新しい物質,新しい方法,新しい概念。私が長年にわたって探し求めてきたものである。時に,研究範囲が広すぎるという批判や忠告を受けてきた私にとって,微生物や他の生物が生産する生理活性物質という軸を持つことで,ともすれば散逸構造的な形態をとりがちな研究領域をなんとか纏める事ができるようになった。本総説では,主に住木・梅澤記念賞受賞後の研究に焦点をあて,生理活性物質に関する私自身の考え方を述べる事とする。
目的:インフルエンザの病院職員への感染は院内アウトブレイクや職員休職のため,診療への影響が大きい。感染予防対策として患者隔離,マスクの使用,手洗い,ワクチン接種が行われているが確実ではない。本研究の目的は職員に対する抗インフルエンザ薬(ラニナミビル)投与によるインフルエンザ発症予防効果を明らかにすることである。
対象:平成28年11月から職員に対してワクチン接種を行うとともに,平成29年1月より希望者にラニナミビルの予防投与を行った。希望によって20 mgと40 mgの投与を行った。職員におけるインフルエンザの発症数をラニナミビル予防投与の有無,さらにラニナミビル20 mg群40 mg群においてカイ二乗検定を用いて比較した。結果:123名中オセルタミビルが投与された4名を除外した119名において,ラニナミビルの予防投与は83名(20 mg群66名,40 mg群17名),非投与36名であった。ワクチン接種群118名中12例でインフルエンザを発症したのに対して非接種群5名中発症例はなかった。ラニナミビル予防投与群83名中発症例は4名(4.8%),非予防投与群36名中発症例は8名(22.2%)と予防群で発症は有意に少なかった(p=0.005)。一方,20 mg群66名中3名(4.5%),40 mg群17名中1名(5.8%)にインフルエンザの発症を認めたが,両群間に有意差は認めなかった(p=0.685)。予防投与群で発症した4名では2例は予防投与後数日以内に発症しており,すでに感染していたものと考えられる。もう2例は予防投与後3ヶ月後に発症しており,予防効果が消失していたと考えられる。
結論:ラニナミビル予防投与によって極めて高いインフルエンザ予防効果を認め,しかも20mg投与で充分である可能性が高い。
2015年4月から2016年3月の期間に中部地方の医療施設で分離された肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)138株の,ペニシリン結合蛋白質(penicillin-bindingprotein: pbp)遺伝子変異,マクロライド耐性遺伝子mefA及びermBの有無,莢膜血清型分布及び各種抗菌薬に対する感受性について調査し,過去のサーベイランス結果と比較検討した。
臨床分離されたS. pneumoniae138株のうち,pbp 遺伝子に変異を有しないgenotype penicillin-susceptible S. pneumoniae(gPSSP)は15株(10.9%),pbp1a, pbp2b, pbp2xの3種類の遺伝子のうち,1又は2つの遺伝子に変異を有するgenotype penicillin-intermediate S. pneumoniae(gPISP)は82株(59.4%),3つの遺伝子全てに変異を有するgenotype penicillin-resistant S. pneumoniae(gPRSP)は41株(29.7%)であった。また,mefA及びermBのいずれも保有しない株の分離頻度は2.9%(4/138株)であり,経年的な低下傾向が認められた。
小児(15歳以下)由来の61株において,13価肺炎球菌結合型ワクチン(13-valent pneumococcal conjugate vaccine, PCV13)に含まれる血清型のうち,3型(14/61株,23.0%)及び19A型(4/61株,6.6%)以外の血清型は分離されなかった。成人(16~64歳)及び高齢者(65歳以上)由来株においてもPCV13に含まれる血清型の分離頻度は低く,小児と同様の血清型分布を示し,小児のPCV13接種の普及による成人及び高齢者への間接効果が示唆された。PCV13及び23価多糖体ワクチンのいずれにも含まれない非ワクチン血清型では,35B型(13/138株,9.4%)が最も多く分離され,次いで15A型(10/138株,7.2%)が分離された。
Benzylpenicillinの90%最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC90)は2μg/mLであり,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の基準による感性率は96.4%と高い値を維持していた。ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系及びキノロン系薬のMIC90 は,前回調査した2011~2012年の結果と比較して明らかな変化は認められなかった。一方,カルバペネム系薬では2倍又は4倍の上昇が認められた。特に,gPRSPに対するmeropenemのMIC90は0.5μg/mLであり,感性率は26.8%と,2011~2012年の結果と比較して感性率の低下が認められた。
今回の検討では,小児の肺炎球菌ワクチン接種の普及が要因と考えられる血清型分布の変動や薬剤感受性の変化が認められた。今後も,薬剤耐性化の動向を把握するために,継続的なサーベイランスが重要であると考えられた。
The effectiveness of repeated vaccination of the quadrivalent influenza vaccine is currently unknown. This study aims to estimate current and repeated vaccination effectiveness (VE) of the quadrivalent influenza vaccine. A test-negative casecontrol study was performed during the 2017–2018 season. The participants were Japanese children divided into four groups (6–11 months and ages 1–5, 6–12, and 13–15 years). Current VE: Overall, the adjusted VE was significant for influenza B (36.4; 95% confidence interval [CI]: 9.8–55.2); the adjusted VE was significant for any influenza (A+B; 47.3%; 95% CI: 12.2–68.3) and influenza B (56.2%; 95% CI: 17.9–76.6) only in the 1–5 year age group. In other groups, VE was not observed. Vaccine doses: Two vaccine doses significantly decreased the incidence of any influenza and influenza B compared to no vaccination or only one dose in only the 1–5 year old group. Repeated VE: The adjusted VE was significant for any influenza (72.6%; 95% CI: 27.1–89.7) and influenza B (69.7%; 95% CI: 4.5–90.4) in only the 1–5-year age group without vaccination in the previous season. It was also significant for influenza B (68.6%; 95% CI: 1.3–90.0) in the 6–12-year age group with two vaccination doses in the previous season. In other groups, repeated VE was not observed for any influenza types. The reason for that repeated VE may depend on age, repeated vaccination with two doses may be valuable in the 6–12 year age group, although current VE was not observed.
