周産期の感染症に対する化学療法については, いくつかの重要な問題点がある。感染症起因菌, その薬剤感受性および耐性, 母体側投与薬剤の胎児および母乳への移行, 諸機能の未熟な新生児に対する化学療法剤の適正使用量の決定等については, なお検討すべき点が多い。この時期に応用できる化学療法剤のもつべき特徴としては, スペクトルが広域であり, 作用が殺菌的であること, 注射可能で速効性があり, 副作用が少ないこと等が望ましいことはいうまでもない。この条件に合う抗生物質としての, Cephalosporin C系のCefazolin (CEZ), Cephaloridine (CER) およびCephalothin (CET) について検討を加え, 以下の成績を得た。
1. 周産期感染症の起因菌について過去5年間の検索では, 検出頻度からみると,
Staphylococcus aureusおよびGram-negative bacilliの両者が主で (計67.5%), それぞれ25.3%および42.2%をしめる。
2. 上記菌の感受性分布は,
Staphylococcusに対してCER, CET, CEZともに0.39mcg/ml, E. coliではCEZが1.56mcg/ml, CER, CETは3.125~12.5mcg/ml, ProteusではCEZ6.25mcg/ml, CER, CET6.25~50mcg/ml,
KlebsiellaはCEZ 1.56mcg/ml, CER, CET0.78~12.5mcg/mlであつた。
3. 母体側投与のさいの経胎盤的胎児移行は, 各剤ともに良好で, CER, CEZでは1回500mg, CETは1回1gの筋注, 静注および点滴静注によつて主な感染起因菌の最小発育阻止濃度 (MIC) に達する胎児血中濃度が得られ, この用量の投与によつて子宮内感染予防および治療が可能であることが示された。
4. 母体投与後の母乳移行は, CER, CET, CEZともにきわめて少量にすぎず, 母乳から新生児への移行は, さらに微量であつた。
5. 新生児に投与した本剤の吸収は速く, CER, CET, CEZともに筋注後1時間で血中濃度はピークに達し, 12時間後にはきわめて低値となる。1回10~30mg/kg筋注で主な感染起因菌のMICを上廻る血中濃度のピーク値が得られる。
6. 新生児に対してCER, CET, CEZを各1回10~25mg/kg12時間々隔で5日間連続筋注し, 血中の蓄積をみとめなかつた。
7. 新生児における尿中排泄率は, CER5 2.9~72.5%, CET42.2~68.4%, CEZ41.4~53.9%で, その排泄パターンは血中濃度の消長と一致するが, 成人にくらべややおくれる。
8. 上記の成績から, 新生児における適正使用法として, CERおよびCEZでは, 1回量10~25mg/kgで1日2~3回投与, CETでは1回量20~30mg/kgで1日2~3回筋注投与が合理的と考えられる。
9. 分娩時に母体に投与された抗生物質は, その新生児に対して臨床像の推移は特別の影響をおよぼさなかつた。
10. 本剤投与は, 新生児の腎機能に対して悪影響をおよぼさなかつた。
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