2008年6月~2009年4月にかけて岐阜及び愛知県内の医療関連施設から分離された肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)377株の各種抗菌薬に対する感受性,ペニシリン結合蛋白質(penicillin-binding protein: PBP)遺伝子変異,マクロライド耐性遺伝子の有無及び血清型について検討した。また,2004年に分離されたS. pneumoniae 160株のサーベイランス結果と比較した。CLSI(M100-S17)基準を参考に,benzylpenicillin(PCG)のMICが0.05 ȝg/mL以下をペニシリン感性S. pneumoniae(penicillin-susceptible S. pneumoniae: PSSP),0.1~0.78μg/mLをペニシリン中等度耐性S. pneumoniae(penicillin-intermediate S. pneumoniae: PISP)及び1.56μg/mL以上をペニシリン耐性S. pneumoniae(penicillin- resistant S. pneumoniae: PRSP)とすると,PSSPは143株(38%),PISPは185株(49%),PRSPは49株(13%)であった。分離材料別では鼻腔及び咽頭由来株でPISP,PRSPの分離頻度が高く,地区別では中濃地区でPRSPの分離頻度が高かった。
PBP遺伝子に変異を有さないgPSSPは23株(6.1%),少なくとも1箇所に変異を有するgPISPは173株(46%),3箇所全てに変異を有するgPRSPは181株(48%)であった。また,マクロライド耐性遺伝子を有さない株は28株(7.4%),mefAのみを有する株は138株(37%),ermBのみを有する株は166株(44%),両方の遺伝子を有する株は45株(12%)であった。PBP遺伝子変異とマクロライド耐性遺伝子の両方を有する株は338株(90%)であった。血清型は,19型(92株;24%),23型(60株;16%),6型(56株;15%)の順に多く,PRSPでは19型及び6型で80%を占めた。
各種抗菌薬のMIC90は,imipenem, panipenem, garenoxacin; 0.1μg/mL, moxifloxacin; 0.2μg/mL, meropenem, tosufloxacin; 0.39μg/mL, amoxicillin, clavulanic acid/ amoxicillin, cefditoren, cefcapene; 0.78μg/mL, PCG, piperacillin, cefteram, levofloxacin; 1.56μg/mL, cefotiam, flomoxef, pazufloxacin; 3.13μg/mL, cefdinir; 6.25μg/mL, norfloxacin, minocycline; 12.5μg/mL, clarithromycin; >100μg/mLであり,いずれの薬剤も2004年の結果とほぼ同程度であった。
岐阜県及び愛知県下の医療施設において,2008年5月から9月にかけて分離された緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)334株の各種抗菌薬に対する感受性を測定した。β-ラクタム系抗菌薬の中ではmeropenem(MEPM)及びdoripenem(DRPM)のMIC50が0.5μg/mLであり最も低い値を示した。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)のブレイクポイントを用いた感受性率は,tazobactam/piperacillin(TAZ/PIPC)に対して93.1%であり最も高かった。キノロン系抗菌薬の中では,ciprofloxacin(CPFX)のMIC50が0.25μg/mLであり最も低く,次いでpazufloxacin(PZFX)の0.5μg/ mL,levofloxacin(LVFX)の1μg/mLであり,CPFXとLVFXに対する感受性率はそれぞれ76.0及び73.4%であった。アミノグリコシド系抗菌薬のamikacin(AMK)及びtobramycin(TOB)やポリペプチド系抗菌薬のcolistin(CL)に対する感受性率はそれぞれ98.2, 97.6, 96.4%であった。全334株中IMP-1型メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生株は1株検出され,AMK及びCLを除く抗菌薬に耐性を示した。喀痰及び尿から分離された株の各種抗菌薬に対する感受性を比較したところ,尿由来株では喀痰由来株より感受性が低下している傾向が認められ,CPFXにおいては30%以上の感受性率の低下が認められた。また,地域間においても感受性に差が認められたことから,今後も継続的な感受性サーベイランスを通して,抗菌薬に対する感受性や耐性菌の動向に注意を払っていく必要性がある。
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は,その高い病原性と薬剤耐性菌が大きな問題となっている。我々は,1999年から定期的に中部地域における肺炎球菌の疫学解析を行ってきた。今回は,2009年の疫学解析結果を報告する。
2009年に岐阜県および愛知県北部の21の医療施設において分離された肺炎球菌308株を対象とした。自己融解酵素のautolysinを作る遺伝子であるlyt-Aの存在がPCR(polymerase chain reaction)で確認された肺炎球菌のみを対象とし,pbp変異に基づいた薬剤耐性分類に加えて,マクロライド耐性遺伝子ermB遺伝子,mefA遺伝子の有無も調査した。血清型の解析は,型別用抗血清を用いた膨化試験により実施した。
