,剱沢との合流点より1 km上流までしかU字谷が存在しない。
     上述の2 kmとその上流側の各断面上で,氷河が取りえた厚さを見積もり,その高さで谷を埋め氷河の側縁を求める。ここでは氷河底の剪断応力の代表値(100 kPa)を生む氷河の厚さを算出した。求めた各断面の氷河側縁を結び,氷河の平面分布とした。復元された氷河の面積は,0.83 km2であった。
     氷河の面積のうち涵養域が占める割合(AAR)の典型的な数値(0.65)を用いて,平衡線を求める。真砂沢について復元した氷河の分布範囲で計算すると,平衡線は標高2340 mとなった。
     上述の平衡線高度を用い,剱沢本流についても,同様に剪断応力を100 kPa,AARを0.65として氷河分布域を求めた。その結果,氷河の長さは約4 km,面積は1.5 km2であり,末端位置は真砂沢合流点付近となった。従来の判読では,全ての支流からも氷河が合流し,長さ6.5 kmに達する氷河があったとされていた。しかし,その認定の下流側での根拠は,河床幅がやや広いことのみである。そうした地形はV字谷の埋積地形としてありふれたもので,それを氷河地形と解釈したことは,他の地形形成作用を過小評価していたことにほかならなかった。
  • 平澤 賢
    セッションID: P047
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    飯山盆地は,南北幅約12km,東西幅約7kmであり,高社山を境に南部の長野盆地と分けられる(宮内・武田, 2004)。盆地内部は中央を千曲川が流れ,左岸側は長峰丘陵が発達するが,この長峰丘陵によって沖積低地はさらに西側と東側に分けられる。また,対象地域内には長野盆地西縁断層帯が分布し,最新活動は1847年の善光寺地震とされる(地震調査研究推進本部, 2015)。本研究では,長峰丘陵を構成する段丘面の離水年代を特定し,活断層の変位速度・変位様式を明らかにしたうえで,長峰丘陵周辺の地形発達を明らかにする。
     空中写真判読と現地調査から,長峰丘陵はH2面とM1面の2つの段丘面に区分される。H2面は,針湖池付近の露頭観察やテフラ分析の結果から,HK(黒姫朴ノ木坂軽石層)が認められた。HKの噴出年代は,特定されておらず本研究では,黒姫火山の第Ⅱ期活動期中第1期の最下部に認められる山桑山溶岩層の年代から約150kaと推定した。HKは離水面の約50cm上位に堆積し,堆積速度からH2面の形成年代を約160kaと推定した。M1面は,掘削調査やテフラ分析の結果,構成層直上のローム層から高温型石英が産出する。したがってK-Tz(鬼界葛原火山灰層)の降灰が考えられることから,M1面の形成年代を約95kaと推定した。
     長峰丘陵の最高位は河成のH2面によって構成されることから,長峰丘陵はその東縁・西縁断層によって,H2面以降に形成された,すなわち,長峰丘陵を画する断層の活動は,H2面形成の160ka後の可能性がある。これら断層の変位速度は,段丘面(H2面)の年代160kaとその変位量が現河床と離水面の比高が約112mの隆起を示すことから約0.7m/ky以上と求められる。常盤断層は長峰丘陵北半部のM1面の年代約95kaと現河床と離水面の比高が約58m の隆起を示すことから約0.6m/ky 以上となる。
     外様平は長峰丘陵の西側に広がる低地でありその形成後,千曲川から切り離されて以後西側から流れる支流によって埋積された。西からの河川も平野を北流するため,支流河川も基本的には旧千曲川の谷に適従して流れる。この平野を掘削したコアの観察から細粒堆積物は少なくとも25m以上堆積しており,断層による沈降と支流による埋積が継続してきたことがわかる。深度20.89m付近の炭化物の年代は約18770 cal BPであることから,約1.0m/kyの沈降速度(埋積速度)が考えられる。長峰丘陵西側の断層の変位速度は0.7m/ky以上だが,平野の沈降速度を変位速度と読み替えると,約1.0m/ky以上となる。また深度14m付近には,1m程度の礫層がみられるが,泥岩片を含んでおり,西側の関田山地から流れる滝沢川による土石流なども含まれる。
  • 原山 拓也, 山縣 耕太郎
    セッションID: P096
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

     日本の扇状地における土地利用について,地理の教科書などでは,堆積物が砂礫のため地下に水が浸透しやすく、特に扇状地の扇央部では土地利用が水田に適さず、果樹や畑、森林として利用されてきたと説明されていることが多い。一方で、黒部川扇状地などの北陸地方の扇状地や東北地方の扇状地では、歴史的に土地改良や用水の整備などの人間活動の影響を受けて扇面の大半が水田化されている扇状地も知られている。

     本研究では、全国の扇状地で扇面がどのように利用されているかを明らかにするために,公開されている地理情報を用いて土地利用調査を行い,扇状地の土地利用を規定する要因について自然条件と人文条件の観点から検討を行った。

    2.調査対象と方法

     調査対象は,斎藤(1988)が規定している2km2以上の面積を持つ490の扇状地の中から地形図,治水地形分類図の判読から現成面が発達する365の扇状地を選び出した。この365の扇状地を対象に国土数値情報 土地利用細分メッシュデータ(1986年)をGIS上でオーバーレイ処理を行い、扇状地それぞれの土地利用比率を測定した。さらに各土地利用の比率と、以下の地域条件(面積平均勾配,標高,温量指数,年平均積雪深,DID)との関係について考察を行った。

