日本補綴歯科学会誌
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2 巻, 4 号
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依頼論文
  • 鈴木 尚
    2010 年 2 巻 4 号 p. 209-217
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    パーシャル・デンチャーに代表される欠損補綴は長期にわたって応用されてきた方法論である.それは,もちろん歯科補綴学的研究の臨床応用であったはずである.つまり欠損修復の方法論には支台装置の開発と,それと並行して負担様式の臨床的問題が存在していた.このことに関連して,過去さまざまな研究がなされたが,臨床に最も大きな影響を与えたのは支台装置である.現在に至るまでこの支台装置は義歯の構造のなかで最も考案改変され応用されてきた.その度ごとに大きな期待を抱き,興味をもって取り組んだが,その臨床的成果は決して満足の行くものではなかった.その理由の一つにそれらの使用結果が十分に分析されて報告されなかったことが挙げられる.当然適応症の提示も定かでなく,支台装置の存在的意
    味も重みをもたないことになった.臨床家としては大いに疑問に思う事態である.一方で,初診から診断を経て諸所の処置方針を決め,補綴治療までを完了させるという治療の流れは最も一般的で誰もが認める歯科臨床の進め方である.
    欠損補綴の変遷のなかで大きな臨床的位置を占めてきた支台装置の選択も当然このような診断的処置方針に沿って選択されるべきである.本稿は臨床家として何を欠損補綴診断の拠りどころとしているのか?にスポットを当てて支台装置の選択までを提案してみたい.
  • 澤田 則宏
    2010 年 2 巻 4 号 p. 218-225
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    歯内療法はここ十数年で大きく変化した.最先端の歯内療法では,マイクロスコープ,ニッケルチタンファイル,超音波チップ,マイクロインスツルメント,そしてコンビームCT などを使用することにより,予知性の高い予後を得ることが可能となっている.本論文では,通常の根管治療および外科的歯内療法のテクニックについて,最新の情報を紹介する.
    根管治療した歯の生存率は90%を超えている.根管治療した歯と単独インプラントでは,長期予後に関して差はないという報告が多くみられる.根管治療を行うか,抜歯してインプラントにするかという臨床判断は生存率で決めてはいけないことがわかっている.
    最先端の外科的歯内療法は明るい光の下で,拡大された視野を見ながら,特殊なマイクロインスツルメントを使用して行われる.最先端の外科的歯内療法の成功率は,従来の外科的歯内療法の成功率より高くなっている.また,薄いメスおよび極細の縫合糸を使用することにより,術後の瘢痕や歯肉退縮もほとんど認められない.
    コロナルリーケージは不適切な補綴物によってもたらされる.根管治療した歯の予後は,補綴物の質に影響されることが報告されている.
    穿孔部封鎖処置は,internal matrix technique や mineral trioxide aggregate を使用することにより,確実なものになっている.従来は抜歯されていた歯もこの方法を用いることにより,多くの歯を保存することが可能となっている.
原著論文
  • ―フッ化物との併用について―
    岡 謙次, 井上 三四郎, 河野 孝則, 市川 哲雄
    2010 年 2 巻 4 号 p. 226-232
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:CO2レーザー照射とフッ化物塗布の併用による象牙質の耐酸性向上への影響について検討を加えた.
    方法:ヒト抜去歯より切り出した象牙質に対してフッ化物塗布有無の2グループに分け,CO2レーザー照射を行った.処理後試料を2 mlのpH 標準液(pH 4)に浸漬後,溶出したCaイオン濃度を原子吸光分光光度計にて測定を行い,耐酸性能を評価した.また,CO2レーザー照射後の象牙質表面をSEM にて観察し,同時に表面粗さの変化を測定した.
    結果:浸漬試験後CO2レーザー照射群でCa溶出量は有意に低下した.しかし,pH標準液への浸漬回数が増えるに従いコントロールとの差はなくなった.また,フッ化物塗布後のCO2 レーザー照射でCa 溶出量は最も低下し,pH標準液への浸漬回数3回でも耐酸性向上効果がみられた.
