日本調理科学会大会研究発表要旨集
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口頭発表
  • 黒飛 知香, 干野 隆芳
    セッションID: 1A-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】嚥下困難者にとっては,誤嚥に起因する粥などのテクスチャー特性の把握は特に重要である。本研究では,異なる穀類を用いて調製した7分粥のテクスチャーおよび嚥下特性について,ショートバックエクストルージョン(SBE)法などを用い,官能評価に対応する力学的特性について検討した。さらに,人がこれらの特性をどのような力学的特性を指標にしているかを明らかにすることを目的とした。

    【方法】粥材料には,うるち米,もち米,発芽玄米,もち麦(4種類)を用いた。粥の調製方法は,粥材料の穀類85 gを1分間洗米した後,蒸留水614 gを加え,おかゆメーカーにて自動炊飯した。官能評価項目は,つぶしやすさ,飲み込みやすさ,べたつき,口中の残留感の4項目とした。物性測定は,特別用途食品・嚥下困難者用食品の試験方法に準じたテクスチャー測定(20℃)およびSBE法を行った。SBE法は,品温45℃および口腔内平均温度34℃(人工唾液なし・あり)の3条件にて実施した。官能評価値と物性値の相関は,各項目間における相関係数を算出して比較した。

    【結果】官能評価結果は,全ての項目において試料間で有意差(<0.001)が認められた。官能評価値と各物性測定値の相関係数からは,いずれの官能特性もSBE法から得られる粘度関連特性値(σ0)あるいは見かけ粘度と高い相関が認められた。さらに,見かけ粘度はずり速度に依存するため,官能評価特性ごとに異なるずり速度(舌の動き)や口腔内状態(温度,唾液の有無)で知覚していることが明らかになった。以上より,粥のテクスチャーおよび嚥下特性の評価方法としてSBE法が有用であることを示すことができた。

  • 山本 康司, 露久保 美夏, 鶴谷 結
    セッションID: 1A-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】玄米は,白米と比べて硬さや粘り気の少なさから消費が避けられることもある。それらを改善するための方法が複数研究されているが,様々な条件下での圧力炊飯が玄米に与える影響に関する研究は少ない。そこで本研究では,玄米を圧力炊飯した際の加圧時間の違いが炊き上がりに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

    【方法】令和2年 新潟県魚沼産コシヒカリを試料米とした。洗米後,米重量の1.5倍量の加水をし,20℃または50℃で浸漬を行った。加熱には,圧力鍋を用い,加圧条件は80 kPaで12分間,140 kPaで6分間,8分間,12分間とした。比較対象として20℃または50℃の炊飯液を使用し,炊飯器での常圧炊飯を行った。測定項目は,米の吸水率,炊飯時の温度履歴,飯粒の大きさ,胚乳露出率,飯の水分量,飯粒表面および全体のかたさと付着性とした。

    【結果】玄米飯の水分量は,20℃浸漬では常圧炊飯に対して140 kPa8分間の加圧で約4%,50℃浸漬では常圧炊飯に対して140 kPa12分間の加圧で約5%増加する傾向が見られた。胚乳露出率は,20℃浸漬では常圧炊飯に比べ140 kPa8分間および12分間加圧と50℃浸漬の全ての140 kPa加圧で有意に増加した。飯粒の表面,全体ともにかたさは,140 kPa炊飯により有意に増加し,20℃浸漬においては加圧時間の増加により有意に低下した。飯粒全体の付着性は,20℃浸漬では全ての圧力炊飯により有意な増加が示され,加圧時間の増加による有意差は見られなかった。以上より,玄米の圧力炊飯の加圧時間の増加によって水分量が増加傾向を示し,20℃浸漬で胚乳露出率が増加,かたさは20℃浸漬で低下が示された。

  • 林 倖穂, 大石 恭子
    セッションID: 1A-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】玄米炊飯法「びっくり炊き」は,炊飯途中で炊飯液を一度米粒に吸収させ,さし水を添加して再沸騰後20分間加熱し,飯にする方法である。これまでに,当該方法は加熱前の浸漬が不要であり,さし水は低温がよく,炊飯過程での胚乳露出面積や色(L値)の測定は玄米の外皮の破裂状態を反映する一指標となり得ることを示した1)2)。そこで本研究では,さし水の回数と量,タイミングの違いが玄米の形状変化等に与える影響を明らかにすることを目的とした。

    【方法】玄米(宮城県産ひとめぼれ)150 gを洗米後,米重量の1.2倍の水を加え,鍋を用いて加熱した。対照試料は10分かけて沸騰させ,その後沸騰継続10分後に米重量の1.5倍のさし水を加え,再沸騰後,20分後に消火,蒸らしを行った。さし水2回の試料は,2回目のタイミングを1回目の10分後とし,量は1回目,2回目各々,米の0.75倍ずつ([0.75-0.75]と表記)または0.5倍,1.0倍([0.5-1.0])とした。さし水1回の試料は,そのタイミングを沸騰継続3,15,20分後とする条件も設け,飯の形状,色(L値,Browning Index)等の測定を行った。

    【結果】さし水2回[0.75-0.75]の試料は,粒の大きさおよび炊きあがり倍率が[0.5-1.0]に比べると有意に高く,さし水1回に比べても高い傾向が見られた。沸騰継続3分後のさし水添加試料は他のタイミングに比べて粒が最も小さく,10分後添加は大きくなった。15,20分後添加は他試料よりも飯粒のL値が高く,炊飯後半でのさし水添加は飯の色に影響を与えた。

    1)日本調理科学会2021年度大会,2)同2022年度大会

  • 石橋 ちなみ, 柳生 実祈, 吉田 有里, 清水 善弘, 佐古 圭弘, 叶内 宏明, 竹中 重雄
    セッションID: 1A-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】過熱水蒸気(Super-Heated Steam,以下,SHS)は,100℃で蒸発した飽和水蒸気を,常圧で100℃以上に加熱した無色透明の気体であり,食品では加熱調理・加工,殺菌等に用いられている。米の炊飯ではこれまでに,コンベア上の米にSHSを直接暴露し散水しながら炊飯すると,米飯は老化しにくく嗜好性が維持されるとの報告がある。本研究では,SHSによる炊飯の汎用性を高めることを目的に,日本で一般的な炊飯方法である,浸漬水中で米を炊き上げる方法にSHSを活用し,SHSで炊飯した米飯の物理特性を調べた。

    【方法】炊飯には過熱水蒸気調理器(エースシステム(株)),家庭用電気炊飯器(象印マホービン(株))を用い,加水量は精白米の1.5倍量とした。得られた炊飯米(以下,SHS炊飯,RC炊飯)は,4℃で最大72時間保存し,重量,水分量測定,官能評価,表面色測定,テクスチャー測定,走査電子顕微鏡観察を行った。

    【結果】炊飯米の重量から炊き上がり倍率を求めた結果,SHS炊飯では米の2.46倍,RC炊飯では米の2.26倍となり,水分量はRC炊飯よりもSHS炊飯で有意に高かった。官能評価では,24時間保存後は,RC炊飯よりもSHS炊飯で外観およびテクスチャーを考慮した総合的嗜好性が高いと評価された。表面色測定およびテクスチャー測定においても,官能評価と概ね一致した結果が得られ,SHS炊飯の最大荷重は,24,48,72時間保存いずれもRC炊飯よりも有意に低くなった。走査電子顕微鏡観察においては,SHS炊飯はRC炊飯よりも内部構造が多孔質であり,水が細かく分布していると推察された。以上より,SHSによって炊飯した米飯は,RCで炊飯した米飯と比べて保存を経ても嗜好性が維持されることが示された。

  • 池ヶ谷 篤
    セッションID: 1A-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】食パンは水分量が少ないことから唾液の分泌量が低下した高齢者等にとっては食塊形成が難しくなり,食べにくいことが予想される。食パンを食べる際にはジャムやバター,マーガリン等の油脂系スプレッドを同時に摂取することが多いため,これらの添加が食塊の物性に及ぼす影響を明らかにする。

    【方法】食パンのクラムを粉砕し,これに人工唾液と食パンに塗ることを想定した量のイチゴジャム,バター,マーガリン,高脂肪タイプと低脂肪タイプの2種のファットスプレッドを加えて乳鉢で練り,模擬食塊を調製してその物性を測定した。加えて,糖度と粘度が異なる9種類の模擬ジャムと,キャノーラ油と水を異なる比率で混合したエマルジョンを調製し,これらを添加して同様に模擬食塊を調製して物性を調査することで,ジャムおよび油脂系スプレッドが食塊の物性に影響を与える要因を探索した。

    【結果・考察】イチゴジャム,バター,マーガリン,2種のファットスプレッドのいずれも添加することで模擬食塊の硬さと付着性が有意に低下した。その効果についてはイチゴジャムと低脂肪のファットスプレッドが高かった。

    模擬食塊の硬さは低糖度かつある程度の粘性を有する模擬ジャムを加えた際に最も低下した。逆に効果が低いものは高糖度でペクチンを添加していない模擬ジャムであった。油と水のエマルジョンについては,いずれの比率においても添加することで模擬食塊の硬さは有意に低下した。また,油の比率が高まるにつれて付着性が低下する傾向がみられた。

    これらの結果から,ジャムや油脂系スプレッドに含まれる水分はパンの食塊の物性を嚥下に適したものとするが,水分と同時に油分を加えることで,より効果が高まることが示唆された。

  • 村井 尚子, 村上 紗希, 吉岡 泰淳, 三好 規之, 桑野 稔子, 吉村 美紀, 江口 智美
    セッションID: 1A-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】スポンジ状構造を持つ蒸しパンは,口腔内で唾液と混合されると付着性が増し,咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者にとって窒息の原因となりうる。静岡県特産品である自然薯のとろろは,べたつかずに喉ごしが良いため,蒸しパンに混合することで付着性増加を抑制できるのではないかと考えた。また,抗酸化・抗がん作用などを有する成分を含み,健康長寿を支える食生活への利活用が望まれる。そこで本研究では,自然薯を混合した蒸しパンの物性および咀嚼・嚥下特性から高齢者用食品としての適性を検討した。

    【方法】試料は,コントロールとして小麦粉と副材料を用いた蒸しパン(0%)と,0%の小麦粉重量に対して50%または100%の重量の自然薯を混合した蒸しパン(50%,100%)とし,各バッターの水分と炭水化物含量を統一した。試料の水分含量,比容積,テクスチャー特性を測定し,高齢者(10名,74.2±4.2歳)および若年者(10名,23.1±0.7歳)による咀嚼筋筋電位測定を行った。

    【結果】水分含量と比容積は,試料間に差異は認められなかった。テクスチャー特性では,0%より50%,100%で有意に硬く付着性が小さかった。筋電位測定では,世代と試料間の交互作用に有意差は認められず,世代間に有意差は認められなかった。試料間を比較すると,咀嚼回数や咀嚼に関わる筋活動時間は同程度だが,開口および嚥下に関わる筋活動時間と筋活動量は0%より50%,100%で有意に低値だった。また,咀嚼に関わる筋活動振幅は0%より50%,100%で有意に低値だった。自然薯のとろろを混合することで,若年者・高齢者の両世代において咀嚼・嚥下しやすい蒸しパンとなる可能性が示唆された。

