背景と目的:感染予防・管理(IPC)介入を病院内で効果的に実施するには,薬剤耐性(AMR)菌伝播の可能性を判断するためのタイムリーな情報が必要である。我々は,コアゲノムSNP(cgSNP)に基づく逐次的系統解析ワークフローである「Tracking Antimicrobial Resistant Organisms Timely(TAROT)」を提案・開発し,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対してオックスフォード・ナノポア・テクノロジーズ(ONT)のシークエンサーを用いた結果をイルミナのシークエンサーを用いた場合と比較した。
方法:我々は,ONTデータを用いた逐次的系統解析のためのTAROTワークフローを開発した。東邦大学医療センター大森病院で分離されたMRSA 34株を,MinION(ONT社製)とMiSeq(イルミナ社製)を用いてシークエンシングした。各株のONTデータをTAROT(TAROT-ONT)に入力し,cgSNPに基づく逐次的系統解析を行った。イルミナのデータは,バッチでcgSNPに基づく系統解析を行った。アセンブリーベースの解析により,AMR遺伝子,AMR変異,および病原性遺伝子を同定した。
結果:MinIONでは,3時間以内の稼働によりST8リファレンスゲノムに対して平均262×のシークエンス深度が得られた。TAROT-ONTでは,ST8の14株について11本,ST1の10株について7本,ST5の5株について2本の系統樹が逐次的に得られた。伝播が強く疑われるペア(ペアワイズcgSNP < 5)は,ST8の#6から#11の系統樹,ST1の#3, #5, #7の系統樹,ST5の#2の系統樹で検出された。TAROT-ONTとイルミナとの間のペアワイズcgSNP数の差は,イルミナを用いたcgSNP数が20未満のペアではゼロから2までの範囲であった。各株のTAROT-ONTバイオインフォマティクス解析に要した時間は5~42分であった。AMR遺伝子,AMR変異,および病原性遺伝子の同定結果は,ONTとイルミナでほとんどが一致した。
結論:TAROT-ONTは,cgSNPに基づく逐次的系統解析によってタイムリーなフィードバックを提供することにより,MRSA院内感染に対する効果的なIPC介入を促進する可能性がある。