    3.土地利用調査結果

     日本の365の扇状地を比較した結果,水田が最頻となる扇状地は263か所,畑が最頻となる扇状地は30か所,果樹園が最頻となる扇状地は15か所,森林が最頻となる扇状地は8か所,荒地が最頻となる扇状地は1か所,建物用地が最頻となる扇状地は,46か所であった。日本における扇状地は,その大部分が水田化していることが確かめられた。特に,北陸・東北地方で水田が扇面を占める割合が高い。一方,水田以外の農業的土地利用が卓越する扇状地は限られている。ただし,北海道では,畑が卓越する傾向のある扇状地が多くみられた。特に道東に畑が卓越する扇状地がみられる。

    4.土地利用と自然および人文条件の関係

    扇状地の面積の関係について,水田はどの面積の扇状地であってもみられた。しかし,森林や果樹園が卓越する扇状地は,その多くが小型の扇状地に限られている。扇状地と傾斜の関係について,平均勾配が小さい扇状地では,水田や畑が立地しやすく,平均勾配が大きい扇状地で果樹園や森林が発達する傾向にある。

    扇状地の面積と傾斜は,流域の地形条件や扇状地の形成プロセスに関係すると考えられる。小型かつ急な傾斜を持つ扇状地は主に土石流に形成された沖積錐である。以上より,土地利用は,扇状地の形成プロセスに影響を受ける可能性が高い。

    暖かさの指数が60を下回ると畑が卓越する傾向にあり、60を上回ると水田が卓越する傾向が求められた。温量指数は,北海道における土地利用を規定する一因と考えられる。

    扇状地と都市の関係について,都市の中心地が扇面に分布していたり,地域において中心性を持った都市のDIDが扇面に分布している場合には,建物用地が卓越する傾向がみられた。

    扇状地の土地利用は,単一の条件だけではなく,自然条件に加え人文条件によって規定されている。いくつかの条件が複合的に組み合わさることで土地利用を形成しているといえる。

    5.今後の課題

     本研究では,全国の扇状地を扱ったため,個別に扇状地における土地利用と地域的な条件について詳細に分析はできなかった。今後は特徴的な土地利用の扇状地に対して調査を行い。土地利用の傾向を規定する要因について個別具体的に検討していきたい。
  • ―都道府県別に見た学歴の再生産と選択的人口移動―
    豊田 哲也
    セッションID: 836
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    現代日本において、大学進学率に大きな地域間格差が存在することはよく知られる。しかも、1990年代以降、進学率は大都市圏で上昇が著しかったのに対し地方圏の伸びは鈍く、地域格差が拡大してきたことは、教育の機会平等を保障する政策的観点から看過できない事態である。これまで経済学的研究では、大学立地の偏在が進学コストに違いをもたらすこと、地域の社会経済的条件が進学動機に影響を与えることが論じられてきた。教育社会学では、特に親の学歴が進学率の規定要因として大きな意味を持つようになった点が指摘されている。経済格差や学歴格差が親から子に引き継がれ、格差の再生産と階層の固定化が進むことには社会的な懸念が強い。しかし、こうした世代間の学歴再生産メカニズムを大学進学率の地域格差にそのまま当てはめることはできない。地域間には常に人口流動があり、とりわけ進学や就職を契機として大規模な人口移動が生じるためである。大学進学者は非進学者に比べて人口移動が活発であり、専門的・技術的職業の雇用が多い大都市圏への集中度が高い。その結果、高学歴層の選択的な人口移動と世代間の学歴再生産が相まって、大学進学率の地域格差を拡大させているのではないか。
    本研究では、2017年の都道府県別大学進学率を規定する要因として、大学教育の供給に対するアクセシビリティ、世帯の所得水準、親世代の学歴を取り上げ、重回帰分析をおこなう。使用するデータは、①2017年の大学進学率(学校基本調査)、②大学収容率のアクセシビリティ(国土地理院ほか)、③世帯の所得水準(住宅・土地統計調査ほか)、④親世代の大卒者率、⑤親世代の大学進学率、⑥大卒人口の増減率、⑦大卒人口の男女比(以上国勢調査ほか)である。ここでは高校生の親世代に当たる1960~69年生まれのコーホートに注目し、その選択的人口移動を表す変数として⑥を設定した(④=⑤×⑥)。変数①を目的変数として2通りのモデルで重回帰分析をおこなう。3つの説明変数②③⑦はいずれのモデルにも含まれる。④を用いた第1モデルでは、変数④と変数②が有意となった。大学進学率の地域格差の要因には、大学へのアクセシビリティの差違と地域の学歴別人口構成が強く作用していることがわかる。第2モデルでは、変数④に代えて変数⑤と⑥を投入したところ、両変数とも有意となった。つまり、1世代前の大学進学率とその後の選択的人口移動の相乗作用として、現在の大学進学率が規定されていることが確認された。以上の分析から、近年大学進学率の地域格差が拡大している要因として、高学歴層が地方圏から大都市圏へ流入する選択的人口移動と、地域における学歴再生産の強まりの相乗効果があることが示唆される。
  • 猪狩 彬寛, 小寺 浩二, 浅見 和希
    セッションID: 604
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    電子付録
    Ⅰ はじめに
     草津白根山では発達した地下熱水系からの温泉水や、硫黄廃鉱山を源とする強酸性・高EC値の排水が周辺河川水に大きな影響を及ぼしている(猪狩ほか 2018)。また、2018年1月23日噴火の水質への影響を検討するとともに、降灰した火山灰の溶出成分と水環境への影響および、草津白根山周辺河川水における水質形成要因の検討を試みた。

