四肢の機能回復を主目的とする整形外科領域の手術では, もし術後感染が合併したばあいにその手術の意味がうすれ, 特に人工関節や金属などは個体に対して異物として働くため, その感染の処置に難渋するばあいも少なくない。この術後の感染予防や骨の感染症の治療には, 種々の面からの努力が必要であるが, 一方, ただ漫然と抗生物質の投与がおこなわれている傾向も否定できない。
抗生剤が生体内で有意義に作用するためには多くの要因があり, これらはいずれも臨床効果に大きく影響する。そして抗生剤の優劣を評価するときのひとつの指標に血中濃度上昇の良非があり, 抗生剤が血中によく移行することは, 病巣へ高濃度の抗生剤が運ばれる可能性のあることを意味するといわれてきた。一方, 多くの抗生剤の組織内への移行には, かなりの特殊性があり, むしろ抗生剤が血中から目的の組織内によく移行するかどうかということが, 抗生剤療法では, きわめて大切な条件である。そしてこれらの組織内移行の悪い抗生剤は, どんなに抗菌力がすぐれていても, 臨床効果の面で劣ることは事実のようである。また, 臨床的には, その薬剤が細菌に犯された病巣内でどのくらいの濃度を保つているかということを知らないかぎり, 本当の臨床効果との関係はみいだされないともいえる。したがつて, 抗生剤の優劣の評価や, 臨床的な抗生剤の最も合理的な投与量を決定するばあいには, 血中移行の実態や組織内移行の実状を十分に把握する必要がある。
骨および骨髄は, 細菌感染のおこりやすい組織である。整形外科手術において, この感染に対する防禦力の弱い骨や関節への大きな侵襲が可能となったのも, 抗生剤療法に依存するところが大きい。
抗生剤の血中濃度と組織内濃度との相関関係については, 多数の文献が存在するが, 骨髄内抗生剤の濃度分布と血中濃度との関連性についての文献は, 特に臨床的には数少ない。今回, Bactericidalであり, 広範囲スペクトルをもつセファロスポリン系抗生剤Cefalotin (商品名Kenin, 以下CETと略す) の骨髄内濃度, 血中濃度を検策し, 興味のある所見を得たので報告する。
抄録全体を表示