本稿は,朝鮮民主主義人民共和国の党営企業グループの形成過程,そして党営企業グループの傘下企業の構成,さらに党営企業グループと国家の計画経済に基づく一般経済との関係について分析し,党営企業グループの活動の特徴を明らかにするものである。党営企業グループの形成過程に関しては,1960年代に党直営の貿易会社である大聖貿易会社が設立されたこと,また,一般経済部門の生産機関から党の直営に移管されて輸出専門工場になった沙里院タオル工場の例が示された。そして,1970年代に党財政経理部39号室,平壌市党委員会や党軽工業部などで大聖,金剛,綾羅島,烽火などの企業グループが形成されて活動資金を蓄積するようになったことが示された。党企業グループの傘下企業に関する分析から,金のインゴットやマツタケ,ベニズワイガニに関して,党営企業グループの独占状態があることなどが確認された。その一方で,船興食料工場が党軽工業部の企業グループから一般経済部門へ移管された例や党行政部の活動資金が一般経済部門の養鶏工場に投資された例,39号室の資金で建設された平壌樹脂鉛筆工場,祥原セメント連合企業所など,党営企業グループあるいは党営企業グループの資金が一般経済に生産的な貢献をしている例により,党営企業グループが一般経済部門から一方的に資源を吸い上げているという従来の見解が正確ではないことが示された。
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