    結論:本研究ではCO2レーザー照射は象牙質の耐酸性向上効果があること,また,フッ化物との併用により耐酸性能が向上することが示唆された.
  • 水橋 亮, 水橋 史, 宇野 清博
    2010 年 2 巻 4 号 p. 233-242
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,作業用模型の条件として,成型器上での作業用模型の位置,温度,角度および,マウスガードシートの温度が,マウスガード前歯部および臼歯部の厚さに及ぼす影響について検討することを目的とした.
    方法:材料はマウスガードシート(厚さ3.8 mm)を使用した.シートの成形は,吸引型成型器を用いて行い,シートが1.5 cm 垂れ下がったところで吸引圧接した.厚さの測定は前歯部と臼歯部で行った.作業用模型の条件として,計測部位と位置と温度および計測部位と位置と角度について,三元配置分散分析により検討を行った.マウスガードシートの条件として,計測部位と温度について二元配置分散分析により検討した.
    結果:作業用模型の位置では,前歯部におけるマウスガードの厚さは,作業用模型を成形器上の後方に設置した条件で大きくなり,臼歯部においては,作業用模型を成形器上の中央に設置した条件で大きくなった.作業用模型の角度では,前歯部および臼歯部におけるマウスガードの厚さは,作業用模型の角度条件を80°にしたときに大きくなった.マウスガードシートの温度条件は,温度が高いほうが前歯部の厚さが大きくなった.
    結論:本研究の結果から,作業用模型の位置は厚さを確保したい部分を中央に置き,角度は80°にすること,またマウスガードシートの温度を高くすることがマウスガードの厚さを確保するうえで有効であることが明らかとなった.
  • 竹内 久裕, 中野 雅徳
    2010 年 2 巻 4 号 p. 243-251
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,側方ガイドの傾斜角度について,すでに報告されている研究結果を基に臨床的な標準値を明らかにすることを目的とした.
    方法:中野(1976 年,補綴誌)によって計測値が公表されている31 名の滑走データを用いて再解析を行った.まず切歯点移動量1 mm あたりの全運動軸回転量を単位全運動軸回転量とし,側方滑走運動時における切歯路と顆路のZ 実角差を求めて,両者の関係から標準値を求めた.次に咬合器シミュレーションを行い,側方滑走運動時に標準的な単位全運動軸回転量を得るための切歯指導板調整量を求めた.
    結果:側方滑走運動時の単位全運動軸回転量は平均0.15 ± 0.11 度>mm,中央値0.15 度mm であり,切歯路-平衡側顆路のZ 実角差と単位全運動軸回転量との相関係数はr=0.84(Pearson の相関係数,側方滑走運動時)であった.またガイド角度は,切歯路Z 実角=平衡側顆路Z 実角- 5 度± 9.5 度(カンペル平面基準)であった.咬合器シミュレーションでは矢状切歯路を平衡側顆路角+ 5 度とし,側方切歯誘導角を約15 度にすることで,約0.15 度mm の標準的な下顎回転量を得ることが可能となることが明らかとなった.
    結論:切歯路と平衡側顆路のZ 実角差は,単位全運動軸回転量と非常に高い相関を有しており,単位全運動軸回転量を基準とすることで側方滑走運動時のガイド角度や咬合器の調整範囲が明確となった.
  • ―シート表面の適正温度について―
    町 博之, 前田 芳信
    2010 年 2 巻 4 号 p. 252-259
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:吸引型成形器による硬質熱可塑性レジン(PET 製シート材)の圧接において,適正な軟化温度を検討することを目的とした.
    方法:義歯床用金型から得られた石膏模型に,120~160℃(10℃間隔)で硬質熱可塑性レジンを軟化圧接したときの適合状態を比較した.まず硬質熱可塑性レジンを示差走査熱量計で熱分析しガラス転移温度を調べた.この結果を参考にして静的荷重試験を行い軟化温度範囲を得た.また適合状態の算出は,フラットヘッドスキャナで模型を読み込み,コンピュータにより画像を重ね合わせたときの間隙を測定し,その平均値を比較検討した.
