中国の「農民工」(農村出身の非農業就業者)は,安価な労働力の源泉として,中国経済の急速かつ持続的な発展を支えてきた。しかしながら,労働年齢人口の減少や農村労働力の高齢化とともに,農民工の供給の頭打ち傾向が強まり,賃金の引き上げや企業間の獲得競争も広まっている。そのため,農民工の熟練形成や職場への定着を促進し,コミットメントの向上を図ることが,企業経営者や政策担当者に求められてきている。このような問題意識のもと,中国における製造業の一大集積地域である江蘇省蘇州市において従業員へのアンケート調査を行い,農民工の職務意識を規定する要因を共分散構造分析によって考察した。分析の結果,「職務満足」と「仕事への埋め込み」は「組織コミットメント」を有意に高めること,「組織コミットメント」は農民工の「離職意向」を有意に引き下げること,若年層の農民工(「新世代農民工」)では「仕事への埋め込み」が「組織コミットメント」の高さを支える主要な要因であることが明らかとなった。以上の結果から,新世代農民工の組織コミットメントを向上させるため,新規就業者や若年従業員向けのきめ細かな研修・指導の重要性が示唆される。
本稿は,中国の教育開発には地域的な資源制約が存在し,生徒1人当たりの資源が弾力的に調整されないという供給制約の可能性を想定して,初等から高等学校までの教育達成度の諸指標に,各年代の人口すなわちコーホートサイズが及ぼす影響について分析した。1982年と1990年,2000年の国勢調査データの1パーセントサンプルを用いて,各調査年における13歳から23歳の個人を分析対象とし,省レベルのコーホートサイズの変動に着目した回帰分析の結果,主要な指標すべてに関して,コーホートサイズの増加が教育達成度を引き下げることが定量的に明らかになった。また,コーホートに含まれる男子比率が高い場合,コーホートサイズが就学率,高校入学率・卒業率に与える悪影響が緩和されることが示された。これらは,中国の各省が教育面での供給制約に直面していること,女子よりも男子に優先的に後期中等教育資源が配分されていることを示唆している。