    Ⅱ 研究方法
     2017年5月から2019年2月にかけて20回の現地調査を行った。調査地点は山体の東側と南側を流れる河川を中心に、約45地点ほどである。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、流量の測定を実施した。2018年2月6日に草津町の協力の下、今回噴火が発生した本白根山東麓の火山灰の分布域・降灰量の調査、サンプリングを行った。河川水以外にも、降水や積雪、温泉水の現地調査とサンプリングを行っている。

    Ⅲ 結果と考察
    1.周辺河川水(白砂川・万座川流域)
     周辺の諸河川には、地下熱水系や硫黄鉱山廃水の影響を受けた地下水・渓流水が流入しているものが認められた。1年以上にわたりEC値の変動が大きい地点もあり、湯川・谷沢川・大沢川といった草津白根山山頂域の酸性河川が流入する品木ダムの放流・導水に影響されている。2018年1月23日の噴火後、2018年2月より、降灰域を流域に含む谷沢川の下流地点(中和前)でロガーによる水質観測を継続している。谷沢川本来のEC値は噴火前から1,000μS/cmを超えており、硫黄の他にヒ素・鉄の成分が火山活動の度合いにより変化していると考えられる。
    2.火山灰溶出実験結果(2018年1月23日噴火)
     本白根山北側火口から放出された火山灰は、北東の振子沢・清水沢の尾根に多く堆積し、既に積もっていた積雪と新たな降雪に挟まれる形で固結していた。2014年御嶽山噴火の火山灰溶出実験のEC値と比較すると、御嶽山がEC値1,000μS/cmほどであるのに対し、草津白根山の試料はEC値300μS/cmであり、積雪中にトラップされていた約1か月の間に、融雪と一緒に付着成分が溶け出た可能性が示唆される。ふるいを用いて粒径毎に分級し、63μm以上の同一試料を乾燥させながら5回連続で溶出させた実験では、SO42-やCl-、Ca2+に富んでいたものが徐々に薄まり、HCO3-、Na2+の割合が増していく様子が観察された。

    Ⅳ おわりに
     今回、草津白根山の火山灰試料から溶出した成分は、御嶽山の試料に比べると少ないものの、融雪水と一緒に土壌中に浸透した可能性があり、今後は山頂域周辺土壌の溶出実験を進めるとともに、降灰分布・降灰の厚さのデータを整理し、地理的考察を深めていく必要がある。また、主要溶存成分以外にも鉄やヒ素などの分析や河川事務所で測定されている水位・流量データを整理し、負荷量の算定を進める。

    参 考 文 献
    猪狩彬寛, 小寺浩二, 浅見和希(2018): 草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(2), 2018年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨集.
    大井隆夫, 小坂知子, 平塚庸治, 山崎智廣, 垣花秀武, 小坂丈予(1991):白根硫黄鉱山からの酸性坑排水の遅沢川水系河川に与える影響, 日本化学会誌, 1991(5), 478-483.
  • 小室 隆, 田林 雄
    セッションID: 413
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

    UAV(Unmaned Aerial Vehicle)を用いた測量は低コストで,運用もしやすいというメリットから災害調査,地形測量,植物群落調査などの様々な調査に使用されている.陸上での調査には非常に有益である一方,水面下の地形・地物の測量については水面反射,透明度, 屈折等の課題を克服する必要がある.これらの課題のうち撮影時間・季節を工夫することで克服しうる課題もあるが, 水面下の対象を撮影する場合に屈折を補正することは常に必要となる。大気中から水面下のものを撮影すると, 屈折が生じ,実際の水深よりも浅く見える(神野ほか 2017).そのため水面下,の地形・地物を撮影した画像を使用してSfM-MVS(Structure from Motion/Multi View Stereo)により作成されるDSM(Digital Surface Model)は水面下においては実際よりも深度が過小評価される.そこで本研究では空中からUAVを用いて干潮時に露出する干潟を対象に撮影し,満潮時に撮影した水面下の画像については水面屈折補正を行った結果を用いて精度検証を行った.



    2.方法

    研究対象地は山口県東南部の秋穂湾美濃が浜とし,2017年8月,2018年10月と11月の計3回空撮を行った.用いたUAVは,2017年はPhantom 4 professionalと2018年はPhantom 4 professional v2を用いた(以下,両機種ともP4Pとする).P4Pにより撮影された画像にはP4Pに搭載されているGPS情報が記録されているが,本研究では画像に記録されたGPS情報ではなく,撮影範囲内に設置した対空標識(標定点)を仮想基準点方式のネットワーク型RTK-GNSS測量(Trimble R4-3s)することで取得したx,y,zの3次元位置座標を使用した.

