自律神経
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56 巻, 3 号
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第71 回日本自律神経学会総会
教育講演 3
  • 原 直人, 小野 里規子
    2019 年 56 巻 3 号 p. 89-92
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    老視は,加齢に伴う構造的,機能的な老化過程の一部としての調節力の減衰である.調節機能の理論を見直したところ,いずれの理論が正しいのか未だ結論は出ていないが,Helmholtz理論は最も広く受け入れられている理論であった.一方,老視の機序として最も重要な因子であるのは,水晶体嚢の硬化により調節作用が消失することである.近見反応の輻湊-調節間にはクロスリンクがあるため,加齢に伴って近見外斜位が増加するが,融像性輻湊は逆に強化していると考えられている.また近見縮瞳は,調節力の減衰を補うように更に縮瞳を強めて焦点深度を大きくすることでボケを補償している.老視の機序とこれに伴う近見反応の変化について考察した.

教育講演 5
  • 平井 利明, 黒岩 義之
    2019 年 56 巻 3 号 p. 93-108
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン関連神経免疫異常症候群は概日リズム・エネルギー代謝障害,4大症候(自律神経,情動,感覚,運動),接種から3.5–4年でADLが最悪となる自然史を特徴とする.ピルビン酸高値,LDH低値,尿酸高値,25水酸化ビタミンD低値,髄液NSE高値から免疫抑制,解糖系代謝障害,ビタミンD欠乏が示唆された.筋CTでサルコペニア,筋エコーで輝度異常,骨塩定量で骨粗鬆症,血管内皮機能検査で反応性充血指数低下,脈波伝播速度で平均血管抵抗増加を認めた.インスリン負荷試験の異常,コルチゾール低値と日内変動消失は視床下部障害を証拠付けた.髄液産生マーカーは正常であった.CVRRや起立試験から副交感神経系・交感神経系の異常が,αリズム異常から視床障害が,前部帯状回の脳血流低下から辺縁系障害が示唆された.人工的ウイルス様粒子が異物・免疫反応,血管内皮障害のトリガーとなり,視床下部症候群を引き起こすと考えた.

教育講演 6
  • 村上 友太, 齋藤 清, 高橋 浩一, 荒木 信夫, 橋本 康弘
    2019 年 56 巻 3 号 p. 109-117
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    鉄は脳に必須の栄養成分である.トランスフェリン(Tf)は鉄輸送体であり,大部分は肝臓で生合成されるが,脳内でも生合成される.髄液中にはTf糖鎖アイソフォームが2種類存在する.一つは,血清Tfと同一のα2,6シアル酸末端糖を持つ血清型Tfであり血液由来と考えられる.もう一方はN-アセチルグルコサミン末端糖鎖を持つ脳型Tfであり,髄液産生組織である脈絡叢由来であり,髄液産生マーカーと考えられる.事実,脳型Tfは髄液産生低下が想定される特発性正常圧水頭症で減少し,髄液産生亢進が想定される特発性低髄液圧症候群で増加していた.したがって,脳型Tfは髄液関連疾患のバイオマーカーになり得る.

シンポジウム 6
  • 水村 和枝
    2019 年 56 巻 3 号 p. 119-122
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    筋や筋膜の疼痛メカニズムを明らかにするため,筋・筋膜性疼痛症候群のモデルとして使われる遅発性筋痛(DOMS)を解析した.DOMSには従来考えられてきた筋損傷・炎症メカニズムは必須ではなかった.筋機械痛覚過敏を引き起こす経路には,運動中に産生されるブラジキニン様物質-B2ブラジキニン受容体-神経成長因子の経路と,COX-2-プロスタグランジン-グリア細胞由来神経栄養因子の経路の2つがある.両因子は筋細胞・筋衛星細胞によって産生され,筋細径線維受容器の機械感受性を高める.日常的に筋が行っている仕事の中に筋自身に神経栄養因子を産生させる要素があり,筋機械痛覚過敏を引き起こすことが示された.

