最近, 耳鼻咽喉科領域における感染症からの分離菌は, 各種の化学療法剤の進歩発展にともない, その種類にもかなりの変動がみられ, 感染病像も複雑化の様相を呈してきた。とりわけ, 耳鼻咽喉科領域の耳漏, 副鼻洞内分泌物, 膿瘍などからの耐性ブドウ球菌の検出率は, 他菌に比較して圧倒的に多く。また緑膿菌, 変形菌などの一連のグラム陰性桿菌の増多もめだち, さらにカソジダなどの真菌類の出現が難治感染症の原因となり, これら病原菌に対する治療対策が化学療法上きわめて重要視されるにいたつた。
Tetracycline系抗生物質は, 初めて1948年 DUGGERらが放線菌の1種である
Streptomyces aurofaciensの培養濾液中から Chlortetracycline (Aureomycin) を発見した。その後, 1957年MCCORMICKらによつて, Stiptomyces aureofaciensの1変異種から6-Demethylmhlortetracycline (Ledermycin) が誘導合成され, 新らしいTetracycline系の抗生物質として, 抗菌力がすぐれ, いわゆるlong actingな抗生物質として登場したことは周知のとおりである。
その他, 1950年FINLAYらによつて
Streptomyces rimosusからOxytetramyclineがみいだされ, また1953年SOOTHEらは, Tetracyclineを発見している。1961年BLACKWOODらは, Oxytetracyclineから6-Methyleme oxytetracyclineを合成し, さらに1963年OxytetracyclineのHydrogenationによつてDoxycyclineが発表され, 従来のTetracycline系抗生物質と比較して, そのすぐれた抗菌力, 有効血中濃度の維持によりたかい臨床効果が期待されている。
新Tetracycline系抗生物質Minocyclineは, 1967年米国Lederle社の研究陣がDemethylchlortetracyclineから誘導合成したもので, グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して殺菌的に働く広範囲抗菌スペクトラムを示し, しかも有効血中濃度を長時間維持し得る新らしいTetracycline系の抗生物質として, 感染症治療上注目を浴びるにいたつた。
Minocyclineは, 化学名を7-Dimethylamino-6-deoxy-6-demethyltetracyclineとよび, その化学構造式は図1に示すとおりである。
Minocyclineの物理化学的性状は, 黄色結晶性の粉末で, やや吸湿性, 空気酸化をうけやすく, カプセル中では室温で安定であるという。Minocyclineの急性毒性は, マウスでLD
50が経口投与3,100mg/kg, 腹腔内投与310mg/kg, 静脈内投与で140mg/kgとされ, また甲状腺の色素沈着についてはヒトおよびマウスでは甲状腺の形態学的変化がみとめられるといわれる。
Minocyclineの製剤は, 1Capsule中に50mg (力価) と100mg (力価) を含有する内服剤として発表されている。
署者らは, 今回この新Tetracycline系抗生物質Minocyclineについて. その試験管内抗菌力, 血中濃度, 尿中排泄および組織内移行分布などの基礎的検討をおこなうとともに。本剤を耳鼻咽喉科領域における代表的な感染症に対して投与した結果, きわめて良好な臨床成績をおさめえたので, その概要を報告する。
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