    P4Pによる空撮は専用の自律航行アプリであるDJI GS Proを用いて飛行経路及び,諸条件を設定した.諸条件は高度50m,前後・左右重複率80%,カメラ方向-90度(水平)とし,干潮時に撮影を行った.撮影した画像はSfMソフトであるPhotoscan professional 1.4(Agisoft. Inc)を使用し,DSMおよびオルソ画像を作成した.PhotoscanにてDSMとオルソ画像作成をする際には,各写真内に映っている滞空標識にGNSS測量によって取得したx,y,zの座標値(平面直角座標系第3系)を与えた.SfMによって得られたDSMはArcGISを用いて水面下については水面屈折補正計算を行い,干出部と組み合わせることで,実測に近いDSMとした.具体的な方法として,水面屈折補正計算は水域部のDSMに一般的に用いられる水面屈折補正係数1.42を乗じ(神野ほか 2017),実際よりも浅く作成される地形を補正した.水面屈折補正計算についてはArcGIS10.2.2を用いて行った.手順は神野ほか(2017)を参考に①対象となるDSM(ラスタデータ)の水域と陸域を切り分ける,②水域と陸域が接する境界域の標高値を抽出,③抽出した境界域の標高値を用いて内挿補間により境界部分の標高を基にした一定面ラスタを作成,④「内挿補間したDEM」-「見かけの水深ラスタ(元の水域部分のDEM)」をすることで水深を求める,⑤④で得られた水深ラスタに水面屈折補正係数1.42を乗じ,真の水深とした.



    3.結果
    図1に水面屈折補正を行ったDSMを示す.水域部分については,補正を行うことで屈折による浅く見える問題を修正できていることが分かる.補正後のDSMでは特に水深1m以下のエリアが補正前に比べ広がっていることが分かる.図中に扇状地形は美濃が浜の北側にある海老養殖池と接続しており,干満差によって水の交換が行われるため,潮が引く際に養殖池から水と土砂が流出することにより形成されたことが考えられる.
  • 日本の空き家、古民家の宿泊施設への活用に向けて
    山田 耕生, 藤井 大介
    セッションID: 335
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.研究の背景と目的

     現在、イタリアでは集落内に点在する空き家等を宿泊施設に活用し、ホテルの客室に改修し、集落全体をホテルに見立てた、アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso、以下ADと表記)が大きな注目を集めている。ADは直訳すると「分散型ホテル」の意味で、現在のAD協会会長ジャンカルロ・ダッラーラ氏が1980年代に提唱した概念である。

     イタリアでは日本と同様に少子高齢化が進んでおり、地方の小都市、集落では人口減少や地域経済の衰退が問題となっている。そんな中で、集落内の空き家、空き部屋を宿泊施設として活用し、地域を運営するADは地域活性化に向けた打開策として期待されている。

     本研究では、2018年9月にイタリア国内9地域において実施した現地調査をもとに、ADの施設と経営、宿泊者の動向や特徴を明らかにする。さらにその結果を踏まえて、日本における空き家、古民家の宿泊施設への活用の今後の方向性を考察する。

    2.アルベルゴ・ディフーゾの現状

    (1)アルベルゴ・ディフーゾの条件

     AD協会では加入の条件として「ADが統一組織にマネジメントされていること」「一定以上の水準のホテルサービスが提供されていること」「ADの各建物が適度に離れていること」「ホテルまたは地域内にて飲食、生活サービスが提供されていること」「地域コミュニティに開かれ、宿泊客と融合できること」などが挙げられている。

    (2)アルベルゴ・ディフーゾの分布

     2018年4月時点、AD協会に登録されているADは102地域である。2011年に35地域、2015年に86地域であったことから、毎年10地域のペースで増加している。

     ADはイタリア北西部のヴァッレ・ダオスタ州を除くイタリア全州に分布しており、なかでも中部のトスカーナ州、ウンブリア州、マルケ州、ラツィオ州に全体の約1/3のADが分布している。

    (3)アルベルゴ・ディフーゾ経営の特徴

     ADの立地は丘や山麓に位置する町や村、山間部の街道沿いなどに位置するケースが多い。主要都市(空港)からのアクセスは車で1~2時間がほとんどである。

     ADの施設については、宿泊室はキッチン付きのアパートメントタイプと、ベッドルームにトイレ、シャワー室がついたB&Bタイプの両タイプが混在している。

     ADの経営は家族経営がほとんどである。建築家や飲食店経営などの個人事業主がホテルのオーナーになっている。

     宿泊客の傾向をみると、おおむね4月~9月がシーズンで、特に7月、8月はヨーロッパ各地でバカンス期になることから、稼働率が高い状態である。しかし、11月~3月までは宿泊客数がピーク時の1、2割程度に落ち込む。

    3.まとめ~日本の空き家、古民家の宿泊施設への活用に向けて~

     イタリアのADは空き家の再生という観点で、歴史的文化財をしっかり改修した分散型ホテルは観光として有効である。日本で展開するためには宿泊施設してしっかりと費用をかける必要がある。またイタリアの場合はADが機能分散型になっていないケースが多いが、日本では地域をコーディネートする組織(協議会、DMO、DMC)を作りながらADを運営すれば、街づくりと観光を作り出し、大きく発展する可能性がある。
  • 早田 圭佑, 松多 信尚, 廣内 大助
    セッションID: P052
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに大きく2列の浜堤列が発達する菊川低地は.南海トラフに近接するため,プレート境界型地震に伴う地殻変動を繰り返し受けてきた(Ando,1975).浜堤および堤間湿地の標高は,内陸に向かって高くなっており,完新世以降の隆起が指摘されている(藤原ほか,2016).一方,検潮記録の地震間の定常は沈降しており,地震時かその前後の間欠的隆起を示唆する.本研究では菊川低地にみられる浜堤列の特徴を明らかにし,地震間および地震時の地殻変動と浜堤形成との関わりを検討した.

