2006年3月に本邦の急性中耳炎症例の起炎菌と薬剤感受性を考慮した『小児急性中耳炎診療ガイドライン』が提唱され,経口セフェム系抗菌薬であるCefditoren pivoxil(CDTR-PI,メイアクトMS®小児用細粒10%)が治療薬として推奨された。そこでガイドライン提唱後の使用実態下における適正使用情報を収集するため,CDTR-PIの小児急性中耳炎患者に対する特定使用成績調査を実施した。本調査では305医療機関から2,144例の調査票を収集し,安全性解析対象症例2,006例,有効性解析対象症例1,958例について検討を行った。
副作用発現率は1.79%(36例/2,006例)であり,未知または重篤な副作用は認められなかった。最も頻度が高かった副作用は下痢で,26件(1.30%)に認められたが,いずれもCDTR-PI投与中もしくは中止または終了後に回復または軽快していた。またCDTR-PIの投与量が,常用量(9mg/kg/day)の1.5〜2倍の高用量投与群で下痢の頻度が若干増加(2.70%)していたが,2倍以上の更に高用量群での発現率の増加は認められず(1.92%),また発現率そのものも高いものではなかった。
臨床効果の有効率は93.5%(1,831例/1,958例)であり,投与前の細菌学的検査で起炎菌が検出された832例1,217株での起炎菌別の有効率は,Streptococcus pneumoniae 89.7%,Haemophilus influenzae 90.3%,Moraxella catarrhalis 92.2%であった。また,投与後に菌の消長を判定した427例577株での起炎菌別の菌消失率は,S. pneumoniae 83.3%,H. influenzae 87.1%,M. catarrhalis 88.9%であった。主な耐性菌に対する有効率は,ペニシリン中等度耐性肺炎球菌(PISP)88.0%,ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)90.1%,𝛽-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)92.5%であり,菌消失率は,PISP 85.7%,PRSP 77.5%,BLNAR 81.8%であった。
さらに,用量と有効性の関係をより明確に説明出来る集団として,「鼓膜切開未実施」かつガイドラインの重症度判定スコアで8点と重きをおいている「鼓膜の膨隆8点または耳漏8点」である集団(457例)を特定した上で,本剤の用量と有効性の関係について検討を行ったところ,平均1日投与量「13.5 mg/kg以上」群の有効率は「13.5 mg/kg未満」群よりも有意に高い結果となった。
以上より,本剤は,小児急性中耳炎患者に対して,安全性および有効性ともに特筆すべき問題点は認められず,有用な薬剤であることが再確認された。
近年,𝛽-ラクタム系抗菌薬,マクロライド系抗菌薬などへの多剤耐性化が進み,臨床上の問題となっている肺炎球菌について,岐阜県下における疫学解析を行った。2006年5月から7月の間に,5医療圏12施設において,臨床材料から分離された345株を対象とし,penicillin binding protein(PBP)遺伝子変異の有無,マクロライド耐性遺伝子変異の有無,各種抗菌薬に対する薬剤感受性を微量液体希釈法により調査した。全体でpenicillin-susceptible Streptococcus pneumoniae(gPSSP)7.2%,penicillin-intermediate S. pneumoniae(gPISP)53.5%,penicillin-resistant S. pneumoniae(gPRSP)39.4%であり,3歳以下の小児ではgPSSPは1株であった。また,二次・三次医療機関では,岐阜・中濃圏でgPRSPの分離率が55~60%と高く,東濃・飛騨圏では23~32%と低く,地域差が認められた。PBP遺伝子変異は,pbp2x 変異株が92.8%,pbp1a が52.5%,pbp2b が53.3%であった。マクロライド耐性遺伝子変異株は,mefA のみ保有は30%,ermB のみ50%,mefA およびermB 両方保有は8%であり,両方保有株は2002年と比較し4%から8%に増加傾向を示していた。Benzylpenicillin(PCG)のS. pneumoniae に対するminimum inhibitory concentration(MIC)分布は0.03𝜇g/mLと1𝜇g/mLの2峰性にピークが認められ,PCGのMICが1𝜇g/mLの株の89%はgPRSPであった。分離されたgPRSPのうち69%は,PCGのMIC値が0.25~1𝜇g/mLであった。ペニシリン耐性株検出割合における施設間差は2004年と比較し減少傾向にあった。その他抗菌薬の薬剤感受性は,経口セフェムではcefditoren(CDTR)が最も抗菌力が強かったが,MIC 1𝜇g/mL以上の株も認められたことは今後の動向に注意する必要がある。カルバペネム系薬ではpanipenemのMIC90 が0.125𝜇g/mLと極めて強い抗菌力を保っていた。マクロライド系薬では,clarithromycin,azithromycinの耐性率がそれぞれ85%,84%であった。ermB 保有株は,clindamycinに対して高度耐性を示した。キノロン系薬では,tosufloxacinのMIC90 が0.25𝜇g/mLと最も強い抗菌力を保っていた。LevofloxacinのMIC値32𝜇g/mL以上の耐性S. pneumoniae は,4株検出された。菌株集積期間中に,肺炎球菌の家族内伝播を来たした事例を経験し,家族内伝播が科学的に証明された。