  • 森田 亜紀, 大田原 美保
    セッションID: 1A-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】パンの焼成後の品質低下を抑制することは製パン業界にとって課題である。パンの老化に関する官能評価は,クラストとクラムの外観,触感,味,口中の感覚,風味の変化などで評価されるが,多様なベーカリー製品の老化を表すテクスチャー用語をまとめた研究はほとんどない。演者らはベーカリー製品の保存により総合的に食味低下した感じを老化感と定義して,老化感を表す食味要因のうちテクスチャーに着目した。本研究ではベーカリー製品の老化感評価の際に参照できる分析型パネルのためのテクスチャー用語体系を構築することを目的として,調査と解析を行った。

    【方法】調査は分析型パネル16名で実施した。ベーカリー製品9品目を提示し,保存後の品質に影響を及ぼすと思う食味要因(味,香り,テクスチャー)について10点満点で評価させた。日本語テクスチャー用語1)445語のうちパネルの2名以上が保存後のベーカリー製品のテクスチャーを表すと評価した用語(103語)を50音順に並べ,評価する際に用いる可能性のある用語に〇をつけさせた。

    【結果】保存後のベーカリー製品の食品要因を比較すると,味,香りよりもテクスチャーに対する得点が高かった。製品と用語の関係を解析したところ,保存後のテクスチャーは“乾燥”と“もろさ”の2成分に関する6つの特徴として表すことができた。食パン,菓子パンは乾燥の進行,フランスパンはかたさの増大,シート生地は水分の吸収,ドーナツや焼き菓子は油脂由来のテクスチャーの変化が特徴であると読み取れた。保存後のベーカリー製品9品目の代表的のテクスチャー用語は24語となり,官能評価の設定に利用できるテクスチャー用語のリストを得ることができた。

    1)早川ら,日本食品科学工学会誌, 52,337–346(2005)

  • 狐野 大誠, 石川 伸一
    セッションID: 1B-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】将来,宇宙での長期滞在を実現するにあたり,従来の宇宙食では不十分であり現地で調理することが重要になると考えられている。月面農場ワーキング検討報告書では,穀物や野菜の生産については検討されているものの,消費にあたる調理に関しては課題が残されたままである。そこで本研究では,地上と宇宙での大きな違いである「重力」が基礎的な調理現象に及ぼす影響について調べることを目的とした。

    【方法】重力変化はクリノスタットを用い,模擬的な微小重力(1/1000 G)および過重力(5 G)環境下での実験を行った。①うるち米,もち米,玄米を5℃・60分間浸漬し,乾燥させた。アルミ秤量法を用いて乾燥前後の水分含量から水分率を測定した。②冷凍パン生地を解凍後,30℃・18時間発酵させ,200℃・5分間焼成した。焼成後,菜種法を用いて密度の計測を行った。③牛乳に種菌を入れ攪拌し,40℃で4,8,および24時間発酵させた。各時間経過後時における,pHと糖度・酸度の計測を行った。

    【結果】①うるち米ともち米に関して,重力の違いによる水分率の差はみられなかった。玄米では1/1000Gで水分率が5 Gと比較して有意に低かった。②密度に関して,重力の違いによる差はみられなかった。③pHは時間経過に伴い,1/1000Gで1 Gや5 Gと比較して有意に高かった。糖度は8時間後の1/1000 Gにおいて1 Gや5 Gと比較して有意に高かったが,24時間後では差は見られなかった。酸度は時間経過に伴い,1/1000 Gで1 Gと5 Gと比較し有意に低い値であった。これらの結果から,重力変化が特に発酵食品に影響を及ぼす可能性が示唆された。今後重力が調理に及ぼすメカニズムなどの知見を蓄積することで,「宇宙調理学」の創成につながると考えられる。

  • 築舘 香澄, 鈴木 志歩, 柳内 志織, 内山 裕美子, 大森 正司
    セッションID: 1B-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】水出しの緑茶や紅茶は,湯を沸かす必要が無く簡単に作ることができるという理由から流行し,夏を中心に販売する茶メーカーが多くある。これまでに水出し緑茶に関する機能性や水質の違いによる呈味成分についての研究がなされている。しかしながら,水出し紅茶についての研究報告は見られない。そこで本研究では,マグネシウムとカルシウムに着目し,ナトリウムと共存した人工水を用いて水出し紅茶を浸出した際の水色への影響を明らかにすることを目的とした。

    【方法】試料にはダージリンを用いた。水は,マグネシウム量,カルシウム量に濃度勾配を付け,ナトリウムを共存させたマグネシウム人工水,塩化カルシウム人工水,炭酸カルシウム人工水を用いた。茶葉3 gに人工水 100 mlを加え,冷蔵庫で18時間浸出した後,茶こしを用いて濾別し試料溶液を得た。これについてpHメーター,分光光度計,色差計を用いて測定した。

    【結果・考察】マグネシウム量の増加に伴い,試料溶液のpH,a*値は低下,L*値は上昇し,水色は薄くなることが明らかとなった。塩化カルシウム量の増加は,pH,吸光度の低下や,L*値の上昇,b*値の低下に影響しており,濃度が高くなるほど水色が薄く明るくなる傾向が見られた。炭酸カルシウム量の増加は,吸光度の上昇,a*値の上昇に影響しており,ナトリウムが共存したことにより炭酸カルシウム人工水では水色が濃くなることが明らかとなった。これは,炭酸カルシウム量の増加に伴い,紅茶の色素であるテアフラビン類やテアルビジン類が多く浸出する可能性が示唆された。

  • 野崎 雪美, 高松 伸枝, 坂本 幸司, 梅木 美樹
    セッションID: 1B-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】大分県別府市には温泉噴気を利用した地獄蒸し釜と呼ばれる調理器具があり,その地獄蒸し釜で長時間蒸したたまごは,別府市内の観光・宿泊施設等で提供されている。この長時間蒸したたまごは,卵白の褐色化および燻製様のにおいが大きな特徴であり,嗜好性に深く関わっていると考えられる。そこで本研究では,長時間蒸したたまごの色およびにおい成分を詳細に解析することを目的とした。また,長時間蒸す過程における色およびにおい成分の変化についても検討した。

    【方法】試料には鶏卵(卵白)を用い,地獄蒸し釜は鉄輪温泉のものを使用した。まず,15分蒸しを対照とし,長時間蒸し(12時間)の色およびにおい成分を分析した。次に,2時間おきに12時間まで蒸した試料の経時変化について,各蒸し時間の色およびにおい成分を分析した。両実験において,色の分析は測色色差計,におい分析は,におい嗅ぎつきガスクロマトグラフ質量分析計を使用した。

    【結果・考察】色は15分蒸しに対し,12時間蒸しでL*値が有意に低値を示し,a*値およびb*値は有意に高値を示した。におい成分は12時間蒸しにのみ,チオフェン類およびピラジン類が主成分として検出された。経時変化では,色は8時間蒸しまでに褐色の進行が認められ,8時間蒸し以降は一定となり大きな変化は認められなかった。におい成分は,チオフェン類およびピラジン類が時間とともに増加した。以上の結果より,長時間蒸したたまごの色は,暗く,赤みおよび黄みの強い色へと変化することで褐色化することが明らかになった。また,燻製様のにおいは,硫黄様のにおいの特徴を有するチオフェン類および香ばしいにおいの特徴を有するピラジン類の生成に起因していることが考えられた。

  • 髙橋 雅子, 村松 芳多子, 阿部 雅子, 堀口 恵子, 綾部 園子
    セッションID: 1B-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】「くろこ」は,群馬県嬬恋村の伝統的な保存食品で,じゃがいもをすりおろしてデンプンを分離した際の搾りかすを,冬季に屋外で半年間保蔵した後,洗浄,乾燥させて製造する。製品は加水後加熱して食される。これまで経験的に製造され,製造過程における変化については不明な点が多い。本研究ではくろこの製造過程における量的変化を把握するとともに,くろこを用いた新しい調理品を開発して,その嗜好性について検討した。

    【方法】じゃがいもは,すりおろしてネットに入れ水中でもみ洗いし絞りかす(くろこの素,「素」)を得た。沈殿物は水替えを繰り返して,片栗粉(最下層)と一番くろこ(その上層)を分離した。嬬恋村で半年間保蔵した素を水中でもみ洗いして乾燥させ二番くろこを得た。各段階の質量を測定し原料いもからの歩留まりを推計した。さらに,二番くろこを使用したフランスパンとクッキーのレシピを開発し,5段階評点法で香り,硬さ,食感,味,総合的な好ましさを評価し,嗜好意欲尺度法で受容度を評価した。パネルは本学学生(男女)64名とした。

    【結果・考察】デンプン(片栗粉(乾物)),一番くろこ(乾物),素(生)の回収率はそれぞれ約10,1,35%であった。保蔵後の素から質量で約25%の二番くろこ(乾物)を得たが,保蔵期間に伴う素の水分減少を考慮すると,生じゃがいもから製造される二番くろこの歩留まりは約5%と推計された。調理品の官能評価では,クッキーの食感は無添加に対し有意に高く評価された。受容度は,フランスパンとクッキーのいずれもくろこ添加の有無による有意な差はなかった。以上より,くろこを小麦粉の10~30%程度置換した場合には,嗜好性の高い調理品となることが示唆された。

  • 石田 弘樹
    セッションID: 1B-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】から揚げを始めとした揚げ物料理は市場調査において常に好きな食べ物の上位に入っており,家庭内での出現頻度も非常に高い。一方で揚げ物調理時の不満点として,調理後のコンロ周りやキッチンの油汚れが挙げられ,後片付けの面倒さから,家庭内の揚げ物調理を敬遠する家庭もある。そこで,家庭内での家事負荷低減を目的に油ハネ抑制を軸とした機能油脂の研究を行った。

    【方法】水とのなじみが良い乳化剤を菜種油に溶解した油脂を用い,油ハネしやすい揚げ物(イカ天)の調理を行った。イカ天は冷凍イカを解凍後,縦横2~3 cm程度,厚さ1 cm程度の大きさのイカ10個を55 g±1 gに揃え,規定量の水で溶いた黄金の天ぷら粉(昭和産業社製)を付けた試料を用意した。フッ素樹脂加工フライパン(φ28 cm)に油脂(300 g or 600 g)を入れ,調理器の周りに紙を敷き,IH調理器(火力:7(強火))にて油脂温度が185℃に達した時点で試料を投入し,片面1分30秒ずつ加熱した。調理後の油ハネの面積及び油ハネ重量を測定した。なおコントロールは乳化剤無添加品の菜種油とした。

    【結果】油ハネ抑制評価を実施した結果,油量300 g同士にて比較した結果,油ハネ面積比較では48.1%低減,油ハネ重量比較では65.1%低減(重量)を確認した。油量600 g同士でも,同様の傾向であった(47.5%低減(面積),61.6%低減(重量))。 以上の結果から,油ハネ面積・重量共に水なじみの良い乳化剤を加えたことで油ハネを抑制できることを確認した。本効果は乳化剤を配合したことで試料中の水分(水滴)と油のなじみが良くなり(界面張力が低下したことで),小さい水滴の状態で油中に分散されるため,水滴から発生する水蒸気も小さくなり,油ハネを抑制したと推察された。

  • —6軸モーションセンサーの数値記録に基づく動作の再現—
    由良 亮, 萩原 勇人, 楠瀬 千春
    セッションID: 1B-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】私たちの研究チームでは包丁動作をモデルとして慣性センサーを利用した,操作記録の取得と解析を行なってきた。しかし,この操作記録は運動解析を妨げる信号が含まれる。