    2.考察
    (1)第四紀後期の菊川低地における地殻変動
     菊川低地にみられる浜堤は大きく2列あり,内陸に向かって堤間湿地と共に標高が高くなる.また,大きな浜堤の中に細かい浜堤が集まるように分布し,堤間湿地が狭い特徴がある.さらに,縄文海進時に堆積した中部泥層の上面高度が標高3~5mと高い.鹿島ほか(1985)によれば,菊川低地では約6,800年前に内湾が最も拡大したことから,完新世後半以降0.4m~0.7m/kyの隆起を示している.7.000年前以降,世界的な海水準は現在とほぼ変わらない(佐藤,2008)という前提に立てば,完新世後半以降の隆起傾向を示唆する.一方,菊川低地における地震間の地殻変動は沈降傾向にあり,御前崎の沈降量である約8.0m/ky(吾妻ほか,2005)と浜松市舞阪の最近50年間の隆起量である約2.0m/ky(国土地理院,2010)から内挿すると約5.0m/kyの沈降(松多ほか,2017)と考えられる.したがって,地震間の沈降速度の方が地震性隆起速度よりも大きく,浜堤の形成を説明することができない.よって本地域の浜堤の形成は,歴史地震発生時の地殻変動(隆起)に起因するものと考えられる.
    (2)菊川低地にみられる浜堤の形成過程
     松多ほか(2017)は,地震間では沈降しているが,100-150年間隔で発生する南海トラフ地震により隆起し浜堤が形成されるとした.すなわち,地震間は沈降しているので形成された浜堤が沈降し消滅してしまうが,その前に次の地震性隆起が起こり既に形成されていた浜堤の前面に新たな浜堤が形成されるというプロセスが想定される.本研究より,内陸に向かって浜堤・堤間湿地の標高が高いこと,中部泥層の標高が3~5mと高いことから,完新世後半以降,地震間の沈降を上回る速度で地震性隆起が起きたと考える.これは堤間湿地の間隔が狭く,浜堤の区分が難しいことと矛盾しない.菊川低地の東方に4段の完新世海成段丘が分布する筬川低地がある.Kitamura et al(2018)は,4段の段丘の一番低位の段丘が今まで御前崎地域で報告されていなかった歴史地震の痕跡である可能性を指摘した.筬川低地で歴史地震の痕跡が残り,菊川低地で残されていないのは,筬川低地の地震性隆起速度(1.5m/ky)の速さが関係していると考えられる.
  • 趣旨説明
    目代 邦康, 新名 阿津子
    セッションID: S101
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. はじめに

    ジオパークの活動は,科学的な知見をベースとするものの,その本質は地域における活動である.専門家と非専門家双方が協力し,地域で発生する問題を解決に導いていくために,ジオパークに携わる者は,共通理解として,地域や地球環境に関しての,特に,その主たる活動となる地質遺産の保全や教育,持続可能な地域経済の開発についての倫理的枠組みについて理解を深めておく必要がある.特に,ジオパークプログラムが,2015年にユネスコプログラムとなったことにより,従来からの目的であった地質遺産の保護とともに,持続可能な開発が強く意識されるようになっている.こうした状況の中で,より実効的な地質遺産の保護や持続可能な開発の実践をすすめていくためには環境倫理に関しての理解が必要である.本シンポジウムでは,ジオパークと,ジオパークに先行して国際的な自然環境保全のプログラムとして実施されている世界遺産を例にとり,そこでの倫理的課題について議論したい.また,地域で発生する様々な問題についての倫理的課題についても議論を深めたい.

    2. ジオエシックスに関する近年の動向

    Geoethicsに関しての議論は,地球科学界では,The International Association for Promoting Geoethics (IAPG)がリードしている.この組織は,2012年の万国地質学会議(IGC)で誕生した.現在,30カ国のナショナルセクションからなる(日本のナショナルセクションはない).2016年IGCでは,Cape Town Statement on Geoethics(Geoethicsに関するケープタウン声明)が起草されている.

    そこでは,Geoethicsとは,「人間の活動が地球というシステムに関わるあらゆる場所において,正しい振る舞いや実践が行われることを支える価値観を研究したり熟考することである」とされている.そして,Geoethicsは,「地球科学の知識,教育,研究,実践,伝達の倫理的,社会的,文化的な意味合いを取扱い,地球科学者が活動を行うにあたっての社会的な役割や責任も取り扱う」としている.発展途上国における資源保護と経済発展の問題や,特に自然災害における情報の共有の問題,また教育の問題など,これまで純粋科学では取り扱ってこなかったテーマについて,倫理的側面を踏まえて議論をすすめようとしている.

     こうした地球科学者の動きとは別に,倫理学の分野では以前から,環境問題に対してのアプローチとして環境倫理学としての議論がすすめられてきた.特に近年においては,その問題が重要視されているため,様々な議論がなされるようになっている.2006年2月には,地球システム・倫理学会が設立され,倫理学者のみならず,自然科学者もそこに加わり様々な地球倫理に関する議論が行われている.

    小野(2010)は,「環境問題に正面から取り組む地理学をつくる必要性は緊急の課題」と述べているが,現在その取組はまだ十分とはいえないだろう.その背景の一つは,地球環境に関しての倫理と実践が不十分なためではないだろうか.本シンポジウムにおける議論が,今後のジオエシックスの議論の端緒となることを希望している.