Prulifloxacin[活性本体:ulifloxacin(UFX)]の適応菌種に対する抗菌活性の経年変化の有無を,隔年ごとに3回にわたり特定使用成績調査として実施した。被験菌は,第1回調査として2003年12月より2004年5月までに臨床材料より分離された19菌種534株,第2回調査として2005年12月より2006年5月までに分離された同19菌種805株と第3回調査として2007年12月より2008年5月に分離された同19菌種863株である。
調査期間にわたって,methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)およびEscherichia coliにおいてはlevofloxacin非感性株(MSSA, MIC≧2𝜇g/mL; E. coli, MIC≧4𝜇g/mL)の分離頻度が,それぞれ0%から11.8%,14.6%から20.8%に増加し,キノロン系薬に対する低感受性化が認められた。これらにおいてはUFXに対する感受性の低下が見られたが,UFXのE. coliに対する抗菌力は供試したキノロン系薬の中で最も強く,MIC90はlevofloxacinの1/2から1/4の値を示した。一方,Klebsiella pneumoniaeにおいてはキノロン系薬への感性化が認められ,UFXのMIC90は0.25𝜇g/mLから0.03𝜇g/mLに低下していた。また,Pseudomonas aeruginosaに対するUFXの抗菌力は試験に供したキノロン系薬の中で最も強く,本菌に対する感受性の変化も見られなかった。Streptococcus pneumoniaeにおいては,第3回調査でキノロン系薬に対する感受性が大きく低下した菌株の出現をみたが,UFXを含むいずれの薬剤のMIC90に変化はみられなかった。他の菌種については,調査時期に多少の感受性の変動は認められたものの,明らかな耐性化,感性化の傾向は認められなかった。腸管感染症の起炎菌であるSalmonella属菌,Shigella属菌に対してもUFXは良好な抗菌活性を示し,0.12𝜇g/mLで全ての菌株の発育を抑制していた。
ボリコナゾール(voriconazole; VRCZ)は,薬物代謝酵素CYP2C19やCYP3A4,CYP2C9で代謝されるが,日本人の約20%がCYP2C19欠損者(PM)とされており,PMの場合VRCZの血漿中濃度が上昇することが報告されている。また,有害事象として,重篤な肝障害,視覚障害などが現れることがあり,血中薬物モニタリング(TDM)対象薬剤になっている。今回,VRCZが投与された15症例に関して,血漿中濃度と有害事象の関連について検討をおこなうとともに,VRCZが投与されCYP2C19の遺伝子解析が実施可能であった3症例についても検討を行った。今回の結果から,VRCZ投与量とトラフ濃度の相関は弱かった。3症例とも添付文書に従った投与法であった。症例1では投与開始4日目の血漿中トラフ濃度は8.43𝜇g/mLと高値を示し,幻視・幻覚の有害事象が発現したが,PMではなかった。症例2では投与開始4日目,7日目の血漿中トラフ濃度はそれぞれ5.53𝜇g/mL,8.61𝜇g/mLと高値を示し,AST・ALTなどの肝機能指標が軽度上昇し,PMであった。症例3では投与開始5日目の血漿中トラフ濃度は3.2𝜇g/mL,12日目の血漿中トラフ濃度は3.25𝜇g/mLと変化は認められず,治療域内を維持し,PMではなかった。
今回の検討結果から,VRCZはCYP2C19の発現の有無に関係なく,体内動態が比較的不安定で,個人により大きな変動があることが示唆された。したがって,VRCZの投与にあたっては,頻回のTDMの実施が治療上有効性を高め,毒性を軽減させる上で重要であると考えられる。
免疫不全マウスExophiala dermatitidis全身感染モデルに対するリポソーム化amphotericin B(L-AMB)のin vivo抗真菌活性をamphotericin Bデオキシコール酸製剤(D-AMB)と比較することを本研究の目的とした。Cyclophosphamide投与により免疫不全状態を惹起させたddYマウスにE. dermatitidis IFM 4827株とIFM 53409株の各々の分生胞子を尾静脈内に接種した。L-AMBおよびD-AMBの各々の最大無影響量である10および1mg/kg)を最高用量とし,感染4時間後にL-AMB(0.3~10mg/kg)あるいはD-AMB(0.1~1mg/kg)を尾静脈内に単回投与した。感染14日後までの生存日数と最終生存率ならびに感染4日後の組織内菌数を指標に両薬剤の本菌に対するin vivo抗真菌活性を比較した。L-AMBでは両感染モデルにおいて1mg/kg以上の投与群でコントロール群に対する有意な延命効果が認められた。L-AMBの10mg/kg投与群の最終生存率はIFM 4827株感染モデルでは100%,IFM 53409株感染モデルでは75%とD-AMBの1mg/kg投与群の20~37.5%と比べて高値であった。また,E. dermatitidis IFM 4827株感染モデルにおいて,L-AMBの10mg/kg投与群の各種組織内菌数(血液,肺,肝,脾,腎)はコントロール群およびD-AMBの1mg/kg投与群と比べて有意に低値であった。以上の結果から,E. dermatitidisに対してL-AMBはin vivo抗真菌活性を示し,その活性は,最大無影響量の比較においてD-AMBよりも優れていることが示唆された。