    一つは,包丁の動作特徴に由来する突発的なノイズ,もう一つが重力方向の加速度に由来するバイアスである。突発ノイズの原因は,切断対象物やまな板に刃が接触することによって起こる急減速である。この急減速は,一般的な包丁運動に由来する信号(<±1 g) に比べ非常に短く(0.10~0.025秒)大きい (> 8 g)ピーク信号として検出される。一方,重力ベクトルは多様に変化する包丁操作に伴い,方向が目まぐるしく変化する。そこで,元の記録からこれらの妨害信号を取り除くことで,包丁運動を仮想空間上に再現することを試みた。

    【方法】あらかじめ操作を固定した包丁操作データを用い,複数のデジタルフィルター(指数平滑・カルマン・メジアン・移動平均・ガウス)について設定パラメータを組み合わせた上で,妨害要因となる信号の除去を試みた。そこから姿勢・位置に関する情報を算出した。それを 3Dの包丁モデルに適用し,3Dアニメーション用フォーマットであるglTFファイルとして出力した。

    【結果】突発ノイズは,カルマンフィルタが有効に働き,角速度・加速度ともに除去することができた。また重力ベクトルに由来するバイアスは,前方200点(1秒間)のデータを用いたメジアンフィルタが有効に働いた。これを元に,角速度・加速度データを相補的に利用し,重力ベクトルを元に補正を行う相補フィルタを適用したところ,短時間ではあるが記録動作に近づけることができた。

  • 洲戸 歩, 白杉(片岡) 直子, 本多 佐知子, 祗園 景子, 増田 勇人, 大村 直人
    セッションID: 1B-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】茶道における抹茶の点て方やその仕上がりには,熟練者と非熟練者の間では明確な差がある。この差は熟練者が持つ,長年の経験や勘などから得た,簡単には言語化できない暗黙知によるものだと考えられる。本研究では,被験者のなかでも特に仕上がりの良い熟練者に焦点を当て,その熟練者に特有の撹拌動作を分析し,化学工学の視点から抹茶の撹拌に有効な動作の抽出を試みた。

    【方法】抹茶2 gを入れた内径10.5 cmの茶碗に80℃の湯70 mLを注ぎ,4名の熟練者に撹拌させた。その様子を正面から動画撮影し,Dipp-Motion V(DITECT社製Ver.1.2.6)を用いて,被験者に取り付けたマーカーの変位の時系列データを取得し,動作解析を行った。動作解析後のデータと,撮影した動画から抹茶撹拌に有効な動作を抽出した。撹拌後の抹茶表面の泡の細かさを仕上がりの1つの評価指標とし,茶碗の真上から撮った写真をImage J (ver.1.53o)を用いて表面の泡の部分をモノクロ二値化して,黒色で示される部分の面積を測定することで行った。

    【結果・考察】熟練者同士の動作解析データより,抹茶の仕上がりが良かった被験者Aは初期段階での1秒間あたりの撹拌回数が8 回程度であり,他の被験者の1秒間あたりの撹拌回数よりも多かった。この結果より,被験者Aは他の被験者と比較して抹茶の泡を細かく立てることができたと推測できる。また,被験者A以外のマーカーの変位の時系列データは,どの撹拌時刻においても一定の周期性をもつ波形を示したが,被験者Aは経時変化とともに複雑な波形を描いた。これは,抹茶の仕上がりに対して被験者Aが特異的な撹拌を行ったためであると考えられる。

  • —『元就公山口御下向之節饗応次第』に記された器を適応して—
    渡壁 奈央, 藤井 歌穂, 北尾 美樹, 宇田川 心優, 古田 歩, 鈴木 麻希, 杉山 寿美
    セッションID: 1C-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】我々は戦国期毛利氏と大内氏の饗応献立が記された『元就公山口御下向之節饗応次第』(1549年:以下『饗応次第』)に基づいて料理再現を行い,その献立構成を報告してきた。本研究は,戦国期毛利氏に関わる他の複数の饗応の料理を再現・比較検討し,その特徴を明らかとすることを目的とした。

    【方法】対象史料は,『饗応次第』と同様に,地方の武士の間で相互に行われた饗応『益田藤兼・同元祥安藝吉田一献手組注文』(1568年:毛利氏と益田氏),地方の武士が国の権力者をもてなした一方向の饗応『明応九年三月五日将軍御成雑掌注文』(1500年:大内氏から足利氏へ,以下『将軍御成』),および『輝元様聚楽御亭江秀吉公御成記』(1590年:毛利氏から豊臣氏へ,以下『秀吉公御成』)とした。これらの饗応献立の再現には『饗応次第』に記された器や膳を適応させた。

    【結果】饗応の膳部では,いずれも本膳には飯と菜7つ,二の膳以降には汁2つと菜5つ(あるいは3つ),汁1つと菜2つが配置されていた。『将軍御成』の三の膳では,左の汁の位置に“御わけの供御”が“御ゆ土器重”とともに供されていた。この配膳の形は『山内料理書』には記されていたが,他の饗応では認められなかった。献部では,いずれの饗応でも初献では“ざうに”が供され,二献以降は点心と御副物からなる献,菜3つからなる献から構成されていた。『将軍御成』の献数は25献と多く,点心として麦,まんぢう,5種の羹が供されていた。『将軍御成』,『秀吉公御成』のその他の献で供された菜は,『饗応次第』の菜と類似していた。以上より,戦国期毛利氏に関わる饗応にはその性質により,いくつかの違いがあるものの,規則性が維持されていたことが明らかとなった。

  • 石尾 梨紗, 宇田川 心優, 森久 瞳, 木村 留美, 杉山 寿美
    セッションID: 1C-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】我が国の食事は,飯,汁,菜で構成され,ユネスコ無形文化遺産に「和食」が2013年(平成25年)に登録された。我々はこれまでに『栄養と料理』に掲載された献立カレンダーの夕食献立に着目し,献立構成,料理の特徴について報告してきた。本報告では,平成中期(平成10~14年)と平成後期(平成24~28年)の夕食献立の献立構成,料理の特徴を比較し,献立構造の変化を検討した。

    【方法】平成中期の1,708献立,平成後期の夕食献立1,154献立について,献立構成および献立構成ごとの主食の種類,菜(副食)の主材料,料理様式等を比較した。

    【結果】平成後期の献立構成は一菜3%,二菜12%,三菜38%,一汁一菜5%,一汁二菜27%,一汁三菜13%であり,平成中期よりも一汁二菜(46%)が少なく,一汁三菜(7%)が多かった。平成後期の主食は白飯67%,味付き飯22%,パン6%,めん6%であり,中期より白飯(84%)が少なく,味付き飯(8%)が多かった。汁を含む献立は46%であり,中期の56%より少なかった。献立構成ごとで比較すると,平成後期は味付き飯を主食とする献立が,二菜47%,一汁一菜75%,一汁二菜23%,であり,平成中期(25%,50%,5%)よりも多かった。一方,一汁三菜では白飯を主食とする献立が中期(97%),後期(93%)ともに多かった。菜については,平成後期は野菜類を主材料とする菜(41%)が,平成中期(35%)よりも多く,1品目の菜では和え物・サラダ(12%)が平成中期(6%)よりも多かった。以上より,平成後期は平成中期と比較して,一汁三菜献立が多い一方で,白飯を主食とする献立,汁を含む献立が少なく,野菜を主材料とする菜を含む献立が多いことが示された。

  • 西田 毅, 山口 智, 吉田 志菜, 佐野 美佳, 井原 典子, 李 潤珠, 鈴木 徹, 塩澤 博直
    セッションID: 1C-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】明治維新による海外文化導入によりサラダが紹介された。溶媒抽出による植物油の産業化は20世紀初頭である。植物油が主原料のマヨネーズ以外にも入手できる素材で調理されたクリーム状のサラダ用調味料が存在した。1960年代以降の工場製マヨネーズやサラダの普及で姿を消したサラダ用調味料の特徴を探ることを目的とした。

    【方法】明治大正時代を中心に家庭料理用の料理書のレシピを調査した。レシピについて再現可能な方法で調理した。再現したサラダ用調味料の特徴を検討した。

    【結果】マヨネーズは,地中海発祥とされる。アメリカ南部発祥とされる小麦粉,卵黄,牛乳,バターなどを使用したホワイトソースタイプのボイルドドレッシング,イギリス発祥とされるゆで卵の卵黄,クリーム(乳製品)などを使用したサラダクリームなど料理書にはマヨネーズだけでなく数種類のサラダ用調味料が併記されていた。他にも卵黄の加熱による粘性付与などされ,クリームドレッシングやサラダドレッシングなどの名称も様々であった。オリーブオイルによるマヨネーズは,現在のものと異なり,油脂感が強く鶏料理や魚介料理に向き,野菜やポテトには,ボイルドドレッシングなどが向くとの記載が多く,再現した試食でも同じように感じた。昭和11年の「食物調理指導書 続」佐保会編には,マヨネーズ,ボイルドドレッシングの2種類のサラダ用調味料が記載され,家庭料理では,標準的に2種類の使い分けが想定される。産業化されたマヨネーズは,植物油脂の精製や乳化技術による粒子の安定化,油脂感の低減などから汎用的なサラダ用調味料として発展をとげた。地産地消,油脂の摂取の低減などの観点で多様なサラダ用調味料を見直す必要がある。

  • 森永 八江, 五島 淑子
    セッションID: 1C-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】山口県の郷土料理であるちしゃなますは,ちしゃを酢味噌で和えた料理である。このちしゃなますの年代別の認知度と材料について明らかにする。

    【方法】平成29年1~3月に山口県内の中学校23校へ保護者を対象としたアンケートを配布・回収し,統計ソフトSPSSを用いクロス集計し,χ2検定を行い分析した。

    【結果】回収率は73%であった。有効回答者数は1425人で有効回答率は62%であった。ちしゃなますを知っているは,20~30代42%,40~50代54%,60~80代88%であった(p<0.01)。家庭で作るは,順に14,21,63%であった(p<0.01)。ちしゃの種類は順にちしゃ25,33,46%,サニーレタス7,9,18%,その他7,7,12%であった(p<0.01)。ちしゃ以外の材料は順にチリメンジャコが19,24,38%で最も多く(p<0.05),次いでイリコ(煮干し)6,12,46%(p<0.01),ゴマ8,11,34%(p<0.01),その他11,10,14%,サバ12,8,16%,イカは3,5,6%で最も少なかった。調味料は順に砂糖36,45,72%(p<0.01),酢35,45,70%(p<0.01)はともに最も多く,次いで味噌22,38,62%(p<0.01),みりん14,18,44%(p<0.01),しょうゆ18,14,24%,酒11,12,20%,その他2,4,8%であった。味噌の種類は順にあわせみそが14,19,15%で最も多く,次いで麦みそ13,17,24%,種類にこだわらない4,18,15%,その他7,10,12%,米みそ1,7,18%であった。今後は,年代別の調理法の分析を行っていきたい。

  • 藤岡 華代, 渡部 佳美, 下岡 里英
    セッションID: 1C-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】学校給食において食文化の継承を目的として郷土料理が取り入れられているが,その提供頻度や提供する料理の選定は各学校や市町に委ねられており,実態に関する報告はほとんどみられない。そこで本研究では,広島県内の小学校給食における郷土料理の提供状況を把握することとした。