    文献 小野有五(2010)地理学と「自然保護問題」.日本地理学会発表要旨集no.80
  • 米原 和哉
    セッションID: P059
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

    連結性(connectivity)は,物質(水や堆積物)や有機体が自然の系のなかで空間的に定義された単位間を移動できる程度を表す(Wohl 2017).近年,地形学においても河川の縦断方向,横断方向,垂直方向の堆積物の連結性に関する議論が盛んにおこなわれている(Bracken et al. 2015, Kondolf et al. 2006).たとえば,Fryirs et al. (2007) は,河川ネットワークへの堆積物の移動を妨げる地形をバッファーとバリアーに区分している.堆積物の連結性を検討することは,地形学の重要な課題である,小さな空間スケールで実測された地形変化の速さと大きな空間スケールで推定されている地形変化の速さとの間にみられる不一致を調整する上でも重要である(Bracken et al. 2015).

     本研究では,鳥取県中部に位置する天神川水系を対象として,天神川およびその主要な支流である小鴨川,三徳川において上流から下流への礫径変化,山地河川内の巨礫分布を調査した.また,DEMの解析や地形図の判読,現地調査により,バッファーやバリアーの分布,河床勾配やその変動について検討した.これらにもとづいて流域規模における堆積物の連結性を規定する要因を議論する.

    2.地域概観

     天神川水系は一級水系であり,流域面積490 km2のうち約90%を山地が占めている.流域の形状は菱形に近く,本流である天神川は,中・下流において三徳川や大山東部に源流をもつ小鴨川を合わせる.天神川上・中流には花崗岩や花崗閃緑岩,三徳川上流には安山岩や玄武岩,小鴨川上流には安山岩が主に分布する.

    3.バッファーとバリアーの分布

     本研究では,流域内の傾斜3.5度以下の領域をバッファー,堰や滝をバリアーとした.バッファーは,河口から約11 km地点にある天神川と三徳川の合流点よりも下流側および小鴨川左岸側の段丘化した火山性扇状地付近に広く分布する.バッファーの広さは,上流に向かって河床勾配が大きくなるにつれて減少する.天神川水系には上流・下流問わず,各所にバリアーとなる堰が分布している.天神川,小鴨川,三徳川の三本の河道内で,少なくとも48箇所に堰の設置が確認された.

    4.礫径変化とそれを規定する要因

     天神川(5 km–22.6 km)では,上流に向かうにつれて平均礫径の増加傾向がみられ,5 km,6 km付近では約4 cmであったものが,20 km付近では15 cmを超えるようになる.三徳川(0 km–5 km)は,調査地点が少ないといった問題はあるものの,平均礫径は約8 cmで,地点による差もみられなかった.小鴨川(0–17.5 km)では,天神川と同様に下流(0–2 km)に比べて上流(15–17.5 km)の礫径は大きい.しかし,4–14 km付近では礫径の変動はみられたものの,上流に向かっての礫径の増加は不明瞭であった.

    5.巨礫分布とそれを規定する要因

     河道内に分布する礫径50 cm以上の礫を巨礫とみなした.流下方向に沿って0.5 kmから1 kmごとに調査地点を設定し,調査地点から上下流15 m(合計30 m)の範囲に分布する巨礫を目視により数えた.巨礫は大きさにより,小巨礫(50 cm–1 m),中巨礫(1 m–3 m),大巨礫(3 m–)に区分した.

     天神川では28.6 km地点において中巨礫以上の割合が最も高くなっている.また,30.5–32 kmの区間では巨礫の数が急減するものの,最上流部に向かって巨礫の数が再び増加する.小鴨川では24 km地点より上流から中巨礫以上の巨礫が急増し,27.5–32.5 kmまで中巨礫が確認された.しかし,25 km,26 km付近には巨礫が分布しない.この区間には複数の堰が設置されている.三徳川では天神川との合流点直前(最下流部)においても中巨礫が分布する.中巨礫は人為改変がおこなわれている地点でも確認されるため,元々河道にあったものなのか,人為的に持ち込まれたものなのかは不明である.9–11 km地点のみに大巨礫が分布していた.また,15 kmより上流では巨礫がみられなかった.
     中巨礫や大巨礫は,角礫であったり,苔に覆われていたりすることから,谷壁や支流から河道内に供給されたもので,流水による運搬(距離)は小さい,もしくはほとんどないと考えられる.巨礫の供給源である谷壁から河道までの距離と巨礫の数の相関を検討したところ,弱い負の相関(-0.38)がみられた.したがって,谷壁からの物理的な距離,ほぼバッファーの広さに相当,は巨礫供給の連結性を規定する要因の一つといえる.谷壁から河道への距離が近いにも関わらず巨礫が分布しない地点も存在するが,この理由としては谷壁の地質の影響が考えられる.
  • 中井 香月
    セッションID: 404
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    黒潮が洗う紀伊半島と室戸半島の南部のビーチには,造礁サンゴ礫が分布している筈と考え,両半島南端から高緯度方面のビーチでの造礁サンゴ礫の分布を調べた。その結果,いずれの半島のビーチでも南端で,最も高い含有率と種多様性を確認し,含有するビーチの北限を求めることができた。分布範囲は,まさに,黒潮が洗う潮岬から室戸岬の間の太平洋岸に限定され,紀伊水道には認められなかった。
  • 杉田 優, 小林 勇介, 白岩 孝行
    セッションID: P070
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    電子付録
    知床半島のオホーツク海沿岸のルシャ川とポンベツ川 の間の海岸で漂着ごみを調査した。UAV により航空写真 を撮影する一方、3 か所に合計 9 個の方形区を設定して ゴミの分類を行った。海岸では海ゴミや流木などが絡まり あい形成された山が、汀線から 20-30m 離れた場所に存 在した。調査の結果、調査地域からは1767個のごみが 見つかりそのうち87%がプラスチックに分類された。これ から海岸の標高図を製作することでこの山の容積を計算 し、海ゴミの量を概算したいと考えている。
  • 竹村 一男
    セッションID: 614
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    内村鑑三には、『地理学考』をはじめとする地理や自然(天然)環境に関する著述が多く,内村のキリスト教信仰,思想のバックボーンのおおくを地理思考がなしていると考えられる。その地理思考は,神の創造した宇宙万物の摂理探求が地理学の目的であり,宇宙万物は人間の教育という目的のために神が創造したものでもあるという,神学的,宗教的地理学によるものである。その内村地理学の特徴として,