    結果:軟化温度が高くなるに従って外側部では中央部,辺縁部ともに間隙は減少し,内側部の中央部では増加,辺縁部では差が認められなかった.また,辺縁部と中央部の比較では,外側部では差がなかったが,内側で辺縁部の間隙は大きかった.
    結論:硬質熱可塑性レジンの圧接時の適正温度が130~150℃であると結論づけたが,軟化圧接温度以外にもシートの延伸挙動が適合に大きく関与している.
技術紹介
  • 黒住 明正, 赤松 由崇, 白木 篤, 中島 啓一朗, 佐伯 正則, 西川 悟郎, 原 哲也, 皆木 省吾
    2010 年 2 巻 4 号 p. 260-266
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    目的:阪神・淡路大震災において被災者の一部は,地震による家屋の倒壊により避難時に義歯を放置・紛失するという状態に陥った.復興のさなか,簡便で効率的な義歯製作法が求められたので,われわれが阪神・淡路大震災において実施した大規模災害時における有床義歯製作の考え方とその製作方法について報告する.
    材料と方法:通法に従い口腔内のアルジネート印象を採得し,印象用石膏により製作した作業用模型上にて基礎床を作る.上顎 6前歯・下顎 6前歯が一塊となった人工歯と 4臼歯が一塊となったシェル臼歯を口腔内で基礎床と常温重合レジンにより位置決めし,両者の間隙に粉液比を低く低粘稠度に混和した常温重合レジンを流し込み研磨面形態を製作する.最後に粘膜面に暫間軟質裏装材を適応する.
    考察:本義歯製作方法は,審美性にやや劣り永続的使用に適さないという欠点を有する.しかし,通法と比較して大幅に作業時間が短縮し,復興後のかかりつけ歯科医のコンセプトに従った補綴装置の設計・製作を阻害しないという点を有しており,災害時の歯科救援活動に貢献するものと考える.
    結論:本義歯製作方法は,大規模災害時において簡便かつ効率的な義歯製作を可能とするものであり,半年程度で現地歯科医療機関の一次的な復興が望める被災地においては特に有効であると考えられる.
専門医症例報告
  • 大堀 ことは
    2010 年 2 巻 4 号 p. 267-270
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時15 歳女性で,オトガイ部から左下顎骨体部の腫脹と疼痛を主訴に来院した.エナメル上皮腫と診断され,腫瘍摘出と同時に2-3を抜歯した.下顎骨欠損は広範囲に及んだため,欠損部顎堤に腸骨を移植し,インプラントによる補綴処置を行った.
    考察:審美と機能を考慮した欠損部への骨移植とインプラント補綴を行うことにより患者のQOL が向上した.また,インプラント体周囲の骨吸収,軟組織の炎症反応はほとんどなく,補綴処置は良好な経過が得られたと考えられた.
    結論:下顎エナメル上皮腫摘出後に生じた広範な顎欠損に対し,自家骨移植を行った後にインプラント補綴を行うことにより,審美および機能が回復され,良好な経過が得られた.
  • 黒木 唯文
    2010 年 2 巻 4 号 p. 271-274
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時 65歳の女性.頬粘膜の違和感(ザラッとした感じ)を主訴に来院した.当院口腔外科にて生体組織検査の結果,扁平苔癬と診断され,金属アレルギーの疑いで当科紹介となった.当科における治療の流れに従い加療し,最終補綴にメタルフリーレストレーションを行った結果,症状の改善を認めた.
    考察:本症例における扁平苔癬の原因は,メタルフリーレストレーションにより軽快を認めたことより,歯科用金属アレルギーの関与が大きいと考えた.
    結論:歯科用金属アレルギー患者に対するメタルフリーレストレーションは有用な治療法である.