    【方法】令和3年度4月~3月に県内教育委員会および公立小学校のホームページに掲載されている家庭配付献立表72種類,483校分(97.1%)を解析対象とした。公的機関が発行した料理集を含む4文献に記載されている郷土料理45品の出現数を算出し,献立作成方式ならびに調理場方式による相違について分析を行った。併せて,令和4年11月に広島県内の教育委員会を通して,栄養教諭等の献立作成担当者にメールまたは文書で協力の依頼状を74件送付し,質問紙を用いて提供していない理由などを調査した。22市町中18市町から43件の回答が得られ,回収率は58.1%であった。

    【結果】選定した郷土料理45品のうち学校給食での出現数は29品であった。調理形態別では煮る11品,和える5品,炊き込み飯3品,揚げる3品の順に多かった。1献立あたりの郷土料理の平均出現品数は6品で,献立作成方式では独自献立に比べて統一献立が,調理場方式では共同調理場方式に比べて自校調理校方式が有意に多かった。喫食している児童の割合を算出したところ,「呉の肉じゃが」96.2%,「わけぎのぬた」87.2%,「もぶりごはん」83.8%の順に多かった。質問紙調査では,提供していない料理について,その主な理由として,「衛生上,提供が困難」が6品,次いで「作業工程が複雑である・提供時間に間に合わない」が5品,「広島県の郷土料理であることを知らなかった」が3品であった。

  • 伊藤 美穂, 名倉 秀子
    セッションID: 1C-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】学校給食は「生きた教材」として子どもたちの日々の食育に活用されている。これまでの我々の研究において,学校給食の「揚げ物」の主材料に魚介類が多く使用されていることが明らかとなっている。そこで,本研究では「魚介類」を使用した学校給食の献立を調査し,学校給食における魚介類の食され方を明らかにすることを目的とした。今回は,今後の大規模調査に向けた課題を抽出するための予備調査として,3地域のみの結果を報告する。

    【方法】2021年4月~2022年3月の学校給食献立を調査対象とした。献立表はインターネット上で掲載されているものを収集し,そのうち料理ごとの材料が詳細に記載されている3校の献立を分析対象とした。魚介類の使用頻度,種類,調理方法,料理様式などについて集計し,エクセル統計を用いて分析を行った。

    【結果】3校の総提供回数は566回であり,総料理数は2,692品であった。その中で,魚介類の使用頻度は11.8%(319品)であり,そのうち主食での使用が7.5%(24品),主菜が47.6%(152品),副菜が28.2%(90品),汁物が16.6%(53品)であった。主菜の調理方法は,揚げるが最も多く,次いで煮る,焼くの順であった。最も多く使用されていた魚介類の種類は魚肉練製品で,汁物や主菜に調理されていた。次いで,切身の魚類,ツナフレークの順に使用が多く,調理加工されていない切身の魚類は「さけ」や「さば」などであり,ほとんどが主菜であった。ツナフレークは,主食,主菜,副菜と様々な料理に使用されていた。これらの結果より,学校給食で食されている魚料理の傾向がみえ,子どもたちの食嗜好の把握に繋がると考えた。

  • 阿部 優子, 會田 久仁子, 中村 恵子
    セッションID: 1C-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】日本調理科学会「家庭料理研究」では,福島県内の郷土料理について調理担当者である主としてシニア世代を対象に聞き書き調査を実施したが,その他の世代の食べ方や考え方は不明であった。そこで,本研究では福島市に居住する若者から高齢者までの郷土料理の喫食実態等を調査し比較することで,郷土料理を伝え継ぐための課題を明らかにすることを目的とした。

    【方法】福島市内の高校生,小学生の子を持つ保護者およびシニア世代を対象に,無記名の自記式質問紙法およびGoogleフォーム(質問紙と同内容)でのアンケート調査を2021年5月~2022年9月に実施した。質問項目は,基本属性,福島県の代表的な郷土料理24品の認知度や喫食経験,調理可否等についてである。回答の得られた516名(回収率36.7%)について集計し,一元配置分散分析あるいはt検定を行った。

    【結果】福島県の郷土料理で最も認知度の高かった料理は県北地方の「いかにんじん」だった。「知っている」と認知した割合が50%以上を示した料理数は高校生で24品中6品,子育て世代は同17品,シニア世代は同20品であり,郷土料理の認知度,喫食頻度,調理可の値は世代が上がるにつれて高い割合を示した。「いかにんじん」「ひきないり」等は他地域の料理よりも認知度,喫食頻度,調理可の値は高く,特にシニア世代で顕著だった。調理できるとした回答した者は,「ひきないり」等を普段のおかずとして,「いかにんじん」等を正月やお盆等の季節の行事食として作っていた。また,調理できるが作らない者は,その理由を「作る手間が面倒」と捉えており,特に「ちまき」は今後の伝承が危惧された。郷土料理の伝承には,若い世代における認知度の向上と,調理工程の簡素化が課題と考えられた。

  • 福田 翼, 矢倉 陽平, 辰野 竜平, 古下 学
    セッションID: 1D-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】カツオ味噌は,江戸時代に確立された土佐須崎地方の醸造なめ味噌である。カツオ味噌は,カツオ生肉,大豆,麹および食塩を混合し,発酵して作られる。水産物を利用した醸造なめ味噌は,水産物,麹および食塩から製造される事が多く,大豆利用は珍しい。そこで,カツオ味噌における大豆および麹の添加効果を明らかとすることを目的とした。

    【方法】カツオ味噌の製造は,大日本産業事蹟を参考にして行った。カツオは,ハガツオ生肉を利用した。製造条件は,カツオ(以下,カツオ条件),カツオおよび大豆(以下,カツオ+大豆条件),カツオおよび麹(以下,カツオ+麹条件),カツオ,大豆および麹(以下,カツオ+大豆+麹条件)とした。

    【結果】カツオ+大豆+麹条件の細菌数および乳酸菌数は,発酵10日目に103~104 CFU/g程度まで増大し,以後は時間経過と供に減少した。発酵40日目におけるカツオ+大豆+麹条件の細菌数および乳酸菌数は,101~102 CFU/g程度であった。一方,カツオ条件,カツオ+大豆条件およびカツオ+麹条件の細菌数および乳酸菌数は,発酵期間中,いずれも102 CFU/g以下で推移していた。カツオ+麹条件およびカツオ+大豆+麹条件の酵母数は,発酵40日目以降,増大した。一方,カツオ条件およびカツオ+大豆条件の酵母数は,発酵期間中,検出限界以下であった。カツオ+麹条件およびカツオ+大豆+麹条件のpHは,カツオ条件およびカツオ+大豆条件よりも低く推移していた。TCA可溶性窒素量は,いずれの製造条件においても,時間経過と供に増加した。発酵40日目のTCA可溶性窒素量は,カツオ+麹条件,カツオ+大豆+麹条件,カツオ条件,カツオ+大豆条件の順に高かった。

  • 安藤 真美, 北尾 悟, 野原 綾, 平原 嘉親, 篠崎 洋平
    セッションID: 1D-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】生醤油は火入れを行っていないため鮮やかな色や穏やかな香りだけでなく,たんぱく質や澱粉分解系の酵素活性が残存する特徴がある。これまでの研究において,米や魚などの調理中における生醤油の食材への影響について検討し,生醤油に含まれる各種酵素による影響を報告した1, 2)。今回は,近年植物性たんぱく質供給源として注目度が上昇している大豆たんぱく質に対する生醤油の影響についてモデル実験を行い,新たな加工食品への生醤油活用の可能性を検討することを目的とした。

    【方法】醤油は,キッコーマン製こいくち生醤油を使用し,大豆たんぱく質は不二製油(株)より提供の粒状大豆たんぱく質および粉末状大豆たんぱく質を使用した。大豆たんぱく質0.1 gに対して0.1%,1%,10%濃度(v/v)の生醤油を加え,30℃で保温処理し,ローリー法によるペプチドを含むたんぱく質量,SDS-PAGEによるたんぱく質組成,ポストカラムを用いたHPLCによる遊離アミノ酸量,および遊離糖量を検討した。

    【結果】ペプチドを含むたんぱく質量,遊離アミノ酸量は,生醤油の濃度および反応時間に依存して増加した。たんぱく質組成の結果,生醤油の濃度および反応時間に依存して72 KDa付近のバンドがうすくなり,低分子である11-17 Kda付近に新たなバンドが認められた。生醤油に含まれるプロテアーゼにより大豆たんぱく質が分解され低分子化したと推察された。以上の結果から大豆たんぱく質に生醤油を用いた場合,新たな食感や各種分解産物による機能性を有する加工品ができる可能性が示唆された。

    1)安藤等,日本調理科学会誌,53(3),207-215,2020

    2)Ando et. al.Journal of Food Research,11(1),10-22,2022

  • 上杉 学也, 小玉 りほ, 林 和寛, 飯島 陽子
    セッションID: 1D-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】かつお節は,脂質として多価不飽和脂肪酸を多く含むため酸化されやすく,それに伴うオフフレーバーが生成する。近年食嗜好の変化により,必ずしもその酸化分解物の香りがオフフレーバーであるとは限らない可能性も考えられる。本研究では,かつお節粉の保存がかつおだしの風味に与える影響を調べることを目的とし,特に香気成分に着目して調べた。

    【方法】かつお節粉を3温度帯及び5保存期間で保存したものを試料とした。各試料からかつおだしを調製後,HS-SPME法で香気成分を抽出しGC-MS によって測定を行った。検出された成分ピークについて多変量解析により,かつお節粉の保存条件のかつおだし香気組成への関与について調べた。次に,7種の不飽和脂肪酸標準品について窒素充填袋内で0.4%-AIBN-アセトニトリル溶液系で脂肪酸酸化促進を行い,酸化前及び酸化後についてGC-MS分析を行った。

    【結果】かつおだしのGC-MSでは,保存1週間後では保存温度(24℃~44℃)が高くなるほど組成の違いがみられたが,保存2週間後以降では,保存温度帯関係なく保存0日と判別された。3温度帯(24℃,34℃,44℃)での経時的変化を見ると,24℃,34℃保存では0日~1か月の間で組成変化が見られたが,44℃保存では,保存1週間以降は差がないことが分かった。これらの組成変化の寄与成分は主に脂肪酸酸化由来成分と考えられ,かつお節粉の酸化がかつおだしの風味にも影響を与えることが分かった。次に,不飽和脂肪酸標準品の自動酸化では,増加した揮発性化合物は約50種が推定された。n-3系及びn-6系不飽和脂肪酸で生成成分は異なり,そのいくつかはかつおだしとも関係する成分であった。

  • 細内 安紀子, 鈴木 浩, 数野 千恵子
    セッションID: 1D-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】食用油脂が多く含まれる食品を長期間保管すると風味が悪くなり,さらに劣化が進むと不快臭や刺激臭を発する。食用油脂は,食品衛生法において酸価(AV)や過酸化物価(POV)などの規格基準が定められている。その中でPOVは油脂劣化の指標として定められており,滴定法による測定が示されている。しかし,滴定法は実験室内での試験を前提としているため,現場での測定方法としては適していない。そこで,POVを現場で簡単に測定できるPOV試験紙を試作し,市販の食用油脂に適用できるかを検討した。

    【方法】1) POV試験紙:公定法に準じた試薬を含ませた試験紙を作製し,スティック状のプラスチックに貼り付けた。2)試料油:市販のラード,ショートニング,オリーブオイル。3)試料油の調整方法:試料を加温し酸化させた。この油脂に新油を混ぜ,公定法で滴定を行いPOV 5,10,20および30に調整した。4)固形脂の操作方法:試料を加温して溶解し,これをPOV試験紙に塗布し3分間放置後,水をかけて発色させた。発色部分をあらかじめ作成した色見本と比較してPOV値を判定した。5)オリーブオイルの操作方法:オリーブオイルをPOV試験紙に塗布し3分間放置後,pH4の緩衝液をかけて発色させた。発色部分を色見本と比較してPOV値を判定した。