    1.キリスト教的目的論を前提としている。

    2.アーノルド・ギュヨー(Arnord Guyot),カール・リッター(Carl Ritter)など宗教的思考をとる地理学者の影響が認められる。

    3.内村の地理書『地理学考(地人論)』はギュヨーの影響のもとに宗教的地理学の記述と独自の文化論を展開している。

    4.「内村の無教会」=「内村が帰する地理的宇宙」の構造が推定される。

    5.後年,内村の自然観が聖書的自然観寄りに大きく推移している。

     年譜にそって内村の地理思考をみていく。札幌農学校入学(1877年)以前から内村には地理学への志があり,受洗以降,開拓使御用掛時の文書は自然を享受するクリスチャンの立場からの地理的記述が多い。

    アメリカ留学時代(1884~88年)には大学の所在地アマーストの近郊で多くの野外調査を重ねたことを記している。当時の日本では入手困難であったギュヨーやリッターの宗教的地理学の文献を熟読してその影響を受けるとともに,自らの宗教観との一致や信仰確認を行ったことも推測できる。特にギュヨー The earth and manによる「inorganic nature is made for organized nature, and the whole globe for man, as both are made for God, the origin and end of all things.」の記述は内村の宗教的地理学思考に大きな影響を与えたと思われる。また,この時期に内村の回心体験がなされたとされるが,報告者は内村の体験時の筆記メモとされる「I for Japan, Japan for the world, The Word for Christ, And All for God.」に,ギュヨーの記述との関係性を推定しており,リッター及び西欧の宗教的地理学に遡るものでもあると考える。この一文は内村生涯の指針とされ,後に内村は和文で「余は日本の為め 日本は世界の為め 世界は基督の為め 基督は神の為め也」と多くの色紙に残し,やがて内村の墓標となった。

    留学時に改めて自身の帰する日本に思い至った内村であるが,帰国後は不敬事件(1891年)などの不遇の時期を迎えることで,内村の日本観も揺らぐ。しかし,それらの経験は内村に,自らが帰すべきは現実的存在である日本国やアメリカ合衆国ではなく,これらを超越した「神の国」であり,「世界の市民,宇宙の人」であるべきことを示した。それが,「神の国」「帰すべき地理的宇宙」から「無教会」へと展開する。