我が国において抗生物質医薬品の品質管理の指標とされてきた「日本抗生物質医薬品基準」(「日抗基」)は,1969年8月に制定され,2000年7月までの間に4回の大改正が行われてきたが,厚生省の中央薬事審議会(中央薬審)の決定により「日本薬局方」(「日局」)に統合することとされ,統合作業が着手された経緯について前報に著述した。本報では,「日抗基」収載の抗生物質医薬品原薬を「日局」に移行する作業において直面した課題と対応策について調査・解析し,討論を加えた。
厚生省中央薬審の日本薬局方部会では,1998年3月に改正された「日抗基」収載品目の60%以上が有機合成工程を経て製造される高純度な半合成抗生物質であることを鑑みて,抗生物質医薬品を薬事法42条に規定する“基準”の対象品目から除外することを決定した。同部会では,「日抗基」収載の全品目を2001年3月に告示予定の第十四改正「日局」に統合することを意図して日本薬局方調査会の下に“総合第一小委員会”を設置し,1999年3月に統合作業に着手した。当時の「日抗基」は142成分の174原薬と314製剤を収載する基準書であったが,第一段階として原薬の「日局」への移行作業が行われた。抗生物質医薬品製剤に関しては,1999年9月に制定した「日本薬局方外医薬品規格第四部(抗生物質医薬品)」(「局外規四部」)に,「日抗基」収載の製剤全品目を移行する作業を先行して実施した。
従来,「日抗基」の医薬品各条は安全性と有効性を担保するための最小限度の品質規格と試験法を定めた“ミニマム規格”であって,多くの事項が“「日抗基」外規格”と称される品目毎の“承認事項”とされており,「日局」収載品目の医薬品各条が“承認不要”な“フル規格”であることと大きく相違していた。それ故,「日抗基」収載品目の「日局」への移行作業は,「日抗基」の“ミニマム規格”である医薬品各条に品目毎の“承認事項”を加えることにより,「日局」収載品目に相応しい“フル規格”の医薬品各条を作成することであった。抗生物質医薬品の品目毎の“承認事項”は,個別の製薬企業にとっては知的財産と見做される社内規格であり,その開示には紆余曲折があったが,第一段階として第十四改正「日局」に47原薬を“フル規格”の医薬品各条として移行し,18原薬を「日局」独自の“ミニマム規格”の医薬品各条として収載した。
厚生省は,第十四改正「日局」告示の直前の2001年1月に“厚生労働省”に改組され,“総合第一小委員会”も“抗生物質委員会”に名称変更されて作業の進行が加速された。同小委員会の延べ27回の会議を経て,2002年12月に制定された第十四改正「日局」第一追補に「日抗基」より抗生物質医薬品原薬82品目が移行された。その結果,「日抗基」には収載品目が無くなり,「日抗基」は制定から33年間にわたる抗生物質医薬品の品質管理の指標という使命を終えて廃止された。
「局外規四部」に移行された抗生物質医薬品製剤は,“フル規格”の医薬品各条が整備された品目から,順次,「日局」へ移行される作業が進められており,2019年5月告示予定の第十七改正「日局」第二追補までに83製剤が「局方医薬品」として収載されることとされている。
Background: Meropenem is used as empirical therapy for severe sepsis and various infections. It is important to understand the tolerability of meropenem to administer it at a sufficiently high dose (e.g. 1 g or 2 g every 8 or 12 hours) and ensure adequate time above the minimum inhibitory concentration. However, the dose tolerability and risk factors for hepatic and renal dysfunction in meropenem-treated patients with baseline renal dysfunction remain unclear.
Objectives: To confirm the dose tolerability of meropenem and to identify the factors affecting hepatic and renal dysfunction after meropenem treatment in Japanese patients with creatinine clearance rates of 10 to 50 mL/min.
Methods: This was a retrospective, single-center study, where 142 subjects with creatinine clearance rates ranging from 10 to 50 mL/min were administered meropenem between April 1, 2012 and October 31, 2015. Safety was evaluated using the Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0. Abnormal hepatic function was evaluated based on alanine aminotransferase (ALT) and alkaline phosphatase (ALP) levels, and abnormal renal function was evaluated using serum creatinine (SCr) levels. Adverse events were considered as worsening if the grade of each item increased from baseline values.
Results: Worsening of ALT, ALP, and SCr grades was observed in 17.9%, 18.3%, and 4.2% of patients, respectively. Dose of 2 g/day or more, treatment duration, or the degree of patient’s renal function had no effect on hepatic and renal dysfunction. Thus, the risk factors for hepatic and renal dysfunction were not related to meropenem.
Conclusion: Meropenem dose and treatment duration are not risk factors for hepatic and renal dysfunction in Japanese patients with creatinine clearance rates of 10 to 50 mL/min.