    【結果】試作したPOV試験紙を用いて市販の油脂に適用し,あらかじめ作製した色見本と比較することにより,POV 5~30が判定できた。市販の食用油への適用:POV 5,10,20および30に調整した3種類市販の食用油についてPOVを測定した結果,本法は公定法と同程度の値が得られた。これらのことから,市販のラード,ショートニング,オリーブオイルのPOV測定に適用できることがわかった。

  • 武政 誠
    セッションID: 1D-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】食品のおいしさは食品開発等産業上での重要性はもちろん,食育や高齢化社会におけるフレイル対策など,非常に重要である。物理的な味ともいわれる食感は,日本食においては6割超を占めるともいわれている。食品の種類はもちろん,調理法にも強く依存しておいしさ,さらには食感が変化し,商品価値他前述の波及効果が見込めるため,調理科学分野における食感の定量分析手法は重要である。一方,圧縮器具の形状や圧縮速度,また食品の形状など圧縮条件に,食感が大きく影響してされるため,圧縮試験機の結果は統一的に解釈することが困難である。本研究はこの問題を解決すべく,機械学習に基づいて,食感分析を実施する新しい方法を開発することを目的とした。

    【方法】従来の食感測定法である,食品圧縮試験機を利用して圧縮特性を得た。圧縮試験結果から特徴値を抽出するTexture profile analysis法がこれまで主流であるが,本研究では,圧縮荷重の掲示変化の生データ,例えば1,000ポイント/測定,を利用した。圧縮試験結果の全データをディープラーニングに基づいて「食感を学習」することにより,食感に基づいて食品や製造法,成分などの分類を試みた。

    【結果】数千,数万回の圧縮試験データを収集し,教師あり学習として,ディープラーニングを実施した。従来法のTPAに基づいた多変量解析では,判別不可能なわずかな食感の違いであっても,本手法を利用することで,食感に基づいて食品を判別することや,官能試験の結果を予測することに成功した。本技術を今後発展させることで,従来特に困難であった,機器分析結果とヒトの感性の間に,相関関係を見出し,両者のギャップを埋めることが可能になる,と期待される。

  • 島田 勇輝, 武政 誠
    セッションID: 1D-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】近年3Dプリンターは様々に活用されており,食品分野では自在な外見の造形や食感制御など,従来は困難であった食品加工が可能になると期待されている。しかし食品用3Dプリンターはシリンジからペースト状食材を吐出する方式を採っているため,軟らかい食品しか造形できなかった。また造形後に食品を加熱してかたくしようとすると,食品の変形により食感制御が困難になる課題があった。そのため本研究では,加熱時の変形を抑制可能な食品造形物を作成し,食感制御と加熱を両立する手法の開発を目的としている。

    【方法】加熱時に生じる水蒸気が変形の原因と考えられるため,水蒸気排出用の空隙を持つ食品造形物を3Dプリンターで造形した。空隙の大きさや配置が異なる構造で3Dプリントすることで,構造が水蒸気排出,さらには食感に及ぼす影響を検討した。食品造形物はエアフライヤーで加熱し食品圧縮試験を実施した。

    【結果】空隙を有する食品造形物は加熱後の変形が抑制され,圧縮加重を最大で約2倍増加させることが可能であった。また食品造形物の食感は,空隙の個数によって制御可能であった。具体的には,圧縮時に楔型プランジャーが食品中を通過する経路上に空隙を配置すると,空隙1つあたり圧縮荷重を約2 N増加させられることが分かった。

    本研究で,食品造形物の「加熱時の変形抑制」と「単一素材での食感制御」が可能になった。軟らかい食材しか利用できないフード3Dプリントでは制御可能な食感は限定的であり,印刷後に焼いた場合,食品の変形が意図しない食感変化をもたらす課題があった。しかし本研究により,歯応えのある食品印刷が実現可能となり,今後3Dプリンターを活用した食品造形,特に食感設計可能域拡大が期待される。

  • 下藤 悟, 甫木 嘉朗, 土居 睦卓, 加藤 麗奈, 森山 洋憲
    セッションID: 1D-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】清酒販売の課題に実際に飲酒しないと好みかどうかわからないことがある。もし分析値から好みの清酒を予測できれば,清酒販売の増加が期待できる。そこで本研究では清酒の好みについての総合評価を分析値からどの程度の精度で予測できるかを検証した。

    【方法】試料は高知県内で製造された清酒147品を用いた。清酒の主要な水溶性成分と香気成分13項目を分析した。官能評価は16名で行い,評価項目は総合評価と6つの特徴評価,評価方法は0から100までのLAM尺度とした。総合評価の予測はRのcaretパッケージでのPLS回帰分析,機械学習により行った。説明変数は特徴評価の結果また成分分析値とした。テストデータはランダムに抽出した14品とした。トレーニングデータは残りの133品とした場合と,12品をクラスター分析に基づいて抽出した場合を設定した。予測精度は平均絶対誤差(MAE)と自由度調整済み決定係数(adjR2)と,総合評価を良い,悪い,どちらでもないの3段階評価に変換したときの正答率で検証した。

    【結果】133品のデータから14品を予測した際の総合評価の予測精度の平均は,説明変数に特徴評価の結果を用いた場合はMAE:8.23,adjR2:0.67,成分分析値を用いた場合はMAE:9.37,adjR2:0.60であった。3段階評価での予測では,133品でモデリングした場合の正答率は平均79.0%であった。抽出した12品でモデリングした場合の正答率は平均71.4%であった。すべての商品を良いと予測した場合の正答率は平均62.3%であったことから,クラスター分析は予測精度の向上に寄与していると考えられる。

  • 嶋田 さおり, 久恒 まなみ, 西村 美津子
    セッションID: 1E-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】第4次食育推進基本計画における目標の1つに「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上ほぼ毎日食べている若い世代の割合を40%以上」にすることが挙げられている。本研究は若い世代の食生活の改善を目的として,食事バランスガイドを用いて女子大学生の食生活状況について調査した。

    【方法】中国地方の女子大学生62名を対象として,自記式質問紙法による食生活調査を実施した。調査時期は2021年6月で,調査内容は,基本的属性,食習慣,生活習慣,栄養や健康に関する知識であった。同時に,農林水産省の「食事バランスガイド」チェックシートによる休日を含む3日分の食事記録の提出を求めた。

    【結果】調査票の回答は56名,食事記録は62名から得られた。対象者の基本属性は,年齢19.1±0.3歳,BMIは20.1±1.8,自宅外生の割合は30%であった。主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上ほぼ毎日食べている割合は27%であった。サービング数の平均は,主食3.8±0.8,副菜3.7±1.5,主菜4.9±1.5,牛乳・乳製品0.9±0.6,果物0.6±0.6で,適量摂取できている者の割合は,主食8%,副菜16%,主菜40%,牛乳・乳製品6%,果物3%であった。主菜を除いて不足している者の割合は77~97%で,主菜は過剰の者の割合が50%であった。主菜のみ平日と休日のサービング数に有意差が認められ(p=0.002),平日よりも休日のサービング数が有意に低く,適量摂取できている割合が高かった。居住形態(自宅・自宅外)別では,自宅生の牛乳・乳製品のサービング数が有意に高かった(p=0.008)。

  • 駒田 聡子
    セッションID: 1E-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】食物アレルギーは命をつなぐために必要な食事をとることで,わずかな時間で命を落とす可能性がある疾患である。その罹患率が高い年齢の児を預かり施設で調理を行って提供している保育施設の職員の対応は,児の命を守る上で非常に重要となる。厚生労働省(以下厚労省)は『保育所におけるアレルギー対応ガイドライン』を示しているが,これまでの研究で保育者が調理品の原材料を知らず誤配するなど,ヒヤリハット事例が多くみられた。そこで厚労省のガイドラインに基づいた食物アレルギー児対応がどの程度浸透しているかを調査し,食の立場からの支援の視点を探ることを目的とした。

    【方法】2023年2月に兵庫で開催された保育士等キャリアアップ研修の講義後に厚労省のガイドラインに則した自身作成の食物アレルギー確認表を配布し,その対応実践の有無を調査した。回答数77名・回収率94%

    【結果】アレルギー対応委員会の設置は11.7%で,対応マニュアルを作成しいる園も44.2%と低値だった。その他,ヒヤリハット経験有りが70.1%と高い割合だった一方で,職員間でさまざまな情報を共有する態勢が整っていない,行政や医師など他職種との連携している割合も同じく低いなどまだまだガイドラインに示された事故防止のための支援が浸透していない実態があることがわかった。これらのことより保育施設における食物アレルギー支援には課題も多いことが指摘でき,その背景には食と医療,二つの分野にまたがる知識が必要であることが考えられる。食の立場からは,保育者に厚労省のガイドラインに示された内容の根拠(なぜそうすべきか)が伝わる,「給食提供に寄り添った支援方法」を提案する必要性があると感じた。

  • —孤食,共食,遠隔共食における気分と行動の変化—
    鎌田 那央子, 外岡 和菜, 石川 伸一
    セッションID: 1E-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】共食は,コミュニケーションや教育,文化継承,社会適応,娯楽といった社会的機能を持ち合わせている。共働き世帯の増加や新型コロナウィルス感染症拡大などにより,共食の機会が著しく減少している一方で,遠隔共食など新たな食事スタイルも広がりを見せている。既存の研究において共食に関して報告されているものは多いが,ヒトの心理面や食事動作の変化に焦点を当てた報告は少ない。本研究は,食事相手の在否が,ヒトの気分や食行動,コミュニケーションに与える影響を検討する。また,遠隔共食の機会が増加していることを踏まえ,食事環境の違いによる影響も比較分析する。

    【方法】実験にあたって,①一人で食事をする孤食条件,②二人で会話をしながら食事をする対面条件,③画面を介して遠隔で二人で会話をしながら食事をする遠隔条件の3条件を食事環境として設定した。被験者は,大学生および大学院生の計10名とした。食事内容は,3条件すべてで共通とし,カレーライス,水を提供した。食事に伴う気分状態については,日本語版POMS2全項目版成人用を用いて評価した。食事中は,3台のカメラを用いて撮影を行い,被験者の食事動作,視線行動,発話行動を観察した。解析には,注釈フリーソフトELANを使用し,各行動を定量的に調査した。

    【結果】気分状態について,孤食条件と比較して,対面条件ではネガティブな気分状態が改善したこと,遠隔条件では抑うつ-落ち込み状態が軽減したことが分かった。食事動作について,対面および遠隔条件では,孤食よりも食べ物を寄せ集めている途中で停止する時間が長く,また食べ物を口に運ぶもしくは口にした状態で停止する時間が長いことが示された。視線行動,発話行動については,解析中である。

  • 大西 弘太郎, 久保木 陽子, 菊池 節子, 源川 博久
    セッションID: 1E-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】家庭料理は,ありていに言えばおふくろの味に代表される素朴な料理群だが,さらに言えば地域色色濃い郷土料理を含む。日本では和食に加え洋食・中国料理など,家庭内で調理されるものを「家庭料理」とよぶ。世界的にみれば,やはり郷土料理に始まり,物流やメディアの発達にも伴って様々な近隣地域の食文化が混在する傾向もみられ,これらは食文化の内の最も大衆的な部分を占めている。家庭料理は,家庭内で調理して家族で食卓を囲む際に食されている。本研究では,「家庭内で調理する」,「家族で供する」という2つの点に着目して食材,調理,食す場面等について調査し,家庭料理の根源を同定し,それを規定する因子について解析を行ったので報告する。

