日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
Print ISSN : 1883-4426
ISSN-L : 1883-4426
2 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 豊下 祥史, 佐藤 絹江, 越野 寿, 田中 真樹, 會田 英紀, 須藤 恵美, 岩崎 一生, 額 諭史, 会田 康史, 平井 敏博
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    目的:近年の歯学教育の改革に伴い,本学では平成18年度から技工操作が中心であった無歯顎補綴治療学の基礎実習を,臨床操作を可及的に多く取り入れた内容に変更した.本研究の目的は,プログラム変更前後において,実習内容の変更が学生の技術の修得や知識の整理にどのような効果を与えたのかを比較・検討することである.
    方法:平成17年度から19年度までの本学歯学部第4学年生を対象とし,基礎実習修了後に「臨床実習における患者に対して,当該処置や操作を実施できると思うか」および「基礎実習が当該講義で得られた知識の再確認あるいは整理に役立ったか」の2つの項目についてアンケートを行った.実習内容については,平成17年度は技工操作が主体であったのに対し,平成18年度は臨床手技を中心とした内容へ変更し,さらに平成19年度は,臨床手技と技工操作のほぼ全ての内容を網羅する内容へと変更した.
    結果:臨床手技に関する6項目で,「処置や操作ができる」あるいは「知識の整理に役立った」と回答した学生が年々増加した.また平成17年度に比較して平成19年度では,23項目の実習内容において「処置や操作ができる」あるいは「知識の整理に役立った」と回答した学生が調査年度間で有意な差が認められた.
    結論:無歯顎補綴治療における一連の診療術式を踏まえた基礎実習への変更は,臨床手技と技工操作に関する知識と技能の習得に有効であることが示唆された.
  • ゴールドフレームの厚さによる影響について
    石井 靖人, 渡邉 文彦, 畑 好昭
    2010 年 2 巻 1 号 p. 10-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    目的:エレクトロフォーミング法によるコーピングは高い適合精度および生体親和性を有し,またロストワックス法を応用したオリンパスキャスタブルセラミックス(以下,OCCと略記)は生体親和性および歯質に近い物性を有している.両者のこれらの利点を生かした歯冠修復法の開発に先立ち,ゴールドフレームとOCCの接合力の向上についてサンドブラスト処理による機械的嵌合力に着目し,ゴールドエレクトロフォーミング法で製作したコーピングを用いて,その厚さによるOCCの補強効果への影響について検討した.
    方法:接合力を評価するため,エレクトロフォーミング法によるゴールドフレームの厚さ(150μm,250μm,350μm)を変えた3条件とOCC単一の試料を各6個製作し,3点曲げ試験とそれらの界面と剥離面の観察および分析を行った.
    結果:3点曲げ試験の測定結果から,厚さ250μmのゴールドフレームに表面処理を行った試料の平均曲げ強さのみが有意に高い値を示した.界面と剥離面の観察および分析から,ゴールドフレーム表面が表面処理により粗造になり,被着面積を増大し,機械的嵌合力が作用しやすい形態になることでゴールドフレームとOCCの接合力が増強された.また,試料の界面と剥離面の観察および分析から,化学的結合はみられなかった.
    結論:接合には化学的結合は期待できず,機械的な表面処理が不可欠であり,厚さ250μmのゴールドフレームにサンドブラスト処理を行うことによるOCCの補強の有効性が示唆された.
  • 星合 和基, 岡崎 祥子, 田中 貴信, 小木曽 太郎, 福澤 蘭, 今泉 章, 阿河 伸一, 蒔田 眞人, 高橋 知央
    2010 年 2 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    目的:人工歯の選択方法の実情を把握する目的で,QFD(品質機能展開)手法を用いて調査し,歯科医師と歯科技工士(以下,技工士)間の人工歯に対する要求や考え方の違いや,職場種類による認識の違いについて検討を加える.
    方法:人工歯に対する要求項目を抽出するための1次アンケートに基づいて,19項目の2次調査項目を作成し,この調査項目を用いて関心度の高い項目からVAS法による再調査を行い,要求項目を明らかにした.調査対象は,大学職員歯科医師19名・大学附属病院技工士15名・開業歯科医師21名・開業技工士12名である.
    結果:前歯に関しては歯科医師・技工士とも大学職員か開業かに関わらずほぼ同様な傾向を示し,臼歯に関しては歯科医師・技工士ともに,大学職員の歯科医師・技工士では咬合に関する項目,開業歯科医師・技工士では自然観に対する項目に関心が高く,両者の傾向が異なった.各質問項目間の相関が高い項目数は,歯科医師・技工士ともに,大学職員の歯科医師・技工士では相関の高い項目が少なく,開業歯科医師・技工士では相関の高い項目が多かった.主成分分析の分析上位項目は,歯科医師は主成分2までで寄与率が約60% となったが,技工士は寄与率が30%を超える項目は無く多項目を要求しているが,それでも主成分3までで60%以上になり両者とも少ない項目で説明が可能であった.
    結論:人工歯に対する考え方は,前歯に関しては,歯科医師と技工士,さらには職場の違いにおいても明確な差は見られなかった.臼歯については,歯科医師・技工士ともに,大学職員では咬合に対する精度を重視し,開業歯科医師・技工士では自然観を要求していた.歯科医師は,大学職員では多種多様な嗜好を示し,開業医では形態が安定し調和の取れた人工歯を希望した.
