岐阜県及び愛知県下の医療施設において,2007年から2011年にかけて分離された基質特異性拡張型𝛽-ラクタマーゼ(extended-spectrum 𝛽-lactamase: ESBL)産生株131株に対する各種抗菌薬の抗菌活性を測定した。今回評価した抗菌薬の中でmeropenem(MEPM)及びdoripenem(DRPM)のMIC50 並びにMIC90 が0.0313~0.125𝜇g/mLであり,最も低かった。Clinical and Laboratory Standards Instituteのブレイクポイントを用いた感性率は,MEPM, DRPM, imipenem(IPM),tazobactam/piperacillin(TAZ/PIPC)及びcefmetazole(CMZ)がそれぞれ98.5%,98.5%,94.7%,94.7%及び92.4%であり,良好な活性を示した。
ESBL産生株の遺伝子型別ではCTX-M-9型単独保有株が72株(55.0%)と最も多く分離され,これらに対するTAZ/PIPC, IPM, MEPM及びDRPMの感性率はいずれも100%であった。
以上のように本地域にて分離されたESBL産生株に対して,カルバペネム系抗菌薬に加えて,TAZ/PIPC及びCMZが良好な抗菌活性を示した。
2010年1月~2011年3月にかけて岐阜及び愛知県内の医療関連施設から分離された肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)258株のペニシリン結合蛋白質(penicillin binding protein: PBP)遺伝子変異,マクロライド耐性遺伝子の有無,血清型及び各種抗菌薬に対する感受性を調査し,2008年~2009年に分離されたS. pneumoniae 377株のサーベイランス結果と比較した。
2010年~2011年に分離された258株中,pbp遺伝子に変異を有さないgenotype penicillin-susceptible S. pneumoniae(gPSSP)は11株(4.3%),pbp1a,pbp2b,pbp2xの3つの遺伝子のうち,少なくとも1箇所に変異を有するgenotype penicillin intermediate S. pneumoniae(gPISP)は135株(52.3%),3箇所全てに変異を有するgenotype penicillin-resistant S. pneumoniae(gPRSP)は112株(43.4%)であり,2008年~2009年の結果と比較すると,gPRSPは僅かな減少傾向を示した。マクロライド耐性遺伝子を有さない株は17株(6.6%),mefAのみを有する株は65株(25.2%),ermBのみを有する株は143株(55.4%),両方の遺伝子を有する株は33株(12.8%)であった。高度耐性に寄与するermB保有株の分離頻度は2008年~2009年の結果と比較をすると経年的な増加傾向を示した。
小児における各血清型の分離頻度は19F型(18.2%),6A型及び15型(11.7%)が高く,7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)によるカバー率は43.8%であった。成人における分離頻度は型別不能であった17.9%を除くと,19F型(12.8%),6A型,3型,11型(10.3%)が高く,高齢者では,6B型(23.2%),3型(13.4%)が高かった。
各種抗菌薬のMIC90 は,garenoxacin; 0.0625𝜇g/mL, panipenem; 0.12𝜇g/mL, imipenem, doripenem, tosufloxacin; 0.25𝜇g/mL, cefditoren, meropenem, moxifloxacin; 0.5𝜇g/mL, amoxicillin, clavulanic acid/amoxicillin, cefteram, cefcapene, ceftriaxone; 1𝜇g/mL, benzylpenicillin, piperacillin, tazobactam/piperacillin, pazufloxacin, levofloxacin; 2𝜇g/mL, cefdinir, flomoxef; 4𝜇g/mL, minocycline; 16𝜇g/mL, clarithromycin, azithromycin; >64𝜇g/mLであり,いずれの薬剤のMIC90 も2008年~2009年の結果と同程度であった。
モキシフロキサシン(moxifloxacin: MFLX)はグラム陽性および陰性菌に加えて嫌気性菌に対する抗菌スペクトルを有するキノロン系抗菌薬である。これまでに,MFLXの医療・介護関連肺炎(Nursing and Healthcare-Associated Pneumonia: NHCAP)に対する有効性や安全性を前方視的に検討した報告はない。今回,肺炎の重症度分類(A-DROP分類)による重症度が軽症又は中等症のNHCAP症例に対するMFLXの有効性と安全性を検討した。MFLX 400 mgを1日1回連日経口投与し,投与後の臨床症状,炎症所見,胸部線写真所見などを総合的に評価し,MFLX投与終了時の臨床効果を判定した。結果として45例登録し,有効性安全性解析対象症例は40例(平均年齢は74.1歳)で,このうち65歳以上の高齢者は82.5%を占めた。MFLXの平均投与期間は7.1日で,有効率は87.5%であった。年齢別有効率は非高齢者85.7%,高齢者87.9%,重症度別有効率では軽症91.7%,中等症85.7%であった。MFLXと因果関係が否定できない有害事象は6例(肝機能障害3例,腎機能障害2例,下痢および乳房緊満感1例)であった。肝機能障害および腎機能障害はいずれも軽度でありMFLXは継続投与され,MFLXによる治療終了後速やかに改善した。下痢および乳房緊満感を認めた1例ではMFLXの投与を中止し,その後は軽快した。
A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)に対するsitafloxacin(STFX)の殺菌特性を明らかにする目的で,溶連菌臨床分離株を対象に薬剤感受性およびin vitro殺菌力を検討した。薬剤感受性測定には2010年の咽頭由来臨床分離株119株を対象に,STFX,garenoxacin(GRNX),levofloxacin(LVFX),clarithromycin(CAM),azithromycin(AZM),amoxicillin(AMPC),cefcapene(CFPN)およびminocycline(MINO)の合計8薬剤を使用した。殺菌力の評価にはマクロライド耐性1株,LVFX耐性1株および標準株1株を含む合計5株を対象に,STFX,GRNX,AMPCおよびCAMの4薬剤を使用し,健常成人の1回経口投与時の血中最高濃度(Cmax)を作用させた条件において,経時的な生菌数推移を検討した。
薬剤感受性は,MIC90の良好な順に,CFPN(MIC90, 0.015𝜇g/mL)>AMPC(0.03𝜇g/mL)>STFX(0.12𝜇g/mL)>GRNX(0.25𝜇g/mL)>LVFX(4𝜇g/mL)>MINO(16𝜇g/mL)であった。CAMおよびAZMのMIC90 は>32𝜇g/mLおよび>128𝜇g/mLであり,119株中72株(60.5%)においてマクロライド耐性菌が確認された。殺菌力を検討した結果,STFXは供試薬剤中で最も低い作用濃度にもかかわらず,最も強い短時間殺菌力を示し,薬剤作用後2時間以内にLVFX耐性菌を含むすべての菌株の生菌数を3log以上減少させた。GRNXも殺菌的な抗菌作用を示したが,菌数を3log以上減少させるために2~6時間を要した。AMPCはキノロン系抗菌薬に比べて殺菌力は弱く,生菌数検出限界に達した1株を除く他4株において薬剤作用6時間までに3log以上の菌数減少は認められなかった。CAMは殺菌的な抗菌作用を示さず,CAM耐性菌の増殖を抑制しなかった。
以上の結果から,STFXは除菌が必要とされる溶連菌感染症において,有用な治療選択肢となる可能性が示唆された。