    【方法】まんが日本昔ばなし(TBS系列のTVアニメ)の全1,474話を対象にして,それらの中に登場するすべての家庭料理を拾い出し,分類した。登場した料理の食材,調理,地域性や時代背景などについても考察を試みた。

    【結果】最も種類数が多かったのは魚介類であった。以下,穀類,野菜類となった。登場回数については,主食である米を含む穀類が最も多かった。以下,魚介類,嗜好飲料類,野菜類となった。昔ばなしには主食である米(特にご飯)を含む穀類が数多く登場すること,海に圏まれた島国であるため魚介類の登場回数も多いという特徴が認められた。昔ばなしでは,「さかな」,「いも」,「酒」などと,どういった種類のものをどのように調理したのか不明なものも多かった。今後は,世界各国の昔ばなし等との比較検討した上で,家庭料理成立を規定する因子の解析を進めていく予定である。

  • 上原 宏, 持橋 大地
    セッションID: 1E-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】レシピ共有サイトに記述される評価情報は,その料理の美味しさを反映しているが,その評価情報とレシピに記述される調理情報との関係性は明らかではない。本研究では,調理情報のうち素材情報を計算可能なベクトルで表現することにより,統計的手法を用いて評価情報と素材特徴との関連性を分析した。

    【方法】レシピ共有サイトの素材記述にもとづき,各レシピの特徴をベクトル化(以下,素材特徴ベクトル)したものを説明変数,評価情報を目的変数として,評価情報に対する素材特徴ベクトルの説明力をロジスティック回帰によって評価した。素材特徴ベクトルは以下の4種類の異なる方法で表現した。なお,下記3.4.は,香気化合物のデータベースから素材に該当するデータ(濃度および香り知覚閾値)を取得することでベクトル化している。

    1.2値化した素材特徴ベクトル:素材の有無を1.0で表したベクトル

    2.濃度による素材特徴ベクトル:素材の分量を濃度で表したベクトル

    3.香気化合物濃度による素材特徴ベクトル:含有香気化合物の濃度で表したベクトル

    4. Odor Activity Value(OAV) ベクトル:上記3.のベクトル要素を,香気化合物毎の香り知覚閾値にもとづきOAVに変換したベクトル

    【結果】クックパッドレシピ約700件を対象に,ツクレポ数が1のレシピと10以上のレシピについて,上記4種類の素材特徴ベクトルで判別を試みた。ツクレポ数10以上のデータ割合は約20%程度であり,これを判別する精度に着目した。その結果,素材そのものによる素材特徴ベクトル(上記1.2.)の判別精度に対して,含有香気化合物にもとづく素材特徴ベクトル(上記4.)の判別精度を上回る結果となり,OAVの特徴ベクトルが料理の美味しさを最も説明づける結果となった。

  • —クックパッドの和風パスタの場合— 
    福留 奈美, 伊尾木 将之, 上原 宏
    セッションID: 1E-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】外国からの食品・料理が伝来し受容されるプロセスにおいて,現地の人々の好みに合わせたアレンジが加えられ,現地で入手可能な食材・調味料等を使用した現地化されたアレンジ料理として受け入れられることが多いと考えられる。本研究は,イタリア料理の代表的な食材であるパスタを使ったパスタ料理に着目し,和風パスタと呼ばれる料理に使われる代表的な食材・調味料と典型的なそれらの組合せを明らかにすることを目的とする。

    【方法】380万件以上のレシピ登録数があるレシピサイト「クックパッド」において,検索語「和風」「パスタ」とその類語で検索・抽出した約17,000件について分析した。投稿レシピで使用される食材・調味料名は多岐にわたり,クックパッド内での表記統一に加え,表記ゆれをなくすように統一表記名に修正後,頻度の集計,およびデータサイエンスの手法を用いて食材・調味料等の共起ネットワークを生成し,食材・調味料の使用傾向と組合せをとらえた。

    【結果】和風パスタ料理によく使われる調味料はしょうゆ,オリーブ油,バター,こしょう,塩,めんつゆ等の順に,食材はパスタ以外では,タマネギ,シメジ,ベーコン,大葉,ツナ,唐辛子等の順に多かった。調味料・だしの使用傾向として,しょうゆとだし類の組合せ以外にめんつゆを単体で使う例も多くみられた。出現頻度の高かったツナ以外に,和風パスタの料理名によく使われるタラコ,キノコ類等についてみてみると,これらの主な食材に対して,大葉や海苔等の特徴ある香りと色を添える副材料の組合せが特徴的にみられた。

  • 粟津 虹, 森 太郎, 久保 加織
    セッションID: 1E-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】食品ロスは,消費者個人の意識や行動と密接に関わる環境問題の1つである。本研究では,食品ロス削減に向けた具体的な知識および技術の習得につながる知見を得ることを目的とし,家庭におけるダイコンの冷凍保存の有用性を多面的に評価した。

    【方法】試料である青首大根は,滋賀大学教育学部内の農場で栽培し2021年1月と2月に収穫したものと同年10月と11月に大津市内で購入したものを供試した。ダイコンを直径4.5 cm,高さ1.5 cmの円柱型に成形し,ブランチングや氷漬けなど異なる方法で処理した後に家庭用冷凍庫で-20℃,24時間冷凍し,電磁調理器で煮加熱解凍したものを実験用試料とした。凍結あるいは加熱前後の重量変化や呈味成分,物性,調味液の浸透性ついての科学的評価と併せて,2021年10月から12月に滋賀大学教育学部の学生を対象に官能評価を実施し5段階評点法にて嗜好性評価を行った。

    【結果】ダイコンの冷凍保存による重量変化は少なく,加熱調理後に重量減少を示す傾向が見られた。呈味成分であるグアニル酸や糖,アスコルビン酸は冷凍後も保持される傾向にあり,冷凍保存による損失が少なかった。また,ダイコンを冷凍保存することで加熱調理後の調味液の浸透性が高まり,一定の力で圧縮した際に流出する水分量も多いことが明らかとなった(p<0.05)。官能評価では,食感やみずみずしさ,甘さをはじめとした基本的要素が冷凍保存後も総合的に保持されていた。これらのことから,ダイコンについて食品ロス削減に向けた家庭における冷凍保存の有用性が示唆された。

  • 新井 美彩, 小松 栞, 露久保 美夏
    セッションID: 2A-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】もち性大麦は水様性食物繊維のβ-グルカンに富んだ食品であり,調理性に関する研究が複数報告されているが,品種間差について調べた研究はあまりみられない。そこで品種の異なるもち性大麦(はねうまもち,もち絹香,フクミファイバー,キラリモチ,ダイシモチ)を添加したパンを調製し,製パン性にどのような差異が現れるかを明らかにすることを目的とした。

    【方法】小麦粉300 g,砂糖15 g,食塩6 g,スキムミルク6 g,インスタントドライイースト6 g,バター15 g,水204 gで調製したパンをコントロールとし,小麦粉の15%ををもち性大麦粉で置換したものをもち麦粉置換パンとした。全材料を混捏後,一次発酵(35℃,45分間),成型(7 cm角食パン型),二次発酵(35℃,35分間),焼成(190℃,18分間)を行いパンを調製した。測定項目は高さ,比容積,色,水分量,かたさ,凝集性とし,24及び48時間20℃で保存したパンについても測定した。焼成前の生地は発酵試験を行った。

    【結果】発酵試験の結果から,0.75時間経過時点でコントロールの増加率に対してもち麦粉置換パンは70~75%程度の膨化となっており,3時間経過までその傾向は変わらなかった。比容積はコントロールと比較してもち麦粉置換パンの値が低く,発酵時の状態とパンの比容積との関連性が示唆された。ダイシモチを用いたパンはクラムの明度が低く,原料由来の色の影響を受けることが明らかとなった。水分量は48時間保存によっていずれも低下した。フクミファイバーを用いた試料のかたさは,焼成当日及び保存中のかたさの増加割合が他の試料と比較して大きいことが示された。

  • 中塚 康雄
    セッションID: 2A-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】健康機能性に優れた水溶性食物繊維,β‐グルカンを小麦粉/大麦粉混合パン(以下,大麦パン)として摂取する場合,大麦配合率を高めていくと膨化性が低下するため,現状の大麦配合率の上限は20%に留まっている。大麦配合率を高めるために,膨化性阻害因子を明らかにし,膨化性改善方法を導き出すことを目的とした。

    【方法】最初に,パン用途に使用可能な市販大麦粉14種類の粒度分布を測定後,同一製パン条件で30 %配合大麦山型食パンを調製し膨化率を比較した。次に,この中から低食物繊維群として2品種,高食物繊維群として2品種を選び,大麦配合率10~50%の山型食パンを調製し,膨化率に及ぼす大麦粉の食物繊維組成や粒子径との相関性および粒子形態との関連性を検討した。配合材料は強力粉(大麦粉と合せて100%),砂糖8%,塩1.5%,液種酵母8%,加水率58~90%とし,直捏法でドウを調製した。最後に,酵素添加(ヘミセルラーゼ剤,150 ppm,30 ℃,1h保持,2倍量の加水前処理)を試みた。

    【結果】大麦パンの膨化性阻害因子は,食物繊維に起因した胚乳細胞壁が粉砕しきれずに残った細胞壁破片と考えられた。細胞壁破片は粒度分布測定結果から50 µm以上の粗大粒子と50 µm未満の微小粒子に層別された。高食物繊維群の大麦品種は平均粒子径,粗大粒子比率ともに大きく,酵素添加後の膨化率改善効果は5%に留まった。特に不溶性食物繊維の多い品種では酵素添加効果が小さかった。低食物繊維群では,10%の膨化率改善効果が得られ,現状の大麦配合比率の上限を20%から30%に引き上げることが可能となった。現在,酵素添加による食物繊維低分子化への影響について検討している。

  • 齋藤 公美子, 榛葉 美友, 佐多 綾花, 武智 多与理, 畠中 芳郎, 和泉 慶子, 新名 世実, 淺井 智子, 髙村 仁知
    セッションID: 2A-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】製パン工程において,ミキシングはグルテン形成に大きく関わるため,パン品質を左右する重要な工程である。しかし,グルテンを形成しないグルテンフリー(GF)パンの調製におけるミキシングは重要視されてこなかった。本研究では,GF米粉パンにおいて,加水温度,ミキシング時間,ミキシングアームの種類が生地特性および製パン特性に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。

    【方法】ミキシングは卓上ミキサーを用いて行い,ビーター,ホイッパーの2種類のミキシングアームを用いた。米粉パン試料は加水温度およびミキシング時間を変えて調製した。製パン特性評価として,比容積測定,テクスチャー測定,X線CT撮影を用いた断面観察を行った。また,生地特性評価として生地の粒度分布測定,動的粘弾性測定を行った。

    【結果】GF米粉パンの調製において,ミキシングアームは,ビーターよりもホイッパーを用いた方が比容積の大きい,やわらかいパンを得ることができた。加水温度5℃で調製したパンは,ミキシング時間が長いほど比容積が増加したが,60℃ではホイッパー・15分のミキシングで比容積が最大となり,ミキシング時間が短くても安定して比容積が大きかった。生地特性については,ミキシング時間が長いほど粒度分布は小さくなり,ホイッパー・60℃・15分の条件で,周波数に依存しない安定した挙動とtanδの高値が確認された。以上の結果から,ミキシングは生地の粘弾性やデンプン構造への影響を通じて,GF米粉パンの最終的な品質に影響を及ぼすことが示唆された。さらに,高温水を用いて調製することでミキシング時間が短縮され,高品質のパンを得られる可能性が示された。