  • 加藤 総夫, 杉村 弥恵, 高橋 由香里
    2019 年 56 巻 3 号 p. 123-127
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    痛みは「不快な感覚的かつ情動的な体験」である.侵害受容の直接的結果として生じる痛みや慢性痛として原傷害の治癒後に訴えられる痛みのいずれも「情動」に関与する脳部位群(扁桃体,側坐核,島皮質,帯状回,前頭前皮質など)の活性化をともなう.さまざまな情動に関わる扁桃体は,慢性痛が改善しない腰痛患者での自発痛に伴う活動亢進,および,慢性痛モデル動物での腕傍核-扁桃体路を介した活性化とシナプス増強を示す.扁桃体は「身体の状態をモニターし,それに応じて脳活動を制御し,感覚・行動・内環境を最適化するハブ」であり,それが「情動」の生物学的機能であるという仮説を提唱する.

  • 黒澤 美枝子, 徳永 亮太, 下重 里江
    2019 年 56 巻 3 号 p. 128-131
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    これまで我々は不安や恐怖の発生に関わる扁桃体中心核(CeA)のセロトニンに着目し,その放出が皮膚への侵害性機械的刺激によって増加することを麻酔下のラットで明らかにしてきた.本稿では,その増加反応に背側縫線核のコルチコトロピン放出因子(以下,CRF)が関わることを示した最近の我々の研究結果を紹介する.CeAセロトニン放出増加反応は非選択的CRF受容体遮断薬並びに選択的CRF2受容体遮断薬の背側縫線核内投与により完全に消失した.一方,選択的CRF1受容体の投与では影響を受けなかった.以上,CeAセロトニン放出は侵害性機械的刺激により背側縫線核内のCRF2受容体を介して増加すると考えられた.

  • 堀田 晴美, 飯村 佳織, 鈴木 はる江
    2019 年 56 巻 3 号 p. 132-137
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    甲状腺には,交感神経と副交感神経(上喉頭神経:SLN)の節後線維が分布するが,甲状腺から分泌される種々の代謝調節ホルモンの分泌にどのように寄与するか,よくわかっていなかった.最近我々は,麻酔ラットの甲状腺静脈血を採取しながら頸部交感神経幹やSLNを電気刺激する実験により,甲状腺からのホルモン分泌が,交感神経と副交感神経の遠心性線維によって拮抗的で迅速な調節を受けること,またSLN中の有髄求心性線維の興奮が甲状腺からのホルモン分泌促進反射をもたらす可能性を示唆する結果を得た.そして,その反射を誘発する自然刺激の一つが咽頭への機械的刺激であることを新たに見出した.

共催シンポジウム
  • 谷口 博志, 谷口 授, 伊佐治 景悠, 北小路 博司
    2019 年 56 巻 3 号 p. 139-145
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    本稿では,勃起障害(ED)に対する中髎穴(第3後仙骨孔周辺)への鍼刺激による有効性,作用機序に関する我々の知見について紹介する.臨床において,多種多様なED患者に対して中髎穴への刺鍼は26例中15例で改善することを確認し,PDE5阻害剤が無効な糖尿病性ED患者においても,一定の効果を示すことができている.作用機序について,我々は麻酔下ラットの陰茎海綿体内圧を勃起機能の指標として検討し,上位中枢を介した体性-自律神経反射により調節されていることがわかっている.仙骨部への鍼刺激は,勃起が関わる上位中枢からの遠心路全てを賦活し作用すると考えられ,PDE5阻害剤の無効例等に対しても,鍼治療は有効な治療法となる可能性がある.

  • 木村 研一
    2019 年 56 巻 3 号 p. 146-149
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    鍼灸治療は閉塞性動脈硬化症,レイノー病,肩こりや冷え症など末梢循環障害に起因する疾患や症状に効果がある.鍼灸治療により末梢循環が改善し,酸素,栄養物質の供給や発痛物質,疲労物質の除去が促進されるためと考えられている.末梢循環改善の作用機序については主に感覚神経終末からカルシトニン遺伝子関連ペプタイド(CGRP)やサブスタンスPなどの血管拡張物質によって局所の血管拡張が起こると考えられている.近年,一酸化窒素(NO)やアデノシンの関与についても示唆されている.さらに,局所の血管拡張への筋交感神経活動(MSNA)の関与についても検討を行ったが,鍼治療によるMSNAへの影響はみられず,MSNAの抑制による受動的な血管拡張の関与は少ないことが示唆された.

