日本補綴歯科学会誌
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ISSN-L : 1883-4426
6 巻, 4 号
【特集】顎補綴と「Speech」評価/磁性アタッチメントの履歴と指針/補綴臨床における咬合接触と検査機器
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
依頼論文
◆総説:顎補綴と「Speech」評価
  • 谷口 尚, 隅田 由香
    2014 年 6 巻 4 号 p. 333-342
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     顎補綴とは,先天奇形,腫瘍,外傷,嚢胞,炎症などを原疾患とし,外科的切除などにより顎口腔領域に後遺した顎骨・舌などの欠損を対象に,補綴装置を用いて修復し,失われた咀嚼・嚥下,発音,審美性などの機能を原状回復することである.こうした顎補綴症例では機能障害が一般補綴症例に比べ重篤で,精神・心理的苦痛をも惹起する.顎補綴によって目指す機能回復のうち,構音障害や発声障害といった音声障害に対する機能回復は,患者が社会とのコミュニケーション手段である「Speech」を円滑に保持するための要件である.本稿では顎補綴と「Speech」評価について述べる.
◆総説:磁性アタッチメントの履歴と指針
  • 石上 友彦
    2014 年 6 巻 4 号 p. 343-350
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     磁性アタッチメントは日本磁気歯科学会が先導し改良・開発を行い,1992年に商品化され,2012年に日本の提案したISO 13017が国際標準規格として発行されるに至った.磁石の特性からなる幾つかの優れた特徴と有用性が多くの臨床家に認められ,急速に一般歯科治療に普及し,種々のアイテムも揃い始め適応範囲は非常に広いと考える.しかし,磁性アタッチメントの注意事項や特長を理解せずに失敗してしまうと,臨床で再び使用しなくなるのが現状である.もちろん使用するには困難な症例もあり,適応症例は選択する.今回は利用方法やその要点について,もう一度確認し,さらに今後の可能性についても提示したい.
◆総説:補綴臨床における咬合接触と検査機器
  • 田中 昌博
    2014 年 6 巻 4 号 p. 351-360
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     補綴臨床における咬合接触の意義・考え方と関連検査機器について,という課題を与えられ,まず対象となる文献を検索した.二次資料データベースとして,MEDLINE,EMBASE,医学中央雑誌を選んだ.「Occlusion」&「Intercuspal position」,あるいは「咬合接触」かつ「咬頭嵌合位」を検索語として,1990年1月1日から2013年12月31日までに発刊された文献を,インターネットを経由して入手した.
     ヒトの永久歯列を対象とした臨床研究論文に絞り,まず①英語あるいは日本語以外で書かれた論文,②歯列模型や解析数学モデルを用いた研究室内での論文,③実験的に咬合干渉を付与した論文,そして④著書,症例報告ならびに総説を除外した.さらに,今回の課題に合致した補綴臨床に直結した原著論文を,抄録ならびに本文の方法と材料からハンドサーチにて選択した.
     咬合接触の検査法について,1.咬合紙法,2.引き抜き試験,3.チェックバイト法として1)咬合検査用ワックス,2)シリコーンゴム咬合検査材,4.感圧フィルムによる検査法として1)咬合力測定システム,2)咬合接触圧分布測定システムを紹介した.
     咬合は粘弾性体同士の接触であることを基にして,検査法の信頼性に触れて,咬合接触の正常像を示した.
◆シリーズ:補綴装置および歯の延命のために Part 3 -根尖部病変の診断・治療・予後-
  • 峯 篤史
    2014 年 6 巻 4 号 p. 361
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
  • 澤田 則宏
    2014 年 6 巻 4 号 p. 362-367
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     すでに根管治療が行われているが,根尖にはエックス線透過像が認められるような症例で,再根管治療を行うべきか判断に迷うことがある.そのような症例で治療方針を決めるために何を術前に診なければいけないのか,術前の診査内容や評価方法について考察する.それぞれの症例によって再根管治療の難易度は変わるが,難易度の正しい評価が,再根管治療を自身で始めるのか,それとも歯内療法専門医や専門外来への依頼をすべきなのか,判断の目安になる.適切な診査による正確な診断から,的確な臨床の意思決定(clinical decision making)を導き出すことが可能となる.
  • 吉川 剛正
    2014 年 6 巻 4 号 p. 368-373
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     根管治療を成功に導くために重要なことは感染のコントロールである.根管形成や根管洗浄などにより根管内の感染源をできるかぎり除去することが重要であるが,完全に感染源を除去することは困難である.したがって,最終的には根管充填により根管内に感染源を封じ込め,また,新たな感染が生じないように努めなければならない.根管治療で治癒しない症例には外科的歯内療法の適用となるが,Endodontic Microsurgeryを行うことで従来よりも予知性の高い処置が可能となった.また,根管治療の成功率を低下させる因子である穿孔に対しても,適切に封鎖することで良好な成績が得られるようになってきている.
