近年,人々の民主主義への支持の低下を指摘する研究が数多く登場している。これらの研究は,民主主義への支持の低下に伴って権威主義的な政策や政治家への支持が増加し,それによって国家権力を手にした政治家が民主主義的制度を瓦解させる試みを容易にしていると主張する。この傾向を最もよく反映していると考えられるのが,イスラエルの司法制度改革の事例である。2025年1月現在の首相,ベンヤミン・ネタニヤフらの推進するこの改革は,政府の政策に異議を唱える最高裁判所をはじめとする司法の権限を弱体化させるものであり,イスラエルの民主主義的性格を損なうとして国内外から多くの批判を集めた。またイスラエル社会はネタニヤフ首相への支持態度を軸とした深刻な分極化状態にあり,これに起因する社会の分断が司法制度改革とイスラエルの民主主義をめぐる議論を激化させたと考えられている。そこで本稿では,コンジョイント実験を用いてイスラエル国民の民主主義への支持態度の測定を試みた。その結果,ネタニヤフ首相の支持者は民主主義の原則のひとつである司法の独立に対する支持が低いことが明らかになった。本研究の分析結果は司法制度改革に対するイスラエル国民の選好を明らかにするとともに,強力な政治指導者への愛着が民主主義に対する支持の低下を引き起こす可能性を示唆するものである。
抄録全体を表示