  • 砂川 正隆, 藤原 亜季, 池本 英志, 塚田 愛
    2019 年 56 巻 3 号 p. 150-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    鍼治療は,不安障害,抑うつ,双極性障害,睡眠障害などの精神的要因の関連する症状にも適応されている.オレキシンは視床下部で分泌される神経ペプチドで,種々の自律機能の調節に関与しているが,ストレス反応の制御にも関与している.我々は,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,精神的ストレスに対する円皮鍼の効果,ならび作用機序の検討としてオレキシンの関与を調べた.7日間の孤立ストレス負荷によって攻撃性,コルチコステロンの分泌が上昇し,またオレキシンの分泌も上昇した.しかしながら,百会穴への円皮鍼治療によっていずれの上昇も抑制された.円皮鍼はオレキシンの分泌抑制を介して,ストレス反応を抑制したと考えられる.

総説
  • 田村 直俊, 中里 良彦
    2019 年 56 巻 3 号 p. 155-161
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    Ludwig(1850)は副交感神経が唾液分泌を惹起することを発見した.Bernard(1858)が唾液腺の副交感神経性血管拡張線維を発見したが,Heidenhain(1872)は分泌線維と血管拡張線維は別の線維であると証明した.Heidenhain(1878),Langley(1878)が補助的な交感神経性唾液分泌線維を発見した.Eckhard(1869)が導管収縮線維(交感神経)を証明した.一方,Bernard(1862)らが記述した副交感神経切断後に生じる逆説的な唾液分泌(麻痺性分泌)については,Emmelinら(1950)が脱神経過敏で生じること,唾液腺の脱神経過敏は adrenaline・pilocarpineの双方に対して非特異的に生じることを解明した.唾液腺の複雑な自律神経支配を考慮すれば,同じく腺組織である汗腺の自律神経支配は過度に単純化されていると思われる.

  • 田村 直俊, 光藤 尚
    2019 年 56 巻 3 号 p. 162-169
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    脳脊髄液(CSF)減少症の原因は,潜在的な外傷によるCSF漏出と説明されているが.1970年代以前はCSF漏出の有無にかかわらず,CSFの産生低下によって生じると推定されていた.Hosemann(1909),Haug(1932)は腰椎穿刺後CSF減少症の原因として,現在でいう体位性頻脈症候群(PoTS)による代償性のCSF産生低下を考察した.Schaltenbrand(1938,40)は自然発生性CSF減少症におけるキサントクロミーの存在を強調し,CSFの蛋白量は血管周囲腔由来のCSFの方が脈絡叢由来のCSFより高値のため,本症の原因は脈絡叢のCSF産生低下であると主張した.Geller(1940)はCSF減少症患者の大多数が基礎疾患としてPoTSを有することを報告した.最近,CSF減少症とPoTSの共存が示唆されており(Grafら,2018),1970年代以前の研究を再評価する必要がある.

ミニレビュー
原著
  • 半田 直子, 下重 里江, 目黒 和子, 黒澤 美枝子
    2019 年 56 巻 3 号 p. 175-184
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/27
    ジャーナル フリー

    背部への軽擦または温熱刺激が心拍数におよぼす影響とその自律神経機序を若年健常女性で検討した.刺激は腹臥位にて①タオル上からの軽擦,②温タオル上からの軽擦,③タオルのみの静置の3種類をランダムに加えた.軽擦刺激では心拍数と心拍変動解析によるLF/HFとnormalized LF(LFnu)が減少し,副交感神経活動指標のnormalized HF(HFnu)が増加した.温+軽擦刺激ではそれらの効果が延長した.タオル静置でも同様の効果を認めたが,軽擦刺激に比べ効果の持続時間は短かった.刺激を加えずに継続して安静腹臥位を取らせた場合は,上述の変化は認められなかった(コントロール).リラクゼーション指標のスコアは刺激前後において軽擦刺激では有意に増加し,温+軽擦刺激ではさらに高いスコアを示した.以上,背部への触圧および温熱刺激により交感神経並びに副交感神経を介して心拍数が減少することが示唆され,その減少には一部精神的リラクゼーション効果が関わると考えられた.

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