肺炎球菌が分離された患者の年齢は平均23.4±30.1歳で,15歳以下の小児が66%であった。gPSSP(genotype penicillin-susceptible Streptococcus pneumoniae)が22株(7.1%),gPISP(genotype penicillin-intermediate S. pneumoniae)が131株(42.5%),gPRSP(genotype penicillin-resistant S. pneumoniae)が155株(50.3%)であった。mefAのみ保有が80株(26.0%),ermBのみ保有が153株(49.7%),mefAとermBの両方を保有している株が47株(15.3%)であった。経口薬の薬剤感受性は,tebipenem(TBPM)のMIC90が0.06 μg/mL,faropenemのMIC90が0.5 μg/mLの順に良好で,特にgPRSPではTBPMが最も高い抗菌力を示していた。静注薬の薬剤感受性はpanipenem,biapenemの抗菌力が優れていた。キノロン耐性株は10株(3.2%)分離され,65歳以上の高齢者では5例(7.9%),小児では3例(1.5%)を占めていた。分離された肺炎球菌の血清型は,19型62株(20.1%),6型60株(19.5%),23型44株(14.3%)の順であった。
肺炎球菌に関しては,薬剤感受性をはじめとする継続的な疫学解析が重要であり,今後は血清型と薬剤耐性の関係などについても調査する必要がある。
日本国内の16医療施設において,2008年に種々の臨床材料から分離された好気性グラム陽性球菌(25菌種属,1029株)および嫌気性菌(21菌種属,187株)について,微量液体希釈法又は寒天平板希釈法で注射用抗菌薬の抗菌力を調べた。Staphylococcus aureus の59.6%がmethicillin耐性S. aureus(MRSA),Staphylococcus epidermidis の81.2%がmethicillin耐性S. epidermidis(MRSE)であり,いずれも高い分離頻度を維持していた。MRSAおよびMRSEに対して良好な抗菌力を示したのは,vancomycin(VCM)とlinezolid(LZD)とquinupristin/dalfopristin(QPR/DPR)で,MIC90は2 μg/mL以下であった。Streptococcus pneumoniae をpenicillin結合蛋白の変異に基づいて分類したpenicillin低感受性S. pneumoniae(gPISP)とpenicillin耐性S. pneumoniae (gPRSP)を合わせたS. pneumoniae における割合は,92.0%であり,2000年からの調査以来もっとも高い値であった。gPISP,gPRSPに対してセフェム系抗菌薬のcefpiromeと全てのカルバペネム系抗菌薬,VCM,teicoplanin(TEIC),LZDとQPR/DPRが1 ȝg/mL以下のMIC90を示した。Enterococcus faecalis とEnterococcus faecium の全ての株に対するVCMとTEICのMIC90は,いずれも2 μg/mL以下であり,低感受性や耐性株は見られず,良好な抗菌力を示した。一方,LZDは,E. faecalis およびE. faecium において低感受性を示す株が各々15.9%,1.2%存在した。また,QPR/ DPRでは,E. faecium において低感受性または耐性を示す株が17.1%存在した。嫌気性菌のClostridium difficile に対し,VCMは強い抗菌力を維持しており,MICは全て1 μg/mL以下であった。Clostridiales目,Bacteroides属やPrevotella属に対して,カルバペネム系抗菌薬は良好な抗菌力を有していたが,B. fragilis において耐性株が1株検出され,2006年から継続して検出されていることから,今後の動向には注意する必要があると考えられた。
2008年に全国16医療施設において種々の臨床材料から分離された好気性グラム陰性菌22菌種,1145株に対する各種抗菌薬のMICを主に微量液体希釈法で測定し,抗菌力の比較検討を行った。Escherichia coli,Klebsiella pneumoniae,Klebsiella oxytoca,Proteus mirabilis,Proteus vulgaris におけるextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生株と考えられる株の分離頻度は,それぞれ3.8%,2.6%,6.8%,5.5%,1.8%であった。ESBL産生株の分離頻度を2006年の結果と比較すると,K. oxytoca では3.2%から6.8%に上昇し,P. mirabilis では18.8%から5.5%と大きく減少した。PCR法によりペニシリン結合蛋白質3(PBP3)に何らかの変異が確認されたHaemophilus influenzae の分離頻度は,2006年の67.7%から2008年は61.7%と2004年の58.7%と同程度になった。Pseudomonas aeruginosa に対する各抗菌薬の抗菌力は2006年と比較してほとんど変わっていなかったが,tobramycinが1 μg/mL,doripenemが4 μg/mLのMIC90を示した。主要な抗P. aeruginosa 薬の内,耐性菌分離率が,1992年から2008年までの間,10%以下を維持しているのは,doripenemだけであった。P. aeruginosa 以外のブドウ糖非醗酵グラム陰性桿菌においては,ほとんどの抗菌薬の抗菌力は2006年分離株の感受性測定結果と比較して大きな変化は起こっていなかった。