  • 本間 済
    2010 年 2 巻 4 号 p. 275-278
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は初診時年齢 78歳の女性で,咀嚼障害を主訴に来院した.ブリッジが装着されていたが齲蝕と歯周病がみられ,咬合が崩壊しており高度な動揺を認めた.そのため,コーヌステレスコープクラウン応用部分床義歯により咬合再建を行った.現在 5年経過しているが良好に経過している.
    考察:上記補綴装置装着により,リジッドサポートによる二次固定効果,咬合平面の連続性による咬合性外傷の予防,易清掃性補綴装置による歯周疾患の予防が期待できた.
    結論:コーヌス理論を基盤とした咬合再建法は咬合力支持の主体が歯根膜であること,プラークコントロールが容易であることなどから有効な方法である.
  • 尾澤 昌悟
    2010 年 2 巻 4 号 p. 279-282
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:40 歳,女性.下顎右側臼歯部のインプラントと天然歯と連結した固定式補綴装置が予後不良であり,インプラント除去後の補綴治療を希望して来科した.下顎両側遊離端欠損に対し,部分床義歯による補綴治療を行い,最終義歯として,磁性アタッチメントと把持機能を重視した設計の金属床義歯を製作した.
    考察:リジッドサポートの概念と審美的に有利な支台装置を選択した義歯により,患者の満足が得られた.術後2 年を経過したところで,支台歯の一つに歯根破折が生じ,抜歯後増歯修理を行ったが,義歯の安定は損なわれず経過は良好であった.
    結論:両側下顎臼歯部欠損症例に対し,審美性に配慮した金属床義歯を適用して,良好な結果を得た.
  • 宮前 真
    2010 年 2 巻 4 号 p. 283-286
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は54 歳男性.右側上顎骨半側切除術を施行され,術後の発音,咀嚼,嚥下障害を主訴として来科した.初診時の口腔内は,硬口蓋から軟口蓋にかけて広範な欠損があり,鼻腔への交通が認められた.そこで,機能回復を目的に,磁性アタッチメントを応用した顎義歯を装着した.
    考察:一般的に顎義歯が与える支台歯への荷重は,通常の部分床義歯よりも大きくなることは免れない.今回,適用された磁性アタッチメントの特性が,良好な術後経過に寄与しているものと考えられる.
    結論:上顎骨欠損症例に対して,磁性アタッチメントを応用した顎義歯設計は,良好な機能回復を行うために,有効な選択肢の一つであることが確認された.
  • 黒嶋 伸一郎
    2010 年 2 巻 4 号 p. 287-290
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:右側頬粘膜扁平上皮癌切除後に腹直筋皮弁再建が行われた患者が,咀嚼,審美ならびに嚥下障害を主訴として来院した.デンチャースペース喪失の改善を目的として上下顎顎堤形成と同時に暫間義歯を装着後,上顎はミリング加工を施した顎義歯を,また下顎はリーゲルテレスコープ装置を用いた顎義歯を設計し,装着した.
    考察:暫間義歯の早期装着が適切なデンチャースペースの早期獲得に貢献し,残存歯を積極的に利用した,強固な連結機構を有する顎補綴装置の製作を可能にしたと考えられる.
    結論:顎堤再建を伴う患者に対しては,顎堤形成を併用した補綴主導型の治療が有効である.
  • 山本 裕信
    2010 年 2 巻 4 号 p. 291-294
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は 61歳の男性.臼歯部の咬耗および咬合支持減少に伴う咀嚼障害を主訴に来院した.口腔内所見より低位咬合が疑われたため,有床形態のスプリントを治療用義歯として応用し咬合挙上を行うとともに,最終義歯として咬耗部と適合する部位にアンレー型レストを応用した部分床義歯を装着した.
    考察:有床形態のスプリントを治療用義歯として応用し咬合高径の挙上を行い,その情報を元に最終義歯の咬合高径および床外形の決定を行った.その結果,患者の満足と良好な治療経過が得られたと考えられる.また,アンレー型レストの応用により不要な支台歯形成を避けることができたと考えられる.
    結論:有床形態のスプリントおよびアンレー型レストを応用した部分床義歯の装着により,良好な経過が得られた.
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