閉経モデル(卵巣摘出ラット)と若年女性においてエストロゲン(E2)の末梢冷受容分子を介した体温調節作用を検討した.閉経モデルにおいて冷受容分子TRPA1,TRPM8作動薬のシナモアルデヒド,メントールを用いた研究でE2はTRPA1ではなくTRPM8を介し体温調節に影響した.若年女性においてメントールを用いた研究において血中E2濃度が高い排卵前期のみで寒冷刺激時の不快感が増した.閉経モデルにおいて冷受容分子TREK作動薬のオスタルチンを用いた研究で,TREK作動薬は熱放散を抑制し,体温を上昇させ,E2はその作用を強めた.E2は脊髄後根神経節のTrek1 mRNAを上昇させた.In vitro脊髄標本にTREK作動薬を投与すると,感覚神経の反射電位振幅が増大した.これらは末梢の冷受容を増大させる可能性がある.E2はTRPM8,TREK1を介し,女性の寒冷時体温調節に寄与する可能性がある.
呼吸,循環,体温,代謝調節に関与する自律神経は中枢から末梢への遠心路と末梢から中枢への求心路から構成されている.動物における自律神経活動を臓器毎に測定する為には,臓器に投射する神経活動を測定する電気生理学測定が古くから確立されて,有線電極や無線電極を使用して覚醒下ラットの交感神経活動が測定されている.我々の研究で,マウスを用いて麻酔下の手術により遠心性交感神経活動腎臓枝,動脈圧と心拍数を測定して,覚醒回復させたところ,覚醒下においても,動脈圧受容器反射が確認された.今後更なる改良を行い,覚醒下マウスで数週間から数か月間,安定した信号を得る方法の開発に向けた総説として寄稿する.
運動時には運動発現の意思によって大脳皮質から生じる神経活性(セントラルコマンド)が体性神経系を制御するだけでなく自律神経系も制御し,循環系を調節する.運動時循環機能調節における中枢制御の重要性は19世紀末にはすでに指摘されていたにも関わらず,そのメカニズムは現代に至るまで未解明である.本稿では,この課題の解決を目指した,各時代の先端技術(20世紀後半の脳機能計測技術や近年の光遺伝学など)を用いた研究とその成果について論じる.特に,筆者らが最近解析を進めている,歩行運動と循環反応を駆動する皮質下回路メカニズムに関する知見を重点的に議論する.また,このトピックにまつわる今後の課題についても考察する.
2017年,国際疼痛学会は,侵害受容や神経障害なく脳の可塑性により生じる痛み―「痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)」を提唱した.これは,原因が治療されれば痛みは緩和するとしてきた従来の常識を覆す概念である.一方,WHOは,器質的異常がなく3か月以上続く「一次性慢性痛」を新たな疾患としてICD-11で分類した.基礎研究では,損傷なしで痛覚過敏を示す動物モデルが開発され,中枢性鎮痛薬の評価に用いられている.慢性痛は情動系・自律神経制御系・内分泌系.運動制御系・覚醒系・そして記憶系を中心とする広範な脳領域を活性化し,そのハブ機構として,腕傍核や扁桃体中心核が主要な中枢として注目されている.痛みは単なる組織損傷の結果ではなく,個体の生存可能性を向上するために脳が生成するシグナルであり,ととらえなおす「脳中心的痛み観」を提唱したい.
ニューロモデュレーションには,外科的手法として脳深部刺激療法(DBS),脊髄刺激療法(SCS),一次運動野刺激療法(MCS)などがあり,非侵襲的手法として反復経頭蓋磁気刺激(rTMS),経頭蓋電気刺激,経頭蓋集束超音波刺激(TUS/tFUS)などがある.難治性疼痛に対するSCSは後索や後角を,DBSでは視床後腹側核と中脳水道周囲灰白質が主な標的とされる.一次運動野に対するrTMSは,MCSを非侵襲に実施する手法として導入され,無作為化比較試験が行われてきた.さらに近年では,腹側線条体・内包前脚,視床内側核,島皮質,前帯状回を標的としたDBSやrTMS,TUS/tFUSも試みられている.痛みの知覚に関する中枢神経系の機能局在や神経回路の理解の進展と,ニューロモデュレーション技術の発展により,新たな治療法の開発が期待される.
パーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)は,運動障害が前景に立つ神経変性疾患であるが,非運動症状も認め,とりわけ自律神経機能障害を含む全身性疾患である.異常なα -シヌクレイン凝集体は発症早期から延髄迷走神経背側核や嗅球に出現し,脳幹から中枢神経系へ上下行性に拡大することが示唆されており,運動症状出現前から末梢の自律神経変性が進行する可能性が指摘されている.本稿では,パーキンソン病における自律神経障害の意義と,これを可視化する手段として確立された123I–MIBG(Iodine-123 metaiodobenzylguanidine)心筋シンチグラフィの臨床的有用性について概説する.123I–MIBG心筋シンチグラフィは,心臓交感神経機能を定量的に評価可能な非侵襲的マーカーであり,PDの早期診断や非典型パーキンソニズムとの鑑別に有用である.
多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)は自律神経障害,パーキンソニズム,小脳失調を呈する進行性神経変性疾患である.Gerhardt症候群は声帯機能障害により生じる吸気性喘鳴で,MSAに高頻度にみられ,夜間の致死的気道閉塞や突然死に関与する.病態として従来,声帯内転筋ジストニアと声帯外転筋の神経原性萎縮が提唱されてきたが,近年は両者の共存が示唆されている.本稿ではGerhardt症候群の病理組織学的基盤と臨床的意義を最新知見から概説し,共存モデルに基づく病態理解が治療選択に重要であることを述べる.早期診断には家族からの病歴聴取と喉頭内視鏡が不可欠であり,治療方針は患者・家族との共有意思決定により最適化される.