  • 佐藤 公俊
    セッションID: 2A-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】パンの材質に含まれるたんぱく質,アミノ酸,還元糖は,生地を高温に熱する過程において160℃辺りでアミノ-カルボニル反応(メイラード反応)により褐色に変色が始まる。これが食パンにおける耳となる部分であるが,サンドウィッチに用いられる場合は,硬い食感と見た目の色づきが理由で,この耳の個所を切除して白い柔らかい部分だけを用いることが大半である。それに対して,耳の除去の必要のない「表面が白いパン」をあらかじめ作成できれば,食品廃棄低減に大いに貢献できるはずである。ただし,パンの焼成工程においてパンの表面を白いままに維持するためには,加熱雰囲気ならびにパン生地表面を上述のアミノ-カルボニル反応が起こらない温度以下に保つ必要が有る。ただし,従来的なオーブンでは高温雰囲気の温度を下げざるを得ず,焼成時間を長くとる必要がある。

    【方法】通常パン生地を入れる金属製容器の代わりに透明ガラス製容器を用いて,外部赤外線ヒータからガラスを透過してパン生地を赤外線加熱し,同時にガラス容器外部から冷気を吹き付けて冷却することで,パン生地最表面の温度を下げるという事で目的の状態を実現させる。具体的な実験形態としては,熱源に発光波長が0.9~2 µmのハロゲンヒータを適用し,その波長のせき外線を十分に透過する素材である硼珪酸ガラス製の容器にパン生地を入れ,焼成中はガラス容器を空冷しながら赤外線輻射加熱状態を維持する方法を取る。

    【結果】上記方法により実験を行い,パン生地内温度を90~100℃に昇温し所定の水分を蒸発させながら,焼成開始から完了まで約40分という通常の製パン工程と同等の時間で,パン生地表面をアミノ-カルボニル反応の発生しない温度に制御して,白色クラストパンを焼成することができた。

  • —時間栄養学の視点から,その生理作用を考える—
    古谷 彰子, 原田 昌博, 安藤 慎一, 平尾 和子, 柴田 重信, 井上 好文
    セッションID: 2A-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】全粒粉は血中コレステロールを正常化し,食後血糖値の上昇を抑え,満腹感を持続させる機能性をもっている。しかし,市場に出回る機能性を謳った全粒粉パンは,その置換量が少なく,嗜好性も悪いため,毎日摂取することが困難である。一方,夜遅くの食事や空腹が睡眠の質に影響を与えることもわかっています。そこで,本研究では全粒粉100%配合で,夜遅い夕食に適した嗜好性の高い全粒粉パンの開発を行うことを目的とし,さらにはその生理作用も検討する。

    【方法】以下の手順で実験を遂行する。1)市販の全粒粉パンをベースに,全粒粉パンらしさと美味しさを両立し,且つヒト試験に適した全粒粉100%パンを3種類開発する。2)全粒粉100%パン3種類の嗜好性について,官能評価を実施する。3)実際に遅い夕食として喫食してもらい,体内時計の乱れが起きるのかどうかを,強力粉100%パンと比較してヒト試験を行う(測定項目:血糖値,睡眠時脳波測定,深部体温計)。以上より,全粒粉100%パンが遅い夕食で食べてもよいかどうか,その有効性を評価検討する。なお,官能評価のパネル,ヒト試験の被験者は事前に同意を得た愛国学園短期大学教職員および学生(18~70歳)とする。

    【結果】全粒粉のパンは特に若い世代に受け入れづらい傾向があった。しかしながら焼くという調理を施すことで,全粒粉独特の酸味,苦味が軽減され,その嗜好性は大きく上昇することがわかった。また,夜食として喫食した場合,喫食なしと比較して,全粒粉パンの方が主観的睡眠評価(眠りの深さ)が高い傾向があった。全粒粉パンは,食後の高血糖も抑えられていることから良質な睡眠につながったのではないかと示唆され,Late Night Bread としての可能性が期待される。

  • 森下 雄太, 青田 毬奈, 岡 宏羽, 長山 利香, 原田 彩菜, 綾部 園子, 村松 芳多子
    セッションID: 2A-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】桑の葉は,抗酸化作用や血糖上昇抑制作用など様々な機能性が報告されており,近年では機能性表示食品として利用されている。本研究では,桑の葉のさらなる利用機会を創出するために,手軽に摂取できるパウンドケーキに加え,その嗜好性および抗酸化能を評価した。

    【方法】パウンドケーキは,小麦粉の一部を凍結乾燥した桑の葉20%または抹茶10%で置換した試料(桑の葉,抹茶)と無添加の試料(無添加)を調製した。ポリフェノール量は,Folin-Ciocalteu法を用い,没食子酸相当量で評価した。抗酸化能はDPPHラジカル消去法を用い,Trolox相当量で評価した。官能評価は本学健康栄養学科に所属する3年生(37名)をパネルに実施した。無添加ケーキを基準試料(0)とし,官能評価票を用いて試料の見た目,色,香り,味,テクスチャーの各特性の強さおよび総合評価を7段階評点法により行い,総合評価の理由は,計量テキスト分析を行った。

    【結果・考察】桑の葉のポリフェノール量および抗酸化能は,それぞれ780.5 µg GAE/g,2.7 µg TE/gを示し,パウンドケーキでは桑の葉の添加量に依存して増加した。官能評価の結果,桑の葉は抹茶よりも有意に「焼き色」が濃く,「後味の良さ」がよいと評価された。「見た目」と「甘味の強さ」,「苦味の強さ」,「しっとり感」では有意な差は認められず,同程度であった。「総合評価」では桑の葉は抹茶よりも高く,無添加よりも有意に高評価であった。総合評価の理由の共起ネットワーク分析の結果,桑の葉ではパサつき,抹茶ではしっとり感が頻出した。以上のことから,桑の葉や抹茶を添加すると嗜好性が向上し,特に桑の葉は抹茶よりも嗜好性が高く,機能性成分の摂取に寄与する加工品を調製できると考えられた。

  • 西野 真弥, 野田 響子, 石橋 美咲, 宇野 雄一, 新田 陽子
    セッションID: 2B-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】口腔アレルギー症候群(OAS)は,生の果物が原因で発症することが多く,近年報告が増加している。医療現場では,OAS原因食物の加熱調理によりアレルギー症状が誘発されにくくなると知られており,その根拠としてアレルゲンの加熱による構造変化が考えられている。所属研究室では,イチゴアレルゲンの一種であるFra a 1の組換え体タンパク質rFra a1単独の立体構造について,加熱による変化を調べてきた。一方でイチゴ内では様々な低分子とアレルゲンが共存しており,Fra a 1はミリセチンなどのフラボノイドとの結合が報告されている。本研究では,rFra a 1の加熱による構造変化をフラボノイド存在下で調べることを目的とした。

    【方法】窒素原子を15Nに置換したrFra a 1を用意し,1H-15N HSQC NMRスペクトル測定に用いた。40,60,80℃の各温度で加熱し25℃に冷却したサンプルのスペクトルを得た。リガンド結合実験には,rFra a 1の等モル濃度のフラボノイドを添加し,同様に測定を行った。

    【結果】Fra a 1の異なるアイソフォームのうち,Fra a 1.01とFra a 1.02の組換えタンパク質rFra a 1.01とrFra a 1.02について検討した。rFra a 1.02では,60℃の加熱で構造変化に対応する1H-15N HSQCスペクトルの変化が見られたがrFra a 1.01では明確に変化しなかった。両タンパク質ともに室温でのフラボノイド添加によりスペクトルが変化し,リガンド結合に関わるアミノ酸残基が推定された。本発表ではフラボノイドを添加したイチゴアレルゲンの熱変性について報告する。

  • 杉浦 俊作, 大野 友也, 森下 美香
    セッションID: 2B-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】漬物は,生野菜と比べてグラム当たりの食物繊維含有量が高く,生野菜と同様に腸内環境への有益な効果が期待される。しかしながら,商業的な漬物,特に浅漬が腸内環境に及ぼす効果に関する研究はいまだ少ない。本研究では,各種浅漬の摂取による腸内環境の変化とその特徴を把握することを目的とした。

    【方法】白菜,キャベツ,みぶなを,食塩6%およびアミノ酸含有調味料3%を含む漬け液で1日漬け込むことで,各種浅漬を作製した。その後,浅漬または浅漬前の各種生野菜を凍結乾燥し,得られた凍乾物を被験試料とした。動物試験には,5週齢のラットを用いた。対照飼料と,これに作製した被験試料を5%添加した飼料を設け,14日間摂取させた。その後,HPLCを用いた盲腸内容物中の有機酸濃度の測定およびイルミナシーケンサーMiseqを用いた菌叢解析を実施した。

    【結果】盲腸内容物中の短鎖脂肪酸濃度は,各種野菜または浅漬摂取群で対照群と比較して,増加したものの,有意な差は観察されなかった。しかしながら,n-酪酸濃度は生キャベツまたはその浅漬摂取群で,対照群と比較して,有意に増加した。また盲腸内細菌叢を解析したところ,野菜またはそれら浅漬の摂取群で,盲腸内細菌叢の多様性が対照群と比べて増加することが観察され,特に漬け込むことで,盲腸内細菌叢の系統的多様性が有意に増加することが観察された。さらに,各浅漬摂取群で増加傾向のあった菌種と酪酸濃度との相関関係を解析したところ,白菜およびみぶな漬では,Lachnospiraceae科の菌種,またキャベツ漬ではClostridium科の菌種で有意な正の相関(p<0.05) を示し,キャベツ漬の酪酸濃度の増加は白菜およびみぶな漬とは異なる菌種が関与することが推測された。

  • 冨永 美穂子, 迫井 千晶, 山田 研, 秋元 真一郎, 来島 壮, 石川 伸一, 湯浅 正洋
    セッションID: 2B-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】料理人の技術の向上や料理の応用展開に役立つ理論を提供するために,おいしい料理を基点に熟練者と非熟練者の牛肉ベースのコンソメスープを試料に比較分析を行い,熟練度による完成品の違いを明らかにしている。本研究では,熟練度等の異なる料理専門学校所属者4名に規定条件の下,コンソメスープを調製してもらい,煮込み操作が風味にかかわる化学成分変化に及ぼす影響ならびに熟練者の完成度の判断基準を明らかにすることを目的に検討を試みた。

    【方法】調理経験25年以上の西洋料理担当教員2名(熟練者),各1名の学生および日本料理教員(非熟練者)に材料・切り方・開始重量および使用食塩量を規定し,市販の液体ブイヨンをベースに渾身のコンソメスープを調製してもらった。ブイヨンなどの食材を混合後,加熱開始前を0分とし,加熱30,60分,完成時に液体部分の試料を回収し,塩分,Brix,遊離アミノ酸類,核酸類,有機酸類,糖組成,味覚応答,香気成分などを分析比較した。