技術紹介
  • 坪田 健嗣
    2010 年 2 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    目的:歯肉剥離や骨削除を伴う大掛かりな外科手術や矯正治療を行わずに,歯肉ラインを整え,後戻りもせず,長期的に歯肉を健康に維持できる審美補綴法,Biological Tissue Adaptation Technique(BTAテクニック)の開発
    治療法:(1)審美的な観点及び,biologic widthを考慮し,設定した歯肉ラインの位置で電気メスを用い歯肉切除を行う.(2)支台歯形成のフィニッシュラインは歯肉切除をした高さにする.その後印象採得を行う.(3)補綴装置(ラミネートベニア,クラウン)は,マージン部を歯面にほぼ直角に立ち上げ,歯肉創面とほぼ同じ厚みで作製し装着する.
    考察:本法を17症例実施し,経過観察したところ,歯肉ラインの位置が切端方向に後戻りせず,特に大きな問題もなく歯肉の健康も維持できることが認められた.その成功の理由として,健康な歯肉の条件となるbiologic widthを3次元的に維持でき,歯肉辺縁組織が補綴装置マージンに適合(密着)し隙間がなくなることで,歯垢の沈着を防ぎ,健康な歯肉が保たれるのではないかと思われる.また,歯肉の厚みが保たれ血流が良くなることで生物学的に有利な環境が作られるものと推察する.
    結論:BTAテクニックは,主に補綴的手法により歯肉ラインを整える(根尖方向に移動)治療法として多くの利点を有し,長期的にも審美性と歯肉の健康を維持することができる.
認定医症例報告
  • 鎌田 奈都子
    2010 年 2 巻 1 号 p. 36-39
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:66歳,女性.入れ歯が動き,よく咬めないと訴え来院.上顎は無歯顎,下顎は挺出した犬歯と残根状前歯が残存しており,上顎義歯には義歯安定剤が積層されていた.診察の結果,挺出歯による上顎義歯の動揺に起因する咀嚼障害と診断した.前歯部の咬合接触を回避した上顎全部床義歯と下顎オーバーデンチャーを装着した.治療効果を評価するため摂食可能食品アンケートを行った.
    考察:下顎犬歯の突き上げによる上顎義歯の維持安定不良に対し,誤った義歯安定剤の長期使用のため咀嚼障害が生じたものと考えられた.
    結論:適切な義歯床形態,咬合高径と下顎位,ならびに人工歯排列と臼歯部咬合接触の付与により義歯の維持安定が得られた.
専門医症例報告
  • 清水 崇雪
    2010 年 2 巻 1 号 p. 40-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:上下無歯顎の女性.咀嚼障害を主訴に来院した.下顎の顎堤に著しい吸収が認められた.咬合高径の低下および下顎総義歯の維持および安定不良と診断した.新義歯では咬合挙上を行い,フレンジテクニックを応用し,排列位置および義歯床研磨面の形態を決定した.
    考察:咬合挙上により,ゴシックアーチ描記では限界運動路が拡大し,側方セファログラム分析では下顎が術前より後下方に位置した.また,下顎総義歯の維持および安定が得られたことにより咀嚼障害が改善したと考える.
    結論:本症例では,適切な咬合高径の設定およびフレンジテクニックを応用し新義歯の作製を行った結果,良好な経過が得られた.
  • 田畑 勝彦
    2010 年 2 巻 1 号 p. 44-47
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は39歳の女性. 1の歯根吸収のため,動揺と疼痛を主訴に来院.歯頸部歯周組織を保存して抜歯後,インプラント埋入を行った.約5カ月後,オールセラミッククラウンを製作装着した.
    考察:抜去歯の印象採得を行い天然歯の形態をプロビジョナルレストレーションに移行させ,理想的な辺縁歯肉の形態を作れたために,歯肉退縮を防ぐことができ,ピンク色のポーセレンを焼付けたジルコニアアバットメントを用いることで歯肉透過性から見た審美的な配慮が行えたことにより良好な結果が得られたと考えられる.
    結論:Thin scallop型の歯肉に対して審美性を考慮したインプラント補綴を行い,良好な結果が得られた.
  • インプラントと舌接触補助床による機能回復
    大井 孝
    2010 年 2 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:85歳,男性の無歯顎患者.口底部腫瘍による下顎骨辺縁切除術と頸皮弁による即時再建術後の咀嚼・嚥下障害に対し,下顎に固定性インプラント義歯,上顎に舌接触補助床(PAP)を装着した.
    考察:本症例では,腫瘍摘出により解剖学的形態が大きく損なわれ,下唇の舌側への翻転が強いことから,下顎には固定性上部構造を選択した.上顎PAP装着により,咬合高径増加に伴う固有口腔増大による嚥下口腔期の障害が防止され,嚥下に十分な舌-口蓋接触圧形成が可能になった.
    結論:口底部腫瘍摘出後の無歯顎症例に対し,下顎に固定性インプラント義歯,上顎にPAPを装着することで,咀嚼・嚥下機能が改善された.
feedback
Top