     1895年に『地理学考』を刊行する。同書は内村の生涯の愛読書となった『The earth and man』の影響が大きいが,その文明論を発展させた,独自の宗教的地理書といえる。「両文明は太平洋中に於て相会し,二者の配合に因りて胚胎せし新文明は我より出て再び東西両洋に普からんとす」と,日本に東西文明の仲介者,新文明の発信者という使命と希望を与えている。なお,両書には環境決定論に傾いた記述や,特に『The earth and man』には人種差別的な記述も観られる。後年(~1930年)は聖書解釈による,神の創造物中における人間の優位性など,自然愛好家としての内村に好感を示す読者を失望させる記述も観られるが,これは内村の地理学が宗教的地理学である以上,免れえない帰結といえるかもしれない。生涯を通じて内村の思想のバックボーンには地理思考があったといえる。
  • --熊本市を事例に--
    丁 茹楠
    セッションID: 719
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    電子付録
    1.目的
    2000年代以降、政治・文化・経済のグローバル化の発展などとともに、国際人口移動はますます活発になった。人口巨大国である中国では、1980年代の改革・開放政策の実施に伴い、海外移動の制限を緩和し、海外移動が急増した。一方、日本では1980年代のバブル経済期に労働力不足問題が顕著になり、日本政府は外国人の受け入れを進めた。こうして日中間の国際人口移動が活発化している。
    在日外国人の地理的分布は大都市圏に集中傾向にあるが、近年では、地方圏でも外国人人口の増加が顕著であり、加えて定住化も進行している。しかし、地方圏に中長期在住する外国人の生活の実態や定住の過程に焦点を当てて分析した研究は不十 分である。
    このような問題意識から、本研究は地方圏の事例として熊本市を取り上げ、5年以上滞在している中国人ニューカマーを対象に、彼らの生活の全体像を明確するするとともに、定住化の実態とその要因を明らかにすることを目的とする。その際、特に在留資格の変更歴を男女別、来日時期別に分けて検討し、熊本市の中国人ニューカマーの特徴をより明確に明らかにする。
    2.研究方法
    熊本市に在住している中国人ニューカマーを調査対象にして、主に①アンケート調査、②聞き取り調査に大別し、調査を行った。①アンケート調査はQRコードと紙媒体両方とも実施し、合計50名から回答を得た。
    3.結果の概要
    調査対象者は中国の地方出身者が大半を占めており、在熊中国人ニューカマーの主な来日理由は留学と国際結婚である。熊本に来た主な理由は、同胞とのつながりと地方の暮らしやすさの2点が挙げられる。
    調査対象者の在留資格の変更歴を男女別に比較すると、男性は留学を目的とする来日が主で、留学期間終了後全員が就職した。他方、女性は「留学」以外にも「日本人の配偶者」や「家族滞在」も多かった。女性の方が「永住者」の取得に対し、強い意欲を持っている。
    次に来日時期による違いを見ると、①日本国籍に帰化する者は近年減少傾向にあること、②熊本市の中国人留学生の増加に伴い、日本に就職する者が増加したこと、③初来日時の在留資格が徐々に多様化していること、が判明した。
    熊本市の中国人ニューカマーの定住化の要因として、家族的な事情、地方圏での生活しやすさ、貧しい出身地から離れたいという気持ちがある、という3点が指摘できる。
    調査対象者の中で、日本国内の他地域から熊本市に移動した経験を有するものは少数であった。このことは熊本市に在日中国人に対する就業機会が多くはないことを反映している。
  • 中山 玲
    セッションID: P074
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    熱帯地域では、西欧による植民地支配下で、茶やコーヒーなどの嗜好品が生産されてきた。その多くは、栽培から収穫、加工、販売までを企業的に大規模に行うプランテーションという方法で行われており、国家が独立した後の現在にも引き継がれている。プランテーションは、労働力を低賃金で雇用したり、肥料や農薬を農地に大量に投入したりする「搾取」をする性質を持ち合わせており、しばしば飢餓や貧困、社会的不平等などの問題が顕在化する。また、茶業は、気候変動や景気の変動の影響を受けやすく、価格が乱高下することから、プランテーション企業自体の経営も不安定である。最近では、いくつかの産地は、観光やフェアトレードのような取り組みを通して、このような問題を解決・克服しようとしている。本研究は、マレーシア・キャメロンハイランドにあるティープランテーションを事例として、生産機能と観光に代表される消費機能に着目し、空間的な特徴を明らかにする。
     キャメロンハイランドは、マレーシアの中部に位置する高原保養集落(ヒルステーション)で、イギリス統治時代に、マレーシアに長期間駐在するイギリス人が避暑をするために建設された。インドなどにすでに建設されていたヒルステーションを手本に、「行政」「観光」「茶業」「農業」の4つの機能が、計画的に配置された。
     キャメロンハイランドにおけるティープランテーションは、インドやスリランカから茶業技術と茶の職人を呼び込み、山中の広大な森林を切り開いて大規模に栽培することではじまった。現在、2社の紅茶会社が、合計2000haの茶園を経営し、年間で5000トン近くの紅茶を生産し、出荷している。キャメロンハイランドにおける茶園は、合計6箇所あり、茶園内では、茶の木だけが敷き詰められるように植えられている。比較的大きい茶園は、いくつかの地区を設け、分割して管理されている。地区ごとに加工場、出稼ぎ労働者の住居や彼らの生活のための施設が設けられている。労働者たちは、日替わりで地区ごとにローテーションで茶摘みを行い、すぐに工場へと運搬して加工過程にまわされる。加工場は、発酵から包装までを一括して行う。製茶された紅茶は、それらの工場から出荷されるが、多くは国内で消費され、一部は外国に輸出される。このように、現在も、茶園で茶を効率的で大規模に栽培し、労働集約的に茶葉を摘採して、同茶園内にある工場で一括して加工を行っている。マレーシアで生産される茶のほとんどが、キャメロンハイランド産である。

     4か所の茶園は、一般人・観光客向けに一部開放されている。幹線道路沿いに位置する茶園は、特に訪問者が多く、自家用車や観光バスを利用して乗りつけてくるため、大きな駐車場が整備されている。幹線道路から狭い小道の先にある茶園は、大きな茶園が多いが、アクセスが不便である。

    訪問者は、自家用車やタクシーを使って、茶園を訪れ、併設するカフェでお茶を飲んだり、食事や軽食をしたり、展望台や散策路から茶畑の景観を眺めたり、土産品として茶を購入したり、工場を見学して楽しむ。茶園は広大であるが、観光客が入るスペースと茶園での労働者・従業員が働くスペースは、ある程度分けられていて、作業への支障を抑える工夫がなされている。いまやキャメロンハイランドの主な観光アトラクションの1つとして、国内外から多くの観光客を呼び寄せている。
  • 多田 楽空, 重田 祥範
    セッションID: 512
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    本研究では,自治体が運営する気象観測所のデータを用いて,山陰地方東部における強風の出現頻度および突風率の時空間的特徴について把握する.そのうえで,風速を階級別に分類し,強風出現時の気圧配置パターンについて明らかにした.解析の結果,10年間での強風発生日は59日間存在した.地点ごとに見た場合,鳥取から塩津においては,南寄りの風向(南南東から南南西)の出現頻度が最も高かった.これは,いわゆる中国山地からの “おろし風”の発生を示唆しているものと予想される.一方,境は北東方向,岩井は北西方向の出現頻度が高い傾向であった.強風日を記録した最多月は青谷を除いて4月あるいは10月に集中していた.一方,全地点で見た場合には,暴風日における最大瞬間風速を記録した時間帯の風向は岩井,鳥取,米子,境の4地点では12,1月の冬季は主に西風からの季節風が主であった.しかしながら,鳥取,青谷,倉吉,塩津,米子,境においては南よりの風が約20%を占めていた.
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