  • 田中 利典
    2014 年 6 巻 4 号 p. 374-379
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     根管充填歯では,歯の質そのものには変化は生じていない.辺縁隆線の喪失,歯髄がないことで生じる咬合力の制御機能低下が,保存困難となる危険性を高めている.また,細菌漏洩を確実に防ぐことができないため,歯冠側の封鎖は重要である.
     根尖病変は高い確率で治癒に至らしめることが可能であるが,術前の根尖部エックス線透過像の有無や穿孔などにより,予後や成功率が悪くなる.
     支台築造は可能な限りすみやかに行うことが望ましい.その際象牙質はできるだけ保存し,またポスト孔形成のための根管充填材除去には配慮が必要である.
     支台築造の後の補綴処置では,プロビジョナルレストレーションによる経過観察が有効である.根管充填歯を口腔内で長期に機能させるためには,質の高い歯内療法と補綴治療が欠かせない.
◆企画論文:次世代の歯科技工のあり方
  • 鈴木 哲也
    2014 年 6 巻 4 号 p. 380
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
  • 末瀨 一彦
    2014 年 6 巻 4 号 p. 381-386
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     歯科補綴治療を支える歯科技工はCAD/CAMテクノロジーの導入によって大きな変革期を迎え,歯科技工士教育の内容もこれまで以上に充実したものに変わろうとしている.歯科技工士の志願者が激減し,将来の補綴装置の製作が危機的な状況であるが,これからは高品質,高精度の補綴装置を国民に安定的に供給するためにはデジタル機器による技術と歯科技工士の高度な技能が協調し,歯科医療を支えていかなければならない.歯科技工士国家試験も念願の全国統一化がなされ,日本の歯科技工士教育はグローバルに国際的にもリーダー的役割を担うものである.
  • 木村 健二
    2014 年 6 巻 4 号 p. 387-392
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     近年,私達歯科医療従事者を取り巻く環境は著しい変化を遂げている.テクノロジーの発達は,歯科技工の手法と概念を大幅に変化させてきた.そしてこの流れは今後もとどまらないだろう.今後,歯科技工士として生きていくには,どのような力を携えることが必要になるのだろうか.CAD/CAM導入から約10年が経過した歯科技工臨床の現場から,過去から現在までのCAD/CAM性能の変遷,素材の進化,包括的歯科医療について述べ,そして今後の歯科技工の展望についてお伝えしていく.
  • 大木 明子, 鈴木 哲也
    2014 年 6 巻 4 号 p. 393-398
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     歯科技工を取巻く環境の急激な変化に対応すべく4年制大学として将来の教育モデルを提示した.デジタル技工の波に翻弄されることなく,デジタル機器の原理や使用材料への理解が不可欠であること,機械と歯科技工士による匠の技が融合してはじめて高付加価値の補綴装置が生み出されることを忘れてはならない.国民の健康の一翼を担う歯科技工士として,多職種連携は重要なテーマであり,歯科ばかりでなく医科との連携も視野に入れ,関連職種にかかわる広い知識を修得するべきである.また,世界の動向に迅速に対応できるグローバル人材の育成も重要である.今後は認定士制度などを充実させ,キャリアアップへつながる仕組みの構築に努めなければならない.
  • 田地 豪, 二川 浩樹
    2014 年 6 巻 4 号 p. 399-404
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
     平成17年,わが国で初めて広島大学歯学部に4年制の歯科技工士養成機関である口腔保健学科口腔保健工学専攻が設置された.歯科技工士をオーラルエンジニアと捉え,新しいオーラルエンジニアには工学的知識・技能のほかに,生物学的知識・技能,高度専門医療やチーム医療などに関する能力が必要になると考え,教育カリキュラムを策定した.教養教育の充実,材料や機器の革新に伴う専門教育の強化,関連分野の教育の実践を目指し,特色ある授業科目を設定している.これまでの教育の結果,卒業生は多方面で活躍しており,今後とも,口腔工学として専門分野や関連分野で活躍できる人材の育成に努めていきたいと考えている.
原著論文
  • 七田 俊晴, 佐藤 裕二, 北川 昇, 関谷 弥千, 大久保 力廣, 山森 徹雄, 上田 貴之, 乙丸 貴史, 木本 克彦, 末瀬 一彦
    2014 年 6 巻 4 号 p. 405-413
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的:歯科治療の難易度に応じた治療時間を明らかにすることは,医療の経済性を勘案するうえで重要である.しかし,治療の難易度,術者の熟練度(経験年数),治療環境などによる影響を明らかにするために,実際の同一患者を用いて複数の術者が何回も同じ診療を行うことには倫理上問題が生じる.そこで,総義歯治療における治療時間と難易度の関係を明らかにするために,歯科医師が必要と意識している治療時間について調査を行った.本研究は,無歯顎患者の患者資料を見たうえでの歯科医師の予想治療時間と症例の難易度との関係を明らかにすることを目的とした.