    【結果】 調製者にかかわらず,煮込み時間の経過に従い呈味成分がスープに蓄積されていき,味覚応答においては酸味や苦味雑味が低下し,旨味と塩味が増加した。それら呈味成分のほとんどは加熱60分までは緩やかに上昇していたが,最終的な煮つめ操作により濃縮され,調製者による濃縮度の差が顕著であった。香気成分の多くは加熱時間の経過により減少傾向にあり,熟練者間で共通の香気特性を示した。熟練者は調製終盤の煮つめ操作でスープが濃縮された旨味とコク味の強さと,暗褐色で黄色の強度が強いスープの色(外観)で完成度を判断していることが示唆された。

  • 栗谷 萌, 佐藤 瑶子
    セッションID: 2B-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】カボチャはアスコルビン酸オキシダーゼ活性が高いことが報告されており,ゆで加熱中には水中への溶出と酵素反応の両者がビタミンCの損失に影響すると考えられる。本研究では,ビタミンC損失過程のシミュレーションを行うことを目的に,両者の影響を評価した上で,溶出時の拡散係数を測定した。

    【方法】西洋カボチャを1 cm角に成型し,真空包装して95℃で5分間加熱した酵素失活試料と未処理試料を用いた。40~95℃で0~120分間加熱し,試料およびゆで水中のビタミンC含量(アスコルビン酸およびデヒドロアスコルビン酸)の変化を測定した(HPLCポストカラム法)。酵素失活試料の測定結果にフィッティングするように,溶出過程のシミュレーションに必要な拡散係数を,有限要素法ベースのシミュレーションソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを用いて算出した。さらに2 cm角の西洋カボチャ(未処理)を水温上昇速度2℃/minで加熱し,ビタミンC含量を測定して予測値と比較した。

    【結果】カボチャ中のビタミンC残存割合は,40℃では酵素失活試料のみ膜機能が低下していることで未処理よりもビタミンCが減少したものの,60℃以上では未処理と酵素失活で同程度であった。一方,ゆで水中は60℃浸漬の時のみ,未処理の方が有意に少なかった。よって,カボチャ中のビタミンC損失の原因は主にゆで水中への溶出であり,酵素の影響は水中で現れると考えられた。そこでカボチャからの溶出過程をシミュレーションするために,拡散係数を算出して温度依存性をアレニウスの式で表した。水から加熱する場合のビタミンC減少割合の変化の予測値は実測値とおおむね一致し,溶出過程の解析によりカボチャ中のビタミンC損失過程の予測が可能であることを確認した。

  • 井奥 加奈, 冨本 翔太, 岡田 紗弥
    セッションID: 2B-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】白ネギのおいしさには還元糖量が寄与しているといわれ,品種による甘みの相違に関する報告は多い。しかし,加熱時間による甘みの変化に関してはほとんど検討されていない。そこで,蒸し加熱による白ネギの含有成分量の変動と嗜好特性の関連について検討した。

    【方法】白ネギ(鳥取県産)の葉鞘部を3等分し,中央のみを長さ10 mmの輪切りにして試料とした。蒸し加熱は蒸し器を用い,1つずつ器に入れて調理した。還元糖量は,白ネギに含まれる還元糖量と,試料ネギを一軸圧縮した際に放出される還元糖量(リリース糖量)をソモギーネルソン法で定量した。テクスチャーの変化はクリープメーター(山電,RE-3305B)にて測定した。官能評価は2023年1月に大学生24名を対象として蒸し時間10分,20分,40分の白ネギ試料を提供し,甘み,におい,ジューシーさ,辛味,かたさ,とろとろ感についてVAS法による官能評価を行った。

    【結果・考察】蒸し加熱した白ネギ試料に含まれる還元糖量は調理時間に伴う増減がみられず,40分蒸し加熱しても調理後100 gあたり2.5 g前後であった。一方,リリース糖量は生鮮重量100 gあたり0.152 g(非加熱)から加熱時間の増加とともに有意に増加し,40分加熱で0.811 gになった。官能評価においては白ネギに対する嗜好が低い方が加熱時間に伴う甘味の増加傾向を示す傾向がみられた。

  • 玉木 有子, 朝倉 敬子, 佐々木 敏
    セッションID: 2B-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】日本人の食事摂取基準は実摂取量を想定したものである。そのため,摂取の際に調理が必要な食品については,調理損耗を考慮して栄養価計算が行われる必要がある。日本食品標準成分表は2015年版(7訂)以降,食品素材と調理後の分析値の蓄積がなされているが,調理過程は必ずしも実摂取状況と一致しておらず,栄養素によっては調理損耗の程度が大きい可能性がある。そこで本研究では,日本で食用とされる食品において,ビタミンCの残存率を報告した学術論文を収集・整理し,調理法(調理条件)の違いによる調理損耗の程度を検討することを目的とした。

    【方法】前報1)同様,2023年1月30日までに確認できた調理後のビタミンC残存率を整理した。ビタミンC残存率は,食品群別,食品群小分類別,あるいは食品群別+調理法別などでグループ化し,グループごとに残存率の最小値,25%値,中央値(50%値),75%値,最大値,および平均値を算出した。

    【結果】調理法,加熱媒体の有無などによってビタミンC残存率に影響が生じることが示唆された。ゆでる,ブランチングなどの調理を行うと残存率が低く,特にゆで汁を捨てる場合は残存率が低い傾向にあった。しかし,文献によって調理条件が異なったため調理法をグループ化できない食品群もあった。調理中の栄養素量の残存率一覧が整理,公表できると,実摂取量を考慮した栄養価計算に資することができる。そのためにも今後,日本食品標準成分表とともに調理条件をそろえた多くの分析データが蓄積されることが望まれる。

    1)玉木有子,朝倉敬子,佐々木敏:栄養素の調理損耗:ビタミンCに関する検討,日本食生活学会 第66回大会(口頭発表)要旨(2023.5.20)

  • 藤原 久子, 徳本 実咲, 古田 歩, 谷本 昌太
    セッションID: 2C-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】昨年度本大会おいて,塩麴がハマチ(普通肉・血合肉)における保存性および呈味成分に与える影響について遊離アミノ酸および核酸関連物質等の報告を行った。本発表では,遊離アミノ酸および核酸関連物質の定量値を用いた味覚活性値(TAV),相対うま味濃度(EUC),階層的クラスター分析(HCA)および主成分分析(PCA)による検討を行った。

    【方法】〔試料〕塩分濃度10%の塩麴を調製し,塩麴をハマチ切り身重量に対して10%用いて,1日および7日間貯蔵後加熱した。未処理試料および10%食塩水試料も同様に貯蔵後加熱した。〔遊離アミノ酸および核酸関連物質〕UPLC,HPLCにて測定した。〔TAVおよびEUC〕呈味成分値を各式に代入して算出した。〔HCA〕Metabo Analyst 5.0を用いた。〔PCA〕SIMCA16を用いた。

    【結果】〔TAV〕IMPは全部位,全処理条件および貯蔵期間で1以上を示した。Hisは背肉および腹肉の全処理条件および貯蔵期間,Gluは背肉および血合肉の貯蔵7日塩麴試料で1以上を示した。〔EUC〕全部位の10%食塩水試料および腹肉の塩麴試料において貯蔵期間の経過とともに有意に減少した(p<0.05)。一方で,背肉および血合肉の塩麴試料はEUCが維持された。〔HCA〕貯蔵7日塩麴試料(全部位)とその他試料に大きく2分された。その他試料はさらに背肉および腹肉の貯蔵0日および1日試料,血合肉試料,背肉および腹肉の貯蔵1日および7日試料に区分され,各クラスター間の呈味成分が特徴づけられた。〔PCA〕貯蔵7日塩麴試料(全部位)とその他試料は離れており,呈味成分の組成が異なった。HCAおよびPCAより,貯蔵7日の塩麴試料の特徴は,遊離アミノ酸の違いによることが示された。

  • 古田 歩, 大倉 蓮里, 谷本 昌太
    セッションID: 2C-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】加熱前貯蔵および加熱条件の組み合わせがマダイのテクスチャーおよび呈味成分変化に及ぼす影響について検討した。

    【方法】〔試料調製〕マダイを2cm厚に切り,氷中で1および14日間(1 dおよび14 d)貯蔵後,85℃90 secおよび63℃30 min(HTSTおよびLTLT)で加熱した。〔pHおよび水分含量〕pHメーターおよび常圧加熱乾燥法で測定した。〔テクスチャー解析およびサンプル厚〕テンシプレッサーで測定した。〔SDS-PAGE〕Laemmli法により行った。〔核酸関連物質(NRCs)および遊離アミノ酸(FAAs)〕HPLCおよびUPLCで測定した。〔相対うま味濃度(EUC)の算出および階層的クラスター解析〕NRCsおよびFAAsの分析値に基づいて行った。

    【結果・考察】〔pHおよび水分含量〕pHは変化せず,水分含量も貯蔵による変化は認められなかったものの,加熱条件間においては未加熱試料,LTLT,HTSTの順に低値であった。〔テクスチャー解析およびサンプル厚〕かたさとサンプル厚は,貯蔵日数と加熱条件の影響を受けており,特に加熱条件による影響が大きかった。〔SDS-PAGE〕試料間でバンド強度の変化はなかった。〔NRCs〕貯蔵日数と加熱条件の影響を受けていた。〔FAAs〕貯蔵日数と加熱条件いずれにおいても,一部有意差はないものの, 14 d貯蔵後に増加する傾向にあった。〔EUC〕一部有意差はないものの,14 d貯蔵後に高値となる傾向にあった。〔階層的クラスター解析〕貯蔵日数と加熱条件の影響を受けており,特に貯蔵日数による影響が大きかった。以上より,短期間貯蔵後の加熱によって,より嗜好性の高い加熱魚肉が調製できる可能性が示唆された。

  • 石田 千津恵, 島本 敏, 島本 整
    セッションID: 2C-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/09
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    【目的】1980年頃から,抗生物質の不適切使用等を背景とする新たな薬剤耐性菌の出現が,世界規模で問題となっている。薬剤耐性菌による食品汚染も報告されており,ワンヘルスでのアプローチが求められる。特に野菜や魚介類は,生で喫食する機会が多く,ヒトの体内で新たな薬剤耐性菌の誕生につながる恐れもある。このリスクを明らかにすることは食品衛生上極めて重要である。本研究では市販魚介類を対象に,薬剤耐性のグラム陰性細菌およびビブリオ属細菌の分布を調査した。

    【方法】市販魚介類50サンプルから各25 g採取し,APW(アルカリペプトン水)で処理後,一般生菌数測定,直接塗抹培養,増菌培養後に選択分離を行った。直接塗抹にはマッコンキー寒天培地とビブリオ属細菌の選択分離培地であるX-VP寒天培地を用い,それぞれアンピシリン100 µg/ml添加培地も用いた。増菌培養にはLB培地(適宜NaCl添加)と,アンピシリン100 µg/ml添加培地を用いた。選択分離にはマッコンキー寒天培地とX-VP寒天培地を用い,抗生物質はコリスチン(4 µg/ml),アンピシリン(100 µg/ml),セフォタキシム(4 µg/ml),メロペネム(4 µg/ml)を使用した。

    【結果・考察】市販魚介類に102~106 CFU/gの一般生菌が存在していた。直接塗抹培養により,アンピシリン耐性のグラム陰性細菌が44サンプルから,ビブリオ属細菌が7サンプルから検出された。選択分離より,ビブリオ属細菌は22サンプルから52株が,グラム陰性細菌は48サンプルから236株が分離された。今後,各菌株の生化学試験および耐性遺伝子解析を実施し,市販魚介類由来の薬剤耐性菌の解明に取り組む。

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