    方法:難易度の異なる無歯顎者3症例を公益社団法人日本補綴歯科学会の専門医(臨床経験14年)が実際に診療を行い,その所要時間を記録した.この3症例の口腔内写真,研究用模型,症型分類の調査結果を日本全国の歯科大学7校の歯科医師(196名)に協力を依頼,提示した.そして,各診療ステップでの予想治療時間と治療回数の調査を行った.調査結果を集計し,各診療ステップの予想治療時間を算出した.後日,前回の資料に加えて集計したデータを提示し,再度同様な調査を行った(デルファイ法).さらに,臨床経験5年以上(95名)を抽出し,各診療ステップでの症例の難易度と予想治療時間を一元配置分散分析にて解析した.
    結果:今回の調査結果から,症例の難易度による有意差が予想治療時間の総和において認められた.咬合採得や精密印象など,術者の熟練度(経験年数)が強く影響する診療ステップでは,症例の難易度が増すとともに歯科医師の予想治療時間も長くなった.しかし,臨床経験と予想治療時間との間に有意差は認められず,難易度の影響は小さかった.
    結論:以上より,総義歯治療における症例の難易度は予想治療時間に関与することが示唆された.
  • 小出 勝義, 小出 馨, 水橋 史, 高橋 睦
    2014 年 6 巻 4 号 p. 414-422
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,歯の接触を伴わない開閉口運動を連続して行うことが,閉口時の顆頭位に及ぼす影響について明らかにすることを目的として,顆頭点の三次元的位置を測定し,歯の接触を伴わない開閉口運動と顆頭位の関連性を検討した.
    方法:被験者は有歯顎者32名とし,測定前に筋の圧痛の有無を診査した.その後,Win Jaw Systemにより連続開閉口運動前後の左右顆頭点の移動量を測定した.開口量は努力最大開口である大開口,被験者自身が自覚する中開口,中開口より小さい小開口の3条件とした.開閉口回数は開閉口前の0回,1,2,4,6,8,10,12,14,16,18,20回の12条件で行った.
     各条件において,前後,左右,上下方向における顆頭点の移動量を測定した.筋の圧痛の有無,開口量,開閉口回数による顆頭点の移動量の違いについて分析を行った.
    結果:顆頭点の移動量は,大開口のときに開閉口回数による有意差を認めた.筋の圧痛がない群では顆頭点の上下方向への移動量に,圧痛がある群では顆頭点の前後,上下方向への移動量に有意差が認められ,それぞれ開閉口回数が増加するにつれて移動量は増加する傾向を示した.
    結論:顆頭点は大開口での歯の接触を伴わない開閉口運動を連続して行うことで移動し,開閉口回数が増加するにつれて移動量は増すことが明らかとなった.本研究の結果は咬合が関与する歯科治療を行う上で有用なものと考えられる.
専門医症例報告
  • 小町谷 美帆
    2014 年 6 巻 4 号 p. 423-426
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は43歳女性.食事が食べ辛いことを主訴に来院した.その他の訴えとしては,下の前歯の見た目が気になるということであった |3 の捻転および 6| の近心傾斜により,部分床義歯の支台装置が適切に装着できない状態が認められた.そこで,上顎は全部床義歯を新製し,下顎は |3 捻転歯の小矯正を行い,6| には咬合平面の改善のためにキャップクラスプを付与した部分床義歯を装着し,咬合の回復を図ったところ咀嚼効率が向上した.
    考察:支台歯の歯列不正に対して矯正治療を施行し,キャップクラスプを付与した義歯によって安定感が備えられ,咀嚼効率の向上に反映したと考えられた.
    結論:小矯正で歯列を整えた後に咬合平面を考慮した最終補綴装置を装着する事は,審美性を回復させるとともに口腔機能の改善の一助となった.
  • 隈倉 慎介
    2014 年 6 巻 4 号 p. 427-430
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は78歳の女性.上下顎無歯顎で下顎は55年前にエナメル上皮腫による区域切除により顎堤の著しい吸収および顎位の右側への偏位が認められ,義歯は安定不良であった.義歯作製にあたりフレンジテクニックを応用し排列位置の決定および義歯床研磨面形態を決定した.
    考察:顎堤の著しい吸収,顎位の偏位による上下顎顎堤の対向関係の不調和など義歯の安定を得ることが困難な症例に対して,フレンジテクニックを応用し義歯にニュートラルゾーンへの排列と機能的な研磨面を付与したことで,機能運動時の義歯の動揺が改善されたと考えられた.
    結論:下顎義歯の安定不良の原因を適切に診断,対応したことで良好な治療結果が得られた.
  • 郡 英寛
    2014 年 6 巻 4 号 p. 431-434
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は74歳男性で,下顎骨半側切除後の咀嚼困難を主訴に来院した.下顎の健側の咬合支持歯は重度歯周病で保存が困難な状態であり,佐藤ら(1989)の咀嚼スコアは5(100点満点中)と低い値を示した.そこで,下顎の健側に4本のインプラントを埋入してバーアタッチメントで強固に連結し,インプラントオーバーデンチャーを装着した.
    考察:補綴装置装着後,咀嚼スコアは60を示し,咀嚼機能は著明に改善した.これはインプラントによって健側に強固な咬合支持が確立したためと考えられる.
    結論:下顎骨半側切除後の咀嚼障害をインプラントオーバーデンチャーを装着することにより回復できた.
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